映画『ONCE ダブリンの街角で』の概要:最新作「シング・ストリート はじまりのうた」で、世界の映画好きを魅了した元ベーシストのジョン・カーニー監督による今作。彼の故郷でもあるダブリンを舞台にしたオリジナル脚本のこちらは、ブロードウェイでも舞台化され、来日公演も開かれています。
映画『ONCE ダブリンの街角で』 作品情報
- 製作年:2006年
- 上映時間:87分
- ジャンル:ラブストーリー、ヒューマンドラマ
- 監督:ジョン・カーニー
- キャスト:グレン・ハンサード、マルケタ・イルグロヴァ、ヒュー・ウォルシュ、ゲリー・ヘンドリック etc
映画『ONCE ダブリンの街角で』 評価
- 点数:90点/100点
- オススメ度:★★★★★
- ストーリー:★★★★☆
- キャスト起用:★★★★☆
- 映像技術:★★★★★
- 演出:★★★★☆
- 設定:★★★☆☆
[miho21]
映画『ONCE ダブリンの街角で』 あらすじネタバレ(ストーリー解説)
映画『ONCE ダブリンの街角で』のあらすじを紹介します。※ネタバレ含む
映画『ONCE ダブリンの街角で』 あらすじ【起・承】
ダブリンのストリートで歌うとある男。音楽に夢を見ながらも、最愛の恋人に去られ、傷心のままその日も歌っていました。しかし、そんな彼の歌声に足を止める通行人は少なく、掃除機の修理工と兼業しながら歌を続けていました。
そんな彼に話しかけた通行人のとある女。彼女はチェコ移民であり、掃除機が壊れていて困っていると言いました。修理を申し出ると、喜ぶ彼女。翌日の約束をして、二人は別れました。
翌日再会した二人は、またとりとめもない雑談に花を咲かせます。彼女は自身もシンガーであることを明かし、ふたりは彼女が定期的にピアノを弾いているという楽器店に出向き、演奏をします。曲は、男のオリジナルソング「Falling Slowly」。去ってしまった最愛の恋人に送った曲だと言うと、あきらめてはいけないと女は男を諭します。
お互いの音楽センスに共感し合った二人は、レコーディングを開始することを約束します。また、女に惹かれ始める男でしたが、彼女には夫がおり、生活も困窮していることを知り、友人として付き合うことを決めます。
映画『ONCE ダブリンの街角で』 結末・ラスト(ネタバレ)
レコーディングは順調に進み、お互いの友人や家族との仲も親密なものになっていきます。女もまた、彼に惹かれ始めていました。
男は女に、別居中の夫を今も愛しているのか尋ねると、彼女はチェコ語で男にはわからないように、「私が愛しているのは貴方よ」と伝えます。男がなんと言ったのか彼女に聞いても、彼女ははぐらすばかり。また、彼女の作った曲を聞き、彼は彼女にロンドンへの売り込みに同行するよう誘いますが、彼女は笑顔を見せるばかりでした。二人ならば、きっと夢がかなえられると繰り返す男。しかし彼女には家族があり、また移民という弱い立場こそが現実でした。
最後のレコーディングを終え、車のスピーカーで撮りたての曲を流しながら海へ向かう二人。最後に一緒に過ごしたいと申し出る彼に、女は良くないアイデアだと諭します。そしてふたりは別れ、男は曲を携えバンドメンバーとともにロンドンへ、女はダブリンへやってきた夫との同居を開始するのでした。
男は置き土産に、彼女にピアノをプレゼントします。彼女は喜び、彼をお思い出して思い出の曲をひとり弾くのでした。
映画『ONCE ダブリンの街角で』 感想・評価・レビュー(ネタバレ)
映画『ONCE ダブリンの街角で』について、感想・レビュー・解説・考察です。※ネタバレ含む
移民問題
ジョン・カーニー作品は今作が一本目であり、他の作品も日本で視聴可能なものはすべて鑑賞しましたが、今作が最高傑作だと思います。
彼は、どの作品でも一貫して、音楽づくりに夢を乗せる人々を描き続けています。さらに元音楽家の監督らしくすべてがオリジナル楽曲であり、毎回映画のテーマにとても合っている。さらに、そこに淡い恋物語をプラスして、多くの観客の共感と胸キュンを呼ぶわけです。
今作ではそこにさらに、「移民」という、イギリスが抱え続ける社会問題を加えてきたわけです。これがね、ぐっと来てしまうし、深い。作中名前を明かさないのも、とても良い。こんな悲恋が、もしかしたらダブリンにはありふれているのかもしれない。
作中では多くは語られませんが、好きな男からのプロポーズのような誘いまで断らせるほど、問題は深刻なのです。さらっと映る彼女の実家の様子からも、両親の厳しい表情からも、みすぼらしい身なりからも、彼女の立場が社会的に不安定であることが読み取れます。そのうえで、ミュージシャンを目指すことの厳しさ、男の「恵まれた」立場が見えます。結末は切ない。おそらく彼が送ったピアノは何年か後には質屋にあるのでしょう。そんな、リアルな想像ができてしまうほど、情景描写が優れているのです。
最高の楽曲
表題曲「Falling Slowly」を含め、劇中に使用される楽曲がいちいち素晴らしく、さらにテーマに沿っているのです。音楽家のカップルらしく、音楽で会話するバスのシーンなんて、特に胸に迫ります。
映画『ONCE ダブリンの街角で』 まとめ
ジョン・カーニー作品はどれも音楽が特に素晴らしいのですが、今作は特に、アコースティックな男女のデュオが優しく響き、切ない物語により一層花を添えていました。特に女性役のマルケタ・イルグロヴァさんの歌声が耳に残り、アカデミー歌曲賞もうなずける完成度でした。
悲恋で終わるからこそ、その一瞬のきらめきのような楽曲がより輝きを増すような気がします。アーティストは失恋を曲にするという話はよく聞きますが、やりきれない事態こそ、表現の源であるような気がするのです。
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