映画『ザ・マスター』の概要:監督・脚本・製作(共同)をポール・トーマス・アンダーソンが務めたヒューマンドラマ。心を病んだ帰還兵が新興宗教団体の教祖と出会い、その教えに傾倒していく。人間を深く掘り下げていく知的な作品。美しい映像とともにホアキン・フェニックスとフィリップ・シーモア・ホフマンの演技が高く評価された。
映画『ザ・マスター』の作品情報
上映時間:138分
ジャンル:ヒューマンドラマ
監督:ポール・トーマス・アンダーソン
キャスト:ホアキン・フェニックス、フィリップ・シーモア・ホフマン、エイミー・アダムス、ローラ・ダーン etc
映画『ザ・マスター』の登場人物(キャスト)
- フレディ・クエル(ホアキン・フフェニックス)
- 第二次世界大戦時、アメリカの海兵隊員として南方の島にいた。アルコール依存症で精神障害と判断される。独自で配合した密造酒を造る。父親は飲酒が原因で死亡し、母親は精神病院にいる。性欲も強く、自分の欲望を抑制することができない。
- ランカスター・ドッド(フィリップ・シーモア・ホフマン)
- 通称マスター。新興宗教団体「コーズ」の代表者。カリスマ性があり独自のメソッドで支持者を増やしている。しかし非科学的な彼の理論を懐疑的に見る人も多い。年下の妻に頭が上がらない。アルコール依存気味でフレディの密造酒を気に入る。
- ペギー・ドッド(エイミー・アダムス)
- ランカスターの妻。常に夫の側におり、影で夫を操っている。気が強く、頭が硬い。
- ドリス・ソルスタッド(マディセン・ベイティ)
- フレディが故郷に残してきた恋人。フレディと恋に落ちた時はまだ16歳だった。
映画『ザ・マスター』のネタバレあらすじ(ストーリー解説)
映画『ザ・マスター』のあらすじ【起】
アメリカ海兵隊員のフレディは、燃料用のアルコールをがぶ飲みするほどのアルコール依存症だった。第二次世界大戦が終結し、南方の島にいたフレディも帰還する。フレディは精神を病み、しばらく軍の医療施設に入院していた。
その後写真屋の仕事をしていたが、独自で配合した強烈な密造酒を飲酒するようになり、客とトラブルを起こして逃亡。メキシコ近くの農場で働いていた時も密造酒を造り続け、それを飲んだ年配の労働者が意識不明となって再び逃亡する。
フレディは泥酔状態で停泊していた船に乗り込み、翌朝この船の艦長だというランカスターのもとへ連れて行かれる。ランカスターは“私は作家であり、医者であり、原子物理学者であり、理論哲学者だが、何よりもひとりの人間だ”と自己紹介をするが、実際は新興宗教団体「コーズ」の教祖だった。昨夜飲んだフレディの密造酒を気に入ったランカスターは、また密造酒を造るならここにいてもいいと言ってくれる。
船上ではランカスターの娘と信者の男の結婚式が行われる。成人した息子は父親そっくりで、年下の妻ペギーは妊娠中だった。ランカスターはこれまで何度か離婚しており、まだ幼い娘もいる。信者たちはいつも熱心にランカスターの話に耳を傾けていた。
映画『ザ・マスター』のあらすじ【承】
1950年3月5日。船内でランカスターとフレディは密造酒を飲む。ランカスターはフレディに“プロセシング”という独自に開発した睡眠療法のようなものを試してくれる。ランカスターの誘導で、フレディは自分の過去を語り始める。
フレディは劣悪な環境で育ち、若い頃から酒に溺れてきた。故郷のマサチューセッツにはドリスという結婚を約束した娘がおり、フレディは彼女に“必ず戻る”と約束していた。フレディはその時の光景をありありと思い出し、涙を流す。ランカスターのプロセシングは孤独なフレディを癒してくれ、フレディはランカスターに傾倒していく。
ニューヨークへやってきたランカスターの一行は、セレブのパーティーに招待されていた。そこでコーズ・メソッドについて講釈しているランカスターに、ジョンという男が絡んでくる。フレディはランカスターを非難したジョンに腹を立て、自宅まで押しかけてジョンを痛めつける。
フレディはランカスターの側近となって行動を共にする。しかしペギーはフレディの飲酒や情緒不安定さを嫌っており、禁酒をするようフレディに忠告する。フレディは禁酒を約束するが、お酒を断つことはできなかった。
映画『ザ・マスター』のあらすじ【転】
ある財団の資金を不正に流用したとして、ランカスターは逮捕される。フレディもランカスターを拘束しようとした警官に殴りかかり留置所へ入れられる。留置所内でフレディは激しく暴れ続け、ランカスターと罵り合う。ランカスターは暴力を抑制できないフレディに疲れながらも“君を好きなのは私だけだ”と言ってフレディを慰める。
ペギーやランカスターの身内はフレディの存在に恐怖を感じ、彼を追い出すようランカスターに迫る。ランカスターは“彼を救わなければ、彼を見捨てることになる”と言って、フレディの人格改造を試みる。壁から反対側の窓までをひたすら往復させたり、何を言われても反応しない訓練をしたりしてフレディを洗脳し、喜怒哀楽を麻痺させていく。訓練の成果で大人しくなったフレディをランカスターは賞賛する。
1950年5月21日。アリゾナ州フェニックスで第1回コーズ世界会議が開かれ、その場でランカスターの2作目の著作「割れた剣」が発表される。フレディは宣伝活動を熱心に手伝い、感情を抑えることにも成功していた。しかしランカスターの著作を侮辱したスタッフにまた暴力を振るってしまう。フレディはここにいる自分に疑問を感じ始めていた。
ランカスターたちと広大な砂漠へ来たフレディは“あの岩山まで走る”と言ってバイクにまたがり、猛スピードでそのままどこかへ行ってしまう。
映画『ザ・マスター』の結末・ラスト(ネタバレ)
フレディはドリスの自宅を訪ねる。23歳になったドリスは3年前に結婚して母親になり、アラバマで暮らしていた。フレディは応対してくれたドリスの母親に彼女が自分を待っていたかだけ確かめ、ドリスの連絡先は聞かずに帰っていく。
泥酔して映画館で眠り込んでいたフレディは、英国にいるランカスターから電話をもらった夢を見る。夢の中で“緊急の問題を抱えているからすぐに来てくれ”と言われ、フレディは英国へ渡る。
コーズはその規模を拡大していた。ペギーはフレディの様子を見て眉をしかめ、健康そうに見えないと言う。自分はそうなれないと答えたフレディに、ペギーは“望みは何?”と不快感をあらわにする。ペギーにはフレディのような人間が全く理解できなかった。
ランカスターはフレディの自由な精神を認め“君はマスターに仕えない最初の人間になる”と言って、自分たちの最初の出会いを語り始める。前世で仲間だった2人は、次の人生で最大の敵となると予言し、ランカスターは“その時は容赦しない”とフレディに告げる。ランカスターはフレディに別れの歌を歌う。フレディはそれを聞きながら静かに微笑んで涙を流す。ランカスターとフレディには、2人だけにわかる何かがあった。
誰にも仕えない自分だけの人生を生き始めたフレディは、酒と女を愛する気ままな旅を続ける。
映画『ザ・マスター』の感想・評価・レビュー
第二次世界大戦後に帰還兵となったフレディは、頼る人もなく孤独で仕事に就いてもPTSDの症状のせいでうまく生きることができない。そんな時に、自分を受け入れてくれるマスターと呼ばれる男と出会うという物語。
マスターの施すプロセシングという療法によって、フレディの意識の奥底で眠っていた願望が呼び起こされるシーンの2人の演技の掛け合いが素晴らしく、静かだけれど緊迫した雰囲気が印象的だった。
要所要所に映る航跡のシーンは何かを象徴しているようで気になった。(女性 20代)
名優フィリップ・シーモア・ホフマンとホアキン・フェニックスの熱演光る作品。
二人は新興宗教の教祖役と第二次世界大戦の帰還兵といった役どころ。不思議な組み合わせの二人の間にはやがて不思議な感情と繋がりが芽生える。
最後の「お互い愛してるけど一緒にはいられない」恋人同士の別れのシーン(他に言いようがない)でフィリップが言葉にならない気持ちを歌で歌う。別れは悲しいけど、どこか解放されていく二人の姿が眩しい。(男性 40代)
フレディは幼少の頃から孤独を抱え、辛い思いをしてきたのかなと思った。だからと言って暴れて良い言い訳にはならないが、それ以外の気持ちの吐き出し方を知らないのかもしれない。ホアキン・フフェニックスの演技が素晴らしく、フレディの心の不安定さが分かりやすく表現されていたと思う。新興宗教にのめり込んでいくのは危ういなと思うが、フレディにとって代表者のランカスターは唯一の理解者だったのかもしれない。(女性 30代)
ホアキン・フェニックスと言うと精神的に危うい役を演じることが多く、その演技が秀逸であるため今作もかなり期待して鑑賞しました。アルコール依存症の帰還兵・フレディを演じた彼ですが、帰還兵と言うだけでも多くの傷を抱えているのに自分の居場所や生き方が見いだせず、生きることにもがいている様子は見ていて苦しくなりました。
マスターとの出会いが彼を変えたのは事実ですが、最終的にマスター無しでも自分の生きる道を歩み出せたフレディを応援したくなりました。(女性 30代)
みんなの感想・レビュー
不思議な話で、ちょっと目を離すと、時間軸が分からなくなって、戻しては観るを繰り返しました。
現在なのか、過去なのか。想像や夢なのか、現実なのか。事実なのか、虚偽なのか。「マスターに仕えない、初めての男になる」とは自立? 未だモヤモヤしています。そして最後のシーンで女性に、何度も名前を言わせて、「マスター」になった様に見えたのは、気のせいだろうか。