映画『息子の部屋』の概要:愛する息子を突然の事故で亡くし、崩壊しかけた家族のもとに、ある日息子宛の手紙が届く。それは、誰もその存在を知らなかった息子のガールフレンドからの手紙だった。監督・脚本・主演はナンニ・モレッティ。第54回カンヌ国際映画祭パルム・ドール(最高賞)受賞作。
映画『息子の部屋』の作品情報
上映時間:99分
ジャンル:ヒューマンドラマ
監督:ナンニ・モレッティ
キャスト:ナンニ・モレッティ、ラウラ・モランテ、ジャスミン・トリンカ、ジュゼッペ・サンフェリーチェ etc
映画『息子の部屋』の登場人物(キャスト)
- ジョバンニ(ナンニ・モレッティ)
- 自宅に診療室を持つ精神科医。ジョギングが趣味の温厚な男性で、精神科医らしい冷静な目を持つ。家族のことをとても大切にしている。
- パオラ(ラウラ・モランテ)
- ジョバンニの妻。明るく前向きな女性で、感情表現も豊か。ジョバンニよりも単純に物事を考える。
- イレーネ(ジャスミン・トリンカ)
- ジョバンニの長女。バスケットボール部に所属する活発な少女。勝気なしっかり者。
- アンドレア(ジュゼッペ・サンフェリーチェ)
- ジョバンニの長男。気持ちの優しい繊細な少年。不幸な事故により命を落としてしまう。文通をしているガールフレンドがいた。
- オスカー(シルヴィオ・オルランド)
- ジョバンニの患者。ずっと自殺願望に悩んでいたが、ガンを宣告されてから生きることに執着し始める。アンドレアの事故の日、ジョバンニを往診に呼び出した。
- アリアンナ(ソフィア・ヴィジリア)
- アンドレアのガールフレンド。夏のキャンプでアンドレアと恋に落ち、密かに文通を続けていた。しばらくアンドレアの死を知らなかった。
映画『息子の部屋』のネタバレあらすじ(ストーリー解説)
映画『息子の部屋』のあらすじ【起】
精神科医のジョバンニは、息子のアンドレアの学校から呼び出しを受ける。校長の話によると、アンドレアが友人のルチアーノと2人で、学校の実験室から珍しいアンモナイトの化石を盗んだらしい。アンドレアは犯行を否定していたが、学校側は2人を1週間の停学処分にする。
母親のパオラは、アンドレアは無実だと信じていた。長女のイレーネも、アンドレアの言葉を信じるべきだと考える。ジョバンニは真相を知りたいと考え、目撃者の生徒の家を訪ねる。
その生徒は、「ルチアーノのバッグに化石があるのを見た」と証言していた。しかし、化石は袋の中に入っていたらしく、はっきりと中身を確認したわけではなかった。その生徒はアンドレアたちと仲が悪く、彼が嘘をついている可能性が高いように思えた。
ジョバンニとパオラは、それ以上盗難事件についてアンドレアを問い詰めるようなことはせず、ごく自然に接する。一家は、夫婦仲も親子関係も良好で、幸せな日々を送っていた。結局アンドレアはパオラに、自分たちが犯人であることを打ち明ける。軽いいたずらのつもりで化石を隠し、それを戻す時に壊してしまい、ひとまずカバンにしまったところを目撃者の生徒に見られたらしい。パオラはアンドレアを叱ったりせず、ただ抱きしめてやる。
映画『息子の部屋』のあらすじ【承】
ある休日。ジョバンニはアンドレアとジョギングへ行くつもりにしていたが、患者のオスカーから「どうしても往診に来て欲しい」という電話があり、遠方にある彼の自宅へ向かう。オスカーは自殺願望のある患者で、放っておくことはできなかった。
オスカーは、医者から「肺がんの疑いがある」と言われ、かなりのショックを受けていた。ジョバンニは彼を励まし、落ち着いたのを見て帰宅する。
自宅マンションの前には、ルチアーノの父親がいて、友人たちとスキューバダイビングへ出かけたアンドレアが、事故にあったことを報告する。アンドレアは、潜水中に魚を追って1人で洞窟へ入り、出口がわからなくなって窒息死していた。
ジョバンニは車を飛ばしてイレーネを迎えに行き、アンドレアのいる病院へ直行する。パオラは正気を失って泣き叫んでいた。ジョバンニたちは、残酷な現実を受け入れることができないまま、棺に安置されたアンドレアと最後のお別れをする。
翌日。イレーネは気を使って朝食を用意するが、ジョバンニもパオラも食卓には来なかった。ジョバンニは患者の予約が入っているため、すぐに仕事を始める。しかし、今までのように落ち着いて患者と向き合うことはできなくなっていた。特に、あの日自分を呼び出したオスカーに会うと、「もしあの時往診を断っていれば…」と、たまらない気持ちになる。
アンドレアが死んでから、ジョバンニとパオラの夫婦仲にも亀裂が入り始める。イレーネもストレスを溜めており、試合中に相手チームの選手と乱闘騒ぎを起こして失格になる。あの事故以来、一家から笑顔が消えていた。
イレーネが友人たちと相談し、アンドレアのミサが行われる。帰宅したジョバンニは、わかったようなことを言う神父の説法に腹を立て、珍しく感情的になる。
ガンであることが確定したオスカーは、前向きに治療を続けていた。以前はあれほど「死にたい」と言っていたくせに、いざ死を実感すると生きることに執着し始めたオスカーを見て、ジョバンニは無性に腹が立つ。そして、せっかく前向きになっているオスカーに「死ぬ時は何をやっても死ぬ」と、ひどいことを言ってしまう。
ジョバンニは自己嫌悪に陥り、友人の精神科医に話を聞いてもらう。オスカーを見るとアンドレアの死を思い出し、どうしても冷静になれないのだ。
映画『息子の部屋』のあらすじ【転】
そんなある日、アリアンナという女の子から、アンドレア宛の手紙が届く。2人は夏のキャンプで知り合い、お互いに恋心を抱きながら文通を続けていたらしい。パオラはアンドレアに彼女がいたことを喜び、すぐアリアンナに電話しようとする。しかしアリアンナは、まだアンドレアが死んだことを知らないので、ジョバンニが手紙を書くことにする。
イレーネは、両親が自分に気を使っているのを感じ、ずっと居心地の悪い思いをしていた。イレーネ自身、両親の前で明るく振舞うことがつらかった。
友人との食事会の席で、アリアンナの話を始めたパオラを、ジョバンニはさりげなくたしなめる。この態度にパオラは傷つき、ジョバンニに腹を立てる。ジョバンニはどんどん精神的に不安定になっていき、診察中に患者の前で泣き出してしまう。
ジョバンニは後悔ばかりしており、アリアンナへの手紙も書けずにいた。そんなジョバンニを、パオラは「自分のことしか考えていない」と非難し、その場でアリアンナに電話をかける。パオラはアンドレアが海の事故で亡くなったことを伝え、「あなたに会いたいの」と言ってみる。しかしアリアンナに断られてしまう。
ジョバンニとパオラは別々の部屋で眠るようになり、夫婦は危機を迎えていた。1年半ジョバンニの診察を受けてきたオスカーは、ジョバンニにお礼を言って、自らジョバンニのもとを去っていく。イレーネも帰宅が遅くなり、ジョバンニはどんどん孤独になっていく。
今の自分には誰も助けられないと悟ったジョバンニは、精神科医をやめることにする。患者はまだジョバンニを必要としていたが、ジョバンニは完全に自信を失っていた。
映画『息子の部屋』の結末・ラスト(ネタバレ)
家族が崩壊しかけた頃、アリアンナが突然ジョバンニの家を訪ねてくる。ちょうどパオラとイレーネは外出中で、ジョバンニは戸惑う。アリアンナは、アンドレアの部屋を見せてもらい、彼が送ってくれた写真をジョバンニに見せる。それは、自分の部屋でおどけたポーズをとっているアンドレアの写真だった。ジョバンニはその写真を抱きしめて涙を流す。
帰宅したパオラとイレーネは、アリアンナと対面し、彼女がいい子でほっとする。アリアンナは、突然電話でアンドレアの死を知らされ、動揺してパオラの誘いを断ってしまったことを謝罪する。一家は、今晩彼女に泊まってもらうつもりだったが、彼女は友人とヒッチハイクでフランスへ向かう途中だった。その友人は男の子で、アリアンナの新しいボーイフレンドのようだった。
ジョバンニたちは、近くのガソリンスタンドまで、2人を送ってやる。しかし、そのガソリンスタンドは閑散としており、ジェノバの出口まで送ることにする。そのうち後部座席の子供たちが眠ってしまい、ジョバンニはそのまま車を走らせる。助手席のパオラは、寝ないでジョバンニに付き合う。
朝。フランスとの国境に到着したジョバンニは、パオラと外へ出る。目を覚ましたイレーネもやってきて、「ここはどこなの」と怒り出す。今夜は、失格後初めての練習がある日だった。ジョバンニとパオラは、なんだかおかしくなって笑い出してしまう。イレーネも、2人につられて笑い出す。
3人は、バスでフランスへ向かうアリアンナたちを見送り、美しい海を見つめる。アリアンナが来てくれたことで、ジョバンニたちは久しぶりに優しい気持ちを思い出していた。
映画『息子の部屋』の感想・評価・レビュー
本作は、不慮の事故で息子を失って、幸せだった日々が突如崩壊してしまい悲しみに暮れる家族の喪失と再生を描いたヒューマンドラマ作品。
イタリアの巨匠ナンニ・モレッティ監督が脚本と主演を務めカンヌ国際映画祭でパルムドールを獲得している。
事故当時を振り返り、あの日息子と一緒にしたらと自問自答し後悔する精神科医の父の気持ちがとても丁寧に描かれていて観ていて辛かった。
しかし、終盤に向けて徐々に再生していく家族の在り方に温かい気持ちになれ感動する作品。(女性 20代)
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