映画『マルクス・エンゲルス』の概要:1844年、フランスにて運命的に出会ったドイツの思想家マルクスと、英国の思想家エンゲルス。2人は思想を語り合った後に意気投合し盟友となる。無産者階級を擁護する彼らが、共著『共産党宣言』を作り上げるまでを描いている。
映画『マルクス・エンゲルス』の作品情報
上映時間:118分
ジャンル:ヒューマンドラマ
監督:ラウル・ペック
キャスト:アウグスト・ディール、シュテファン・コナルスケ、ヴィッキー・クリープス、オリヴィエ・グルメ etc
映画『マルクス・エンゲルス』の登場人物(キャスト)
- カール・マルクス(アウグスト・ディール)
- ドイツのユダヤ人。非常に革新的な哲学者であり思想家。妻と2人の娘をとても大切にしており常々、他の活動家を批判してばかりいるため、顰蹙を買っている。不摂生を極めており、イェニーに貧弱と言われている。
- フリードリヒ・エンゲルス(シュテファン・コナルスケ)
- エンゲルス紡績工場の社長子息。上流階級の選民意識に嫌気が差し、労働階級者たちの実情を調査。論文を発表する。思想家としてマルクスと意気投合し生涯の盟友となる。
- イェニー(ヴィッキー・クリープス)
- マルクスの妻。裕福な家の出ではあるが、夫の考えに賛同し出奔。貧乏ながらも夫を献身的に支えている。マルクスの真の理解者であり、非常に秀才で直截な物言いをする。
- ジョセフ・プルートン(オリヴィエ・グルメ)
- リヨンから来た弁士。社会主義者であり、無政府主義者。数々の著名本を出版し、絶大な人気を誇る。講演へひっきりなしに呼ばれ、常に忙しくしている。
- メアリー・バーンズ(ハンナ・スティール)
- エンゲルス紡績工場にて労働していた女性。弁が立つ気の強い人物でアイルランド人。エンゲルスの強さと思想に惹かれる。
映画『マルクス・エンゲルス』のネタバレあらすじ(ストーリー解説)
映画『マルクス・エンゲルス』のあらすじ【起】
1843年初頭、絶対王政下にあった欧州は飢饉と不景気に見舞われ、変化の時を迎えようとしていた。英国では産業革命のせいで社会の体制が揺るぎ、個々の賃金労働者を示す無産者階級(プロレタリア)が誕生。共産主義の考えにより労働者組織が発足された。
そんな中、社会の概念を覆し、世界を一変させた2人の若き思想家が現れる。
1843年4月、ケルン。秘密結社に所属するカール・マルクスが、革命の思想を掲げ政治的批評を記事として掲載した。このことで結社の前に憲兵が現れ、今にも突入されそうになる。社内では革命を志す高い意識はあるものの、マルクスのように率直な意見を掲載する度胸はなく、仲間割れが発生。マルクスを始め他の思想家が連行されてしまう。
同じ頃、イギリスのマンチェスターでは、エンゲルス紡績工場にて事故が発生。事故は工場で働く労働者によるものと思われ、従業員は経営者側への抗議の一端として行ったものだった。社長子息であるフリードリヒ・エンゲルスも、父の社長と共に現場へ赴いていたが、父は強硬な態度を崩さない。首謀者はメアリー・バーンズという女性で、仕事中に発生した事故によって怪我を負った場合の補償を強く訴えた。だが、社長は気に入らないなら辞めろと言う。すると、メアリーは社長を一睨みして去って行く。フリードリヒもまた、父のやり方に賛同できず、メアリーを追って行くのである。
下町の繁華街を抜け、裏通りへ入ったフリードリヒ。彼は選民意識の高い父のような考えの人々を蔑んでいた。故に、労働階級者たちの実情を調査して世間に訴えるため、本を出版しようと考えている。だが、メアリーを含む労働階級にある人々は、紳士然としたフリードリヒの話を一笑に付すのだった。
1844年7月、パリ。マルクスは愛する妻イェニーとの間に1児を儲け、貧乏ながらも幸せな日々を送っていた。
ある日、マルクスは妻と共に共和派の集会へ参加。そこで、リヨンから来た弁士ジョセフ・プルートンの演説を耳にする。彼は無政府主義者で、平等な社会を目指す社会主義思想を論じていた。
革命を目指すフランスの秘密結社へ所属していたマルクスは、指導的役割をしている文筆家から支援を得て雑誌の出版を行っていたが、記事の収入を得るため、文筆家の家を訪ねる。彼はそこで、先に訪問していたエンゲルスと再会。以前、ベルリンで会った時の互いの印象は最悪のものだったが、互いに執筆した論文により意気投合。
映画『マルクス・エンゲルス』のあらすじ【承】
同年代の2人は思想をじっくり語り合い、バーで飲みながらチェス対決。互いに不足を補え合える存在であることが分かり、社会には変革が必要だと確信するのであった。
翌日、2人はベルリンの社会主義者への批判を目的とした本の執筆をすることをイェニーに明かす。すると、彼女は本のタイトルを『批判的批判を批判する』にすればいいと笑うのだった。
現在の社会主義を崩壊へと至らしめるためには、プルートンの力が必要となる。そこで、2人は思想を語り、プルートンから協力を得ることに成功。
巷ではプロシア国王へのテロにより暗殺未遂事件が発生したと騒がれていた。そんな中、マルクスはサンタントワーヌ街の職人集会へ参加。労働者は雇用主に労働を売っているが、相応の対価を得ているわけではない。そう唱えて真の自由を求める彼らの賛同を得た。
その日の夜、エンゲルスは英国へ帰国。しばしの別れを惜しんだが、マルクス夫妻も改革を唱える危険人物として、フランスからの追放命令を出されてしまう。
24時間以内にフランスから退去するよう命令されたものの、国外へ宛てがあるわけでもない。家財道具を全て売り払い、資金を調達することにした。ところが、そんな時にイェニーの妊娠が発覚してしまう。
一方、帰国したエンゲルスはマルクスと出版した本によって、父から強く警告される。彼は断固として警告を受け入れず、むしろ立ち向かうのであった。論文を書く上でメアリーと親密なり、やがて恋人同士となったエンゲルスは、彼女から正義者同盟なる存在があることを耳にするのである。
映画『マルクス・エンゲルス』のあらすじ【転】
1845年、冬。ブリュッセルへと逃げ延びていたマルクスは求職に歩いていたが、なかなか雇ってもらえずにいた。第2子も誕生しいよいよ、生活も苦しくなる。エンゲルスとは頻繁に手紙のやりとりを行い、子供の誕生も伝えた。すると、彼は祝い金という名目で、マルクスへと支援金を送ってくれる。これにより、生活はしばらく安泰だ。
一方、エンゲルスは正義者同盟とコンタクトを取り、同盟に強い思想が足りないと感じる。そこで、彼はマルクスをロンドンへ呼び、彼に思想の根幹となって欲しいと打診。マルクスはイェニーの後押しを得て一路、ロンドンへと向かうことにするのだった。
土砂降りの日、ロンドンへ到着したマルクスはエンゲルスと合流し、妻となったメアリーを紹介される。彼女の手引きにより同盟員との面会を行った。同盟の設立に寄与した人物が、かつての活動家仲間であったことから受け入れられ、ブリュッセルに支部を作る話が持ち上がる。更にプルートンの名前を出し、親しいと伝えたことにより不振を抱いていた同盟員の信用を勝ち取ることができたのだった。
映画『マルクス・エンゲルス』の結末・ラスト(ネタバレ)
1846年3月30日、ブリュッセル。マルクスの自宅にて労働運動の指導者たちを集め、会合を開いた。全員が納得し簡単且つ、分かりやすい綱領を作るためである。ところが、マルクスはエンゲルス以外の活動家全員の活動目的や思想を痛烈に批判。これにより、集まった活動家たちは腹を立て、会合から去ってしまい同盟からも軒並み抜けてしまう。
後日、2人の元に同盟からの使者がやって来て、彼らの行いを強く叱りつける。経験豊富な活動家たちが抜けたせいで、正義者同盟は根本的な活動をすることができない。だが、そのお陰もあって、マルクスとエンゲルスは正式に同盟への加盟を許され、秋の総会へ出席することができるようになる。正義者同盟はどうやらプルートンを講演に呼びたいらしく、彼らの加盟を許したのであった。
1846年5月、ブリュッセルのベルビュー・ホテル。2人はプルートンへ会い、フランス支部の通信員になって欲しいと告げる。しかし、プルートンからは講演依頼が多くこれ以上は抱えきれないと断られてしまう。だが、議論は続けてくれると言う。彼を呼ぶことはできなかったが、新たなヒントを得ることができた。
そこで、2人は総会にて主張を押し通すため、プルートンの著書『貧困の哲学』を熟読し、これに応えるべく小冊子『哲学の貧困』を書き上げるのだった。
1847年11月、ロンドンのレッド・ライオンズ・ホテル。正義者同盟総会へ参加。ところが、彼らは招待枠で正式な代表ではないため、発言はできないと言われてしまう。そこで、同盟員で代表と認めるか多数決を行い、マルクスは無事にブリュッセル代表と認められる。
次に同盟の綱領を提示し、組織名も共産主義者同盟へと変更することにした。マルクスとエンゲルスの思想はプロレタリアを奮起させるものであり、力強いものであった。これにより、プロレタリアは個々に力を得て、立ち上がるだろう。
1848年1月、オーステンデ。マルクス一家とエンゲルス夫妻は海へ遊びに来ていた。マルクスとエンゲルスは同盟の綱領を作り上げる予定でいたが、マルクスは一家を養うために綱領を作る暇なく働いていた。期限は2月までと定められ、いよいよ差し迫ってくる。これまで走り続けて来た2人は、くたくたで疲れ果てていた。
そこで、互いの妻をも巻き込み切磋琢磨して『共産党宣言』を作り上げるのである。
1か月後、パリにて2月革命が勃発。階級対立により西欧の旧体制は瓦解し、国際労働運動が誕生した。2人の思想により作り込まれた『共産党宣言』は、数か国語に翻訳、再版され続けている。
イギリスへ亡命を果たしたマルクスはその後、病に侵され貧困の中、大著『資本論』を終生書き続けた。彼の目的は不断の批判であるため、この『資本論』も未完成だと言われている。
映画『マルクス・エンゲルス』の感想・評価・レビュー
ドイツの思想家マルクスと英国の思想家エンゲルスの2人が運命的に出会い、共著『共産党宣言』を発表するまでの若年期を描いている。作中は政治的な思想や哲学的な言葉が行き交い、よくよく見ていないと理解に苦しむ。言っていることは分かるのだが、普段から難しい言葉を聞きなれていない人には少し難しい作品かもしれない。
19世紀半ばの絶対王政下には思想家が多く、革命を企てていたこともあり、政府はやっきとなって逮捕、追放をしていた。労働者たちは上流階級の奴隷とも言われ蔑まれ、作中でも権限を搾取されていると言われている。そんな貧困の差が激しいばっかりに、平等な社会を目指すという共産主義の考えが生まれたのだろう。(MIHOシネマ編集部)
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