芸術家の岡本太郎が、1970年の大阪万博開催時に制作し、今でも大阪のシンボルとして愛され続けている「太陽の塔」についてのドキュメンタリー映画。民俗学者や考古学者、僧侶や思想家など、総勢29名にインタビューをして、岡本太郎と太陽の塔について考えていく。
映画『太陽の塔』の作品情報
- タイトル
- 太陽の塔
- 原題
- なし
- 製作年
- 2018年
- 日本公開日
- 2018年9月29日(土)
- 上映時間
- 112分
- ジャンル
- ドキュメンタリー
- 監督
- 関根光才
- 脚本
- なし
- 製作
- 井上肇
大桑仁
清水井敏夫
掛川治男 - 製作総指揮
- 平野暁臣
- キャスト
- 赤坂憲雄
安藤礼二
糸井重里
植田昌吾
大杉浩司
奥山直司
嵩英雄
唐澤太輔 - 製作国
- 日本
- 配給
- パルコ
映画『太陽の塔』の作品概要
1970年、大阪万博のために制作され、今でも圧倒的な存在感を放っている「太陽の塔」。この巨大モニュメントの制作を任された岡本太郎の当時の様子を追いながら、太陽の塔に込められたメッセージを紐解いていく。公募で選ばれた監督は、有名アーティストや大手企業のCMを手がけてきた映像ディレクターの関根才光。製作総指揮を務めるのは、岡本太郎記念館館長で、岡本太郎と太陽の塔に関する著書を多数執筆している平野暁臣。
映画『太陽の塔』の予告動画
映画『太陽の塔』の登場人物(キャスト)
- 赤坂憲雄
- 学習院大学教授。民俗学者として、太陽の塔の意味を考える。
- 安藤礼二
- 多摩美術大学教授。文藝批評家。
- 糸井重里
- コピーライター。
- 植田昌吾
- 「太陽の塔」設計担当者。
- 大杉浩司
- 川崎市岡本太郎美術館学芸員。
- 奥山直司
- チベット仏教学者。密教学者。
- 嵩英雄
- 「太陽の塔」ショットクリート技術担当者。
- 唐澤太輔
- 龍谷大学世界仏教文化研究センター博士研究員。
映画『太陽の塔』のあらすじ(ネタバレなし)
1970年に大阪府吹田市で開催され日本万国博覧会は、アジアで初めて行われた国際博覧会であり、史上最大規模(開催当時)の大掛かりなものであった。そのメインゲートの正面にそびえ立っていたのが、芸術家・岡本太郎の制作した高さ70メートルの巨大モニュメント「太陽の塔」である。大阪万博で6400万人もの人々を迎えた太陽の塔は、万博終了後もそのまま残され、今もこの地を訪れる人々を見守り続けている。
太陽の塔を見上げると、正面上部には未来を意味する“黄金の顔”があり、胴体部分には現在を意味する“太陽の顔”がある。そして裏面には、過去を意味する“黒い太陽”の顔がある。塔の内部は空洞になっており、高さ45メートルの“生命の樹”と呼ばれる巨大なオブジェが設置されている。地下には、太陽の塔の第4の顔である“地底の太陽”が展示されていた。しかし、万博終了後は内部の一般公開が中止され、オブジェなども放置されてきた。ところが、近年になって再び太陽の塔への関心が高まり、大阪府は内部公開に向けての再生事業を開始する。そして、2018年3月19日、ついに内部の一般公開(予約制)が始まった。映画では、そんな太陽の塔の魅力と秘密に迫っていく。
映画『太陽の塔』の感想・評価
太陽の塔は大阪万博のシンボルタワーではなかった!
「太陽の塔」と聞けば、大阪万博のシンボルタワーだと思い込んでいる人が多いが、大阪万博の正式なシンボルタワーは別にある。建築家の菊竹清訓がデザインした「エキスポタワー」が正式なシンボルタワーであり、こちらは高さ120メートルの展望塔になっていた。しかし、このタワーは老朽化のため2003年に撤去され、現在は見ることができない。
それならば、岡本太郎が制作した太陽の塔とは一体何なのかというと、大阪万博のテーマ「人類の進歩と調和」を意味する展示物でありパビリオンだったのだ。万博のテーマプロデューサーを引き受けた岡本太郎は、誰からも頼まれていないのに、高さ70メートルもの巨大モニュメントを勝手に作ってしまった。よく計画の段階で却下されなかったなと思うが、岡本太郎は持ち前のエネルギーで太陽の塔を完成させる。そんな想定外の状況下で作られた太陽の塔だけが永久保存され、いつの間にか大阪のシンボルにまでなってしまったというのは、得体の知れない魅力を持つ太陽の塔らしいエピソードだ。
岡本太郎というミステリアスな芸術家
生前の岡本太郎は、頻繁にテレビのバラエティ番組などに出演しており、お茶の間の人気者だった。テレビでの岡本は、ギョロリと目を見開き、「芸術は爆発だ!」と叫ぶ変なおじさんで、お笑い芸人たちにもよくモノマネをされていた。そのため、彼が偉大な芸術家であることを知らない子供も多かったはずだ。
本作では、岡本を知る人たちのインタビューを交えて、岡本太郎という芸術家と太陽の塔の本質に迫っていく。現在でも南青山には住居兼アトリエを一般公開した岡本太郎記念館があり、川崎市多摩区には岡本太郎美術館まである偉大な芸術家が、何を考えて太陽の塔の構想を練り上げたのか。そして、この“何”とは言い難い巨大モニュメントに、岡本はどんな願いを込めたのか。ミステリアスな芸術家の内に秘めたエネルギーが、太陽の塔を通して見えてくる。
製作総指揮の平野暁臣
本作の製作総指揮を務めるのは、空間メディアプロデューサーであり、岡本太郎記念館の館長でもある平野暁臣だ。平野は、岡本太郎の実質的なパートナーだった岡本敏子の甥であり、敏子の跡を引き継ぐ形で、岡本太郎の作品を守っている。そのため、平野が岡本に詳しいのは当然なのだが、彼は岡本の仕事の中でも特に太陽の塔に関する研究に熱心で、大阪万博と太陽の塔に関する著書や論文を数多く発表している。
平野は、太陽の塔に関する記録や資料を徹底的に調べ、太陽の塔の秘密を解き明かそうとしてきた。その研究の成果は『太陽の塔』『太陽の塔ガイドブック』『岡本太郎と太陽の塔』(小学館)、『太陽の塔 岡本太郎と7人の男たち』(青春出版社)などの著作にまとめられている。それでもまだ続々と新しい秘密が出てくるようで、2018年4月には『「太陽の塔」新発見!』(青春出版社)という新たな著書を出版している。映画『太陽の塔』でも、平野が長年に渡って研究してきた岡本太郎と太陽の塔の秘密が詳しく語られているはずなので、大いに期待していただきたい。
映画『太陽の塔』の公開前に見ておきたい映画
≒草間彌生 わたし大好き
前衛芸術家・草間彌生のアトリエにカメラが入り、1年半に渡って彼女の姿を追ったドキュメンタリー映画。草間はちょうどF100号のモノクロ作品シリーズ『愛はとこしえ』50作を制作中であり、定点カメラが作品完成までの一部始終を捉えている。他にも、スタッフとの日常や高松宮殿下記念世界文化賞を受賞した時の様子など、様々なシーンの草間彌生が収録されており、かなり濃厚な密着ドキュメンタリーになっている。
芸術家やアーティストはこの世に数多く存在するが、草間彌生ほど強烈な個性を持つ人はなかなかいない。本作では、“素”の状態の草間彌生がたっぷりと見られるのだが、とにかくそれが面白くてたまらない。草間は、自分の作品が掲載されている雑誌や新聞に必ず目を通し、自分がどう評価されているかを確認する。草間は褒められることが大好きで、自分でも常に自分の作品を絶賛している。中途半端な自画自賛は不快だが、草間の領域まで達するとむしろ清々しい。「わたし大好き」というタイトル通り、草間は自分が大好きで、自分以外の人間には興味がない。ここまで本人が自分語りをするドキュメンタリー映画も珍しい(それでも全く飽きない)ので、そういう意味でも貴重な作品だ。
詳細 ≒草間彌生 わたし大好き
遠足 Der Ausflug
ウィーン郊外の神経科病院の敷地内には「芸術家の家」と呼ばれる建物がある。そこでは、心に病を抱えた10人の芸術家が共同生活しており、それぞれの創作に励んでいる。彼らは、ほんの少しの外出でも、この家から出ることを“遠足”と呼んでいる。そんな彼らがプラハで展覧会をすることになり、代表の5人は数日間に渡る長めの遠足へ出かけることになる。
五十嵐久美子監督によるドキュメンタリー映画で、「芸術家の家」での日常や、彼らの“遠足”の様子が克明に記録されている。この作品に登場する10人の芸術家は、いわゆる“アウトサイダー・アーティスト”であり、その作風は独特だ。彼らは何らかの事情で心を病み、一般社会で自立して生きていくのは難しい状況にある。しかし、この病院で芸術的な才能を開花させ、絵を売ってお金を稼いでいる。ただ、彼らは自分の絵の価値や評論家の批評などには関心がない。安心して暮らせる「芸術家の家」での日常と、好きな時に好きなものを創作できる自由があれば、彼らは満足なのだ。そんな彼らの姿を淡々と記録したこのドキュメンタリー映画は、なぜか心の深いところに不思議な余韻を残す。
詳細 遠足 Der Ausflug
ダリ 科学を追い求めた生涯
20世紀最大の芸術家と言われるサルバドール・ダリの生涯と代表作を、彼がずっと追求していた「科学」に焦点を当てて紐解いていくドキュメンタリー映画。ダリの生誕100年を迎えた2004年に、ダリの故郷のスペインで制作された。
サルバドール・ダリは、奇抜なルックスと挑発的なパフォーマンスで世間を賑わせ、商業的な面でも成功を収めた芸術家として知られている。そのため、奇人変人のイメージが先行しがちだが、実際のダリは科学と芸術の融合を目指した大変な勉強家であった。この作品では、「精神分析」「相対性理論」「遺伝学」「数学」というテーマに基づき、ダリの代表作である『記憶の固執の崩壊』『最後の晩餐』『レダ・アトミカ』などを、科学・物理・数学的見地から解説している。科学や数学の知識がないと少々難しい面もあるが、天才ダリの意外な素顔を見られる貴重なドキュメンタリーなので、興味のある方はぜひ鑑賞してみて欲しい。
詳細 ダリ 科学を追い求めた生涯
映画『太陽の塔』の評判・口コミ・レビュー
『太陽の塔』 109シネマズ大阪エキスポシティ
1970年の大阪万博、岡本太郎のアートを起点に、1945年と2011年、縄文時代や有史以前の太古、はたまた日本どころか全人類の未来を観察する壮大なドキュメンタリー映画だった。大阪人としては塔の傍で鑑賞することにこだって千里の劇場まで遠征。 pic.twitter.com/M67uNmnR0w— ひできろヘルツ (@hdkHz) 2018年9月30日
映画『太陽の塔』観に行った。
太郎の思想も丁寧に噛み砕いていきつつ、現代アーティストとの共鳴も描く重量感ある作品。
で、あなたはあなたの中のあなたとどう向き合う?っていう問いかけが刺さってきて、太陽の塔の一部をそのまま切り取ってきたようで萌えた。#太陽の塔— TABERI (@Mr_right_light) 2018年9月30日
『太陽の塔』の映画、突きつけられるような、問いかけられるような、でも勇気をもらえるような内容でした。
なぜか終わる時に涙が出た。— いず@焼き栗食べたい (@dekoponyellow) 2018年9月30日
映画「太陽の塔」について
最後の方で寝たけど、ドラマ:ドキュメンタリー=2:8みたいな感じ。始まりは宗教的幻想的。太陽の塔自体が奇妙だから奇妙な演出でも馴染んでた。ドキュメンタリー部分では多摩美からは椹木教授、安藤准教授がでてた。安藤准教授はメディアセンターのIAAで取材受けてるっぽい。— 🐷🍑 ❎🐍 (@PigPeach88) 2018年9月30日
本日は映画「太陽の塔」を鑑賞
識者の方々のお話がたくさん聞ける、贅沢な講義か論文のような内容の濃いドキュメンタリー
ストンと胸に落ちた感じ
観に行けてよかった pic.twitter.com/i9LJPdqvoH— cn (@cgcggg) 2018年9月30日
映画『太陽の塔』のまとめ
万博記念公園にある太陽の塔は、大阪のモノレールや近辺の高速道路からもよく見える。太陽の塔が視界に入ると、「あ、太陽の塔だ」と心の中で思うのだが、「あれは何なの?何の目的であそこにあるの?」と聞かれると、うまく返答できない。太陽の塔は太陽の塔であり、宗教的な像や通天閣のようなタワーではない。建物でもないし、灯台のように明確な役割があるわけでもない。それでも太陽の塔は必要とされ、あの場所にあり続ける。「それはなぜ?」という素朴な疑問に答えてくれるのが、きっとこの映画なのだろう。
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