映画『幸せなひとりぼっち』の概要:最愛の妻に先立たれた59歳のオーヴェは、人生に絶望し、何度も自殺を試みる。しかし、彼を必要とする人たちにいつも邪魔され、なかなか死ねないのだった。スウェーデン発の心温まるヒューマンドラマ。人物描写が丁寧で、じわじわと胸に染み入る秀作。
映画『幸せなひとりぼっち』の作品情報
上映時間:116分
ジャンル:ヒューマンドラマ、コメディ
監督:ハンネス・ホルム
キャスト:ロルフ・ラッスゴード、イーダ・エングヴォル、バハール・パルス etc
映画『幸せなひとりぼっち』の登場人物(キャスト)
- オーヴェ(現在:ロルフ・ラスゴード / 青年期:フィリップ・バーグ)
- スウェーデン郊外の庶民的な町で暮らす59歳の男性。最愛の妻に先立たれ、43年間勤めてきた鉄道会社もクビになり、自殺を決意する。毎朝自主的に見回りをして、町の秩序を守っている。怒りっぽい性格なので、周囲からは変人扱いされている。
- ソーニャ(イーダ・エングヴォル)
- オーヴェの妻。容姿も人柄も申し分のない女性。車椅子生活をしながら特別学級の教師として働き、半年前にガンで亡くなった。
- パルヴァネ(バハー・パール)
- オーヴェの家の向かいに引っ越してきたペルシャ人。夫と2人の幼い娘がおり、3人目を妊娠中。明るく前向きな女性で、オーヴェの頑なな心を和らげていく。
映画『幸せなひとりぼっち』のネタバレあらすじ(ストーリー解説)
映画『幸せなひとりぼっち』のあらすじ【起】
スウェーデンの小さな町で暮らすオーヴェは、半年前に最愛の妻ソーニャに先立たれ、寂しい日々を送っていた。彼は毎朝自主的に町を見回り、町の安全と秩序を守っている。しかし、気が短いので誤解されやすく、近所の人からは変人扱いされていた。
59歳になるオーヴェは、43年間、鉄道局の職員としてまじめに働いてきた。しかし、退職を待たずしてリストラの対象にされてしまい、会社をクビになってしまう。
人生に絶望したオーヴェは、ソーニャが死んでからずっと考えていた自殺を決行する。天井のフックにロープをかけ、まさに首を吊ろうとした時、家の前が騒がしくなる。向かいに引っ越してきたペルシャ人一家の車が、うまくバックできなくて困っていた。オーヴェは自殺を中断し、運転を代わってやる。その一家は、妊娠中のパルヴァネという元気な母親とその夫のパトリック、そして幼い姉妹のいる4人家族だった。
翌朝、オーヴェはいつものように見回りに出て、パルヴァネ一家のトレーラーに「駐車禁止」のメモを残す。家の前の道は、車の通行が禁止されていた。しかし、ルネの家に通っている介護施設の職員は、何度言っても車での通行をやめない。その男は、タバコのポイ捨てまでしていた。
オーヴェは毎日ソーニャの墓へ出かけ、彼女に話しかけていた。ソーニャが死んでから、腹の立つことばかりで、オーヴェは愚痴をこぼし続ける。
オーヴェが再び首を吊ろうとしていると、玄関の呼び鈴が鳴る。それがあまりにしつこいので、オーヴェは仕方なくドアを開ける。外にはパルヴァネ一家がいて、昨日のお礼にとペルシャ料理を持ってきてくれた。オーヴェは迷惑だったが、一応受け取っておく。
映画『幸せなひとりぼっち』のあらすじ【承】
今度こそ本当に首を吊ったオーヴェは、薄れゆく意識の中で、昔のことを思い出す。
オーヴェの母親は、彼が7歳の時に亡くなった。まじめで無口な父親とオーヴェは、静かに母親の死を悲しむ。
鉄道局で働いていた父親は、車いじりと家の修理が大好きで、オーヴェに車の構造を教えてくれた。父親はお人好しの正直者で、オーヴェはそんな父親が大好きだった。しかし父親は、オーヴェが16歳の時、車庫に入ってきた電車に轢かれて亡くなってしまう。
天井から吊るしたロープが切れ、オーヴェは意識を取り戻す。死ねなかったオーヴェは、パルヴァネの作ったペルシャ料理を食べる。彼女の料理は、とてもおいしかった。
オーヴェは、体が不自由になっているルネの家へ行き、ホースを返してもらう。ついでに奥さんのアニタから頼まれていたヒーターの修理をする。オーヴェとルネは親友だったが、小さな行き違いから仲がこじれ、長い間疎遠になっていた。オーヴェはルネに“この世とお別れする”と打ち明ける。するとルネは、オーヴェの持ったホースを引っ張る。ルネは話せないだけで、こちらの話は分かっているようだった。
映画『幸せなひとりぼっち』のあらすじ【転】
オーヴェは車の排気口にホースをつなぎ、一酸化炭素中毒死を試みる。薄れていく意識の中で、オーヴェはまた昔のことを思い出す。
父親が亡くなった後、オーヴェは父親と同じ鉄道局に就職する。ある晩、隣の家が火事になり、オーヴェは室内に取り残されていた老人と子供を助ける。その間に、オーヴェの家も燃え始める。役所の人間は“解体予定の家だから”と言って、消火作業を中止させる。
家を失ったオーヴェは、車庫に停車中の電車で眠る。翌日、目覚めた時には電車が走り出しており、目の前には美しい女性が座っていた。それがソーニャとの出会いだった。ソーニャは笑顔でオーヴェの切符代を払ってくれる。
次の日からオーヴェは毎朝同じ電車に乗り、ソーニャを捜す。そして3週間後、ついにソーニャと再会する。オーヴェは彼女に“軍隊にいる”と嘘をつき、お金を返そうとする。しかし彼女は、“お金よりもレストランで食事をしたい”と申し出る。
高級レストランで、オーヴェはスープだけを注文する。ソーニャに理由を聞かれ、オーヴェは“君が好きなものを注文できるように食事を済ませてきた”と答える。オーヴェは正直に、自分は列車の清掃係で、家も焼けて貧乏であることを告白する。するとソーニャは、いきなりオーヴェに熱烈なキスをする。彼女はオーヴェの誠実な人柄を愛してくれた。2年後、オーヴェはソーニャにプロポーズし、2人はめでたく結婚する。
そこでオーヴェの意識が戻る。ちょうどパルヴァネがやってきて、パトリックがハシゴから落ちて病院へ運ばれたので、車で送って欲しいと頼みにくる。彼女は免許を持っていなかった。病院でオーヴェは姉妹の世話を頼まれ、絵本を読んでやる。姉妹はオーヴェに懐いてくれた。
なかなか死ねないオーヴェは、電車に飛び込もうと駅のホームに立つ。ところが、隣の男性が倒れてホームに転落してしまい、オーヴェは彼を助ける。オーヴェはやはり死ねなかった。
パルヴァネ一家が引っ越してきてから、オーヴェの生活が少しずつ変わり始める。オーヴェは彼女に車の運転を教えてやり、怪我をした野良猫まで飼い始める。オーヴェは口が悪く怒りっぽいので誤解されやすいが、とても心の優しい男だった。
オーヴェはパルヴァネをソーニャのお気に入りだった店へ連れていき、ルネとのことを話す。オーヴェとルネは似た者同士で、理想も一緒だった。オーヴェは初代地区会長となり、ルネは副会長になる。そして2人は、協力して理想の町を作っていく。
ところが、車の趣味の違いという些細な相違点が発端となり、2人はだんだん疎遠になる。後にルネが地区会長に立候補して当選したことで、2人は完全に決裂する。
パルヴァネはオーヴェになぜ子供がいないのかを聞いてみるが、オーヴェは何も答えなかった。
映画『幸せなひとりぼっち』の結末・ラスト(ネタバレ)
オーヴェは姉妹とすっかり仲良くなり、猫も可愛がる。ソーニャの教え子だったという若者のために、自転車の修理もしてやる。そんなオーヴェを、地元紙の女性記者が訪ねてくる。彼女はオーヴェが駅のホームで人を助けた現場にいて、それを記事にしたがっていた。しかしオーヴェは、それを断る。
パルヴァネは明るくなったオーヴェに、一緒にソーニャのものを整理しようと言ってみる。彼女はオーヴェに前へ進んで欲しかった。しかしオーヴェは怒り出し、“ソーニャ以外の人間はどうでもいい”と言ってしまう。
ちょうど通行禁止の道を介護施設の男の車が走っており、オーヴェは車の前に飛び出す。介護職員の男は、オーヴェのことをいろいろと調べており、ソーニャのことやオーヴェの病気のことまで知っていた。オーヴェは深く傷つき、その夜再び自殺を図ろうとする。しかし、ソーニャの教え子の若者とゲイの友達が家を訪ねてきて、ゲイの若者を家に泊めることになってしまう。
翌日、いつものように見回りに出たオーヴェの後を、ゲイの若者や近所の青年、そして猫がついてくる。近所の青年は、明日ルネが施設に連れて行かれるのだと話す。アニタはそれを望まず、3年も抵抗を続けていた。何も知らなかったオーヴェは、2人のために動き出す。
しかしオーヴェは、役所に文句を言うことぐらいしかできない。パルヴァネは、人を頼ろうとしないオーヴェの頑固さに腹を立てていた。パルヴァネに厳しく叱られ、オーヴェは初めてソーニャのことを語り始める。
待望の赤ちゃんを身ごもったソーニャは、赤ん坊が生まれる前にスペインへ旅行に行きたいと言い出す。2人はスペインで楽しい時間を過ごすが、帰り道でバスが崖下に転落し、ソーニャは意識不明の重体となってしまう。
ソーニャは一命を取り留めたが、お腹の赤ちゃんを失ってしまう。ソーニャは悲しみを乗り越え、車椅子生活を送りながら教師の資格を取る。しかしどこの学校でも車椅子の教師は採用してくれない。政府や役所は何もしてくれず、オーヴェは自力で学校にスロープをつけ、ソーニャを援護する。そのおかげで、彼女は特別学級の教師になり、問題を抱えた子供たちのために戦い、愛された。そして半年前、ガンで亡くなっていた。
翌日。ルネの家にやってきた介護施設の職員は、あの女性記者に不正な所得隠しを暴かれ、“編集長に話してもいいか”と脅される。家の前には、オーヴェやパルヴァネ、そして町の住民たちが集まっていた。男は、尻尾を巻いて帰っていく。
その帰り、オーヴェが心臓発作を起こして救急車で運ばれる。オーヴェの心臓は大きすぎるが、命に別条はないという医師の説明を聞き、パルヴァネは“死ぬのが下手ね”と言って笑い出す。そしてそのまま産気づき、赤ちゃんを出産する。
オーヴェはパルヴァネの赤ちゃんに、昔我が子のために作ったゆりかごをプレゼントする。パルヴァネの赤ちゃんを抱いたオーヴェは、優しいおじいちゃんの顔になっていた。
冬のある朝。目を覚ましたパルヴァネは、8時を過ぎているのにオーヴェが雪かきをしていないのに気づく。夫婦が急いで寝室に駆けつけると、冷たくなったオーヴェの上で猫が寝ていた。オーヴェは自分の寿命を悟り、きちんと遺言を残していた。
オーヴェの葬儀には多くの住民が集まる。彼は偏屈だったが、みんなから愛されていた。そしてオーヴェは、あちらの世界で、愛するソーニャと再会する。
映画『幸せなひとりぼっち』の感想・評価・レビュー
映画の冒頭で頑固で怒りっぽい性格のオーヴェに最悪な印象を抱いたはずだったのに、映画を観終わる頃には彼のことが好きになりました。実は誰よりも人に優しく、誠実で、でも不器用だから誤解されやすい。そんな彼の周りは羨ましくなるほどに優しい人ばかりで、でも実はオーヴェ自身の隠された優しさに引き寄せられて集まってきたのかなと感じました。
最初の厳しそうな表情が、話が進んでいくにつれて穏やかな表情になっていく感じがとてもよかったです。(女性 20代)
この映画を観終われば主人公オーヴェを愛さずにはいられないだろう。愛すべきオーヴェ。頑固で不愛想で不器用。そんなオーヴェの過去や背景を観れば、誰でも彼のことが好きになるに違いない。そして、なんて美しい映画なのかと感動の涙を流すはずだ。私も最後には涙が止まらなかった。
50代後半の男性の物語は受け入れにくいかもしれないが、ぜひ多くの人に観てもらい、オーヴェを知ってほしい。彼自身や彼の人生から多くのことが学べるはずだ。
この映画は人生の教科書だ。(女性 20代)
人の本質というのは、周りの人が示してくれると学べる映画だ。オーヴェは一見、頑固で怒りっぽいように見えるが。心を開くのに時間がかかるだけだ。しかし、彼の周りには寄ってくる人たちがたくさんいる。それは、彼の本当に優しい部分に気付いて彼を好きになったからであろう。映画が進むにつれて、彼の優しさゆえの強さを知って、最後にはとても好きになっていた。
『今を必死に生きるのよ』という亡き妻ソーニャの言葉。何度も自殺を試みたオーヴェにいつも“邪魔”が入ったのは、ソーニャがその言葉通り今を生きてほしいと伝えていたからだろう。(女性 20代)
オーヴェという一人の男の人生から、いまを生きることの大切さを描いた作品。
初めはただの頑固おやじにしか見えないオーヴェだが、その内側には思いやりと優しさがあり、厳しくも芯の通った人間だということが次第に分かってくる。
その背景には、いくつもの悲しい過去があった。報われないこともあるが、それを乗り越えて人は強くなれる。彼の生き方から、たくさんの希望をもらえるのだ。
誰もが経験する辛い別れ。その度に絶望するし、生きることを諦めたくなることもある。でも、いまを強く生きていれば、きっとまた喜びや楽しみを誰かと分かち合えるはずだ。(女性 30代)
「近所に住む頑固者」、どの世界にも地域にも存在するであろう人物とその周りの人々を描いた作品。知らない人から見たら、決して好かれるタイプではないオーヴェだが、彼の心の中に存在する優しさや孤独、彼の本質を理解しているからこそ、隣人たちは彼を頼り、会話をする。その姿がとても優しい気持ちにさせた。
しかし、両親や妻など一番身近な人が隣にいないということ。命を絶つ決心をするほどオーヴェが感じてきた寂しさは計り知れない。だからこそ、彼がたくさんの人に囲まれ送られた最後のシーンは本当に温かく、とても幸せな気持ちになった。(女性 30代)
本作は、愛妻を失い人生に絶望していた老人が、隣人一家との交流を通して徐々に心が回復していく姿を描いたコメディーヒューマンドラマ作品。
主人公は身近な人々を次々と亡くしひとりぼっちになってしまい、辛いことの連続でついに自殺を試みようとするも、引っ越してきた隣人のおかげで断念する。
他界した奥さんとのラブストーリーに涙が止まらなかった。
心の通った人がいることのありがたみや、人はお互いに助け合って生きているということを改めて教えてくれて、心に沁みる作品。(女性 20代)
妻に先立たれ、会社はクビになり、まさしく人生どん底なオーヴェ。彼の過去が描かれていたことで、物語に深みが出て感情移入がしやすかった。オーヴェは怒りっぽい男ではあるが、車椅子となった亡き妻のことを支えていたり、困っている人を放っておけなかったり、優しい人柄なのが伝わってくる。だからこそ、近所の人ときちんと関係を築くことができたのだと思う。クスっと笑えるシーン、泣けるシーン、心温まるシーン、色んな要素がぎゅっと詰まっている作品だった。(女性 30代)
はじめはオーヴェのことを偏屈で嫌な老人だと思っていましたが、そのうち彼の憎めない不器用さに笑ってしまいました。何度も自殺を試みるも上手くいかず、ルールを守らない人間に怒鳴り散らしても、困っている姿を見ると放ってはおけない。生真面目で怒ってばかりなのに、隣人たちや野良猫までもが彼を頼り、慕っていく様子が微笑ましく、心が温かくなりました。
亡くなった奥さんとの過去はとても悲しいものでしたが、素敵な女性と結婚し、周りの人に愛される人生を送れたのはオーヴェが優しい心の持ち主だったからでしょう。幸せな気持ちになれる作品でした。(女性 40代)
最初の自殺未遂からグッと物語に引き込まれた。
主人公オーヴェを演じた俳優さんの、いかにもな頑固おやじの演技が上手すぎて、よりリアルで感情移入しやすかった。
オーヴェの人生があまりに悲劇の連続なので、回想シーンは見ていて辛かったが、ソーニャとの出会いや彼女との日々はとても素敵だったし、父親との不器用だが愛のある日々も良かった。そして、現代パートでは隣人のパルヴァネを筆頭に心温まる人々との関わりがたくさんあるので、全体的にはとても観やすかった。
死という逃れられない運命は同じでも、最後までどう生きるか、どう考えるかで世界はここまで変わるのだと改めて思わされた。(女性 30代)
みんなの感想・レビュー
スウェーデン発のちょっと心温まる良作。主人公は頑固で偏屈だが実はどこか温かいという、作中にも登場するスウェーデン車ボルボそのもののイメージなのが面白い。この映画がありがちな「人生って素晴らしい話」で終わらないのは、この主人公のちょっと硬質なキャラクターによるものだろう。
人生後半になっていくつかの悲しい出来事があって心を閉ざしてしまった人でも、ふとした出会いやきっかけで変わっていけるのは素敵なことだと思った。
見終わった時にはオーヴェのことが大好きになる今作。私の祖父はオーヴェほどでは無いものの、とっても頑固で寡黙な人です。特にオーヴェが自主的に地域を見回っている姿は同じようなことをしている祖父の姿を重ね合わせて鑑賞してしまいました。
自殺するということは、自分の命を自ら経ってしまうということ。切なく悲しい行動ですが、自殺するのには理由があってそれを「しない」のも大きな決断なのだと感じます。
オーヴェの周りの人達がとても優しくて心温まる作品でした。