映画『泣くな赤鬼』の概要:熱血指導が定評のある「赤鬼」と呼ばれる一人の教師と、才能を持ちながら努力をできず逃げ出してしまった少年の再会を描く一作。原作は重松清の短編集「せんせい。」に収められた一編。
映画『泣くな赤鬼』の作品情報
上映時間:111分
ジャンル:ヒューマンドラマ、青春
監督:兼重淳
キャスト:堤真一、柳楽優弥、川栄李奈、竜星涼 etc
映画『泣くな赤鬼』の登場人物(キャスト)
- 小渕隆(堤真一)
- 城南高校野球部の元顧問。教え子の智之に才能を感じ、熱心に指導を続ける。悔しさを知らず努力できない智之を見放してしまい、夢を失っていた矢先に病を抱えた智之と再会する。
- 斎藤智之(柳楽優弥 / 堀家一希)
- 小渕が率いる城南高校野球部の新入部員として入部する。自信家な少年だったが、自分ばかりに熱の入った指導をする小渕に困惑し夢半ば野球も高校も辞めてしまう。
- 斎藤雪乃(川栄李奈)
- 智之の妻。偶然病院で小渕と知り合い、高校時代の智之を知っている存在に頼るようになる。闘病する智之を支えながら、幼い子供を育てている。
- 和田圭吾(竜星涼 / 武藤潤)
- 智之とは中学時代からの野球仲間であり、高校の部活にも一緒に入部した。智之に実力は劣るが努力家で小渕に認められ背番号をつかみ取っていく。
映画『泣くな赤鬼』のネタバレあらすじ(ストーリー解説)
映画『泣くな赤鬼』のあらすじ【起】
城南高校を率いる小渕監督が甲子園をかけた地区予選決勝に向けてインタビューを受けている。その様子を理髪店「さいとう」の隅で智之はうつむきがちに聞いているのだった。
10年後、妻・雪乃に付き添ってもらい通院していた智之は病院で小渕監督と再会した。当時は「赤鬼」と呼ばれていた小渕と、「ゴルゴ」と呼ばれていた智之。城南高校から進学校の西高に異動した小渕からは当時の情熱は感じられず、智之もすっかり大人になっている。互いに変わったと思い出話に花を咲かせるが、決勝を目前に退部した智之は「俺に思い出話をする資格はない」と切り上げるのだった。
小渕は西高でも野球部の顧問をしている。しかし部員たちに期待をすることもなく、熱い指導など無駄にすら思えていた。ある日の放課後、雪乃が小渕の元を訪ねてきた。「死んじゃう」と雪乃は泣き崩れ、小渕に智之と過ごした記憶を思い返させる。新入部員のとき最初の自己紹介で「走攻守3拍子揃った実績でチームを甲子園に連れていく」と大口を叩いた智之。「ゴルゴ」というあだ名はこのときにつけられたものであった。
映画『泣くな赤鬼』のあらすじ【承】
甲子園常連校に頼み込み、新入生同士の練習試合にこぎつけた小渕。智之の才能を確信した小渕は意気揚々と帰宅したが、娘・佐知が初めての試合で大けがをしてしまったと妻に聞かされる。落ち込む佐知に「今年の1年生なら甲子園も夢ではない」と嬉しそうに語るのだった。
智之に大きな期待をかける小渕は個人練習も厳しく続けた。同じポジションを争うライバルとして技量の劣る和田を立て、闘志を煽ろうとする。しかし、小渕の真意が見えない智之は逃げ出してしまうのだった。大人になった智之もまた末期がんの宣告を受け、「死ぬところを見せたくない」と現実から逃げていた。雪乃が小渕を訪ねたのは、荒れた智之が家族に当たり散らす姿を受け止めきれず相談にのってほしかったのだ。
高校生の智之は「悔しい」という感情がわからずにいた。期待する小渕は背番号15を智之のために空けておくが、当の智之は部活から離れ始めよくない噂のある友人たちとつるむようになる。
映画『泣くな赤鬼』のあらすじ【転】
地道な努力を重ねる和田を馬鹿にすることでしか自尊心を保てない智之は、ついに退部届を小渕に提出した。高校生の時は努力する前に諦めてしまった智之。大人になっても病を前に諦めきっている。智之から離婚を迫られた雪乃はもう一度小渕を訪ね、智之の面会に来てほしいと頼むのだった。
高校生の智之に何もしてあげられなかったと後悔している小渕は、家族の説得もあり一度智之に会いに行くことにする。甲子園を目前にした野球部の話題で学校が沸き立っている環境から逃げ、高校を中退した智之にとって小渕は最後の先生であった。雪乃から智之が和田に会いたがっていると聞いた小渕は、さっそく和田に会いに行く。しかし「先生にとって俺らは夢を叶える道具でしかない」と突き放され断られてしまうのだった。
小渕の前で「もう一度野球がやりたい」と呟いた智之。野球部員との深い溝を痛感している小渕だが、智之のために一緒に野球をしてほしいと頼み込むのだった。
映画『泣くな赤鬼』の結末・ラスト(ネタバレ)
一時退院した智之は家族とともに小渕と生徒たちが待つグラウンドへ向かった。思うように体が動かない智之だが、小渕の球を受けとても嬉しそうにする。野球部員たちも声を出すようになり、慣れてきたころに和田がグラウンドへ駆けつけた。智之に代わって球を受けた和田は、「智之が野球を辞めたのは自分のせいなのか」と長年の引っかかりを智之へ投げかける。「自分で勝負をおりたんだ」と智之は和田を称えるのだった。
後日、雪乃から連絡を受けた小渕は危篤状態になった智之に会いに行く。「俺の生徒になってくれてありがとう」という小渕の言葉に涙した智之。初めての練習試合で小渕に返すことができなかったサインを、最後の力を振り絞って返すのだった。
和田のエラーで甲子園を逃した日の記憶が小渕の脳裏によぎった。野球への情熱を失っていた小渕はその日も智之がスタンドから「努力は報われるんだろ?」と檄を飛ばしていたのだと気づかされる。再び情熱を取り戻した小渕は、部員たちと向き合いなおす。そして、かつての智之のように自信にあふれた自己紹介をする新入部員を迎え、ふと笑みを浮かべるのだった。
映画『泣くな赤鬼』の感想・評価・レビュー
兼重淳監督の人間の描き方がとても熱いものだと伝わる一作であった。高校野球と聞くだけで胸が熱くなるが、今作の着眼点は「大人と子供の夢の在り方」であろう。希望をかけた生徒に熱血指導をする教師と、期待への応え方が見えない少年が互いに抱く葛藤。堤真一と柳楽優弥の掛け合いは実にナチュラルで長年の付き合いがあるようにも見える空気感であり、すっと入り込める演出だ。末期がんや挫折といった人生の大きな起点を描きながら暗くなりすぎない作品であった。(MIHOシネマ編集部)
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