映画『のみとり侍』の概要:藩主の怒りを買い、「猫の蚤とり」こと売春夫となることになった一人の武士。不器用な寛之進は女の扱いに慣れている清兵衛にアドバイスを求めながら、藩主の命令に背くことなく精進していく。
映画『のみとり侍』の作品情報
上映時間:110分
ジャンル:コメディ、ヒューマンドラマ、時代劇
監督:鶴橋康夫
キャスト:阿部寛、寺島しのぶ、豊川悦司、斎藤工 etc
映画『のみとり侍』の登場人物(キャスト)
- 小林寛之進(阿部寛)
- 真面目な武士。藩主の詠んだ歌が、他の藩主の歌と似ていると指摘してしまい「蚤とり」の仕事を命じられる。先に亡くなった妻の面影を感じ、おみねに惹かれていく。
- おみね(寺島しのぶ)
- 寛之進の亡き妻にそっくりな女性。初めて「蚤とり」の仕事に出向いた寛之進に対し「へたくそ」と一蹴し、探求心に火をつけた存在。
- 清兵衛(豊川悦司)
- 偶然知り合った寛之進に身の上話をしたことで、女性を悦ばせる手ほどきをした男性。婿養子である身分の狭さから解放され、寛之進と共に「蚤とり」として生きていく。
- 佐伯友之介(斎藤工)
- 寛之進が住むことになった長屋で、子供たちに読み書きを教える青年。武士の父を持ちながら、両親を亡くし細々と暮らしていた。
映画『のみとり侍』のネタバレあらすじ(ストーリー解説)
映画『のみとり侍』のあらすじ【起】
将軍・徳川家治の時代。新しいもの好きの「開国派」老中・田沼意次はニヤニヤと「売春夫」が許されてもいいのではないか、と企んでいた。
その頃、小林寛之進は藩主・牧野備前守忠精の歌会に出席していた。藩主が「江戸の物乞いについて」詠んだというその歌は、良寛の真似ではないか…と思わず指摘してしまう。真似ではないと怒り狂った忠精は「明朝より、猫の蚤とりになって無様に暮らせ!」と言い放ったのである。
藩の言いつけに背いたことのない寛之進は早速、「猫の蚤とり」とは何か、町に出て調べに行くのである。そこで見つけた「猫の蚤とり屋」。早速店に入り、唐突に雇って欲しいという寛之進。何の仕事かもわかっていない寛之進ではあるが、店主の甚兵衛と妻のお鈴は、武士が「猫の蚤とり」をしようとするならば仇討ちのためであると勝手に決めつけ協力しようと受け入れるのであった。寛之進は仕事と住む場所を提供してもらった。決して住み心地良い環境ではない長屋にはたくさんの子供たちが住んでいる。そこでは、青年・佐伯友之介が子供たちに読み書きを教えているのである。
翌日、寛之進の「蚤とり」の仕事が始まる。何の仕事か見当もついていない寛之進。甚兵衛は狼の毛皮を取り出して表向きの「蚤とり」仕事について説明した。しかし納得した寛之進へ知らされる本当の「蚤とり」の姿。それは「売春夫」であった。唖然としながらも、藩主からの命令に背くわけにはいかず、仲間たちと街中を練り歩く寛之進。予想に反して得意客は多く、仲間たちは次々と指名され客の元へと向かっていく。ついに一人になってしまった寛之進の視界に入ったのは、死別した千鶴に似た女性・おみねである。「初めての客であったら…」と懐かしむ寛之進の希望が叶って、おみねの自宅へ呼ばれた。寛之進を部屋に通したおみねは早々に襲い掛かった。積極的な女性に驚く寛之進は、「蚤とり」の全貌を掴み切れていなかったのである。不満げに「下手くそ」と寛之進を罵るおみね。これまでない経験のためショックを隠し切れない寛之進。おみねの部屋を後にするのであった。
映画『のみとり侍』のあらすじ【承】
帰路につく寛之進は、若侍に絡まれる近江屋清兵衛と遭遇した。冷静に対応し、清兵衛を助けた寛之進。清兵衛はお礼に、と寛之進を食事へ誘い出した。清兵衛は近江屋の婿養子である。強気な若い妻は浮気を疑い、予防策としてふんどしに名前を刺繍し、清兵衛の一物にうどん粉を塗すというのである。そんな疑いをかけられるならば、経験豊富であろうと思い込んだ寛之進は、清兵衛に女性の悦ばせ方を教えてほしいと頼んだ。女遊びをした後に誤魔化すため、うどん粉をたくさん用意してほしいと交換条件を提示し、寛之進と清兵衛はウィンウィンな関係となるのであった。
「お近づきの印に」と寛之進は長屋へかれいを持って帰った。友之介の両親は武家であったという。両親を亡くし、伝家の宝刀のみ手元に残り貧しい暮らしをしていたのだった。
翌日、寛之進は清兵衛との約束を守りうどん粉を持ち寄って、清兵衛が女遊びをする様を除かせてもらった。真面目に生きてきた寛之進には想像もできない手ほどきで女性を悦ばせる清兵衛。人生観が変わるような光景を見た寛之進は、その足でおみねの元へリベンジしに向かう。見様見真似で挑んだため、忘れてしまった局面もありつつ、おみねを満足させることができたのである。それから、寛之進はおみね以外の女性の相手をする経験を重ねた。世の中の女性はいろんな事情を抱えているということを知り、自分が抱えた秘密をいつ告白するか悩んでいたのである。
とある日、ふんどし姿で唐傘だけを抱えた清兵衛が寛之進の元にやって来た。実は、清兵衛がつけられていたうどん粉には塩がまぶされていたという。塩っ気のないうどん粉をつけて帰った清兵衛は、女遊びがばれてしまい、家を出てきたというのだ。覚悟を決めた清兵衛は自分も蚤とり屋になると宣言をした。そして、自分の身を滅ぼしたうどん粉を文字って、「こんどう」清兵衛と名乗るのである。
映画『のみとり侍』のあらすじ【転】
とある夜、友之介は食べるものに困り、猫の残飯を漁っていた。その時、猫に引っかかれてしまい、傷口から入ったばい菌で高熱を出していたのである。しかし、長屋に住む人々は高額の医療費を出す手段がない。そんな様子を見た清兵衛は、妻に居所がバレるのを案じながらもかかりつけの医師を訪ねてみようと、手を差し伸べるのであった。しかし、いくら待っても清兵衛は戻ってこない。長屋に住む人々が総出で友之介を助けるために動く姿を見て、友之介は大事な宝刀を売るように伝える。友之介の心意気を受け、寛之進は保証書と宝刀を持って医者の元へ走った。真面目な友之介が病に倒れ、仕方なく家宝を手放すことになったという話を添えて、医師の宋庵を訪ねた寛之進。保証書を確認した宋庵は、助手を連れ長屋へと向かうのである。膿んだ傷口を施術し、友之介を救った宋庵。長屋の人々は安堵するのであった。
友之介が回復したころ、宋庵は刀を返しに長屋を訪れた。実は、保証書の内容はでたらめであり、刀は偽物であったのだ。寛之進が救いを求めに来たときから、刀の価値をわかっていた宋庵だが、無償で子供たちに読み書きを教える友之介の心意気に胸打たれ対処したのであった。粋な宋庵の気持ちに感銘を受けた寛之進。藩主の言うことが全てではないと知りながらも、「蚤とり」の仕事を続けていた。
すっかり常連となったおみねと過ごしていた寛之進。しかし、おみねを囲う男が突然訪ねてきてしまった。いつかこうなる日が来るとは思っていたものの、その相手はなんと、老中・田沼意次。逃げずに部屋に留まった寛之進に対し、意次は予想もしなかった事実を話し始める。それは、真面目過ぎる寛之進が「勘定方」として仕事をこなす中で、汚職に溺れた藩主たちに命を狙われていたというのだ。部下の危険を感じた藩主は寛之進を守るため、「猫の蚤とり」を命じ、屋敷から追い出し命を救おうとしたのであった。意次は藩主交代のタイミングで、寛之進の命がまた狙われるのを防ぐためおみねの元を訪ねてきたのであった。
映画『のみとり侍』の結末・ラスト(ネタバレ)
意次の好意でその場を離れた寛之進であったが、突如「蚤とり」が禁じられ寛之進たちのみ取り屋は捕らわれてしまうのであった。
「鋸引きの刑」という通行人に首を切らせる処罰を受けたのみ取り屋たち。二日間経てば無罪放免になるというこの刑から救うため、甚兵衛夫婦たちは見張りを連れ見張るのであった。夜が明ければ無罪放免になるというところで、寛之進が長岡藩の使いの者に連れて行かれてしまう。藩主の命令で「蚤とり」を始めた寛之進ではあるが、「長岡藩の武士」ということには変わらない。藩の名を汚したということで、打ち首か切腹を強いられることになった。
長岡藩へ連れられた寛之進。武士の姿ではなく「蚤とり」格好で藩主の前へ立つ覚悟をした寛之進。なんと待ち構えていた元仲間たちの中に、清兵衛の姿があった。うっすらとした記憶の中で、寛之進のことが気にかかる清兵衛。おもむろに立ち上がり、寛之進の元へ行こうとひと悶着起こすのであった。久しぶりに顔を合わせた二人。そこへ、藩主・忠精が現れる。忠精は多数の武士たちに捕らわれる清兵衛を見つけ、何者かと尋ねる。実は清兵衛は、医師の元へ向かう道中馬に蹴られ記憶を失っていたのであった。白砂を手にした清兵衛はうどん粉の記憶を思い返し、すべての記憶を取り戻すのである。自分の手ほどきの元、寛之進は江戸の庶民として生活していたことを、楽しそうに話す清兵衛。恥ずかしい話もありながら、武士として城に勤めていては知りえなかった状況があったということを忠精に伝える。寛之進の勇ましい姿に感動した忠精は、寛之進を元の地位に戻し、同時に清兵衛も藩へ迎え入れるのであった。
侍としておみねを迎えに行く寛之進。「仇討ちが成功した」と勘違いするのみ取り屋の仲間たちの祝福を浴びながら、再び侍として歩み始めるのであった。
映画『のみとり侍』の感想・評価・レビュー
蚤とり家業を描いた短編小説が原作である今作は予想よりもライトな一作であった。もう少し時代物の要素やコメディライクな展開かと期待していたが、少し薄味。ソース顔を代表するといっても過言ではない阿部寛の武士スタイルと蚤とり姿は、印象的。カラフルな着物を着こなす阿部寛と、プレイボーイの役回りである豊川悦司のバランスが秀逸なキャスティングである。軽快なリズムではないものの、見応えはある物語だった。(MIHOシネマ編集部)
原作の小説は未読なのだが、女性相手の売春業にスポットを当てた作品で、かなり衝撃を受けた。ただ艶やかなだけの物語ではなく、様々な人との出会いがあることで見応えのある作品に仕上がっていた。
主人公の小林寛之進が真面目な性格だからこそ、クスリと笑える部分があっておもしろかった。特に、おみねに「下手クソが!」と言われるシーンは、驚いたけど笑ってしまった。阿部寛さんが演じていたからこそ、不器用で真面目な部分にリアリティが感じられた。(女性 30代)
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