映画『メビウス(2013年・韓国)』の概要:監督の鬼才、キム・ギドクによる、不倫によって崩壊していく家庭を「そこまでやるか?」というくらい痛々しく描く問題作。台詞も音楽もほぼなく、視覚から伝わる情報だけで話を解釈する必要がある。
映画『メビウス』の作品情報
上映時間:83分
ジャンル:サスペンス、ヒューマンドラマ
監督:キム・ギドク
キャスト:チョ・ジェヒョン、ソ・ヨンジュ、イ・ウヌ etc
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映画『メビウス』の登場人物(キャスト)
- 父(チョ・ジェヒョン)
- 上流階級の家に住む夫。長年、近所の売店で働く若い娘と不倫している。不倫を確信した妻にナイフで性器を切り落とされそうになるが間一髪のところで彼女を蹴り飛ばし、事なきを得る。しかし、罪悪感から自分も性器を切断する。
- 母 / 売店の娘(イ・ウヌ)
- 夫の不倫に嫉妬し、情緒不安定気味の女性。精神が狂い果てるあまり夫を襲う。それが未遂に終わると今度は息子に襲い掛かり、息子の性器を切断し更にはそれを飲み込んでしまう。以降、行方をくらませる。
売店の娘は、母親の役者と一人二役。父の不倫相手。性器を失った息子とは紆余曲折の末に歪んだ性的関係で結ばれるようになる。
- 息子(ソ・ヨンジュ)
- 不仲の両親の元で一人孤独な、恐らく高校生くらいの息子。狂った母親に、性器を切り取られて失くしてしまう。性的快感を得られなくなったことで、性欲を性的なもの以外で発散しようとしおかしな方向にこじらせていってしまう。
映画『メビウス』のネタバレあらすじ(ストーリー解説)
映画『メビウス』のあらすじ【起】
とある上流階級の立派な家。そこに住むのは父、母、息子の三人家族。だらしなく足を広げて階段に座り込み、昼間からワインを煽るのはこの家の母だ。その表情にも疲労が見え、ひどく憂鬱げである。その理由は、夫の不倫疑惑にあった。その頃、リビングで不倫相手と思しき相手とスマートフォンで連絡を始める夫。すかさず母が走り飛び込んでいき、馬乗りになりそれを阻止しようとする。スカートの中が見えようが、大股を開こうがなりふり構わず全力で父から電話を奪おうとする母。それに反抗する父。そんな哀れで滑稽とも言える両親の姿を、息子は一人何とも言えない眼差しで見守るよりほかなかった。
父が夢中になっているのは、小さな雑貨店を営む若い女だった。売店の女と、車の中で恥ずかしげもなく情交に至る父。その現場を、息子は目撃してしまっていた。それを見ながら呆れたような目を向ける息子。しかし、そこにいたのは息子だけではない。母もその場面を見てしまうのだった。母の抱いていた疑惑は、とうとう真相へと変わる。これが発端となり、一家の全てはものの見事に狂い始めるのであった。その晩、息子が先の父の情事に興奮し部屋で自慰行為に耽っているのを覗いてしまう母。不倫現場のこともあってか、すっかり病んでいた母の狂気は暴走を極め始める。ナイフを手にし、父(夫)の寝室に侵入する母。性器を切り落とそうとするが、寸での所で気付いた父に突き飛ばされてしまう。無事に去勢されずに済んだ父であったが、母が次に向かったのは何故か息子の部屋であった。やがて、無防備に眠ったままの息子の性器を切り取ってしまう。その上、何と彼女は切り取った性器を食べてしまった。慌てて飛び込んで来た父がそれを吐かせようとするが、吐き出せずに終わる。叫び声を上げる息子を病院へ担ぎ込む父だが、母はその間、夜の街へとふらふらと外へと歩き出していく。裸足のままで彼女は、街の中にいた祈りを捧げる謎の男についていき行方をくらませる。
映画『メビウス』のあらすじ【承】
病院では、己の性器がなくなり唖然とする息子。退院後も、それが原因で同級生たちからいじめに遭うようになってしまう。父は罪悪感から、銃で自殺を試みようとするが結局できずに終わる。不倫相手の女との関係も、それを機に解消する。父は悩んだ末に、自分自身も性器を切り落としたのだった。
ある日、不倫相手の女の元を尋ねる息子に、何故か胸を見せて挑発する女。父の代わりにでもしようというのだろうか。そこへ、例のいじめっ子たちが現れる。雑貨店の前でパンツを脱がされそうになる息子だったが、そこへ不良の三人組が現れいじめっ子たちを止めてくれる。以来、不良とつるむようになる息子であったが、この不良たちは売店の女に目を付けてしまったことでまたもや事態は急転する。
不良たちは店に入り込み、女を強姦する。何もできずに見守っている息子に、同じよう彼女を強姦するように言う不良。だが、性器のない彼には挿入と言う行為ができない。泣き続ける彼女と、さも行為をしているかのようなふりをする。その後、すぐに強姦罪で逮捕される彼ら。しかし、父の証言で息子には性器がないことが発覚する。手錠をかけられてままで、怒りと恥ずかしさから父を蹴り続ける息子。彼はそのまま少年院へと送られてしまった。
申し訳なさから自殺を試みる父だがそれもならず、そんな父がせめて息子にしてやれることといったら……、不意にインターネットで何かを調べ始める父。彼は性器がなくても性的快楽を得られる方法について検索していた。辿り着いたその方法とは、「石で手を削り続け、その痛みで絶頂に達する」というもの。早速自分でも実行してみる父。血が滲むまで肌をゴシゴシと擦り続け、やがて快感へと導かれる。しかし、快楽の後には痛みが待っている。すぐに激痛が戻ってきて、悶絶の悲鳴を上げる父。息子も息子で、独房の中で父に教わった方法を試してみる。新たな自慰行為を覚えた息子はどんどんおかしな方向へ性欲をこじらせていく。
映画『メビウス』のあらすじ【転】
出所した息子は、売店の女に会いに行く。性器がないなら、新たな性器を作ればいい。そこで二人が試したのは、痛みを共有することで共に快感を得る方法。抱き合いながら、突然息子の肩をナイフで刺す女。それに興奮した息子は女とキスを交わし、女も女でナイフを更に深く深く突き刺し始める。息子も自ら彼女の刺したナイフに手を添え、傷口をより広げ、抉るように突き刺してゆく。にわには信じがたいが、二人は少なくともこの行為によってエクスタシーを感じることとなる。
痛みを通じて謎の絆が生まれた二人は、同じく出所してきた不良にも痛みを分け与えようとする。不良は不良で、女に下心があって近づくが、女は女で不良の局部を切り落とし、息子にもしたことと同じように肩にナイフを突き刺した。隠れていた息子が出てくると、切り取られた性器を持って逃亡する。が、その性器が車に潰されてしまい不良も息子と同じく性器を失くしてしまった。不良は女を殴りに行こうとするが、息子が背後から刺してしまう。
そんな中、父は切り取った自分の性器を息子に移植する手術を行う。しかし、一向に反応しない。不思議なことに、父の不倫相手であった女にはしっかりと反応を示すのである。息子の意志ではなく、父の下半身が勝手にこの女(若しくは妻)を求めたのだろうか――女と性交し、やがて別れを告げる息子。
映画『メビウス』の結末・ラスト(ネタバレ)
そんな中で、行方不明だった母親が一家の元へと戻って来る。そして母は、今度は父に性器がなく息子に性器が戻っていることに驚愕する。以来、母は夜な夜な息子と関係を持とうとそのベッドへと訪れるようになる。これは息子と、というよりは、父の性器と交わりたいから、という見方もできるが真相は分からない。只、母は息子へと手淫を施しオーガズムへと導いた。遂に、母と息子の関係を知った父。父は妻を取られたのを羨み、自分の性器を己に取り戻したくなったのであろう。奪い返そうとナイフを手にするが母の阻止により失敗に終わる。
その後、何度か性的接触を試みようとする夫婦。しかし、性器のない父にそれが叶う筈もない。
ある日の晩、息子はいよいよ寝室で母親と性交してしまう。怒り狂った父が拳銃を持って入ってくると、銃声が響き渡る。……どうやらそれは息子の見ていた夢だったらしい。息子は起き上がり、廊下に出て見ればそこには血の海が広がっていた。その中で倒れる、父と母。夢の中で聞いた銃声は、夫婦の無理心中の音だったらしい。息子はその切望的な光景に座り込み、やがて自分も拳銃で股間を撃ち抜いた。
夜。息子は一人、かつて母がそうだったように、ふらふらと街を徘徊している。偶然見つけた店には、神像のようなものが祀られており彼はそれに祈りを捧げる。その姿は、かつて母が最初の悲劇の際についていった男の姿とまるで同じであった。微笑みを浮かべる息子は、何を思っているのだろう?
映画『メビウス』の感想・評価・レビュー
ギドク監督はよく狂った家族を描く。そんなアホなと思いつつ監督はきっと大真面目に撮っている。本作も文字に起こすと凄惨に見えるが映像で見るとブラックなギャグ映画にも見える。勝手な考察だが、最後の心中の光景から言ってこの一連の出来事は息子の妄想が半分程混ざっている、とも感じた。題名のメビウスとはこの乱雑した性欲の連鎖の輪を意味しているのだろうか。断ち切れないループ状の輪が巡り、夫婦は自ら命を絶つことでその輪から抜け出せた……のか?(MIHOシネマ編集部)
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