映画『ウルフ・アワー』の概要:1997年、荒廃を極めるニューヨーク。アパートの部屋に引き籠り生活を送っていた女性小説家は、時間に関係なく部屋のベルが鳴らされるという迷惑行為に困っていた。犯人が誰かも分からない中、時代の波に飲まれつつ彼女は自分との対峙を続けていく。
映画『ウルフ・アワー』の作品情報
上映時間:99分
ジャンル:サスペンス
監督:アリステア・バンクス・グリフィン
キャスト:ナオミ・ワッツ、ジェニファー・イーリー、エモリー・コーエン、ケルヴィン・ハリソン・Jr etc
映画『ウルフ・アワー』の登場人物(キャスト)
- ジューン・リー(ナオミ・ワッツ)
- 反体制運動の中心人物となった小説家。現在は祖母の家に引きこもり生活を続けている。外に出ることを異常に怖がり、食糧も全て配達してもらっている。起業家や慈善家を多く排出する一族の出身だが、実家からは勘当されている。
- マーゴ(ジェニファー・イーリー)
- ジューンの親友。小説家を目指していたが、ジューンの才能を目の当たりにしたことで夢を諦める。ジューンのことを心底、心配している。
- ビリー(エモリー・コーエン)
- 宅配デートに登録している男性。髭を蓄えた30代の白人男性で好人物。ジューンと一夜を過ごし、立ち直るきっかけをくれる。
- フレディー(ケルヴィン・ハリソン・ジュニア)
- 商店の配達をする黒人青年。真面目な性格だが、生き抜く術として小狡さを会得している。ジューンの自宅へ入ることができる数少ない人物で信頼を得ている。頼まれごとをして小遣い稼ぎをしている。
- ブレイク巡査(ジェレミー・ボブ)
- 嫌がらせをされているという通報によってジューンの元を訪れる警官。体格が良く応対はそこそこ丁寧だが、独身女性の周辺をパトロールする見返りとして体の関係を求める。
映画『ウルフ・アワー』のネタバレあらすじ(ストーリー解説)
映画『ウルフ・アワー』のあらすじ【起】
1997年7月、ニューヨークのサウスブロンクスでは、幾度もの大規模な停電により荒廃が進み、巷ではサムの息子と名乗る連続殺人鬼が闊歩していた。そんな中、レンガ作りのアパートの1室に引き籠る小説家のジューン・リーは、連日に渡って部屋のブザーが鳴らされるという嫌がらせに困っていた。窓から地上を見ても建物の入り口には誰もおらず、部屋から出ることができないジューンは、ブザーを鳴らす者を見つけることができない。
人と会いたくないので、家賃の支払いもドアの隙間から渡し、ゴミも部屋の窓から捨てているジューン。手持ちの資金が少なくなったことに気付き友人のマーゴに用立ててもらえないか連絡を入れることに。すると、マーゴは音信不通になっていたジューンをとても心配しており、半ば強引に今住んでいる家へ向かうと言うのだった。
それからの時間を好きに過ごし、再び部屋のブザーが鳴る。飛び起きたジューンだったが、相手は近所の店に勤め食糧を調達してくれるフレディーという黒人青年だった。親切そうなフレディーに料金を支払い、ついでにゴミも捨ててもらうよう頼む。猛暑の中、汗みずくになって働く彼がちょっと憐れに思えたので、洗面所で顔を洗わせることに。彼を見送った後、買い物袋を確認すると頼んだはずのタバコがない。商店に電話し、すぐに届けてくれるよう頼んだ。
早速、食事をしながら新聞をチェック。すると、またもブザー。応答ボタンを押すものの、いつも返事はない。今回は嫌がらせのブザーだった様子。そこで、ジューンは警察に嫌がらせをされていると通報を入れた。
その夜、ニュースではサムの息子がまたも手紙を送りつけたと報道される。
翌日、マーゴが宣言通りに自宅を訪問。ジューンは彼女を室内へ招き入れたが、マーゴは変わり果てた友人の姿に茫然となり、部屋の掃除を手伝ってくれる。ジューンが今、住んでいる部屋は元々彼女の祖母の部屋であった。荷物の中からジューンの執筆本の初版が出てきたが、ジューンはその本すらも捨てていいと言う。マーゴは1冊だけ持ち帰ることにした。
映画『ウルフ・アワー』のあらすじ【承】
掃除が終わるとジューンは疲れ果てて横になってしまう。マーゴはゴミを捨てるために外へ。しばらくして、外では雨が降り始める。ジューンは友人がいない間に外へ出ようとしたものの、階段を数段降りたところで足が竦んでうずくまってしまう。日が暮れた頃、戻って来たマーゴが家族に連絡を入れている。彼女は家族にジューンは病気なのだと説明していた。
その夜は泊まってくれるマーゴと思い出話に花を咲かせる。ところが、そんな中でも部屋のブザーが鳴る。嫌がらせだと説明すると、マーゴは密かに隠し持っていた小型の拳銃を取り出し、いざとなったらこれで対抗すると言うのだった。
翌日、書きかけの小説をマーゴが発見する。このことで怒ってしまったジューンはマーゴを追い出してしまう。かつて、ジューンは反体制運動の中心人物として名を馳せていた。彼女はアメリカで最も影響力のある一族の一員であったが、処女作を出版したことで勘当されそのせいで、父親の死も知らされず死に目にも会えなかった。
更に翌日、マーゴから貸してもらえなかった資金を得るため、かつての編集者に連絡を入れたジューン。契約金の残りがまだ支払われていなかったはずだと述べると、新作の草案を送れと言われる。そこで、タイプライターの前に座ってみたが、何時間経ってもアイデアは浮かばない。そこへタバコを持ったフレディーが家を訪れる。彼がタバコを盗んだのかと思ったが、そこまで性根は腐っていないようでフレディーは思ったより真面目な青年だった。
その夜も聞き慣れたブザーが鳴る。いつもの嫌がらせだ。
映画『ウルフ・アワー』のあらすじ【転】
次の日も猛暑。自宅へ警官がやって来る。通報したのは1週間も前の話だが、犯罪が多く蔓延っていて人手が足りず、今になってしまったと言う。警官を招き入れコーヒーをご馳走する。ブレイクと名乗った警官に事情を説明。パトロールして欲しいと頼んだが、ブレイク巡査はその見返りとして体の関係を要求してくる。幸いにも無線機の呼びかけで襲われることはなく、ブレイク巡査は早々に去って行った。
腹立ち紛れにタイプライターを連打し、手の平の傷を消毒したジューン。そこで、過去にネタを録音していたテープを聞き返してみる。それを聞いている内に興が乗ったジューンはひたすらタイプライターを打った。そして、日が暮れた頃にブザーが鳴る。テープが絡まったせいで集中力が切れてしまい、執筆はそこでおしまいになってしまう。
再び怠惰な時が巡る。日中、気になっていた宅配デートに電話してみた。夜に会う約束をし、準備をして待つ。ブザーが鳴ったので、約束の相手ビリーを部屋へ招き入れた。髭を蓄えた年頃の男は会話を楽しむ間もなく口づけをしてくる。ジューンは彼に帰れと言ってしまうが、金は要らないとビリーが言う。そこで、ジューンは彼と体の関係を持つことに。
一頻り楽しんだ後、互いに身上を明かした。すると、深夜になってブザーがうるさく鳴る。ビリーが外に出て確認してくれたが、やはり誰もいなかった。ビリーは、ブザーは嫌がらせで鳴っているのではなく、トラウマを克服して外に出ろということではないかと言う。
映画『ウルフ・アワー』の結末・ラスト(ネタバレ)
ビリーと別れた後、集中力が増したジューンは昼夜問わずタイプライターを打ち続け、とうとう新作を完成させる。編集者に連絡を入れたが、すぐには対応できないようだ。そこで、ジューンはフレディーに原稿を届けてくれるよう頼む。生活資金も底をつきかけているため、今届けてくれないと餓死してしまう。だが、フレディーは命を賭けるに値するものなら、全財産である生活資金全てを出せるはずだと言う。ジューンは逡巡した後、生活資金の全てと1部しかない新作原稿を渡し、編集者から小切手を受け取ったら寄り道せずに真っすぐ帰るよう言い募った。
原稿を持ったフレディーを見送った後、安堵しつつ食事を摂る。それから、マーゴに謝罪の電話を入れたが、電話の相手は彼女の娘で通話を切られてしまう。しかしその後、待てど暮らせどフレディーは一向に戻らない。店にも連絡を入れたが、戻っていないと言う。夜になって雷が鳴り、大停電が発生。暗闇の中、方々から怒鳴り声や叫び声が響く。ジューンはジッポの火を頼りに電灯を見つけ出し、蝋燭に火を点した。
パトカーのサイレンが響いている。アパートの外では暴徒が商店を襲っていた。ラジオは健在で今回の停電が大規模なものであることを伝えている。部屋の窓からは別のアパートで火災が発生しているのが見えた。暴徒が闊歩している今、外へ出るのはとても危険だ。ジューンは部屋のドアに物を置いて、侵入されないよう補強。
そんな時、フレディーが警官に殴れているのを目撃してしまったジューン。彼女は彼を助けるため、部屋の外へ。ふらふらになりながらも階段を降りてアパートの出入り口へ向かう。そして、そこからようやく外へ。車から火の手が上がっていて暗闇ではなかったが、殴られて倒れた男の元へ向かう。ところが、男はフレディーではなかった。ジューンは荒れ果てた町を茫然としながら進み、朝日が昇るのを目にするのだった。
原稿は無事に届けられていた。暗く沈んだ孤独と反省を描いた新作は大いに共感を呼び、大ヒットを記録。ジューンはかつての栄光を取り戻し、インタビューを受けるまでに自信を取り戻していた。インタビュアーが新作について、実体験かと質問してくる。ジューンはそれに無言を貫き微かに笑みを見せるのだった。
映画『ウルフ・アワー』の感想・評価・レビュー
女性作家が家に引き籠り、延々と怠惰な時を過ごす。彼女は引き籠るまでに辛い体験をしており、引き篭もりになったのはその果てだと作中で明らかになる。今作のタイトルは深夜ラジオのウルフ・アワーから取られており、作家の引き籠り生活にも通じているように思える。製作に携わった主人公役のナオミ・ワッツと監督のアリステア・バンクス・グリフィンは、当時の混沌として荒廃した時代を作家の引き籠りと共に描きたかったと言っている。作品と通して観ると、正に作家の生活と当時のニューヨークがリンクしており、目論見通りに時代を描いたものだと感じた。終盤で作家が家を出て朝日を目にするシーンがとても印象的だった。(MIHOシネマ編集部)
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