この記事では、映画『ファントム・スレッド』のあらすじをネタバレありの起承転結で解説しています。また、累計10,000本以上の映画を見てきた映画愛好家が、映画『ファントム・スレッド』を見た人におすすめの映画5選も紹介しています。
映画『ファントム・スレッド』の作品情報

上映時間:130分
ジャンル:サスペンス
監督:ポール・トーマス・アンダーソン
キャスト:ダニエル・デイ=ルイス、レスリー・マンヴィル、ヴィッキー・クリープス、カミーラ・ラザフォード etc
映画『ファントム・スレッド』の登場人物(キャスト)
- レイノルズ(ダニエル・デイ・ルイス)
- ドレスの仕立てに人生をかける男。自分のドレスのために、理想の身体を持つ女性を探し出し、モデルにしている。だが、体形が変わった場合、モデルは品物のようにすぐに捨てられた。ドレスのことだけを考えられるよう結婚はしないと決めていたが、アルマと出会ったことで、様々なことが変化していく。
- アルマ(ヴィッキー・クリープス)
- ウェイトレスをしていたところ、レイノルズに気に入られ、彼の工房でモデルとして働きだす。レイノルズの気難しさに最初は戸惑ったが、次第に彼に夢中になっていく。自分自身のやり方にこだわるところがあり、そういった部分はレイノルズと似ている。
映画『ファントム・スレッド』のネタバレあらすじ(起承転結)
映画『ファントム・スレッド』のあらすじ【起】
ドレス職人のレイノルズは、ドレスのことしか頭にない男だった。独身主義者のため、高齢となっても独り身を貫いていた。結婚しない理由は、余計な心配や、気づかいに思考を奪われ、ドレス作りに影響を出さないためだった。
レイノルズの仕立てるオートクチュールは、どれも一級品だった。完成まで時間もかかるが、顧客は皆、満足していた。顧客はもっぱら金持ちの婦人たちだった。
ドレスを仕立てるには、専用のモデルが必要だった。レイノルズが理想とするスタイルを持ったモデルだ。人型のマネキンではなく、生身の人間に着せなければ、細かい調整はできない。
今まで専属だったモデルは、体型が変わってきてしまい、使い物にならなくなった。レイノルズは新しいモデルを探さなくてはならなくなる。だが、ふらりと入ったレストランで、レイノルズはアルマというウェイトレスに目を奪われた。
アルマは決して美人とは言えない、控えめで純朴な顔立ちだったが、体型はレイノルズが理想とするものだった。彼女を自宅に招いたレイノルズは、アルマの身体を隅々まで採寸した。彼女の身体を気に入ったレイノルズは、自分の屋敷に住まわせ、昼夜を問わず、いつでもモデルができるよう、そばに置いた。

映画『ファントム・スレッド』のあらすじ【承】
今まで自分の容姿に自信がなかったアルマは、レイノルズの服を身に纏うことで、自信をつけていった。次第に、アルマは自分の意見を言うようになってくる。レイノルズに惹かれていたアルマは、彼を誘惑し、肉体関係を持った。それにより、ますます夢中になっていく。
だが、レイノルズはアルマ自身に興味があるわけではなかったし、性格もとても気難しかった。朝食は静かに過ごしたいと言い、パンにバターを塗る音でさえ不快感を露にした。レイノルズが愛しているのは、ドレス作り以外ないのだった。
愛するがゆえに、疲弊しきってしまうレイノルズ。品評会などの大きな仕事の後は、二、三日寝込んでしまうほど体力を消耗した。だが、アルマはその姿が好きだった。普段は気難しいが、この時ばかりは赤ん坊のように優しく、従順になるのが愛おしかった。
お得意様の夫人が結婚することになり、ドレスを仕立てる。だが、そのドレスはひどい扱われ方をされていた。アルマは、ドレスがかわいそうだと怒りを滲ませる。その姿に感化されたレイノルズは夫人の元へ行き、ドレスを引き剥がして持ち帰ってしまった。アルマの気持ちに嬉しくなり、思わずキスをしたレイノルズ。アルマは愛していると囁いた。だが、彼はその言葉には返事を返さなかった。
映画『ファントム・スレッド』のあらすじ【転】
ある時、アルマはレイノルズにサプライズを仕掛けたいと考える。レイノルズの姉シリルに相談すると、やめたほうがいいと忠告される。だが、自分のやり方で彼を愛したい、彼を知りたいと言い、どうしてもやりたいという。シリルの計らいで、二人だけのディナーがサプライズされることになった。
だが、結果はシリルの言った通りになってしまう。レイノルズはあからさまに不機嫌になり、アルマが作った料理にも満足していなかった。アルマの真意が分からず、苛立つレイノルズ。だが、気持ちが分からないのはアルマも同じだった。二人は口論になり、全てあなたのゲームのようで、うんざりだと叫んだ。レイノルズは、そんなに不快ならば元居た場所へ帰れと冷たく言い放った。
怒りに理性を亡くしたアルマは、森でひろった毒キノコを粉末にしてお茶に混ぜた。何も知らないレイノルズは、朝食でそのお茶を飲んでしまう。毒で体調を崩したレイノルズは何度も吐いて倒れこんでしまった。アルマは彼のそばを離れず、看病に勤しんだ。
翌日、元気を取り戻したレイノルズは、死を意識したことで人生が有限であることに気がつき、今まで多くのことを犠牲にしてきたと痛感する。彼は、アルマをそばに呼ぶとプロポーズした。アルマは喜んで申し出を受けた。
映画『ファントム・スレッド』の結末・ラスト(ネタバレ)
結婚は心から願ったものに違いなかったが、お互いに我慢しなくてはならないことも増え、続けていくには忍耐が必要だった。
大晦日の夜、アルマは舞踏会に行きたいと言いだす。レイノルズは家で仕事をすると告げたが、不満を溜めていたアルマは、勝手にドレスに着替えて出かけて行ってしまった。しばし考えたレイノルズは、仕方なく後を追いかけた。バカ騒ぎする会場からアルマを見つけ出すと、家へと引っ張っていった。
レイノルズは限界を感じていた。彼はシリルのところへ行くと、仕事に集中できない、全てはアルマのせいだと言った。この家に招き入れたのは失敗だった、今すぐ彼女にどこかへいってほしいと喚いたが、その言葉をアルマは後ろで静かに聞いていた。
アルマは森に毒キノコを採りに行った。その日のディナーで、アルマは毒キノコを大量に料理に混ぜ、レイノルズに差し出した。レイノルズは慎重に口に運んでいった。アルマは、あなたには弱々しく倒れこんでいてほしい。そして、それを私が介抱したいと呟いた。レイノルズは料理に毒が入っていることに気がついたが、それを飲み込んだ。そして言った。倒れこむ前に、キスさせてくれ、と。
レイノルズは毒でぐったりし、吐き気もすごかった。そんな彼を、アルマはとても嬉しそうに看病した。二人の関係は、とても歪んでおかしなものに見えるかもしれない。だが、二人の間には確かな愛があるようだった。レイノルズは苦しみの中にいたが、アルマに膝枕されたその顔は、幸福に満ちていた。
映画『ファントム・スレッド』の感想・評価・レビュー(ネタバレ)
男女の関係が逆転することは、恋愛を経験した全ての人が理解できるだろう。この作品では突飛な表現でそれが描かれているが、テーマは誰にでも理解でき、ごく身近なものだ。ある意味では、恋人同士や夫婦の関係というのは、どれも世界にひとつのオートクチュールと考えることもできる。作る者と着る者という関係性を当てはめてみても面白い。作中のふたりの着地点に驚く人もいるかもしれないが、この境地に辿り着けるのは、まさに似た者夫婦だからこそかもしれない。(MIHOシネマ編集部)
ドレスを仕立てる天才職人の男性が主人公です。彼の手掛けるドレスはイギリス貴族が袖を通す物で、映像から上流階級の雰囲気が漂ってきます。細かい部分まで丁寧にセットが施され、どのシーンを切り取ってもとても上品で絵になります。物語は男女の少し怖い愛情が描かれています。支配欲の強い主人公は女性も支配の対象でしたが、初めて愛を感じる女性と出会い惹かれていきます。ですが、二人の付き合い方は観ていて背徳感を感じるほど癖が強いです。依存的な愛とはこういうことなのか…(男性 20代)
静謐で美しく、そして狂気的な愛の物語。ダニエル・デイ=ルイス演じる仕立て屋レイノルズと、ヴィッキー・クリープス演じるアルマの関係は、最初は純愛のように見えて、やがて支配と依存の境界を曖昧にしていきます。毒を通してしか成り立たない奇妙な共依存関係には背筋が凍るほどのロマンがあります。音楽と衣装、すべてが完璧な美しさで構築された“愛の毒”の物語です。(30代 女性)
この映画は、愛と支配、そして創造の狂気を描いた極めて繊細な心理劇です。レイノルズがアルマに出会い、自分の完璧な世界が崩れていく様子が静かに、しかし確実に描かれていく。ラストで、彼が彼女の毒を“受け入れる”シーンには恐怖と安堵が同時に訪れました。愛とは互いに飲み込むことなのだと感じさせられる衝撃作です。(40代 男性)
映像の一つひとつが絵画のように美しい。ポール・トーマス・アンダーソンの演出の精度には圧倒されます。だが、その美しさの裏には恐ろしいほどの執着と支配が潜んでいる。特に、レイノルズが体調を崩していく中で、アルマが彼に毒を与え、彼がそれを受け入れる場面。あれは“真の愛の証明”なのか、それとも狂気なのか――観る者に試練を与える映画です。(20代 男性)
衣装映画としての美しさも特筆もの。ドレスの質感、仕立ての手さばき、布の音までもが物語の一部として機能しているのが素晴らしい。だがその完璧さの裏には、レイノルズの病的な潔癖とアルマの強烈な支配欲がある。愛と依存が交錯する関係性は不気味で、しかし目が離せない。毒と愛が同義語になる瞬間を見せつけられた気分です。(50代 女性)
愛を“戦い”として描いた異色のロマンス。レイノルズとアルマの関係は、支配する者と支配される者の立場が絶えず入れ替わり、観ているうちにどちらが主導しているのかわからなくなります。特に終盤、レイノルズが毒入りのオムレツを口にして笑うシーンは、恐ろしくも美しい。これは“愛の勝者”がいない映画だと感じました。(30代 男性)
最初はクラシカルな恋愛劇かと思っていたのに、途中からどんどん歪んだ心理戦に引き込まれました。アルマが単なるミューズではなく、レイノルズを支配する側に回る展開は見事。彼女が作る毒入り料理を、レイノルズが“愛の証”として受け入れるというラストの狂気が忘れられません。これほど美しくも恐ろしい愛の物語は他にない。(20代 女性)
映像・音楽・演技、そのすべてが完璧。ダニエル・デイ=ルイスの最後の出演作にふさわしい、究極の職人映画です。仕立て屋としての完璧主義と、愛に対する不器用さが同居していて、レイノルズという人物がまるで布のように繊細に編まれている。アルマとの関係は破滅的ですが、同時に救いでもある。人間の本質を突きつけるラストでした。(60代 男性)
『ファントム・スレッド』は恋愛映画というより、もはや“心理のホラー”。完璧主義者レイノルズの世界に侵入したアルマが、徐々に彼を蝕みながら支配していく過程がゾッとするほどリアルです。しかし奇妙なことに、そこには純粋な愛もある。毒を媒介にしてしか繋がれない二人の関係は、病的でありながら深くロマンチックです。(40代 女性)
映画『ファントム・スレッド』を見た人におすすめの映画5選
ゼア・ウィル・ビー・ブラッド
この映画を一言で表すと?
「野心と孤独に取り憑かれた男の、破滅的な成功譚。」
どんな話?
石油発掘で財を成した男・プレインビューが、成功と権力のために全てを犠牲にしていく物語。貧困から這い上がった彼の執念はやがて狂気へと変わり、息子との絆や信仰との対立を通じて人間の“欲望の果て”を描き出す。ポール・トーマス・アンダーソン監督の代表作。
ここがおすすめ!
『ファントム・スレッド』と同じ監督・主演コンビが放つ、圧倒的な映像と演技の競演。ダニエル・デイ=ルイスの演技はもはや神がかりで、孤高の天才が崩壊していく姿は芸術そのもの。欲望と孤独の関係を見事に描いた必見の傑作です。
レベッカ(1940)
この映画を一言で表すと?
「美しい屋敷に潜む、“見えない女”の亡霊に支配される愛のミステリー。」
どんな話?
若く純粋な女性が、富豪の夫マキシムと結婚し、彼の屋敷マンダレイで新たな生活を始める。しかし、前妻レベッカの影が屋敷中に漂い、次第に精神的に追い詰められていく――。ヒッチコック監督によるサスペンス・ロマンスの金字塔。
ここがおすすめ!
『ファントム・スレッド』と同じく、支配・愛・記憶が絡み合う独特の心理劇。静謐な映像と抑えた感情の表現が美しく、観る者をじわじわと不安にさせる。クラシカルな愛の狂気を味わいたい人におすすめ。
ブルー・ジャスミン
この映画を一言で表すと?
「崩壊と再生の狭間で揺れる、ひとりの女性の心の物語。」
どんな話?
上流社会の中で優雅な生活を送っていたジャスミン。しかし夫の裏切りによってすべてを失い、妹のもとで新しい人生をやり直そうとする。過去の栄光にしがみつく彼女の姿が痛々しくもリアルに描かれるヒューマンドラマ。
ここがおすすめ!
『ファントム・スレッド』のように、上流社会の優雅さの裏に潜む孤独と精神的崩壊を描いた作品。ケイト・ブランシェットの圧巻の演技は必見。美しさと脆さを併せ持つ女性像に心を掴まれます。
ブラック・スワン
この映画を一言で表すと?
「完璧を追い求めるがゆえに壊れていく、芸術家の狂気。」
どんな話?
バレエ団のプリマを目指すニナは、白鳥の湖の主役に抜擢される。しかし、完璧を追い求めるあまり精神を蝕まれ、現実と幻想の境界が崩れていく。美と狂気が渦巻く心理サスペンス。
ここがおすすめ!
『ファントム・スレッド』同様、芸術と狂気、支配と解放というテーマが共鳴。ナタリー・ポートマンの鬼気迫る演技が恐ろしいほど美しく、芸術に身を捧げる者の破滅的ロマンを感じさせます。
キャロル
この映画を一言で表すと?
「抑えきれない愛を静かに描く、気高くも繊細なラブストーリー。」
どんな話?
1950年代のアメリカ。若い女性テレーズは、デパートで出会った美しい人妻キャロルに心を奪われる。社会の偏見と家庭のしがらみの中で、二人は禁断の恋に落ちていく――。
ここがおすすめ!
『ファントム・スレッド』の繊細な空気感が好きな人にぴったり。美術、衣装、音楽すべてが完璧に調和し、女性同士の静かな情熱が美しく描かれます。抑制の中に燃える感情の表現が極上です。






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