映画『北の桜守』の概要:戦争にて夫と長男を失った母が、残されたたった1人の息子を送り出した後、記憶障害に陥ってしまう。15年後、母親を引き取った息子は心の傷を癒そうと奮闘するが、願い及ばず母親はある日突然、忽然と姿を消してしまうのだった。
映画『北の桜守』の作品情報
上映時間:126分
ジャンル:ヒューマンドラマ
監督:滝田洋二郎
キャスト:吉永小百合、堺雅人、篠原涼子、岸部一徳 etc
映画『北の桜守』の登場人物(キャスト)
- 江蓮てつ(吉永小百合)
- 南樺太にて夫と息子2人と幸せに暮らしていたが、戦争にて夫と長男を亡くし次男修二郎と共に網走へ避難する。息子を立派に育て上げた後、心の均衡を失い記憶障害に陥ってしまう。
- 江蓮修二郎(堺雅人)
- てつの次男。戦争を経て母の言葉に従い、必死で勉強し会社社長へと成り上がる。母親思いで愛情深い。経営者としての才能があり合理的。
- 江蓮真理(篠原涼子)
- 修二郎の妻。グローバルな女性で会社経営にも携わっている。修二郎とは恋愛結婚だが、夫の母親のことを知らず戸惑う。父親はロスにて事業を展開しており、裕福な家のお嬢様。
- 山岡和夫(岸部一徳)
- 駐在所に勤務していた元警察官。南樺太にいたこともあり、その頃から江蓮家とは馴染みがある。網走で再会し、以降はてつ親子を心配してずっと見守っていてくれる。てつの夫と共にシベリアに逗留したが、スパイとなり密告した罪悪感を抱いている。
映画『北の桜守』のネタバレあらすじ(ストーリー解説)
映画『北の桜守』のあらすじ【起】
1945年、春。南樺太の恵須取にて製材所を営む江蓮てつと夫は、子供達が生まれた際に撒いた桜がようやく開花したことを喜んでいた。夫が内地から持って来てくれた桜の種を撒き、てつが一生懸命に世話をした苦労が報われたのである。製材所で働く従業員たちも、若木の桜が開花したことを喜び、皆で花見をしたのだった。
その年、広島に原爆が投下され戦時下ではあったものの、戦火は南樺太にまで及ばず、至って平和な日々を送っていた。しかし、8月の初めになって協定を結んでいたソ連が突如、反旗を翻し日本へ侵攻。夫は兵士として戦場へ向かい、てつと息子2人は南樺太の大泊から船に乗り、北海道の内稚を経て網走へと避難することになった。
だが、避難への道のりはソ連軍に襲撃され困難を極める。そんな中、てつと息子達は諦めずに大泊を目指した。
そうして、8月20日。大泊へようやく到着。港には海底通信ケーブル敷設船、小笠原丸が着岸していたが、我先にと避難民が溢れる。長男がどうにか乗船券を手に入れてくれたため、江蓮親子は小笠原丸へ無事に乗り込むことができた。しかし、その2日後。船はソ連軍に襲撃され沈没を余儀なくされる。
あれから26年。次男修二郎は真理という女性と結婚し、札幌にて会社を経営。コンビニエンスストアの開店で大いに繁盛していた。そんな時、網走から母のことで電話が入る。
あの後、助かった母てつは幼い修二郎を連れ、網走で定食屋を開き息子を育てた。店は繁盛していたが、てつは独り立ちできる歳になった修二郎に、自分のことは忘れて網走から出て行けと言ったのである。修二郎は網走から出て必死に働き、仕送りをしたり手紙や写真を送ったりしていたが、母からは何の返事もなかった。
寂れた小さな村の定食屋へ戻って来た修二郎。年老いたてつはまだ店を開いていたが、市役所から許可を得た店ではないことと開発のため、近く撤去されること。更にてつが軽い認知症を患っていることを知る。彼は母を連れて帰ることにした。
映画『北の桜守』のあらすじ【承】
突然、母親を連れて帰った夫修二郎に、妻の真理は戸惑いを隠せない。修二郎は母親のことを真理に話したことが殆どなかったからだ。
翌日、てつをデパートへ連れて行き綺麗な服を買ってあげた真理。帰り道、公園を通りかかった際、傷ついた桜を目にしたてつが突然、桜へ駆け寄り墨と水糊で手当てをしなければと言う。すぐには用意できないと言った真理だったが、てつが他人の靴を履いているのを発見してしまい、デパートへ引き返したのだった。
てつの行動に疑問を抱いた真理は修二郎にそのことを話したが、夫はまともに聞いてくれず母を擁護してばかり。修二郎はてつと自分の絆や関係性は、裕福な家庭に育った真理には理解できないと言うのだった。
避難民は引揚者と呼ばれたが、避難先でも容易に受け入れてもらえず、修二郎は同じ年頃の子供達にいじめられていた。金もなく食べる物もなく、母子は酷く貧しい暮らしを余儀なくされていたのだ。
ある日の夜、てつが上着も着ずに水糊を買ってどこかへ向かったと聞いた修二郎は、真理と共に探し回り公園で発見。てつは傷ついた桜の手当に来ていた。
このことにより、母を病院へ連れて行くことにした修二郎。だが、脳検査をしても年相応の物忘れはあったが、アルツハイマー病でも認知症でもないと言う。医師曰く、過去に負った深い心の傷が記憶障害を引き起こしているらしい。
翌朝、てつが家のベランダで窯焚きを行ったことで、近所から文句が飛び交う。早朝から騒動となったものの、修二郎は母が焚いた窯焚きの米を食しコンビニで売り出そうと考える。しかし、おにぎりの売上は簡単に伸びず。修二郎は衛生面を考え、定時になったら残ったおにぎりは必ず廃棄するようスタッフに厳命した。
だがその夜、またもてつがやらかしくれる。母が八百屋でねぎを盗もうとしたのだ。網走ではつけができたが、札幌ではできない。てつにはそれが理解できていなかった。修二郎は度重なる母親の突飛な行動に、とうとう堪忍袋の緒が切れ勝手な行動をするなと怒ってしまう。すると翌朝、てつは荷物をまとめ家を出て行ってしまうのだった。
急いで駅へ向かった修二郎は、ホームのベンチに座るてつを発見。彼女は息子に迷惑をかけたくないので、出て行くと言う。そこで、修二郎は母が行きたいと思う場所へ、一緒に向かうことにした。
映画『北の桜守』のあらすじ【転】
まずは5年前まで、毎年参拝に来ていたという崖の上にある神社へ。母子はそこで、思い出を語り合い蟠りを解いた。てつは修二郎を独り立ちさせたことで、気が抜けてしまったと言う。恐らくはその頃から、少しずつ記憶に障害が現れたのだろう。
てつは息子との小旅行を喜び、修二郎に買ってもらったカメラで写真を撮った。
次に向かうは世話になった男性の元へ。男とは網走へ向かう途中で出会った。彼は当時、闇米の運送と販売で生計を立てていたが、現在は立派な運送会社を経営していた。実は定食屋を開店させてくれたのも、この男だと言う。だが、てつは会社へ来ても本人とは会わずに帰ると言うのだった。
次は思い出深い小さな駅。闇米の売買を手伝うことになった母子は、この駅で米を盗んでいた。警察に追われることもよくあり、てつはそこで警察官の山岡和夫と再会。その後も彼は母子を見逃してくれ、現在も傍にいて見守ってくれていた。
その夜は寂れた居酒屋へ入った母子。楽し気に思い出を語るてつに、修二郎は試しに父のことを聞いてみた。すると、母は夫の顔が思い出せないと言う。母子が網走にて定食屋を開いてすぐ、シベリアに出兵した父が亡くなったと小さな箱を持って軍の人が来た。父はシベリアの収容所で亡くなったらしい。箱の中には小さな石だけが入っており、てつは夫の死を受け入れられず、石を海へ投げ捨ててしまった。だがその夜、床に入った母が枕を濡らしていたのを、修二郎は覚えている。
翌日、網走へ向かう駅で列車を待っていた2人だったが、てつが樺太へ帰ろうと言い出す。しかし、樺太へは立ち入りができなくなっており、戻ることは叶わなかった。そこで、てつは樺太が見える浜辺へ。彼女はそこで、長男が亡くなった時のことを思い出してしまう。
映画『北の桜守』の結末・ラスト(ネタバレ)
引揚者を乗せた小笠原丸は1945年8月22日未明、ソ連の潜水艦に襲撃される。魚雷着弾の衝撃でてつ親子は海へ投げ出されたが、幸い2人の息子は無事だった。しかし、しっかり者の長男は母と弟のために浮き輪を取りに向かい、船の爆発に巻き込まれてしまうのだった。
てつは当時のことを思い出し、海へと飛び込んでしまう。それは修二郎にとっても凄惨な記憶だった。母はその時のことを酷く悔やみ、息子を守れなかった自分を責めた。そして、自分は幸せになってはならないのだと思うようになる。
てつを近くの病院へ搬送した修二郎は、山岡を呼んで付き添ってもらうことにした。山岡は意識を取り戻したてつに、シベリアの収容所で撮影した写真を見せる。そこには、てつの夫の姿もあった。山岡は収容所での生活に耐えかね、スパイとなって日本兵の居場所を密告してしまったと言う。彼もまた罪の意識を抱え、罪滅ぼしとしてずっとてつ親子を見守ってきたのだった。
その日の夜、札幌の自宅へ戻った修二郎。店で発生していたトラブルをどうにか収束させ、真理とも仲直り。これで事態も好転するかと思われたが、翌朝になっててつが姿をくらましたと知らせが入る。
修二郎は真理と山岡の3人で、てつが語っていた人物の元を次々に訪れたが、結局見つけられなかった。
その後も修二郎は真理と共に仕事の合間を縫って、母てつを探し続けた。そうして2年後、修二郎の会社は更なる発展を遂げ、コンビニ100店舗を祝うほどに。そんな時、運送会社社長からてつと思われる人物を発見したと知らせが入る。彼女は北見にいるらしい。
修二郎は知り合いを連れて、北見へ向かった。てつは桜の木の世話をする仕事をしていた。満月の夜、母の元を訪れた修二郎だったが、てつは息子を夫と呼ぶ。彼女は今まで大事に持っていた表札を手に、泣きながら渡すのだ。それは、避難前に夫から託された物だった。修二郎は母を慮り温かく抱き締める。そうして、てつは長男の名を呼び、夜桜を見上げ泣きながら笑顔を見せるのだった。
映画『北の桜守』の感想・評価・レビュー
滝田洋二郎監督による、北の三部作シリーズ最終章。戦争により夫と長男を失ったことで、心に深い傷を負ってしまった母親。息子を独り立ちさせるまでは正気を保っていたものの、送り出した後になって気が緩み、認知症にも似た記憶障害に陥ってしまう。そんな母と15年振りに再会した息子が、昔の記憶を振り返りつつ母を思いやる様が描かれている。
母てつは無意識に幸せだった頃に戻りたいと願い続けていたのだろう。故に、南樺太で一心に桜の世話をしていた時のことを思い出し、終盤では桜の世話をして過ごしている。てつの心情や記憶を舞台形式で描き区別することで、心の傷がいかに深いものであったかを物語っている。(MIHOシネマ編集部)
心に負った傷を癒すのはとても難しいことで、いくら周りが努力をしても最終的に本人が心の傷と「向き合う」覚悟をしなければならないのだと感じました。
大小様々あっても、誰しも心に負った傷があると思います。克服したと思っていても、ふとした瞬間に思い出して苦しくなったり涙が出てくることもあるでしょう。しかし、この作品を見るとそんな心の傷は「逃げて」いても癒えることは無く、自分自身がその傷を理解し、向き合ってあげることで自然と癒えていくのだと感じました。
悲しい過去と向き合う強い「覚悟」と美しくて儚い「雪」の景色が正反対な存在のはずなのに、上手く噛み合っていてとても美しかったです。(女性 30代)
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