映画『グランド・ジョー』の概要:過去に傷を持つ南部男のジョーは荒んだ生活をしていたが、親に見放された少年と出会い、この少年を救いたいと思うようになる。リアリティのあるキャスティングが光るヒューマンドラマ。2013年公開のアメリカ映画。
映画『グランド・ジョー』 作品情報
- 製作年:2013年
- 上映時間:118分
- ジャンル:ヒューマンドラマ
- 監督:デヴィッド・ゴードン・グリーン
- キャスト:ニコラス・ケイジ、タイ・シェリダン、ゲイリー・プールター、ロニー・ジーン・ブレヴィンズ etc
映画『グランド・ジョー』 評価
- 点数:85点/100点
- オススメ度:★★★★☆
- ストーリー:★★★☆☆
- キャスト起用:★★★★★
- 映像技術:★★★★☆
- 演出:★★★★★
- 設定:★★★★☆
[miho21]
映画『グランド・ジョー』 あらすじネタバレ(ストーリー解説)
映画『グランド・ジョー』のあらすじを紹介します。※ネタバレ含む
映画『グランド・ジョー』 あらすじ【起・承】
48歳のジョー(ニコラス・ケイジ)はアメリカ南部で黒人労働者を集めて木を枯らす仕事の仕切り役をしている。昔はワルで服役経験もあったが仲間の信頼は厚く、今は飼い犬のフェイスと比較的静かに暮らしていた。
ある日ジョーの仕事場にゲイリー(タイ・シュリダン)という少年が働かせて欲しいと頼みに来る。ゲイリーの父親ウェイド(ゲイリー・ポールター)は仕事もせずに飲んだくれ、家族に暴力を振るう最低の親で、母親と妹のためにゲイリーが働く必要があった。ジョーは深い事情は一切聞かず、ゲイリーを雇ってやる。
ジョーは以前バーでトラブルとなったウィリーに肩を撃たれ怪我をする。ゲイリーは橋の上でウィリーに声をかけ、いきなり殴りかかってきたウィリーを殴り返す。執念深いウィリーに目をつけられることは、とても危険なことだった。
自分で怪我の治療をしていたジョーにコニーが助けを求めてくる。コニーは母親の男から性的虐待を受けており、ジョーの家において欲しいと言うのだ。ジョーは黙ってコニーを置いてやる。
ジョーはゲイリーが父親に暴力を振るわれ金も奪われていることを知っていたが、深く関わることを避けていた。しかし貯金してジョーのオンボロ車を買いたいと言って真面目に働くゲイリーに情が湧いてくる。一方ウェイドは酒欲しさに人殺しまでしていた。
映画『グランド・ジョー』 結末・ラスト(ネタバレ)
ジョーはウィリーがゲイリーの妹まで侮辱したことに怒り、再びウィリーを殴る。怒りの収まらないジョーは自分に吠え付く売春宿の犬をフェイスに噛み殺させ、留置場に入れられる。長い付き合いのアール警部の計らいでジョーは保釈されるが、彼はジョーのことを心配していた。
家に帰ったジョーはゲイリーと一緒にフェイスを探しに行く。ゲイリーのおかげでフェイスは無事に見つかり、ジョーはお礼に愛用のライターをゲイリーに贈る。ジョーは帰り道で会ったウェイドに“ゲイリーの邪魔をしたら誰だろうとぶちのめす”と警告する。
ジョーは新車を買い、前の車をゲイリーに譲ってやる。ゲイリーは大喜びで車に乗って帰るが、ウィリーにそそのかされた父親に車を奪われ、さらに母親と妹まで連れ去られる。“親父を殺す”と言うゲイリーをなだめ、2人はウェイドたちのいる橋向こうの空き地へ行く。
ウェイドは娘と妻に売春させようとしていた。現場へ来たジョーは銃でウィリーと仲間を脅して2人を救出し、ゲイリーは2人を車に乗せて助けを呼びに行く。ウィリーの仲間に撃たれたジョーはそいつとウィリーを殺し、橋の上にいるウェイドにも銃口を向ける。しかしウェイドは自ら橋の下に身を投げ自殺する。
アール警部と戻ってきたゲイリーは瀕死のジョーに抱きついて泣く。ジョーはそのまま静かに目を閉じる。ジョーのおかげで救われたゲイリーは、フェイスを引き取り、植林の仕事を始める。
映画『グランド・ジョー』 感想・評価・レビュー(ネタバレ)
映画『グランド・ジョー』について、感想・レビュー・解説・考察です。※ネタバレ含む
ジョーという泥臭いヒーロー
ジョーの過去は多くは語られないが、おそらく彼も過酷な環境で育ってきたのだろう。そのため崩壊した家庭で育ったゲイリーやコニーを放っておけない。“余計な感情を持ったら押し流される”と自戒しながらも、彼はゲイリーに深く関わり、結局は命まで落とす。
ジョーは荒みきった世界の不条理をずっと見つめてきた男だ。ジョーは不公平な現実の全てに怒りを感じている。それは壮絶な怒りだ。その怒りこそがジョーの正義感なのだが、それに従って行動することの危険性も彼は把握している。だから“自制心だけが頼りだ”と本人も言っている。しかし最後は底なし沼のような地獄からゲイリーを救うため、その自制心を捨てゲイリーの邪魔をする奴を殺す。道徳的には間違えているが、他に方法はないと私も思う。ずっとジョーを支えてきたアール警部もそれがわかっているから歯がゆいのだ。悲しいがそれが現実であり、ジョーはとても現実的な泥臭いヒーローだ。
素晴らしいキャスティング
この作品の見どころは、間違いなくキャスティングの素晴らしさにある。主演のニコラス・ケイジはもちろんだが、ゲイリーを演じたタイ・シュリダンの演技も見事だった。彼の演技には子役くさいわざとらしさがなく、実にナチュラルだ。ゲイリーという少年の芯の強さや健気さ、さらにまだ子供らしいあどけなさまで繊細に演じている。そのためジョーがこの少年をなんとかしてやりたいと思う気持ちに真実味を感じる。
さらに驚かされたのが最悪の親父ウェイドを演じたゲイリー・ポールターの存在感だ。一目見て、なんとリアリティのある俳優だ!とびっくりしたのだが、彼はこれが初めての映画出演で実生活でもアル中のホームレスだった。底知れぬ闇と圧倒的な孤独と虚無を感じさせる彼の迫真の演技はすごい。もはや、演技なのか素なのかもわからない。ゲイリー・ポールターは驚異の存在感を示し、撮影の2週間後に酒が原因で溺死している。鑑賞後にその事実を知って再び絶句した。“あんたは友だちかい?”というウェイドの最後のセリフが強烈に残る。こんな親父は死んで当然だと思いながらもなぜか憎みきれない。それは、彼もまたこの世界から見放され踏みつけにされてきた弱者だからだろう。人が生きるということはこんなにも悲しいものなのかと、その痛ましさに打ちのめされる。
寡黙で不器用だけど、温かくて人間味のあるジョーの優しさに救われた気持ちになるのと同時に、とことんクズなウェイドに物凄く腹が立ちました。
父親から逃げたいと思っても、金も車も無く逃げることすら出来ないゲイリーたちが本当に可哀想で、何も聞かずに仕事を与えてくれたジョーの不器用な優しさに涙が出てきました。
今まで最低なことをしてきたやつらが成敗されるラストは爽快でしたが、ジョーのことだけが残念で仕方ありません。(女性 30代)
映画『グランド・ジョー』 まとめ
すさまじいリアリティを持った映画だ。このリアルさは演出とキャスティングのうまさにある。ゲイリー・ポールター以外にも多くの素人が起用され、作品に真実味を与えている。例えばジョーのもとで働く労働者たちも本物の日雇い労働者たちで、これがまた画面に映える。素材の良さを引き出すデヴィッド・ゴードン・グリーン監督の演出が見事だ。
ジョーは邪魔になった木を毒薬で枯らす仕事をしていた。枯れた木は伐採され、その土地には若い苗木が植えられる。ジョーの死後、ゲイリーはこの苗木を植える仕事を始めている。それはジョーが作ってくれた陽の当たる場所でゲイリーが明るく生きていく未来を予感させる。多くのシーンやセリフが重たく残る、ヒューマンドラマの秀作だ。
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