ドキュメンタリー作家として活躍するヤン・ヨンヒ監督が、在日コリアン2世である自身の経験を基に描くフィクション映画。北朝鮮に渡った兄が治療の為に一時帰国したことで揺れ動く家族の姿を描く。井浦新主演。
映画『かぞくのくに』 作品情報
- 製作年:2011年
- 上映時間:100分
- ジャンル:ヒューマンドラマ
- 監督:ヤン・ヨンヒ
- キャスト:安藤サクラ、井浦新、ヤン・イクチュン、京野ことみ、大森立嗣 etc…
映画『かぞくのくに』 評価
- 点数:90点/100点
- オススメ度:★★★★★
- ストーリー:★★★☆☆
- キャスト起用:★★★★★
- 映像技術:★★☆☆☆
- 演出:★★★★★
- 設定:★★★★☆
[miho21]
映画『かぞくのくに』 あらすじ(ストーリー解説)
映画『かぞくのくに』のあらすじを紹介します。
25年前、在日コリアン2世のソンホ(井浦新)は北朝鮮の帰国事業に参加し、単身海を渡った。当時の北朝鮮は「理想郷」とされており、総連の重役である父親も彼の背中を押した。しかしそれから25年間ソンホは家族の住む日本に帰国することは許されなかった。
しかしそんな中ソンホは脳腫瘍の治療を理由に一時帰国を許可され、25年ぶりに帰国した彼を父と母、そして妹のリエ(安藤サクラ)は温かく迎える。しかしソンホの側には常の監視役の男ヤン(ヤン・イクチュン)が付きまとい、旧友たちと久しぶりの再会を果たしても彼の心が休まることはなかった。ある夜、ソンホは上からの指示でリエを工作員に勧誘する。激高するリエだが怒りの矛先をどこに向ければいいのかも分からず、兄が遠くに行ってしまったことを実感するのだった。そして肝心の治療も3ヶ月という短い滞在期間では難しいことが判明する。何とか治療を受けさせるために奔走する家族だが、それを嘲笑うかのようにソンホの帰国が急遽決定する。理不尽な決定を理解できないリエをなだめて自由に生きることの大切を説くと、ソンホは北朝鮮へと戻っていくのだった。
映画『かぞくのくに』 感想・評価・レビュー(ネタバレ)
映画『かぞくのくに』について、感想・レビュー・解説・考察です。※ネタバレ含む
自由の象徴、スーツケース
ソンホが妹のリエと歩いていると、街角の鞄屋が目に入りフラっと中に入る。そこで見つけた大きなスーツケースをソンホは気に入ってリエに勧めるが、値段を見て店を出てしまう。共産主義の北朝鮮に住むソンホにはスーツケースがそんなに高額であることが予想できなかった。ソンホの感覚が資本主義のそれとずれていることを示すシーンでもあるが、それ以上に彼にとってスーツケースは自由の象徴として機能している。自由に国外に出ることができない彼にとってスーツケースは無用の産物であると同時に憧れでもある。それを購入できないということは、彼が自由を掴めないという結末を暗示しているのだ。物語は兄が買えなかったスーツケースを持って街を歩くリエのシーンで終わる。兄が掴めなかった自由を、自分が代わりに掴もうという強い意志が感じられるシーンだ。
『白いブランコ』
ソンホが古い友人と再会して歌うのがビリー・バンバンの『白いブランコ』だ。彼が日本にいた時に流行っていた歌で、歌いながら幸せだった過去を思い返す。そしてもう一度、去っていく際に車の中で同じ歌を口ずさむ。しかし今度は状況が違う。車の中には同志がいて、日本の歌を歌っている所を聞かれるわけにはいかない。そこで車の窓を開けると、走行音に紛れさせながらそっと車外に捨てるように歌う。もう彼がこの歌を歌うことはないだろう。家族が住むこの国への別れの歌として歌っているのだ。
あまり公にされることのない「北朝鮮」のお話。ニュースで取り上げられている情報しか知らない私にとって、この作品は非常に衝撃的で、言いようのない恐怖と悲しみを感じました。
日本人の拉致だったり、脱北者なんて言葉を耳にすることがありますが、それを聞いて想像していたことは、あくまで「想像」の範疇でしかないのだと知りました。
北朝鮮で暮らす人が国外に出ることは非常に難しく、一度足を踏み入れれば二度と戻ってこられないことだって普通なのだと感じ、なんとも言えないもどかしさが胸に残りました。(女性 30代)
映画『かぞくのくに』 まとめ
これまでも祖国と、そこに残された家族についてのドキュメンタリーを発表してきたヤン・ヨンヒ監督が自身の体験に基づいて制作した意欲作。さすがに体験を基にしただけあって随所にあるリアリティーが胸を刺す。中でも実の兄に工作員の勧誘を受けた際の妹の反応は真に迫るものがある。また細かい所だが、医者がソンホを韓国人と勘違いしたのを母親が必死に訂正するシーンにもハッとさせられる。確かに我々日本人からすれば、韓国人でも北朝鮮人でも大差ないと思ってしまうのではないだろうか。だがそこに彼らの大きなアイデンティティーがあるのだ。
演技面では井浦新の絶望を秘めた静かな演技と、安藤サクラの怒りの熱演が光る。手持ちでの長まわしというドキュメンタリー風の撮影方法もあって、登場人物がそこに息づいているかのようだ。
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