映画『サウルの息子』の概要:ナチス政権下、強制収容所で働かされているゾンダーコマンド(特殊部隊)の視点から描く心理サスペンス。主人公の顔にフォーカスし、周囲をぼかすことで、よりリアルで凄惨な戦争の真実を観る者に訴えかけている。第68回カンヌ国際映画祭グランプリ受賞作品。
映画『サウルの息子』の作品情報
上映時間:107分
ジャンル:戦争、ヒューマンドラマ、サスペンス
監督:ネメシュ・ラースロー
キャスト:ルーリグ・ゲーザ、モルナール・レヴェンテ、ユルス・レチン、トッド・シャルモン etc
映画『サウルの息子』の登場人物(キャスト)
- サウル(ルーリグ・ゲーザ)
- 強制収容所で働くゾンダーコマンド。死体処理などを請け負う代わりに処刑を免れている。ある日ガス室の死体の山から息子の遺体を発見し、彼を埋葬するため奔走する。
- アブラハム(モルナール・レヴェンテ)
- サウルと共にゾンダーコマンドとして働いている。ドイツ軍相手に反乱を起こそうと企んでいる。
- 顎鬚の男(トッド・シャルモン)
- 収容所へ移送されてきたラビ(ユダヤ教指導者)。サウルに命を救われ、息子を埋葬するために力を貸す。
- 医者(ジョーテール・シャーンドル)
- 死体の解剖医。サウルの息子を解剖しようとするが、懇願するサウルの姿を見て少しだけ猶予を与える。
映画『サウルの息子』のネタバレあらすじ(ストーリー解説)
映画『サウルの息子』のあらすじ【起】
ナチス政権下の強制収容所には、ゾンダーコマンドと呼ばれる囚人たちがいた。彼らは同胞たちの死体処理を請け負う代わりに、わずかながら刑期を免れていた。サウルもその一人で、来る日も来る日も、ガス室に積み重なった同胞の死体を黙々と処理し続けている。
そんなある日、死体の山からまだ微かに息の残る少年を見つける。少年は間もなく医師の手によって息を引き取るが、サウルはその少年の遺体を見つめ続ける。その少年こそ”サウルの息子”だった。
遺体は解剖されたうえ焼却処分されてしまう運命にある。どうにかして遺体を自分の手で埋葬してやりたいサウルは医師に懇願する。見かねた医師はサウルに「今日の夜に5分だけ時間をやる」と告げ去っていった。
葬儀にはユダヤ教の指導者であるラビの存在が不可欠である。サウルは同胞たちの中にラビはいないか、収容所内を探し回ることにした。やがて「顔に二つの傷がある男が元ラビだ」という情報を手に入れたサウルは、彼を見つけるため奔走する。
映画『サウルの息子』のあらすじ【承】
元ラビの男は収容所外の勤務であるため、ガス室の担当であるサウルはうかつに近づけない。そこで彼は同僚のアブラハムらに協力を仰ぐ。彼らは遺体の衣服から金品を取り、それを武器に代え蜂起しようと企てていた。彼らに力を貸すふりをしてサウルは外へ出ることに成功する。
死体の灰を川に流す役目を担ったサウルは、そこで顔に二つの傷がある男を見つける。男に近寄り「息子のために葬儀を手伝ってほしい」と頼むが、男は話を聞こうとしない。苛立ったサウルは男の持つスコップを川に放り投げる。それを拾いに行った男が溺れたことで騒ぎになり、男は処刑され、サウルは元いた場所へ連れ戻されてしまう。
収容所内に戻ったサウルは息子の遺体が無くなっていることに気が付く。慌てて医師に詰め寄るサウル。医師は「遺体は私が保管している」と告げる。息子の遺体を隠しておけるのも時間の問題だと悟ったサウルは、金品を武器と交換してもらいに行く役目を担う。
映画『サウルの息子』のあらすじ【転】
内通者はサウルの知人女性エラだった。同じく収容所内で働かされているエラの元へ行くサウル。エラから火薬を受け取ったサウルだったが、手を握ろうとしたエラを避け去っていく。
一方、ゾンダーコマンドたちの間である噂が流れ始める。労働をさせられる代わりに刑を免れていると思っていた自分たちも、実は少しずつ処刑されているのでは?というものだった。囚人たちの間に不安が募っていく。
ガス室に移送者たちが入りきらなくなったことにより、ドイツ軍は銃殺刑も施行し始めた。外に全裸で並べられている彼らの中から、サウルはラビだと名乗る男を見つける。彼を連れて収容所へ向かうサウルだったが、混乱の最中に火薬を落としてしまう。
同胞たちの怒りを買うサウル。仲間の一人に「お前に息子なんていない」と言われるも、彼は頑として「俺の息子だ」と主張し続ける。
やがてドイツ軍によって部屋に集められるサウルたち。部屋に散らばった衣服の中に同僚のものを見つけ、いよいよ自分たちの番がきたのだと悟る囚人たち。そのとき、外で爆音がした。
映画『サウルの息子』の結末・ラスト(ネタバレ)
外の爆撃を合図に囚人たちは一斉に蜂起する。銃弾が飛び交う戦場の中をラビと息子の遺体を連れ逃げ回るサウル。運良く森の中まで辿り着き、手近な土を掘り返すサウル。ラビの男に「どうか息子のために祈ってくれ」と言うが、男は祈りの言葉を知らなかった。助かりたい一心で、彼を騙していたのだった。男はサウルを置いて逃げ出す。尚も懸命に土を掘り返すサウルだったが、遠方から多くの足音が聞こえてきたため、遺体を担ぎ再び走り出す。
遂に逃げ場をなくしたサウルは川に飛び込む。随分と流れの急な川だったため、遺体は彼の手を離れ、はるか遠くへと流れていってしまう。同胞に救出され、彼らと行動を共にするサウルだが、その顔には既に一切の生気が宿っていない。
やがて小さな山小屋を発見し、そこに身を寄せあう囚人たち。失意のままうな垂れるサウルだったが、ふと顔を上げると一人の少年と目が合う。おそらく付近の村の住人で、たまたま森の中で遊んでいたところ、彼らと出くわしたのだろう。その目には怯えが滲んでいる。
サウルは少年へ微笑みかける。自らの息子に向けるように。
視線を受けた少年は逃げ出す。少年は途中でドイツ兵の群れとぶつかる。ドイツ兵たちはサウルのいる小屋へ向かっていく。少年は再び走り出す。その背中には死んでいった多くの囚人たちの希望が託されている。
映画『サウルの息子』の感想・評価・レビュー
ハンガリーの映画で、ユダヤ人虐殺がテーマです。
強制収容所で死体の処理をするサウルが、ガス室で見つけた少年を、その死後になんとか弔おうとするストーリーです。
誰もが自分が生きるための手段を画策する中、サウルは生や死を超えた次元で動いていました。死んだ少年を弔うことなどこの状況下では何の意味ももたないのに、サウルはそれに拘りました。おそらくそれが、彼の魂が望んだことだったのでしょう。
サウルは、最終的に殺されてしまいますが、あの場にいた誰よりも安らかだったと思います。(女性 20代)
本作は、アウシュビッツ強制収容所でゾンダーコマンド(ユダヤ人でありながらもユダヤ人虐殺の任務を与えられた囚人)として働くサウルが死体の中から息子を発見し、息子を埋葬するために翻弄する物語。
主人公の後ろにくっついて撮影しているようなカメラワークで、主人公の目を通してしか状況を把握することができない。
そして、人を追い込むシーンや処分される様子などが全てぼやけているのが本作の特徴と言えよう。
人間の感情が否定されていて、全てが暗くて、とてつもない絶望感と無力感を感じた。
歴史を繰り返してはならない。(女性 20代)
争いの無い平和な世界を願うのは確かに必要なことかもしれませんが、綺麗事でしかないとも感じてしまいました。カメラワークが独特な今作。主人公サウルの視点で映像が流れていくので医師、同胞、ドイツ軍、少年、全ての物事の見え方が非常にリアルでした。
過酷な状況下でも息子を弔うことに希望を持っていたサウルの姿は、傍から見ればバカな行動をしているとしか思えなかったかもしれません。しかし、どんな結果にせよ、行動を起こしたサウルは偉大だったと感じました。(女性 30代)
みんなの感想・レビュー