映画『アイデン&ティティ』の概要:1990年前後の空前のバンドブームに乗ってメジャーデビューした主人公がロックと売れ線の間で葛藤しながら自分にとって本当に大切なものを見つけていく。みうらじゅんの同名原作漫画を田口トモロヲ監督が映画化。2003年公開。
映画『アイデン&ティティ』 作品情報
- 製作年:2003年
- 上映時間:118分
- ジャンル:音楽、ラブストーリー、ヒューマンドラマ
- 監督:田口トモロヲ
- キャスト:峯田和伸、麻生久美子、中村獅童、大森南朋 etc
映画『アイデン&ティティ』 評価
- 点数:70点/100点
- オススメ度:★★★☆☆
- ストーリー:★★☆☆☆
- キャスト起用:★★★☆☆
- 映像技術:★★★☆☆
- 演出:★★★☆☆
- 設定:★★★☆☆
[miho21]
映画『アイデン&ティティ』 あらすじネタバレ(ストーリー解説)
映画『アイデン&ティティ』のあらすじを紹介します。※ネタバレ含む
映画『アイデン&ティティ』 あらすじ【起・承】
大学時代からバンド活動をしているギタリストの中島(峯田和伸)は世間のバンドブームに乗って「スピードウェイ」というバンドでメジャーデビューを果たしていた。しかし自分のやりたいロックとは程遠い「悪魔とドライブ」という曲が少し売れたのみで、鳴かず飛ばずの日々を送っている。
ボーカルのジョニー(中村獅童)はメジャーで売れることを優先すべきだと考えており、ベースのトシ(大森南朋)とドラムの豆腐(マギー)にこだわりはなかった。中島は自分の理想からかけ離れた音楽活動をするうちに、敬愛するボブ・ディランそっくりの幻を見るようになる。ディラン似の幻はハープを吹いて中島に色々と語りかけてくる。
中島には大学時代から付き合っている本命の彼女(麻生久美子)がいた。中島にディランを教えてくれたのも彼女であり、彼女の存在は大きな支えだ。しかし中島は悶々とした不安を感じるとすぐに他の女とセックスをしてしまい、自己嫌悪に陥るのだった。
全国放送のテレビ出演が決まり、メンバーは調子に乗るが思っていたほどの反響はない。売れ線を意識した曲作りも全く上手くいかず、バンドに不穏な空気が漂い始める。中島は完全に自分を見失いつつあった。しかも度重なる浮気が原因で彼女に別れを告げられる。
中島は彼女が自分にとっていかに大切な人かを思い知り、彼女へ謝りに行く。彼女もやはり中島のことが一番好きなのだと言うが、今の中島にはそれを信じることができなかった。
映画『アイデン&ティティ』 結末・ラスト(ネタバレ)
中島は彼女のことを想い、曲を作る。「アイデン&ティティ」というその曲はメンバーにも好評で、久しぶりにバンドは明るい空気になる。しかしバンドブームは過ぎ去り、アルバム発売は延期となってしまう。今こそやりたいロックをやろうと中島は思うが、事務所の社長からはヒット曲を作れと急かされる。
イラついていた中島はジョニーと衝突してしまう。メンバーはバンド解散の不安を感じ始める。そんな中、ジョニーが昔の彼女に刺されてしまう。
ジョニーは怪我で済んだが、せっかく決まっていたロックフェスやテレビへの出演は厳しくなる。しかしジョニーは自分の代わりに中島が歌えばいいと言ってくれる。中島は無理だと言うが“ロックはハートで歌うんだ”とジョニーに言われ、歌うことにする。
フェスの日。緊張している中島に彼女は“今夜は私のためだけに歌って欲しい”と言いに来る。その言葉に中島は救われ、新曲の「アイデン&ティティ」を熱唱する。観客の反応は上々だった。中島は本来の自分を取り戻しつつあり、彼女とも正直に向き合う。その日彼女は初めて中島の部屋に泊まってくれた。
バンドブーム時代に一発屋で終わったバンドを集めた「ネオバンド天国」というテレビ番組の公開放送の日。当然「悪魔とドライブ」を歌うことを求められていたが、中島はそれを無視して今の自分の正直な怒りをロックなサウンドに乗せてぶつけまくる。大人たちは怒り狂うが、客席のロックな若者たちだけは中島のロック魂を支持する。
その夜、ずっと中島の側にいたディラン似の幻が中島の歌を聴いて姿を消す。バンドは小さなライブハウスで、自分たちの好きなロックをやり始める。
中島は彼女にプロポーズする。彼女は絵の勉強をするためにアメリカへ留学することに決めていた。それでも2人は大丈夫だからと彼女はプロポーズを受けてくれる。
映画『アイデン&ティティ』 感想・評価・レビュー(ネタバレ)
映画『アイデン&ティティ』について、感想・レビュー・解説・考察です。※ネタバレ含む
観客を選ぶ作品
筆者も1980年代後半から1990年代前半にかけてのバンドブームを見届けてきた世代なので、すんなりこの作品世界に馴染める。さらにオリジナルバンドを結成してライブ活動をしながらメジャーデビューを目指していたので、主人公の中島やスピードウェイというバンドの苦悩と葛藤は痛いほどわかる。
大人である偉いさんから“もっとキャッチーな曲を作れないかな”と何度言われたことか。中島が売れ線を意識してものすごくダサい、全然ロックじゃない曲を作っては自己嫌悪に陥っているように、自分自身で全然かっこいいと思えない曲を作り、さらにそれを歌うというのは苦痛以外の何物でもない。しかし自分好みのロックな曲と歌詞は“言いたいことがよくわからないし、覚えにくい”と言われてしまう。そもそも偉いさんはロックなど聴いておらず、誰でもカラオケで歌えるような歌謡曲的なものを求めているので、分かり合えるはずがないのだ。物語後半で“この日本で本当のロックをやるなんて、しょせん無理がある”という中島のナレーションが入るが、その通りだ。
そこらへんをこの映画はうまく突いてくる。細かい設定にもリアリティーがあるので、自分のような人間には中島のしょっぱさや作品のテーマが違和感なく伝わる。個人的にはそこが面白かったが、やりたいことをやった結果、観客を選ぶ作品にはなっている。
ボブ・ディラン愛
原作者のみうらじゅんは相当マニアックにボブ・ディランを愛していることで有名だ。そういうわけでこの作品はボブ・ディラン愛に満ち溢れている。
主題歌もディランの「ライク・ア・ローリング・ストーン」だし、ディラン似の幻が中島に語りかける言葉もディランの詩から抜粋したもの。ディランは作詞活動でピューリッツァー賞特別賞を受賞しているほどの詩人なので、確かにこれがすごくいい。“生きていることは悲しいよ 生きていることはさわぎだよ”なんて、相当くる。ちょっと真剣にディランを聴いて、彼の詩をじっくり鑑賞したくなる。
エンドロールで流れる訳詞付きの「ライク・ア・ローリング・ストーン」も効いている。しかしディランの歌や詩がすごすぎて、作品がディランに食われているような気がしないでもない。作中でのオリジナル曲も陳腐に聴こえてしまう。
それでも大好きなディランをこれだけクローズアップできたことをみうらじゅんは喜んでいるに違いない。誰よりもこの作品に感動したのはみうらじゅん本人かもしれない。
峯田和伸の独特の存在感が最高に光る作品です。彼の存在を知ったのはGOING STEADYでしたが、俳優としてドラマ、映画に登場する彼を目にする度に本当に才能のある人だなあと思っていました。今作でも彼の柔らかい雰囲気とバンドの時の激しさのギャップがすごく好きです。可愛くてお茶目でかっこ悪いのに、最高にかっこいいんです。
峯田和伸ワールドを楽しんで欲しい作品です。中村獅童よりも峯田和伸が輝いています。(女性 30代)
映画『アイデン&ティティ』 まとめ
果たして映画としてどうなのかと聞かれると返答が難しい。ロックに加えてラブストーリーの要素も強くしているが、ここがもう一つ弱い。さらに全体の流れが悪い。面白いキャスティングを活かしきれていない印象も残る。
田口トモロヲ監督はこれが初監督作品だったので、いろいろと試行錯誤したのだろう。宮藤官九郎の脚本も含めて“バンドブーム”“ロック”“愛”さらに“ボブ・ディラン”という伝えにくいテーマをどうまとめるか、四苦八苦しているように見える。しかし監督2作目の「色即ぜねれいしょん」は、同じ匂いはするが(みうらじゅん原作だし)格段に良くなっているので、機会があれば見比べてみて欲しい。
「イカ天」「ニューロティカ」「人間椅子」「たま」「大島渚」。このキーワードにピンときた人は一度見る価値あり。いろいろクスッとくるし、懐かしいはず。
みんなの感想・レビュー
80年後半~90年代始めのバンドブームを知らない自分にとっては、あまり共感できなかった。
ただ、ラストの展開は好き。
音楽をやっていた人が撮った音楽映画はいいですね。