映画『ふしぎな岬の物語』の概要:女優・吉永小百合が企画した作品。森沢明夫の小説「虹の岬の喫茶店」を原作としている。小さな街で「岬カフェ」を営む女性とその周囲の人間を描く。
映画『ふしぎな岬の物語』の作品情報
上映時間:117分
ジャンル:ヒューマンドラマ
監督:成島出
キャスト:吉永小百合、阿部寛、竹内結子、笹野高史 etc
映画『ふしぎな岬の物語』の登場人物(キャスト)
- 柏木悦子(吉永小百合)
- 岬カフェをひとり営む女性。夫を亡くしているが甥の浩司と街の人に囲まれ充実した日々を送っている。とても穏やかな性格の持ち主だが、少しずつ訪れる変化に心揺らいでいた。
- 柏木浩司(阿部寛)
- 悦子の甥。荒くれもので雑な部分はあるが、悦子のことを誰より大切に思っている。一人ボロボロの家に住み、悦子を支えている。
- 竜崎みどり(竹内結子)
- 父親と喧嘩別れし、東京に住んでいたが離婚をきっかけに街に戻ってきた女性。浩司になついており、幼いころから好意を寄せていた。
- タニさん(笑福亭鶴瓶)
- 悦子の営む「岬カフェ」の常連。密かに悦子に好意を寄せているが、言葉にはせずに寄り添っていた。
- 竜崎徳三郎(笹野高史)
- タニさんと同じく「岬カフェ」の常連。漁師をずっとやっていた。みどりの父親で頑固だが、実は娘想いの働き者。
- 大沢克彦(井浦新)
- 悦子の営む「岬カフェ」に訪れたひとり。娘の不思議な力で引き寄せられ、悦子の夫が遺した虹の絵を探しに来たという。陶芸家である。
映画『ふしぎな岬の物語』のネタバレあらすじ(ストーリー解説)
映画『ふしぎな岬の物語』のあらすじ【起】
夜明けの海を見ながら絵を描く一人の男性。その様子を追い悦子は歩み寄るが、そこには男性の姿はなかった。まるで夢遊病者のように亡き夫の影を追い、浮遊感漂う朝の不思議な時間を過ごす悦子。その後日が昇る前に、悦子は甥の浩司と共に岬の先の森へ船で向かった。そこで取った新鮮な水を使い「岬カフェ」を営んでいるのだ。
岬カフェには個性的なお客が集まってくる。その日、初めての来客は浩司の中学の担任だった。そして、常連のタニさんが訪れる。何気ない会話の中で、浩司がついていた小さな嘘がばれてしまった。血の気の多い浩司は少し大げさに嘘をつくことが多いとタニさんは言う。しかしその口調からは愛情が溢れており、悦子がお店を続けていることにもお礼を言うのだった。
夕方、一組の親子が尋ねてきた。来店早々壁の絵を見て感動しあっていた。それは悦子の夫が書いた虹の絵だった。その親子はマンションから見えた綺麗な虹を追いかけて、幼い娘と二人東京から来たという。娘は悦子の夫が毎朝座っていたイスに腰を掛け、海を眺める娘の希美。実は、希美の母は急性骨髄性白血病で最近命を落としていた。小さい娘が母親を亡くし、理解しきれていないと思っていた父の克彦。しかしそれは逆であり、妻を亡くし落ち込む父を心配していたのだった。親子の気持ちが通じ合ったお礼に、克彦は自分が作ったマグカップを悦子にプレゼントし去っていった。
映画『ふしぎな岬の物語』のあらすじ【承】
浩司は悦子を守るという義務を感じていた。岬カフェを見守れる場所にボロ家を建て、何でも屋のような家業を営んでいる。
街の住職・雲海さんの息子・孝夫の結婚式。少し気の短い浩司は、悦子に悪絡みする来客者を見かけ咄嗟に殴り掛かってしまった。それは悦子を守りたい一心からだったが、悦子は浩司を叱りつける。しかしタニさんの仲裁が入り、喧嘩にはならなかった。野球でプロを目指していたという浩司の小さな嘘にのっかり、タニさんは「キャッチボールをしよう」と重くなった空気を変える提案をした。そんなタニさんに対して、悦子は感謝でいっぱいであった。
その夜、岬カフェに泥棒が入った。じっと夫が書いた虹の絵を見つめる泥棒の姿を見ていた悦子。きっと何か事情があるのだろうとコーヒーを振る舞おうと近づいたところ、逆に泥棒が驚き克彦がくれたマグカップを割ってしまった。包丁を向ける泥棒に対してパンとコーヒーを振る舞い「盗むならあの絵を」と潔い悦子の姿に感動した泥棒は心を改め、手に持っていた一級品の包丁をプレゼントするのだった。
一つの事件を事無く乗り越えた「岬カフェ」。街では恒例の「岬まつり」の準備が進んでいた。賑わう街に漁師の徳さんの娘・みどりが東京から帰ってきた。浩司にとっても妹のような存在のみどり。徳さんとすれ違いが生じていたみどりだが、東京で上手くいっておらず自分探しのために戻ってきたという。現状を話し合う徳さんとみどりだが、互いに頑固な部分が邪魔をして上手く打ち解けることはなかった。しかし、せき込む徳さんの姿を見てみどりは体調を心配するのであった。
映画『ふしぎな岬の物語』のあらすじ【転】
台風が迫る夜、岬カフェも被害を被った。寒空の下、眠りにつく悦子を見つけた浩司。これまでの感情を抑えきれず抱きしめてしまったものの、悦子が目覚めとても気まずい時間が流れるのであった。浩司が帰ったあとの岬カフェに、タニさんが訪れる。いつもと違う悦子の様子を見たタニさんは、浩司の元を訪れ問いただすが浩司はごまかすのだった。そこへ現れたみどり。東京から来る前夫を追い返して欲しいと浩司にお願いに来たのだ。
高圧的な態度でみどりの前夫を追い返した浩司。みどりはお礼にとビールを持ち寄り、二人は祝杯を挙げた。その時、浩司に対して悦子への感情を問いただすみどり。浩司はごまかすが、みどりは自分が悦子の代わりに寄り添ってもいいと告白をした。しかし下戸の浩司はビール一杯で酔いつぶれておりその告白を聞いてはいなかった。一方でいつも通り、徳さんが岬カフェを訪ねてきた。実は末期がんの宣告を受けていたのだが、入院する気はないという。悦子と街の医者の説得を聞かず、自分の寿命に対して無理に長生きする気はないという固い意志を示すのだった。岬カフェの外で座り、一人たばこを吸うタニさん。その様子を見て声をかけた悦子に、実は大阪への転勤が決まったことを報告した。寂し気に話すタニさんからはいつもの元気は見られなかった。
映画『ふしぎな岬の物語』の結末・ラスト(ネタバレ)
仕方なく入院することになった徳さん。悦子がコーヒーを持って見舞いに行くとそこにはみどりが寄り添っていた。徳さんに愛情をもってコーヒーを振る舞う悦子の姿を見て、みどりは弟子入りを申し出た。それは唯一の親孝行のためである。そんな中、浩司はタニさんと話し込んでいた。悦子にとって良き理解者であるタニさんと一緒になってほしいと思っていた浩司は、悦子へプロポーズするようタニさんを説得するのであった。タニさんは思い切って悦子を夕食に誘い、手料理を振る舞った。そこでは想いを伝えきれず、転勤が決まったということだけ伝えたのだった。翌日、タニさんが大阪へ向かうため乗船したフェリーを見送る街の住人達。横断幕を持ってタニさんへの感謝を伝えていた。大きく手を振る悦子の姿を双眼鏡で見つけたタニさん。これまでの感謝を大きな声で叫ぶのであった。
悦子と大事なお客さんとの別れは続く。徳さんが亡くなったのだ。遺体に寄り添うみどりと共に徳さんの最期の姿を見収めた悦子。徳さんから預かっていたみどり宛の手紙を渡すと、みどりは泣き崩れ父の偉大さを痛感していた。翌日、岬カフェに克彦と希美が再来した。それは亡き夫が虹の絵を返して欲しいと求めていると悦子に伝えに来たのだった。その話を聞いた悦子は、亡き夫の遺品を克彦親子に譲ることにする。呆然と海を見つめる悦子。不注意で火事を起こしてしまう。様子を見に来た浩司のおかげで、無事に悦子は助け出されたが、岬カフェは全焼。悦子は浩司の家へ身を寄せることになる。その夜、悦子はこれまでの生い立ちや迫りくる孤独感を浩司にぶつけた。寄り添うことしかできない浩司は、ただただ優しく抱きしめるのだった。夜明けを迎え、浩司は全焼した店からコーヒーミルを見つける。さらに、これまでの悦子の振る舞いは人を呼び、岬カフェを支援する列が絶え間なく続いた。その中には、以前泥棒に入った男性の姿もありお金を支援しようとしていた。しかし悦子は断り、店が直ったらまたコーヒーを飲みに来てほしいと約束を交わす。支援の甲斐あってプレハブでカフェを新たに建設。新装開店日、悦子は湧き水を汲みにいく船にみどりも誘った。そこで浩司はみどりが妊娠したことを報告する。心から浩司の幸せを喜ぶ悦子。三人の頭上には、夫が描いたような虹がかかっていた。
映画『ふしぎな岬の物語』の感想・評価・レビュー
静かなで穏やかな街並みがとても美しい一作。登場人物はいたってシンプルでわかりやすい。その分緩急は少ないものの、小さな街の暮らしに訪れる変化がとても丁寧に伝わってくる展開だった。吉永小百合演じる悦子は、繊細な人間で何に対しても誠実。女性としてこうありたいと思える上品さがにじみ出ていた。しかし、そんな悦子にも「孤独」は訪れる。少なからず見つけた共通点に心を揺さぶられる物語であった。(MIHOシネマ編集部)
みんなの感想・レビュー
これは素晴らしい映画です。わからない人には猫に小判ですね。