映画『オーケストラ!』の概要:ソ連時代に音楽界を追われた天才指揮者アンドレイ。彼が思いついたのは、ボリショイ・オーケストラになりすまして昔の仲間とパリ公演に出ることだった。過去とシンクロするラストの演奏が圧巻の、フランス産コメディ。
映画『オーケストラ!』の作品情報
上映時間:124分
ジャンル:ヒューマンドラマ、コメディ
監督:ラデュ・ミヘイレアニュ
キャスト:アレクセイ・グシュコフ、メラニー・ロラン、フランソワ・ベルレアン、ミュウ=ミュウ etc
映画『オーケストラ!』の登場人物(キャスト)
- アンドレイ・フィリポフ(アレクセイ・グシュコフ)
- 元ボリショイ・オーケストラの指揮者。ソ連時代の反ユダヤ政治の中でユダヤ人団員をかばい、演奏会中に解雇された。今はオーケストラの清掃人をしている。演奏しきれなかったチャイコフスキーの「バイオリン協奏曲」に固執している。
- アンヌ=マリー・ジャケ(メラニー・ロラン)
- フランスの新進気鋭のバイオリニスト。マネージャーも務めるギレーヌに育てられ、実の両親は赤ん坊のころに他界したと聞かされていた。
- サーシャ・グロスマン(ドミトリー・ナザロフ)
- アンドレイと共にボリショイ・オーケストラに所属していたチェロ奏者で、アンドレイの一番の友人。30年前にオーケストラごと解雇され、家族は外国へ去った。今は救急車の運転手をしている。
- イワン・ガヴリーロフ(ヴァレリー・バリノフ)
- アンドレイが指揮をしていた当時のボリショイ・オーケストラ支配人。生粋の共産党員で、アンドレイたちを解雇した張本人。ソ連からロシアに体制が変わった今でも、かつての栄光を夢見ている。
- ギレーヌ(ミュウ=ミュウ)
- アンヌ=マリーの育ての親兼マネージャー。アンヌ=マリーにはアンドレイの事を知らないふりをしているが、実は旧知の仲だった。
映画『オーケストラ!』のネタバレあらすじ(ストーリー解説)
映画『オーケストラ!』のあらすじ【起】
ロシアのボリショイ・オーケストラ。ここの掃除人アンドレイ・フィリポフは、かつてボリショイ・オーケストラの伝説的指揮者だった。しかし約30年前、ソ連時代に指揮者をクビになり、掃除をしながらオーケストラの練習を盗み聞いていた。今日も盗み聞きがばれ、居残りで支配人室の掃除を命じられてしまう。そこにパリのシャトレ座から届いた出演依頼のFAXが送られてきた。アンドレイはそのFAXを盗み出す。かつて自分と一緒にクビになったオーケストラの団員達を集め、ボリショイ・オーケストラのふりをして出演しようと考えたのだ。
かつてのオーケストラ仲間、サーシャは「失敗する」と反対する。しかしアンドレイは、かつてのボリショイ・オーケストラ支配人でアンドレイたちをクビにした張本人である、イワン・ガヴリーロフに会いに行く。約30年前、イワンはアンドレイたちを「国の裏切り者」としてオーケストラごと解雇したのだ。しかもコンサートでの演奏中に、指揮棒を真っ二つに折るという形で。アンドレイはイワンに、パリとの交渉役を引き受けてその時の借りを返すよう迫る。すると、それまでアンドレイに怒り狂っていたイワンは、一転乗り気でその役を引き受ける。どうやらパリに何か個人的な目的があるようだ。
アンドレイとイワンはシャトレ座の支配人をだまし、出演の約束を取り付けた。曲目は解雇され弾ききることができなかった因縁の曲、チャイコフスキーの「バイオリン協奏曲」だ。
映画『オーケストラ!』のあらすじ【承】
アンドレイはかつての仲間を勧誘してまわる。仲間達はみな音楽界を追われ、さまざまな仕事に転職していた。多数の仲間が集まってくれたが、アンドレイを疫病神だと門前払いする者もいた。「人数が足りない」と弱音を吐くアンドレイに、サーシャは「30年前の雪辱を果たそう」と勇気づける。
シャトレ座に対し、アンドレイはソロ・バイオリニストとしてアンヌ=マリー・ジャケの出演を要求する。フランスの新進気鋭の演奏家だ。実はアンドレイは、折れた指揮棒と一緒にアンヌ=マリーのCDや切り抜きを保管していた。イワンも“トゥル・ノルマン”という店でのディナーを要求する。
アンヌ=マリーの育ての親兼マネージャーのギレーヌが渋る中、アンヌ=マリーは伝説の指揮者と名高いアンドレイとの共演を快諾する。
アンドレイ達は妻の人材派遣業につきあって、マフィアの結婚パーティーに来ていた。パリまでの旅費を立て替えなければならないことが判明する。金のないアンドレイ達にとって大問題だ。パーティーには実業家で音楽愛好家の男も来ていた。彼はチェロの演奏を披露するが、破滅的に音が外れていた。イワンはこの実業家に旅費を出してもらうことに成功するが、代わりに彼を出演させる羽目になってしまう。
空港でジプシー達にパスポートを偽造してもらい、偽ボリショイ・オーケストラはパリへ旅立った。
映画『オーケストラ!』のあらすじ【転】
偽ボリショイ・オーケストラはパリへ到着したが、ほとんどが前借りした出演料を手に、夜の街へくりだしてしまう。“トゥル・ノルマン”でのディナーに来たのはイワンだけだった。実は“トゥル・ノルマン”は共産党パリ支部で、イワンの目的はフランスでの共産党勢力を回復させる集会を開くことにあった。しかし“トゥル・ノルマン”はとうの昔に売り払われていた。偽物のレストランで高額の代金を支払わされたイワンは、パリ支部の同士と落ち合う。
アンドレイはサーシャにアンヌ=マリーの切り抜きを見られ、「28年前のあの時の子だ」と説明する。サーシャはその一言で全てを理解したようだ。
翌日のリハーサル。会場にはメンバーがいなかった。多くのメンバーはパリで新しい職を見つけ、連絡も無視していた。そこへジプシー達が、メンバーの楽器や服を調達して現れる。あきれ返るアンヌ=マリーだったが、ジプシーやサーシャの演奏を聴き、ぶっつけ本番での演奏を承諾する。
その晩、アンドレイとアンヌ=マリーはディナーに出かけることになっていた。2人の事情を知るギレーヌは、アンドレイに真実を話さないよう口止めしていた。アンヌ=マリーから自分を選んだ理由を聞かれ、アンドレイはレアというユダヤ系女性の名を口にする。オーケストラ解散時、「バイオリン協奏曲」のソロ・バイオリニストは彼女だった。ボリショイ・オーケストラからユダヤ系を締め出す方針が決まり、アンドレイは彼女をかばったのだ。レアの事をほめたたえ、泥酔するアンドレイに、アンヌ=マリーは「彼女の代わりにはなれない」とコンサート中止を提案し、去って行った。
映画『オーケストラ!』の結末・ラスト(ネタバレ)
サーシャがアンヌ=マリーに出演を頼みに行く。サーシャはアンヌ=マリーに、「演奏が終わればあなたの両親のことが分かるかも」と告げる。その夜、ギレーヌは「両親の事で嘘をついていた」という内容の置き手紙と、レアのものだった「バイオリン協奏曲」の楽譜を置いて家を去った。
コンサート当日。アンヌ=マリーはレアの楽譜を手に、会場へやってきた。
その頃、本当のボリショイ・オーケストラ支配人は家族旅行でパリに来ていた。支配人は「ボリショイ・オーケストラ公演」の広告を見つけ大激怒、大急ぎでシャトレ座に向かう。
パリ中に散っていたオーケストラのメンバー達に、「レアのために戻れ」というメールが届く。メンバー達はそれを見てシャトレ座に駆け付けた。イワンは共産党の集会に向かおうとしていたが、支配人の姿を見つけ、とっさにシャトレ座の物置に支配人を閉じ込めてしまった。ついに演奏が始まった。
練習不足のため散々な曲の始まりに、イワンは思わず祈りをささげる。しかしアンヌ=マリーがソロを弾き始めた途端、オーケストラの演奏が一変した。アンドレイもメンバーも、アンヌ=マリーの演奏にレアの姿を重ねていた。現在と過去の演奏が交わり合いながら、アンドレイは無言でアンヌ=マリーに語りかける。
アンヌ=マリーの本当の両親は、レアとその夫だった。2人はヨーロッパのマスコミにソ連の悪評を暴露したため、捕まり、シベリア送りになっていたのだ。アンドレイ達はレア達の赤ん坊を守るため、フランスのエージェントだったギレーヌにアンヌ=マリーを託し、亡命させた。レアはそのままシベリアで死ぬまで、「バイオリン協奏曲」にとりつかれていた。
アンヌ=マリーは演奏しながら、全てを知ったかのようにアンドレイにうなずき、一筋の涙を流す。演奏は大成功、世界中で追加公演が決まった。拍手鳴りやまぬ中、アンドレイは泣きじゃくるアンヌ=マリーを抱きしめるのだった。
映画『オーケストラ!』の感想・評価・レビュー
コメディタッチで冒頭から小気味よく、はちゃめちゃな展開やメンバーたちに笑う。現実味の薄い突拍子もない設定が、シリアスな政治的な背景を重く感じさせない。最初は妻の尻に敷かれているように見えたアンドレイ・フィリポフだが、パリ行きを告白した時にすぐさま賛成し、最後には公演を涙ながらにTVで見守る妻との夫婦愛もよかった。
メラニー・ロランの表情の演技や、ソリストぶりもよかった。ラスト10分以上に渡るステージシーンも圧巻で、セリフがないのに泣ける演出はさすが。チャイコフスキーをじっくり聴きたくなる映画だった。(女性 40代)
オーケストラの清掃員をしていたかつての天才指揮者アンドレイがひょんな事から、再びメンバーを集め、パリで演奏するまでを描いた作品。共に演奏していたメンバーも当然ブランクが相当あり、演奏もひどかったり、パスポートを偽造したり、パリで妙な商売を始めてしまったりと演奏外の部分の描写が多く、なかなか本筋に触れていかないのだが、アンヌ=マリーという存在がそれぞれのメンバーの芯となり、演奏を完結させていく。なんともまとまりの無い展開が続く事にもやもやするが、最後の演奏のシーンはとても感慨深いもので、その為の映画といっても過言ではないだろう。(男性 30代)
コメディ要素の強いヒューマンドラマでした。コメディとはいえ、自虐的な部分はどこかチャップリンを感じさせます。笑って良いのか躊躇することと思います。
音楽が好きな人間として、圧巻の演奏シーンは大いに楽しませて頂きました。そして予想外の涙が止まりませんでした。
最近は少し遠ざかっていたクラシック音楽をもう一度ゆっくり聴いてみたくなる、そんな良作でした。(女性 20代)
激動の時代の中で外されてしまった悲劇の天才が再び舞台に立つまでの物語。こう書くといかにも困難でシビアな物語のようだが実際は軽妙なコメディ映画。権力のせめぎあいの中で不遇をかこった芸術家は当地にはたくさんいるのだろうし、そのほとんどはこの映画のような日を迎えられない。そうした厳しい現実がありながらもこの映画が一服の清涼剤になればいいのかもしれない。最後の演奏は彼らよりもむしろ日の目を見ることができなかった同志たちへの弔いのようで涙する。(男性 30代)
落ちぶれた元指揮者の復活劇。
運命のイタズラか、主人公・アンドレイに再び指揮棒を振れるチャンスが舞い込んできた。ただ、演奏は2週間後、それまでに団員を集め、音合わせをしなくてはならない。しかし、集めた団員は個性豊かで勝手な者ばかり。おまけにパリへ行く飛行機代もない……様々なアクシデントに見舞われながらも、アンドレイたちは何とか公演を実現させる。
登場人物それぞれに個性があり、バラバラに見えるが、オーケストラとして心が一つになる瞬間は、感動せざるを得ない。(男性 40代)
笑って泣けるエンターテイメント作品でした。活躍の場を奪われてしまい、オーケストラの「清掃員」となった天才指揮者が再び夢の舞台に舞い戻るストーリー。
はちゃめちゃなコメディタッチのストーリーなので飽きること無く見られて、とても面白かったです。ツッコミどころは沢山ありますが、作品の雰囲気がとても柔らかく温かいので、小さい事を気にするのは「無粋」でしょう。
ラストのオーケストラの演奏シーンは鳥肌が立ちました。見て損は無い作品です。(女性 30代)
みんなの感想・レビュー
共産主義統制化の音楽活動も従順でなければ解雇される厳しい背景を取り入れるが、尚も音楽の素晴らしさを味わった芸術家が映画で再び蘇り、いつの時代の観客にも感動を与える作品であった。
軽く観ようと思った結果、とても楽しい映画であった。
ソ連時代にユダヤ人を助けたことで演奏中に解雇になった一流指揮者アンドレイが、30年の時を経て雪辱を果たそうとする。偽オーケストラ団を作るため、かつて同じように解雇された仲間たちのもとに訪れ、勧誘する。
設定こそハチャメチャで突っ込みどころ満載だが、そこが面白く、また仲間同士の絆や一生懸命練習する姿は胸を熱くさせる。
何と言っても、終盤の演奏シーンは物音を立てずに、呼吸さえも忘れ、聴き入って魅入ってしまうほどだ。セリフはなくとも、力強く美しい演奏は感動だ。
最後の演奏はこの団員の演奏では無いと思います。途中に音のギャップがありました。
ソリストもまるで違う音です。演奏は超一流の演奏です。フランスかドイツの楽団?では。ストーリーは笑えなくとも演奏は傾聴に値します。
練習風景が、とかパスポートが、とかこの映画のそこに真正面から突っ込みを入れる事こそが無粋である。
コメディーもあり感動もあり。それでいいじゃないか。
(というか冒頭のシーンやモップを片手に佇む主人公のパッケージだとかで既にコメディー臭はそれなりにする)
それに我々日本人には分からない人種による差別や争いを海外の人々は経験し、それをもってこの映画を見るだろう。
感じ方にはその差もあるのではないだろうか。
タイトル通り、パッケージ通り、オーケストラ演奏が見ものの作品だ。
30年振りにタクトを降ろうとする天才指揮者だが、何せ彼どころかソリストのマリー以外は全員ブランクありあり。
それなのにフランスに着いてから練習する様子も無く、どういうことなのだ。
このような作品は練習風景がある種メインになったりする。
そこでのやり取りがドラマを生み出し、仲間になり人生観を上手く表現していくのだ。
それなのに本作品はそれが全く出てこない。
ボロボロの状態で本番を迎えるのだ。
そりゃ、ひどい演奏で当たり前。
しかし演奏しているうちに徐々に波に乗りだし、昔を思い出し、1つにまとまっていく。
いやそれにしてもギャラももらっているわけだから、ベストコンディションで行こうよと思うところ。
偶然上手く行ったから良いものの、才能だけに頼るのはどうかと疑問を持つ最後の盛り上がりだった。
恐らく感動音楽ものを売りにしているのだろうが、あまりに突っ込み所満載過ぎるのもありコメディにしてくれた方が楽しく見られたのでは?と残念な気もする。
オーケストラなんて、いかにも音楽映画で素晴らしく感じそうな題材なのに練習風景も無く、偽造パスポートでフランス入りなんてあんまりだ。
最初からこれはコメディだといってもらった方が諦めもつくし、心の準備も出来る。
この作品ははっきりいってコメディ作品に限り無く近い。
本作品はパッケージからして良い映画に決まっているという先入観を植え付けられる作品だ。
さらに音楽映画であるし、ちょっと年老いた男性が指揮者だし、いかにも何かドラマがありそうな臭いがプンプンする。
だがしかし実際に鑑賞するとコメディに近いくらい突っ込み所満載だ。
練習風景も無いのも気になる。
だが敢えてそうしたのか、従来の音楽映画とは大胆に違うのである。
いつものを想像して見てしまうと面食らってしまうから要注意だ。