映画『野獣死すべし(1980)』の概要:読書とクラシック音楽鑑賞が趣味の伊達は、銀行強盗を計画していた。伊達に協力する真田は伊達の狂気にだんだんと蝕まれていく。一方、伊達に想いを寄せる華田だったが、銀行強盗当日に、客として銀行に足を運んでいた。人間の不気味な異常性に目を見張るハードボイルド映画。
映画『野獣死すべし』の作品情報
上映時間:118分
ジャンル:フィルムノワール
監督:村川透
キャスト:松田優作、小林麻美、室田日出男、根岸季衣 etc
映画『野獣死すべし』の登場人物(キャスト)
- 伊達邦彦(松田優作)
- 翻訳家。東京大学経済学部卒。かつて大手通信社で戦争取材をしていたが、その時の経験が彼の狂気の源泉となる。犯罪は彼にとって崇高な行為であり、銀行強盗計画遂行のために入念な計画を立てる。
- 真田徹夫(鹿賀丈史)
- レストランのウェイター。喧嘩っ早い性格で、うだつの上がらない生活に不満を持つ。伊達からの銀行強盗計画の誘いに最初は躊躇するが、だんだんと伊達の色に染められて、殺人も厭わないまでに理性が崩壊していく。
- 華田令子(小林麻美)
- 伊達と偶然コンサートホールで出会い、彼の素性を知らずに彼に想いを寄せる女性。伊達と真田が銀行強盗実行する時、偶然その場に居合わせる。
- 柏木秀行(室田日出男)
- 伊達に殺害された岡田の部下。刑事の直感で一連の犯行は伊達によるものだと考え、彼を執拗に追い回す。
映画『野獣死すべし』のネタバレあらすじ(ストーリー解説)
映画『野獣死すべし』のあらすじ【起】
雨が降る夜、警察官の岡田が突然現れた男に刺殺される。その男は岡田から奪った銃で、賭博場の従業員を3人撃ち殺し、現金を強奪する。犯人の伊達はいつも数冊の本を持って歩き、クラシック音楽の鑑賞を趣味とする。長身で痩せ型の彼の風貌は、どこか不気味な雰囲気を漂わせる。
伊達は閉店前の銀行に足を運び、緊急時の警備員の行動、警察が到着するまでの時間等を入念にチェックした。全ては銀行強盗の計画を成功させるためだ。しかし、彼の計画は一人で実行するのが難しかった。もう一人、協力者が必要だ。
普段の伊達は、とても静かな生活を送っている。その日もお気に入りのレコードを探しにレコード店に立ち寄っていた。そこで伊達は、麗しい女性に声をかけられる。先日コンサートホールで横に座った華田だ。華田は伊達に興味を抱いている。少し立ち話をして華田は去るが、そこに刑事の柏木が現れて伊達に話しかける。柏木は岡田と賭博場の事件を捜査しており、些細な目撃情報から伊達が犯人だと睨んでいた。
映画『野獣死すべし』のあらすじ【承】
伊達は大学の同窓会に出席する。同級生が仕事の話に華を咲かせる中、そのうちの一人が店のウェイターである真田と言い合いを始める。伊達は真田を一目見て、仲間に入れようと決める。
伊達は真田に近づくため、別の場所で真田に声をかける。真田は付き合っている彼女が渡米したいと言っていたので、お金を集めるためにウェイターをしていた。しかし、喧嘩っ早い性格のせいで、なかなか稼げずにうだつの上がらない生活をしていた。
伊達は真田の話を聞いた後、真田を不自由にしている彼女を殺せとけしかける。真田はその場の勢いでそれを実行しようとするが、躊躇して止める。伊達はまだ真田に見込みがあると思い、街中で誰にもばれずに人を殺す様を真田に見せつける。真田は伊達におびえながらも、伊達に持ちかけられた銀行強盗計画に参加することを決める。
ある夜、伊達はいつものようにコンサートホールでクラシックを聴いて帰宅しようとしていたが、そこへ華田が一緒に帰ろうと伊達に声をかける。二人はタクシーで帰途につき、伊達が先に降りようとする。その時、華田は伊達の目を潤んだ瞳で見つめ、そっと彼の手を握る。彼女は伊達を想う気持ちを暗に伝えたが、伊達はそれに気づかないフリをして別れる。
映画『野獣死すべし』のあらすじ【転】
海岸沿いの別荘で、伊達は真田に銃の撃ち方を教える。真田の腕は徐々に上達するが、本番は動く標的を撃たなければならない。伊達は訓練の仕上げに、動く標的を撃つ練習に真田の彼女を殺すよう彼に命令する。真田は彼女と食事後、何度も銃を握り直して躊躇するが、ついに覚悟を決めて彼女に向けて引き金を引いた。真田の心は徐々に伊達に支配され、蝕まれていく。
銀行強盗の実行日、伊達は銀行に入っていく華田を見かけて、一瞬動揺を見せる。しかし、彼らは予定通り計画を実行する。伊達と真田は変装して銀行に乗り込み、銀行員や警備員を次々に撃ち殺して現金を奪う。全ては計画通りで順調だったが、華田は犯人が伊達だと気づいていた。伊達もそれに気づき、華田を静かに見据えて変装用のマスクを外す。そして、顔色一つ変えずに、華田の身体に弾丸を放った。
映画『野獣死すべし』の結末・ラスト(ネタバレ)
伊達と真田は電車を利用して逃走を図る。しかし、柏木は銀行強盗の犯人も伊達だと思い、
伊達を尾行して電車の中で彼に話しかける。柏木は最初世間話をしていたが、痺れを切らしたのか、伊達に銃を向けて尋問を始める。しかし、柏木の背後から真田が現れ、伊達に銃を奪われる。柏木は隙を見て逃げようとするが、伊達に撃ち殺される。
それまで静かに計画を実行していた伊達だったが、かつて取材した戦争の惨状がフラッシュバックして、彼の本当の狂気が露わになる。彼の口調、仕草はまさに戦地の軍人のように変貌していた。
伊達と真田は走行中の電車の窓から逃げ出す。逃げ込んだ先で情事に耽っていたカップルがいたが、真田は彼らをじっと見据えた後、男を撃ち殺して、女を強姦し始めた。伊達の狂気に触れ、真田までもが理性を失っていた。
伊達は真田が強姦する様子に興奮して、夢中でカメラのシャッターを切る。戦争で目撃した光景を思い起こさせるからだ。伊達は戦争の惨状を熱く語り、危険から逃れるために人を初めて殺した時、快感を覚えたと告白する。伊達は恍惚の境地にあったが、ふと真田の様子を見て憤り、彼を撃ち殺す。
コンサートホールでクラシックに耳を傾ける伊達。コンサートが終わり会場を後にするが、階段を降りる途中でどこからともなく浴びせられた銃弾に彼は倒れた。
映画『野獣死すべし』の感想・評価・レビュー
日本邦画界に圧倒的な存在感を示した夭逝の名優、松田優作の一つの集大成。荒々しさを内に秘め、したたかな怪しさを見せる演技は素晴らしく、アクション俳優から、演技派への、彼の一つの転換期を見ることが出来る。
戦場カメラマンとしての過去を持つ伊達邦彦の静かな、しかし人知を超えた凶悪性を持つ人物像は、並みの悪役とは次元の違う恐怖と格好良さを感じさせ、その生きざまを、クラシックと萩原朔太郎の詩を用いた美的な演出が更に妖しい彩りを加える。(男性 20代)
みんなの感想・レビュー
小学五年の時テレビで何故か一人で観ました。鍵っ子だったので、いつも家には一人でしたが、子供ながら衝撃と格好良さをしりましたね