映画『サタデーナイト・チャーチ 夢を歌う場所』の概要:自分のジェンダーに悩む少年が家族や周囲から責め苛まれる生活を送る中、セクシャルマイノリティーが多く集まる土曜教会という場所を知り、少しずつ前向きになっていく。寂しさを抱える家族が、ジェンダー問題をきっかけに再び結ばれる様子を描いている。
映画『サタデーナイト・チャーチ 夢を歌う場所』の作品情報
上映時間:82分
ジャンル:ヒューマンドラマ、ミュージカル
監督:デイモン・カーダシス
キャスト:ルカ・カイン、マーゴット・ビンガム、レジーナ・テイラー、マークィス・ロドリゲス etc
映画『サタデーナイト・チャーチ 夢を歌う場所』の登場人物(キャスト)
- ユリシーズ(ルカ・カイン)
- ゲイであることを自覚し、女性のように美しくなりたいと思っている。高校生で幼い弟がいる。父のことが大好きで、亡くなったことで寂しさを抱えている。切れ長の目と美しい顔立ちをしている。
- アマラ(マーゴット・ビンガム)
- ユリシーズの母親。夫を亡くし、2人の息子と生活を支えるため、昼と夜の仕事をしており、家にはあまりいない。2人の息子に愛情はあるものの、時間がないせいで親子関係はあまりよくない。
- ローズ(レジーナ・テイラー)
- ユリシーズの叔母。敬虔なクリスチャンで偏った考え方を持っており、ゲイであるユリシーズを躾け直そうとしている。支配的な面があり押し付けがましい。強気な態度であることが多い。
- レイモンド(マークィス・ロドリゲス)
- エボニーの友人でゲイ。絵描きを目指して日夜、作品の制作を行っている青年。初対面からユリシーズを気に入り、優しく受け入れてくれる。土曜教会の常連。
- エボニー(MJ・ロドリゲス)
- 黒人で長髪のトランスジェンダー。数々の恋愛遍歴を持っているが、どれも悲恋に終わっておりリーダー的存在。土曜教会の手伝いをしている。かつては体を売って生計を立てていたが、現在はやめている。ユリシーズを助け、温かい目で見守っている。
- ディジョン(インディア・ムーア)
- 黒人で黒髪の巻き毛をしたトランスジェンダー。若いものの、やむを得ず体を売って生計を立てている。可愛らしく素直で、ユリシーズにメイクを教える。
- ヘヴン(アレクシア・ガルシア)
- 金髪のトランスジェンダー。いつもディジョンと一緒にいて、口喧嘩も多い。口が悪く当たりがきついが、不器用な優しさを持っている。
映画『サタデーナイト・チャーチ 夢を歌う場所』のネタバレあらすじ(ストーリー解説)
映画『サタデーナイト・チャーチ 夢を歌う場所』のあらすじ【起】
軍人だった父親が亡くなり、母アマラと幼い弟の3人家族となってしまったユリシーズ。アマラは生活を維持するため、昼も夜も仕事をすることになり子供達の世話や家のことは、叔母のローズが手伝いに来てくれることになった。
ニューヨーク、ブロンクスの高校に通うユリシーズは、人には言えない悩みを抱えていた。彼は男性にしか興味がなく密かに女性のように美しくなりたいと望み、女性物の衣類や化粧品に強い憧れを抱いていたのだ。家族は薄々感づいているようだが、面と向かって指摘せず嫌悪感を顕わにするだけだった。
ローズは敬虔なクリスチャンで、よくユリシーズと幼い弟をミサに連れて行く。叔母もまたユリシーズの願望に気付いており、ミサに連れて行くことで彼を躾け直そうとしている。
家族が気付いている性質を学校の生徒が気付かないはずがなく、ユリシーズは学校でもクラスメイトに嫌がらせを受けていた。本当の自分を認めて受け入れてくれない苦しさに、ユリシーズは今にも押し潰されそうだった。
学校では嫌がらせをされ、弟には避けられローズには男であることを求められ、厳しく叱られる。アマラは仕事で忙しく家にあまりいない。誰もユリシーズに味方する者はおらず、不満や抑圧された思いを吐き出す場所もない。彼は土曜日の休日に1人で街をふらつき、思い切ってトランスジェンダーが集まる公園へと足を向けた。
映画『サタデーナイト・チャーチ 夢を歌う場所』のあらすじ【承】
川面が眺められる公園には、多くのトランスジェンダーが集まる。彼らの様子を眺めていたユリシーズは、リーダー的存在のエボニーに声をかけられるのだった。エボニーは土曜教会という場所があることを教え、ユリシーズを連れて行ってくれる。
土曜教会は土曜日にしか開かない。エボニーは毎週、この教会の手伝いをしていて、食事やトランスジェンダー、LGBTQの息抜きの場となっている。主宰者もトランスジェンダーで歳を経た女性だった。中へ入るには氏名の記入が必要だったが、同じ悩みを持つ者同士で気楽な雰囲気である。ユリシーズはエボニーの仲間であるディジョン、ヘヴン、レイモンドとテーブルを囲んだ。レイモンドはゲイのようで、ユリシーズに気がある様子。彼らの話を聞いているだけでも楽しかった。
翌週の土曜日も土曜教会へ行ったユリシーズ。先週と同じメンバーが集まって他愛無い話で盛り上がる。ディジョンの言葉がきっかけで、メイクを体験することになったユリシーズはリップグロスを塗ってもらう。
更に翌週の土曜日。レイモンドからヴォーグ・ナイトへと誘われる。通称舞踏会と呼ばれるショーだ。エボニーはユリシーズを温かい目で見守り、レイモンドと付き合ってはどうかと勧める。そこで、ユリシーズはエボニーに恋愛のことについて聞いてみた。彼女は長く付き合えた相手はいないと言い、愛とは終わりのないキスのようだと例えるのであった。
弟は家にあまりいないアマラよりもローズへと傾倒しているようだ。アマラは普段、子供達と接する時間が少ないため、少しでも会話の機会を増やそうとしている。ユリシーズはあまりアマラと話しをしないが、この時ばかりは母として頑張りが足りないと思わず口答えしてしまい、アマラにビンタされてしまう。誰もが父を失い寂しさを抱える中、家族は隙間風だらけでぎすぎすとしていた。
映画『サタデーナイト・チャーチ 夢を歌う場所』のあらすじ【転】
楽しみにしていたヴォーグ・ナイトへやって来たユリシーズ。ショーでダンスや美しさを競う人々は誰もが楽しげで堂々としていた。次のヴォーグ・ナイトにユリシーズも出場しないかとエボニーに言われ、張り切って頷く。その後、エボニーたちとは別れレイモンドと駅への道を歩く。良い雰囲気となったユリシーズは初めてレイモンドと口づけを交わし、高揚した気分で帰った。
ショーに出場するには衣装を用意し、仕草やダンスに歩き方を練習しなければならない。土曜教会で過ごすことで勇気を得たユリシーズは、日常を過ごしつつダンスの練習をしてハイヒールを購入。密かにメイクの練習も行った。
そうして、土曜日。気張って購入した靴を履いてウォーキングの練習。元々、顔立ちも良く美少年であったユリシーズの美しさは次第に目立ち始める。ディジョンもヘヴンも生計を立てるために体を売っていたが、ヘヴンは口が悪くユリシーズへの当たりもきつかった。だが、彼女なりにユリシーズを気にしているらしく、時に優しさを見せることもあるのだった。
ユリシーズはレイモンドと距離を縮め、口づけを交わし合う仲に。恋心は募り互いへの思いを確かめ合ったが、まだ体の関係には至らなかった。
一方で家族関係は悪化の一途を辿っている。そんなある日、ユリシーズの部屋でローズがハイヒールを発見してしまう。ローズは激高し抵抗を示すユリシーズに何度も手を上げたが、強権的なローズに従う義理もない。ユリシーズは彼女の支配から逃れ家を飛び出してしまった。
土曜教会は土曜日にしか開かず、いつもの公園にエボニーたちがいるはずもない。ユリシーズは宛てもなく日が暮れる街を歩き続けた。辺りが暗くなった頃、雨が降り出したため、一先ずその夜はホームレスの保護施設へ飛び込む。
その頃、帰宅したアマラはユリシーズが家を飛び出して帰っていないことを知り警察へ。外は土砂降りで捜索願を出そうとしたが、家出なら数日で戻るはずだと警察は取り合ってくれなかった。
映画『サタデーナイト・チャーチ 夢を歌う場所』の結末・ラスト(ネタバレ)
薄着のまま飛び出したため、何も持っていないユリシーズは、全てのしがらみから解放された気分で、これからは1人で自由に生きていこうと考える。ところが、現実はそう甘いものではなく、頼れる人もおらず雨に打たれたことで体調も悪化。公園には誰も集まらず、2日目はベンチで横になった。
3日目。食べる物もなく体調も悪く歩く気力も失ったユリシーズは、たまたま犬の散歩で通りかかった男から声をかけられる。アジア系の男は紳士的で家に招き食事も与えてくれたが、当然無償のはずがなく。男はユリシーズに金を渡し、身体での奉仕を求めた。ユリシーズは諦めて金を受け取り、男に体をいいようにされてしまうのであった。
身も心もぼろぼろになったユリシーズは、夜の街をふらつきながら歩き教会の階段で夜を過ごす。その日は待ち待った土曜日で、夜まで時間を過ごしようやく土曜教会へ向かった。一変した様子のユリシーズに誰もが眉を顰める。ひとまずは主宰者から衣類をもらう。何があったかは一目瞭然でエボニーやディジョン、ヘヴンは誰でも通る道だと励まし、家に来てもいいと言ってくれたが、悲愴な様子のユリシーズは母に会いたいと呟く。
やむを得ず体を売る者は多く、誰もが心に傷を負い生きにくい世を生きている。その夜はエボニーが付き添い、ユリシーズは家へ帰った。
アマラはローズの仕打ちをきつく咎め、あれから警察へ何度も通い息子の行方を捜していた。だが、ローズはユリシーズを悪だと決めつける。アマラはローズと口論を展開し、息子を守った。エボニーはユリシーズを思いやり言葉をかけたが、アマラも息子のジェンダーを受け入れ抱き締めてくれるのだった。
このことをきっかけにアマラは自分の行いを考え直し、息子達には愛情と時間が不足していたことに気付く。アマラはどんなユリシーズでも息子であることに変わりなく、心から愛しているのだと告げた。
そうして、待ちに待ったヴォーグ・ナイト。ユリシーズは存分に着飾り、晴れの舞台で堂々とポーズを決めるのであった。
映画『サタデーナイト・チャーチ 夢を歌う場所』の感想・評価・レビュー
デイモン・カーダシス監督・脚本の初長編映画。監督の母親が聖公会の司祭であったことから、監督自身もボランティア活動を行い今作の制作のきっかけを得ている。実際に土曜の夜に教会を解放して行うサタデー・チャーチというプログラムがあり、路上生活者や貧困に喘ぐ若者、LGBTに属する者たちが参加していたと言う。監督は実際に彼らと触れ合い詳細なサーチを行って今作の構築をしたらしい。
まず、主人公役を演じたルカ・カインが美少年で彼の演技に心を打たれる。更にクリスチャンの叔母が偏った思想を押し付け心を抉る。彼女のように強い人々もいるが、弟の態度も地味に辛い。母親が拒絶的ではないのが救いだが、いかんせん仕事でいつも家にいない。休まる場所がないのが一番、辛いと思う。エボニーの歌が切なく、印象に強く残った。広い世代の人々に観て欲しい作品。(MIHOシネマ編集部)
LGBTの人たちのために、土曜の夜に教会を解放する「サタデーナイト・チャーチ」をテーマに様々な人間ドラマが描かれた今作。LGBTというワードも少しずつ広まり、認知度も高まってきたように思いますが、それを理解できるか、受け止められるかは家族間でも時間のかかることなのだなと感じました。
歌って踊ってのミュージカル調で描かれているので、重苦しい雰囲気はありませんでしたが、ストーリーは色々なことを考えさせられる複雑なものでした。(女性 30代)
みんなの感想・レビュー