映画『モヒカン故郷に帰る』の概要:モヒカン頭の親不孝息子が故郷の島へ帰り、末期ガンを告知された父親の最期を看取る。商業映画デビュー作の「南極料理人」に続き、「キツツキと雨」や「横道世之介」でも高い評価を得てきた沖田修一監督作品。沖田監督らしい演出で、“親の死”と向き合う息子の心情をユーモアを交えて描いている。
映画『モヒカン故郷に帰る』の作品情報
上映時間:125分
ジャンル:コメディ、ヒューマンドラマ
監督:沖田修一
キャスト:松田龍平、柄本明、前田敦子、もたいまさこ etc
映画『モヒカン故郷に帰る』の登場人物(キャスト)
- 田村永吉(松田龍平)
- ハードコアパンクバンド「断末魔」のボーカル。モヒカンがトレードマーク。ほとんど収入はなく、同棲相手の由佳に食べさせてもらっている。広島県戸鼻島出身。中学時代は父親の指導する吹奏楽部でトランペットを吹いていた。
- 田村治(柄本明)
- 永吉の父。熱狂的な矢沢永吉ファンで、自宅は永ちゃんだらけ。地元中学で吹奏楽部のコーチをしており、中学生に永ちゃんの曲を演奏させている。わがままな頑固オヤジだが、みんなから愛されている。
- 会沢由佳(前田敦子)
- 永吉の同棲相手。永吉とはバンドの打ち上げで知り合った。ネイリストをしている。永吉の子供を妊娠中。頭はあまりよくないが、とても気のいい娘。
- 田村春子(もたいまさこ)
- 永吉の母。熱狂的な広島カープファンで、家業の酒屋でもカープグッズを販売している。おっとりとした飾らない人柄で、由佳とも気が合う。
- 田村浩二(千葉雄大)
- 永吉の弟。自立しているが、やたらと実家へ帰ってくる。兄の永吉よりも現実的に物事を考えているが、あまり頼りにはならない。
映画『モヒカン故郷に帰る』のネタバレあらすじ(ストーリー解説)
映画『モヒカン故郷に帰る』のあらすじ【起】
田村永吉がボーカルを務めるハードコアパンクバンド「断末魔」は、小さなライブハウスでライブ活動を続けている。少数のマニアックなファンはいたが、路線的にメジャーデビューできるようなバンドではなく、メンバーは将来に不安を感じていた。しかし永吉は何事もあまり深く考えない。
永吉は恋人の会沢由佳と同棲中で、由佳は妊娠していた。永吉は由佳と結婚することに決め、故郷の広島県戸鼻島(とびじま)へ帰省することにする。
永吉の父親の治は、島で小さな酒屋を営んでいる。楽しみは地元中学の吹奏楽部のコーチをすることで、敬愛する矢沢永吉の曲を演奏させていた。生徒たちからは選曲に対する不満の声が上がっていたが、永ちゃん信奉者の治は聞く耳を持たない。母親の春子は、熱狂的な広島カープファンで、実家は永ちゃんグッズとカープグッズであふれていた。
7年ぶりに帰ってきた永吉を見て、家族は慌てふためく。ネイリストをしている由佳の収入に頼っているくせに、子供ができたらから結婚するという永吉の話を聞き、治は怒って暴れ出す。しかしすぐに気を取り直し、地元の仲間を集めて家で大宴会を開く。
その晩、治は腰に強烈な痛みを感じて救急車で運ばれる。検査の結果、治が末期ガンであることがわかる。治はそのまま、島の中央病院へ入院する。
映画『モヒカン故郷に帰る』のあらすじ【承】
主治医の竹原は治の幼馴染で、まずは家族にだけその事実を告げる。しかし春子と次男の浩二は治の前で泣き出してしまい、治は自分のガンを疑う。由佳は治にその事実を隠そうとするが、永吉は“ガンか?”と聞かれて思わず頷いてしまう。
浩二は、ネットで見つけた関西方面にいる有名な先生に診てもらおうと提案する。しかし永吉は頼りない返事しかしない。
治は病院の向かいにある中学の屋上に吹奏楽部の部員たちを呼び出し、屋上で演奏をさせる。そして唯一の男子部員の野呂にダメ出しをする。
治は永吉と屋上へ行き、2年もやめていたタバコを吸わせてもらう。治は永吉が自分に遠慮して東京へ帰れないのだと感じており、早く帰れと言ってやる。タバコのせいで治はひどく苦しみ出し、永吉は春子から叱責される。
治はずっと気になっていた野呂を病室に呼び、また遊びにくるよう声をかける。父親から強制的に吹奏楽部へ入れられた野呂は、部活にも治にも馴染めないでいた。
由佳と春子は相性がよく、なかなかうまくやっていた。由佳は春子にネイルをしてやり、和気藹々をと話をする。春子は由佳の気持ちを理解し、こっちは大丈夫だから早く東京へ帰りなさいと言ってやる。由佳は、そんな春子の優しさに感動する。
竹原は大きな病院への転院を勧めるが、治は“お前でええわ”と答える。治は苦痛を伴う治療をしてわずかに延命するより、住み慣れた自宅で残された時間を過ごしたかった。
映画『モヒカン故郷に帰る』のあらすじ【転】
永吉は治に呼び出されていた野呂を捕まえ、無理矢理自宅まで送る。死を前にした父親と何を話せばいいのかわからないという永吉に、野呂はそばにいてあげるだけでいいのではないかとアドバイスする。野呂には、治が寂しそうに見えていた。
永吉と由佳と浩二は、一旦帰ることにして船に乗る。3人を見送った春子は、自宅で侘しい夕食をとっていた。するとそこへ、宮島見物をした永吉と由佳が帰ってくる。春子はなぜ電話しないのかと小言を言いながらも、嬉しそうに2人の食事を用意する。
永吉はしばらく島に滞在することに決め、メンバーにハガキを書く。由佳は島の助産婦さんの検診を受け、永吉は店番を始める。
延命治療を望まない治は、自宅療養を始める。自宅には介護ベッドが置かれ、春子は介護の仕方を教わる。永吉は、治の望みを聞いてみる。治は考えた末、“えーちゃんにあいたい”とメモ帳に書く。
治が以前食べたピザをもう一度食べたがっていると知った永吉は、何とかその望みを叶えてやろうとする。店名も種類もわからないまま、近場のピザ屋4店に電話をして、数十種類のピザを注文する。島への配達は不可能と言われるが、永吉は引き下がらない。結局ピザ屋が根負けし、船に乗って大量のピザを宅配する。治は永吉に気を使い、“これが食べたかった”とピザを貪り食う。そんな治の姿を見て、ピザ屋たちは感動して帰っていく。
映画『モヒカン故郷に帰る』の結末・ラスト(ネタバレ)
永吉は中学へ出かけ、電話を通じて吹奏楽部の演奏を治に聴かせてやる。しかし永吉の指揮がめちゃくちゃで、演奏は激しいロック調になってしまう。その夜、治は永吉の前で吐血する。治から内緒にして欲しいと言われ、永吉は黙って後始末をする。
永吉たちは、近くの海岸へハイキングに行く。車椅子に乗った治は、もう由佳が誰だかわからなくなっていた。永吉のことはまだ中学生だと思い込んでおり、“応援してやるから、東京へ行ってビッグになって帰ってこい”と言い出す。永吉は治に話を合わせながら、泣けてしょうがなかった。
その夜、永吉は父が愛用していた永ちゃん風のスーツを着て、治の枕元にたつ。目を覚ました治は、“矢沢です”という永吉を、本物の永ちゃんだと思い込んで驚愕する。正体がバレる前に去ろうとする永吉に、治は77年の武道館コンサートの時に目が合ったかと尋ねる。永吉は黙って頷いてやる。興奮した治は絶叫し、春子は何が起きたのかと驚く。
昏睡状態に入りつつある治が、永吉と由佳の結婚式を見たがっているとわかり、急遽2人の結婚式を開くことになる。万が一の時のために会場は中央病院に決まり、由佳の家族も島まで駆けつけてくれる。由佳のお腹はすっかり大きくなっていた。
結婚式当日。土砂降りの嵐の中、病院での手作りの結婚式が始まる。治も救急車で病院まで運ばれ、眠った状態のまま会場に入る。みんなで賛美歌を斉唱し、結婚の誓いを立て、いよいよ2人のキスが始まろうとした時、突然治が断末魔の叫び声を上げで起き上がり、そのままばったり倒れる。それが治の最期だった。
永吉と由佳が東京へ帰る日がきた。永吉は、いつかビッグになって帰ってくると心に誓い、故郷を後にする。
映画『モヒカン故郷に帰る』の感想・評価・レビュー
クスっと笑えるハートフルな家族コメディ。沖田監督らしいゆるい空気感と、個性的なキャストが魅力的である。
コメディだが、やりすぎない自然な演出で、小ネタで笑わせてくる場面とシリアスな場面とのメリハリのつけ方が見事である。
主人公の永吉が、全然似ていない矢沢のふりをして父と対面するシーンは笑えて泣ける。父の夢を一つでも多く叶えようとする姿がとても感動的である。
家族や大切な人と一緒に観て楽しめる、愛に溢れた作品だ。(女性 30代)
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