映画『8番目の男』の概要:韓国で2008年に初めて導入された国民参与裁判での事件をベースにした法廷ドラマ。全国民注目の中、陪審員として選ばれた一般市民が有罪か無罪の決断を迫られたことで真実を追求する葛藤を描いている。
映画『8番目の男』の作品情報
上映時間:114分
ジャンル:ヒューマンドラマ
監督:ホン・スンワン
キャスト:ムン・ソリ、パク・ヒョンシク、ペク・スジャン、キム・ミギョン etc
映画『8番目の男』の登場人物(キャスト)
- 陪審員8号 / クォン・ナム(パク・ヒョンシク)
- 開廷ギリギリに選定された8番目の男。自己破産寸前ながら、発明品の特許を取ろうと奮闘している。優柔不断な一面を持ち、あまり自分の意見は言えないものの真実を求める気持ちは誰より強い。
- キム・ジュンギョム(ムン・ソリ)
- 多くの刑事裁判を担当してきた裁判官。韓国で初めての国民参与裁判では有罪がほぼ確定している被告の判決を任されたが、クォン・ナムの言葉で信念を思い返す。
映画『8番目の男』のネタバレあらすじ(ストーリー解説)
映画『8番目の男』のあらすじ【起】
韓国初の国民参与裁判にはマスコミの注目も集まっていた。裁判長のキムには上からのプレッシャーが強くかかる。陪審員選びは難航し、裁判まで1時間を切る中で8番目の陪審員を決めかねていた。そこで、陪審員審査を無断欠席したクォン・ナムに白羽の矢が立つ。クォンは発明家だが自己破産寸前である。優柔不断なものの、素直なアンケートの回答を目に留めたキムはクォンを8番目の陪審員に決定するのだった。
注目の裁判は定刻通り開廷された。母親殺しの被告は自白しており、目撃者の証言も揃っていた。幼い頃に顔と両腕に大きなやけどを負っている無職の被告は、事件前から問題とされる行動が多かった。泥酔した状態で市役所を訪れては給付金をせがみ暴れたという記録もあり、検察側の報告する動機は誰もが納得する内容である。しかし、被告は突如動揺し自白を覆した。事件同日だけの記憶が抜けていると言う被告は、提出された証拠には無理強いされ署名したものも含まれていると証言し暴れ始めてしまう。
映画『8番目の男』のあらすじ【承】
休廷の判断を下したキム。有罪を前提として被告を担当している弁護士も動揺し、所長は閉廷をするようにキムに持ち掛ける。しかし、犯罪歴を多く抱える被告に正しい判決をもたらすために開廷を決意するのだった。
陪審員は裁判中外部との接触を禁止させられている。特許申請中のクォンは民事申請課からの連絡に気付くも、休廷中に外出は許されなかった。トイレに行く振りをして逃げ出したヒョンシクは、館内で迷い被告と遭遇してしまう。
被告は無罪である可能性もあると陪審員たちに伝え、キムは再び開廷した。遺体清掃を30年続けた6番の陪審員は、死因に疑問を抱き何度も発言をしてしまった。キムは退廷を命じるも、クォンは被告に指がなかったことを思い返す。そこで凶器とされた金槌を振ることができるのか実証して欲しいと申し出たクォン。被告は義手をつけても金槌を持つも狙い通りに振りかざすことはできず、キムに怪我をさせてしまった。被告と被害者を一番近くで見ていた被告の娘は、泣きながら無罪を主張し法廷を揺るがせ、異例続きの裁判は難航した。
映画『8番目の男』のあらすじ【転】
評議の時間を迎えた陪審員たち。7人の意見は一致させなければならないなか、クォンだけは有罪とも無罪とも判断できずにいた。クォンは事件に関する記録を確認することに時間をかけるが、財閥会長の秘書をしている5番の男や早く帰宅したい4番の主婦は苛立ち始める。凶器に血がついていないことから弁護士志望の1番の男も一緒に資料を確認し、介護経験のある2番の主婦は、計画的殺人は無理だと心理的な面から見解を深めていく。
早く帰りたいという4番の主婦は投票しないクォンは棄権だとみなそうと提案した。しかし事件現場となった団地に住んでいた7番の女性はクォンに賛同し、被告の娘の嘆願書を議題にした。嘆願書によると被告は事件当日母親から新しい義手をプレゼントされていたという。さらに目撃者の証言に疑問を抱いた陪審員たちは、誤認の可能性を探り始めるのだった。
陪審員たちの現場検証依頼を一度は却下したキムだが、所長はメディアへのアピールも兼ねてすぐに取り掛かるようキムに指示をするのだった。真夜中に始まった現場検証では目撃者の証言の信憑性が問われた。希望と反して、ベランダに立った判事の顔をはっきりと認識できてしまったクォン。7人の陪審員たちは判決文の作成に入るのだった。
映画『8番目の男』の結末・ラスト(ネタバレ)
「計画的殺人」とされ被告には25年の実刑を下すことになった。初めて判決文にサインした陪審員たちは、宣告までの時間にどうして被害者は助けを求めなかったのか疑問を抱いた。クォンは現場検証で見つけた被告のメモと証拠の筆跡が違うと気づき、自殺の説を立てる。給付金を息子に残すために自ら身を投じた母親を助けようとした被告だが、大雨の降る中慣れない義手では救いきれなかったのではないかと全員の推測は一致した。
宣告の時を迎え、陪審員たちは全員一致で無罪だと考えるとキムに伝える。しかし陪審員たちの意見は判決に直結しない。一度判決文を出してしまった以上、変えることは許されない立場であるものの、自白を頼りに実証が足りないことや明確な証拠がないことに疑問を拭えなかったキムはクォンの言葉に突き動かされる。
「疑わしきは被告人の利益に」という信念は判決を覆し、被告を無罪にした。初めて素直に表情を表した被告を見て安堵する陪審員たち。そして、陪審員と判事の意見が一致した歴史的事実としてこの裁判は話題を呼ぶのだった。
映画『8番目の男』の感想・評価・レビュー
監督・脚本共に手がけたホン・スンワンは、よほど綿密な取材を重ねたのだろう。おままごとのような軽さはなく、貧困が生んだ悲劇までも盛り込まれているというのに人間味が非常に強い。まさに国民参与裁判の再構成であった。アイドルグループのメンバーが主演という売り出しは必要ない。『オアシス』での怪演が印象深いムン・ソリや実力派が脇を固め、一般市民が挑んだ戦いをじっくりと味わえる一作になっていた。(MIHOシネマ編集部)
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