映画『ラッキー』の概要:ラッキーは90歳と高齢だったが、元気に毎日を暮らしていた。だが、寄る年波には勝てず、加齢で倒れてしまう。そのことがあってから、彼は死ぬことを意識し始め、日常は少しずつ変わっていくのだった。
映画『ラッキー』の作品情報
上映時間:88分
ジャンル:ヒューマンドラマ
監督:ジョン・キャロル・リンチ
キャスト:ハリー・ディーン・スタントン、デヴィッド・リンチ、ロン・リヴィングストン、エド・ベグリー・Jr etc
映画『ラッキー』の登場人物(キャスト)
- ラッキー(ハリー・ディーン・スタントン)
- 90歳を迎える老人。若い時は海軍におり、料理人の仕事を任されていた。一番安全な仕事ということから、ラッキーというニックネームで呼ばれるようになる。未婚で子供もいなければ、世話をしてくれる家族も存在していない。ヘビースモーカーだが肺は健康で、医者からはやめると逆に害があるかもと言われるほど。
- ハワード(デビッド・リンチ)
- ラッキーの友人。飼っているリクガメのルーズベルトがいなくなって落ち込んでいる。亀に遺産相続をさせようと考えるほど溺愛している。
映画『ラッキー』のネタバレあらすじ(ストーリー解説)
映画『ラッキー』のあらすじ【起】
ラッキーは高齢だが独りで元気に暮らしていた。結婚もしておらず、子供もいなかったが、そんなことは気にしていなかった。いつも決まった日常を送るラッキー。決まった時間に目を覚まし、ラジオを付けて一本のタバコを吸う。髭を剃り、髪をとかして朝の体操をし、一杯のミルクを飲む。コーヒーメーカーの時計はいつまでも設定されず、点滅したまま。服を着替えて、いつも通り散歩に出る。これがラッキーの朝の過ごし方だった。
行きつけのダイナーで店長のジョーや、女店員を相手にしながら、クロスワードパズルで時間を潰す。ラッキーはヘビースモーカーだったが、店ではタバコは吸わせてもらえなかった。コンビニに立ち寄り、いつものミルクを買う。店員のメキシコ人の女性とはすっかり顔なじみだ。
家に戻ったラッキーは、クロスワードパズルの続きをやり始めた。“現実主義とは物”という言葉が出てきたので、辞書を引いたラッキーは、現実主義という言葉の深さを再確認する。
映画『ラッキー』のあらすじ【承】
夜はエレインの店に顔を出すのが日課だ。友人のハワードと会ったラッキーは、彼の飼っているリクガメのルーズベルトがいなくなったと聞かされる。ルーズベルトはハワードにとって大切な友達だった。友人の一人が、人間と動物の友情は不可欠で、その友情は魂にとって不可欠だと話したが、ラッキーは魂など存在しないと考えていた。
翌日、いつもと同じように朝の日課をこなしていたが、コーヒーメーカーの点滅を見ながら、その場に倒れこんでしまった。病院を訪れたラッキーは、医者からどこも悪くないと言われる。原因は加齢なのだそうだ。こればかりは誰しも避けられない。ヘルパーを雇えと言われたが、ラッキーにその気はなかった。
少し落ち込むラッキーを見て、大げさに心配する周りの人々。その反応が嫌でラッキーは苛立ちを募らせていく。コンビニに行った際、いつもと違う様子を感じ取った店員は、土曜日に息子の誕生パーティがあるので来ないかと誘ってくれた。
ラッキーは少しずつ、死ぬことや命について意識するようになっていった。エレインの店に来たラッキーは、弁護士のボビーと話をするハワードを見かける。ハワードはリクガメのルーズベルトに遺産を相続させようと考えていた。ラッキーは理解できなかったが、それほどまでにハワードはリクガメを想っていたのだ。ボビーに騙されているのだと思ったラッキーは、彼にケンカを売るが、ボビーは相手にしなかった。
映画『ラッキー』のあらすじ【転】
突然、夜中に目を覚ましたラッキーは、今まで感じたことのない孤独を味わう。朝、ダイナーの女店員が心配して訪ねてきてくれたので、一緒にハッパを吸いながら、リベラーチェのビデオを見た。彼女の去り際、ラッキーは誰にも言わないでくれと言い、秘密を聞いてくれるかと切り出した。彼は、怖いんだと小さく呟いた。それを聞いた彼女は、その言葉の重みを受け止め、分かっているとだけ返事をすると去って行った。
ジョーのダイナーでボビーと遭遇したラッキーは、多少ギクシャクしながらも会話を始め、彼が家族のために保険に入り、死後の手続きも全て済ませていることを知る。散歩中、ペットショップの前を通りかかったラッキーは、店員から何か飼わないかと勧められた。飼う気はなかったが、店を見て回った彼はコオロギを見つける。飼えるかと尋ねると、動物たちの食用なのだと返事をされた。だが、彼はそれを買って帰り、その夜はコオロギたちの音色の中で眠りについた。
ある日、ダイナーに退役した海兵隊員がやってくる。ラッキーは若い時に海軍にいたため、声をかけた。席を移って会話を始めた二人。元海兵隊員は、タラワと沖縄で戦ったと言う。肉片が飛び散る戦地の跡で、笑顔を浮かべる女性と出会ったと語った。彼女は仏教徒なので、殺される運命に微笑んでいたのだそうだ。彼は、彼女の勇気こそ叙勲に値するとラッキーに告げた。
映画『ラッキー』の結末・ラスト(ネタバレ)
ラッキーはコーヒーメーカーの時計を合わせると、コンビニ店員の息子の誕生パーティへと向かった。メキシコ流の誕生会が開かれ、マリアッチと共に生まれたことを祝う歌を幸せそうに歌う彼らを見たラッキーは、スペイン語で歌を歌いだした。歌詞は昔に別れた恋人への想いと後悔についてのものだったが、彼の想いのこもった見事な歌声に、皆は拍手を送った。
エレインの店にやってきたラッキーは、ハワードにルーズベルトのことを尋ねてみた。ハワードは、ルーズベルトは失踪したのではなく、ちょっと出掛けていったのだと考えるようになっていた。縁があれば、また会えるだろうと考え、捜すことをやめたという。
タバコを吸おうとしたラッキーに、店内は禁煙だとエレインは言った。この店は私の所有なのだからと。だが、ラッキーはそんなものはまやかしで真実ではないと言って語りだした。真実は宇宙の真理と繋がっている。この世界に管理者や所有者など存在しないし、ルールもない。あるのは最後には全てが無になるということだけだ、と。
全てが無ならどうすればいいのかと問われた彼は、微笑むのさ、と静かに答えた。その言葉は皆の胸に響き、自然と笑みがこぼれ落ちた。ラッキーは店内でタバコに火を付けたが、エレインは何も言わなかった。彼はそのまま、店を後にしていった。
ラッキーが砂漠へ散歩に出た時、大きく成長したサボテンを見つけ、それを見上げた。サボテンは傷つき、かなりの高齢に見えたが、小さな花のつぼみを付けていた。ラッキーは微笑むと、再び歩き出していった。彼が立ち去った後、あてどないお出かけ中のルーズベルトが、のそのそと砂漠を横切っていった。
映画『ラッキー』の感想・評価・レビュー
短い上映時間の中で、十分な説得力が生み出されている。何気ない日常を描きながら、生と死、命と無、孤独と繋がりというテーマから軸ズレしない脚本は素晴らしい。淡々とした展開にも関わらず、ラッキーのちょっとした行動でも、考え方が変わったことが分かる演出。ハリー・ディーン・スタントンの演技も相まって、哀愁が漂いつつも希望のある作品に仕上がっている。(MIHOシネマ編集部)
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