この記事では、映画『その怪物』のあらすじをネタバレありの起承転結で解説しています。また、累計10,000本以上の映画を見てきた映画愛好家が、映画『その怪物』を見た人におすすめの映画5選も紹介しています。
映画『その怪物』の作品情報
上映時間:113分
ジャンル:アクション、サスペンス
監督:ファン・イノ
キャスト:イ・ミンギ、キム・ゴウン、キム・レハ、キム・ブソン etc
映画『その怪物』の登場人物(キャスト)
- ポクスン(キム・ゴウン)
- その言動や立ち振る舞いから、変わり者として有名な女性。祖母から引き継いだ八百屋を市場で売りながら生活している。時々、常識外れで大胆な行動に踏み出す。
- テス(イ・ミンギ)
- 陶芸家をしている青年だが、裏の顔は生粋のシリアル・キラーである。殺すことに何の躊躇もなく、幼い頃には父を殺害している。そのせいなのか、家族から戸籍を抹消されている。
- イクサン(キム・レハ)
- テスの兄。叔父の社長が、女性職員に暴行を働いている動画が携帯に収められており、その携帯を回収してくるよう依頼される。
- キェ・ナリ(アン・ソヒョン)
- とある事件がきっかけで、テスに命を狙われることとなった少女。
映画『その怪物』のネタバレあらすじ(起承転結)
映画『その怪物』のあらすじ【起】
亡くなった祖母から引き継いだ、市場の八百屋で稼いでいるポクスン。ちょっと頭は弱いが、いざという時の行動力は凄まじい。市場の場所を巡って男と喧嘩して傷を作ったり、やや無鉄砲な性格。正反対にしっかりした高校生の妹・ウンジョンがおり姉妹で暮らしていた。
そんな時、とある会社の社長が工場の女性職員を解雇しようとしていた。すると、女性は不当だと訴え他の工員を巻き込んでデモを起こした。社長は彼女を呼び出して、暴行する。しかし、女性はその現場を携帯に収めていた。そして、金をゆすっているそうだ。何としてでも携帯を取り戻したい、と社長は、甥のイクサンを呼び出す。イクサンは承諾し、義理の弟で、陶芸家のテスにその仕事を任せようとする。テスは幼い頃、父に虐待されていたイクサンを何の躊躇もなく殺害した過去を持つ生粋のサイコパスであった。殺すことに対して何の抵抗もない。テスは嘲笑うように「俺を戸籍から抜き4年7ヶ月も放っておいてか?」と言い放つ。しかし、バーでガラの悪い客を楽しそうに殺したテスは、その依頼を引き受けることにした。
それから、携帯を持った女性・ヨニの元にテスが現れる。金を持っていないことに腹を立てたヨニは彼を追い出すが、「扉を閉めたらあんたは死ぬ」と不吉な言葉を残し、テスは去る。しかし、テスはその言葉通りにヨニを殺害する。その現場に居合わせたヨニの妹・キェ・ナリは、姉の遺体とテスを目撃してしまい拉致される。
一方、イクサンは金を持って逃亡していた。テスを利用したのである。イクサンはテスに事情を説明しようとするがテスはそのまま携帯を切った。テスは自宅でキェ・ナリに言い渡す。自分が酒を飲み終えるまでは逃げていい。しかし、捕まれば殺す。遊びのように言い渡すと、キェ・ナリは全速力で外へと逃げ出す。キェ・ナリが助けを求めに向かったのはポクスン姉妹の家であった。姉妹はキェ・ナリを家に上げてやり事情を尋ねる。キェ・ナリは涙ながらに自分に降りかかった惨状を伝える。

映画『その怪物』のあらすじ【承】
翌朝、交番へ向かう3人だったがポクスンは忘れ物をしたため家へと戻る。先を急ぐウンジョンとキェ・ナリ。じかし、キェ・ナリは絶望する。深い霧の中からテスが現れたからだ。テスはウンジョンに狙いを定めており彼女を絞殺しようとする。慌てて駆け付けたポクスンは足元の石を武器代わりにテスの頭部を殴り飛ばす。何とか拘束から逃れたウンジョンを連れ森を抜けるポクスン。しかしポクスンの願いも虚しく、ウンジョンは息を引き取る。何とか警察を連れてきたポクスンだったが、ウンジョンの遺体は消えており、更にはポクスンの拙い説明のせいで、警察はまともに取り合わない。
また一方で、テスを利用したイクサンはテスの復讐を恐れ用心棒を雇うことにする。テスが家に帰るとイクサンがおり、携帯はどうなったのか問いかける。テスは探したけど見つからなかったと言い、イクサンは激情し、何故ヨニを殺したのかと怒鳴り散らす。それから、彼の雇った用心棒がテスに襲い掛かってくる。用心棒の猛攻に苦戦を強いられながらも、テスは用心棒を殺害する。その光景を見たイクサンは慌てて車に逃げ帰ろうとするがテスに追いつかれる。しかし、テスはイクサンを殺そうとはせず「今夜、母さんと食事をする」ことを条件にイクサンを見逃した。
その晩、料理店で食事をしていた3人であったが雰囲気は殺伐としていた。そんな中、テスは母に向かい「自分を7歳の時、金泥棒として犬小屋に閉じ込めた。しかし犯人は兄だった」と話し、母を怯えさせる。ピリピリした空気の中、テスは先に帰って行くのだった。
ある晩、キェ・ナリがポクスンの元へと戻って来る。ポクスンは妹はどこかと泣きつくが、自分も姉をテスに殺されここへ逃げてきたのだと、謝罪の言葉と共に涙を流す。しかし、願いも虚しく、テスは自宅の窯でウンジョンを焼き、その骨を陶器の材料としていた。
映画『その怪物』のあらすじ【転】
ポクスンは復讐を誓い、キェ・ナリをテスに見立てて攻撃するなど特訓を始める。それから、ポクスンは対テス用に武装しキェ・ナリにテスの居場所を案内させる。キェ・ナリは隠れ、ポクスンが単身テスの家へと突入する。しかし、家には誰もおらずポクスンは家の中を歩き回る。地下室を見つけ中へ入ると、ウンジョンの骨で作られた壺が見つかる。その時、テスも車で帰ってきたためキェ・ナリは慌ててそれを伝えようとテスの家へと走る。テスは窓が開いていることに気付き覗き込む。そして、隠れていたキェ・ナリを見つけ彼女を捕まえた。
キェ・ナリは携帯の場所を教えるから助けてほしいと頼み、テスも了承する。テスはキェ・ナリを連れ携帯の場所を案内させるがそれをポクスンは必死で追いかける。そしてキェ・ナリの言う通り、携帯は駅のロッカーに隠されていた。イクサンと合流し携帯を渡すテスだが、今晩母を交えて食事をしないかと言い出す。何か嫌な予感がしたのか「今度にしよう」と話を切り上げ車に乗り込むイクサン。しかし、テスは素手でパワーウインドウを破壊する。そこへ、キェ・ナリを呼ぶポクスンの声が聞こえてくる。テスとイクサンが揉めている隙に逃亡を図るキェ・ナリだが、すぐにそれを察知したテスが追いかけてくる。その間。それから、イクサンは社長である叔父に連絡をする。今晩、母に会いに来て欲しいと言われ不承不承それを承諾する。そして、無事に何とかテスを捲いたポクスンはキェ・ナリを連れ、警察を探しに夜の街を徘徊する。
イクサンは母の経営している料理店へ向かい、そこで用心棒をつけてくれたグァンスと合流する。イクサンはグァンスに頼み、複数のチンピラを連れテスを葬る計画を企てていた。イクサンはテスに電話をかけ、彼を食事に呼ぶ。
夜の街を歩いていたポクスンだったが、再びテスと遭遇し慌てて近くの警察署に逃げ込む。何とか中へ入り込み窮地を脱したものの、警察署の中で眠っているうちにキェ・ナリがテスに攫われてしまった。居場所のメモだけを残し、深夜のため電車もなく雨の中で必死にヒッチハイクしようと叫ぶポクスンだったが……。
映画『その怪物』の結末・ラスト(ネタバレ)
テスは母の食堂へ向かう。中ではイクサンと母が座ったテーブルと、その奥に用心棒らが客のふりをして潜んでいる。酒を飲みながら母はテスに謝罪し始める、「5歳の時、捨て子だったお前を助けたのは私よ。父さんは施設に送ろうとしていたから」と話しながらも、次第に真実を語り始める。実は母と仲の悪かった女が、狂った我が子を置いて逃げたそうだ。それを聞きながら、テスはうっすら微笑みながら母に耳打ちする。「俺をはめただろう?」――計画はあっさり見破られ、控えていた用心棒も皆残らずテスに始末される。母はそれから手の平を返し全部イクサンのせいにする。それを聞いて堪えきれず笑いを噛みしめるテスの背後に、殺し損ねたグァンスが現れテスの頭部を何度も鈍器で殴る。
テスと彼に殺された死体を、テスの車に乗せた際にキェ・ナリがトランクに詰められているのを見つける。すぐに保護するイクサン達。その時、グァンスが怪我の原因なのか突然苦しみ出し死んでしまう。同時に食堂の扉が開く音が聞こえ、親子が視線を動かすとそこには血まみれのテスが佇んでいた。恐怖のあまりに命乞いを始めるがテスは歪んだ笑みを浮かべ、イクサンと母を殺害する。それからテスは、隠れていたキェ・ナリを捕まえ首を絞め始めた。
何とかパトカーを拾い、キェ・ナリの元へと急ぐポクスン。駆け付け、装備していた包丁でテスを刺すがキェ・ナリは目を瞑ったまま反応しない。怒り狂ったポクスンはテスに戦いを挑む。しかし、重傷を負いながらもテスは手強く、気力だけで勝てるような相手ではなかった。死闘の末に、何とかポクスンはテスを倒すことに成功する。しかし、勝利の余韻など浸っている暇はない。キェ・ナリを抱き締めたまま泣き叫ぶポクスンだったが、キェ・ナリが息を吹き返しポクスンを抱き締め返す。するとそこへ、イクサンとテスの叔父である社長が姿を現すが、その惨憺たる有様を見て唖然とする。驚愕しながらも携帯を求める社長にそれを渡すと、社長は逃げるように車へ引き返していった。
それからと言うものの、キェ・ナリはポクスンの妹として彼女と暮らすことになった。ポクスンは「300万円貰った」と言い、何故なのか問うキェ・ナリ。曖昧にごまかすポクスンだが、真相はスタッフロール中に流れてくる。市場で場所を取ろうとしていた連中が再度やってきたのである。そのうちの1人が300万で場所を譲って欲しいと打診してきたのである。それを受け取りつつ、場所は渡さない!とポクスンは大根で相手の頭をぶん殴っていたようであった。
映画『その怪物』の感想・評価・レビュー(ネタバレ)
主人公の性格と言動にいちいちイラッとしてしまい、気付くとついつい悪役でサイコパスのテスを応援したくなってしまうから大変である。そして最大の黒幕でもある社長が、無事に携帯を受け取り何のお咎めなし、というのも許せない。こういう奴こそ、テスが殺すべきだったのに……。アクションシーンは中々気合が入っており、イケメンなテスがかっこよく立ち回る戦闘シーンはほんの僅か。ここも惜しい。個人的にもっとテスの戦闘が見たかった。(MIHOシネマ編集部)
ポクスンに同情するか、テスを応援するかで見え方が大きく変わるであろう今作。私は主人公のポクスンに全くと言っていいほど共感できず、ものすごくイライラしてしまいました。「変わった子」では済まされない、ポクスンの異常なキャラクター設定は何故なんだろうと疑問に感じてしまったほどです。
逆に殺人鬼のテスはとても魅力的でした。死体を焼いて骨を陶芸の材料にするのはかなりサイコパスだなとは思いましたが、ビジュアルがかっこよすぎて殺人鬼なのに嫌いになれませんでした。
全体的に不思議な作品でしたが、もう一度見たくなるようななんとも言えないクセがあります。(女性 30代)
観終わった後、しばらく動けませんでした。社会の片隅で“怪物”として扱われてきた少女が、最後にようやく自分を取り戻す姿に心を打たれました。事件の裏に隠された人間関係と暴力、そして誰もが見て見ぬふりをしていた現実。ラストで明かされる真実があまりにも重く、胸が締めつけられるようでした。(20代 男性)
衝撃的な事件を起こした“怪物”と呼ばれる存在が、実はただの加害者ではなく、被害者でもあったという多層的な構成が見事でした。報道では語られない真実が、本人の語りを通して浮かび上がってくる演出が秀逸。ラストの無言のカットが、すべてを物語っていたと思います。(30代 女性)
人は何をもって“怪物”と呼ぶのか――という問いが、終始心に刺さりました。表面的な情報だけで判断される恐ろしさと、加害者の中にある人間らしさを丁寧に描いていた点が印象的でした。中盤以降、彼女の過去が徐々に明かされていく展開には、感情の揺さぶりが止まりませんでした。(40代 男性)
静かに進む作品かと思いきや、物語の真相が明かされるにつれ、涙が止まらなくなりました。「怪物」とされていた少女の語りは、自分の罪を隠すためではなく、誰にもわかってもらえなかった痛みを初めて言葉にしたものでした。ラストの赦しのような空気が、美しくも悲しかったです。(50代 女性)
前半では彼女の行動に嫌悪感さえ覚えましたが、後半で真実が見えたとき、その印象が180度変わりました。あの事件の裏には、社会が放置してきた問題が詰まっていた。冷たい視線に晒されながらも、必死に生きてきた彼女の姿が、最後にようやく“人間”として見えた瞬間が忘れられません。(20代 女性)
重たいテーマではありますが、映像と音楽のセンスが非常に良く、観ている間ずっと画面に釘付けでした。光と影のコントラストが彼女の心情と呼応していて、演出の力を感じました。「怪物」というタイトルが、いかに表面的な言葉かを考えさせられる深い作品です。(30代 男性)
少女がなぜあの行動に至ったのか――それを知るためには、社会の見て見ぬふりや、大人の責任逃れ、教育の欠如を無視できません。観客自身にも「あなたは彼女を助けられたか?」と問いかけてくる構成が秀逸。単なる犯人探しの物語ではない、人間の根源に迫る映画でした。(60代 女性)
「怪物」という言葉が、いかに人を一面的に縛りつけるかを体感する作品でした。社会の底辺に押しやられた彼女が、最後に見せた涙と笑顔は、人としての尊厳をようやく取り戻した証のように見えました。暴力的なシーンもありますが、それ以上に静かな感情のうねりが強く印象に残ります。(50代 男性)
映画『その怪物』を見た人におすすめの映画5選
MONSTER モンスター(2003)
この映画を一言で表すと?
連続殺人犯の裏に隠された、悲しみと愛の物語。
どんな話?
実在の女性死刑囚アイリーン・ウォーノスの人生を描いた伝記映画。売春婦として生きてきた彼女が、やがて恋人と出会い、人生を変えようとするが、暴力と絶望が彼女を連続殺人へと追い込んでいく。
ここがおすすめ!
『その怪物』と同様に、“加害者”として描かれる人物の裏にある深い孤独と痛みを見つめた作品。シャーリーズ・セロンの鬼気迫る演技はアカデミー賞受賞にふさわしいもので、人間の闇と愛の両方を突きつけられる衝撃作です。
誰も知らない
この映画を一言で表すと?
無関心な世界の片隅で、子どもたちは確かに生きていた。
どんな話?
母親に置き去りにされた4人の子どもたちが、誰にも頼らず東京の片隅で暮らす姿を描いた実話を基にした映画。長男・明の目を通して、子どもたちの静かなサバイバルが淡々と、しかし痛切に描かれる。
ここがおすすめ!
『その怪物』と同じく、社会の無関心さが生んだ悲劇を描いています。描写は決して過剰でなく、静かでリアル。観る者に強く問いかけてくる作品です。柳楽優弥の演技が心に刺さり、忘れがたい余韻を残します。
ミスミソウ
この映画を一言で表すと?
復讐と絶望が交錯する、痛みの連鎖の果てにある少女の選択。
どんな話?
壮絶ないじめにより家族を焼き殺された少女が、怒りと悲しみの中で自ら復讐に走っていく。血と涙で染め上げられる復讐劇の中に、少女の魂が叫ぶ、衝撃のサスペンスホラー。
ここがおすすめ!
『その怪物』のように、被害者でありながら加害者にもなってしまう少女の心情がリアルに描かれています。極限まで追い込まれた人間が何を選ぶのか、観る者にも選択を迫ってくるような作品です。
淵に立つ
この映画を一言で表すと?
“普通の家族”に忍び寄る静かな恐怖と、崩壊の予感。
どんな話?
平凡な一家に現れた一人の男が、徐々にその家庭の空気を壊し始める。善と悪、罪と赦し、家族というテーマを通じて、“他人”という存在の恐ろしさと心の闇をじわじわと描き出す心理サスペンス。
ここがおすすめ!
『その怪物』と同様、人物の奥にある「語られない部分」を描く演出が光ります。説明されない恐怖が、観る側に解釈の余地を残し、鑑賞後も深く考えさせられる構成。川瀬陽太の不気味さが印象的です。
そして父になる
この映画を一言で表すと?
「血」と「愛」、本当の家族とは何かを問う心揺さぶる物語。
どんな話?
6年間育てた息子が、実は取り違えられた他人の子だった――衝撃の事実を前に揺れ動く二組の家族。“父であるとはどういうことか?”を丁寧に掘り下げていく、是枝裕和監督による静かな感動作。
ここがおすすめ!
『その怪物』と同じく、家族とは何か、人間の絆とは何かを問いかけてくる作品です。登場人物の誰が悪いとも言えない構図がリアリティを生み、感情移入せずにはいられません。ラストには静かな感動が待っています。
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