映画『名前』の概要:直木賞作家、道尾秀介が原案を担当し戸田彬弘がメガホンを取って実写化した一作。過去を隠し、複数の偽名を使って体裁を保ちながら過ごす男と孤独を抱える女子高校生の交流を描く。
映画『名前』の作品情報
上映時間:114分
ジャンル:ヒューマンドラマ
監督:戸田彬弘
キャスト:津田寛治、駒井蓮、勧修寺保都、松本穂香 etc
映画『名前』の登場人物(キャスト)
- 中村正男(津田寛治)
- 妻と上手くいかず離婚後に事業も失敗してしまい、茨城の田舎にある事故物件でひっそりと暮らす男。複数の偽名を使い体裁を保ちながら、孤独の中暮らしていた。
- 葉山笑子(駒井蓮)
- 突如正男の前に現れた女子高校生。母親と二人暮らしをしながら孤独を抱えている。自分の姿をさらけ出すことができず葛藤しているが、正男の前では素直に過ごせるため慕っている。
- 香苗(筒井真理子)
- 正男の前妻。仕事に明け暮れる正男との間にようやく子供を授かったが、死産させてしまったことで離婚している。復縁を迫る正男を拒絶する。
映画『名前』のネタバレあらすじ(ストーリー解説)
映画『名前』のあらすじ【起】
契約書に「鈴木太郎」と署名した男。時には「吉川さん」と呼ばれ、2件目に飲みに行く誘いを断って仄暗い自宅へと帰っていく。男の帰りを待っていた若い女に「ゴミだけついでに捨てていって」と目線も合わせず言い放つのだった。
翌朝、男は近所の住民に「中村さん」と呼ばれ声を掛けられる。しかし男は仕事場のリサイクル工場では「久保さん」と呼ばれている。妻の看病のため僻地の工場でバイトをしていると同僚に説明していた男だが、その朝工場長に呼び出され入院先の病院に「久保」という人はいないと問い詰められてしまった。焦りを隠せない男に、来客が訪ねてきたと同僚が声をかける。入り口には見知らぬ女子高校生が待ち構えており、「お父さん」と声をかけるのだった。「お母さんが転院していること言わなかったの?」と言う少女に都合を合わせ、男は職場を後にした。
少女はなぜか男が多くの偽名を使っていることを知っていた。そして男の自宅に向かうように指示をした少女。妻と離婚後、会社も倒産し独り自堕落な生活を送っていることも見透かすようにせかせかと掃除を始めるのだった。
その夜、男に駅まで送り届けてもらった少女は「葉山笑子」と本名を名乗った。男も「中村正男だ。」と本名を告げ、少女は「土曜日に」と伝え去っていくのだった。
映画『名前』のあらすじ【承】
心なしか笑子との約束を楽しみにしてしまっていた正男。笑子の提案でボーリングに付き合うことになった正男。飲み仲間と遭遇してしまい、咄嗟に笑子に恋人の振りをさせてその場をはぐらかすのだった。
「おじさんの嘘に付き合うよ」と正男に微笑みかける笑子はいつも一人でご飯を食べているという。一人の寂しさを共有するかのように、正夫と笑子は一緒に過ごす時間が長くなっていった。「秘密を交換しよう。」という笑子。「実は出べそなんだ。」と笑う正男に対して、笑子は「お母さんが水商売をしてる」と明かすのだった。
お祭りや釣りに一緒に出掛けるようになった二人は、まるで親子のような時間を過ごしていた。「別れた家族に会いたくない?」と正男に尋ねる笑子。自分の存在意義を見出せなくなっている正男は、他のだれかに成りすましている方が楽だと語るのだった。
同窓会に出向いた正男は10年前に別れた妻・香苗と再会する。復縁を迫る正男だが、香苗にきっぱりと拒絶されてしまう。後日、話す機会をもう一度もらおうと香苗を尋ねた正男だったが、別の男性と幸せそうに並んで歩く姿を見てしまい後ずさりする。帰宅した正男は押し入れにしまい込んだ位牌を引っ張り出し、手を合わせた。それは香苗が流産した子供の位牌である。その後、笑子に連絡しようとするが、着信音は自宅の中で鳴っている。笑子の携帯を見つけた正男は、自分の連絡先が「お父さん」と登録されていることを知るのだった。
映画『名前』のあらすじ【転】
母親とはすれ違いの生活を送る笑子。友達はいるものの、母親の代わりに家事をこなし一人で食事することに孤独を感じている。ある日のお昼時、親友の里帆と話していると演劇部の女子に声をかけられた。幽霊部員だった笑子に「次の公演に出ないか?」と誘うためである。その日の夜、母親の看病をしていた笑子は亡くなったはずの父親から届いていた手紙を見つけてしまう。思い立った笑子は差出人の住所を訪ねるとそこに住んでいたのは正男だった。その後、正男の正体を探り始めた笑子。都合よく正男を助けたのは偶然ではなかったのだ。
演劇部として公演に出ることに決めた笑子は休み時間も台本読みに夢中になっている。その姿を見た里帆の彼氏・翔矢は初めて見た笑子の一面に惹かれ始めてしまった。ある日、登校してきた里帆に「最低」と怒鳴りつけられた笑子。翔矢に話を聞きに行くと告白されてしまい、困惑するのだった。
連日練習に明け暮れる笑子だが、部長の理想通りに演技ができず口論になってしまう。「本当の自分」をさらけ出すように言われるも、笑子はどうしていいかわからず逃げ出すのだった。大雨の中、正男の元に向かった笑子は初めて面と向かって「お父さん」と呼んだ。
映画『名前』の結末・ラスト(ネタバレ)
口を閉ざす正男に対して笑子はこれまでのことを話し始めた。亡くなったと思っていた父親が生きているだけでも嬉しかったことや、正男と過ごした時間がとても幸せだったことを正直に明かし続ける笑子。「演劇を観に来て欲しい」という笑子から正男は逃げ続ける。実は、正男は前の住人がこの家で病死していることを知っていたのだった。
友人の里帆も正男にも避けられ、奮起した演劇も上手くいかないことに限界が来てしまった笑子。帰りを待ち構えていた翔矢にぶつけてしまう。一方で正男もこれまで体裁を保つために至る所で偽ってきた自分と対峙し、限界を迎えてしまうのだった。
帰宅した笑子は母親から、父親について真相を聞かされる。正男が本当の父親ではないことを知った笑子だが、再び正男の元へ向かった。香苗との間に起こった出来事や、笑子の本当の父親は病死していることを明かした正男は「お前にはお父さんは二人いる」と頭をなでるのだった。
笑子を学校まで送り届けた正男。朝練終わりの演劇部員たちと遭遇し「放課後は練習に来なさい」と部長に諭され、笑子は笑顔で返事をする。正男を見かけた顧問は「お父さんですか?」と尋ねるが、笑子は「違う人です」とはっきり答えた。正男が見守る中、笑子を待っていた里帆と共に、校舎に入っていくのだった。
映画『名前』の感想・評価・レビュー
人生をやり直すために田舎に身を寄せたはずの男と、自分をさらけ出すことができない少女の人生が交差する具合がとても心地よい時間であった。正体不明の女子高校生と言う設定からすると、もっと闇があってもおかしくないが当作の駒井蓮は実に鮮度高く嫌味がない。本当の親子のような関係が描かれている時間と、真相に近づいていく時間のメリハリもあり、原案者の味わいも楽しめる一作である。(MIHOシネマ編集部)
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