映画『ブエノスアイレス』の概要:香港出身の人気俳優トニー・レオンとレスリー・チャンが、激しく愛し合うゲイ・カップルを熱演して話題になった。監督は国際的にも評価の高いウォン・カーウェイで、ブエノスアイレスを舞台に退廃的なゲイ・カップルの愛と苦悩の日々をリアルに描き出している。
映画『ブエノスアイレス』の作品情報
上映時間:98分
ジャンル:ラブストーリー
監督:ウォン・カーウァイ
キャスト:レスリー・チャン、トニー・レオン、チャン・チェン etc
映画『ブエノスアイレス』の登場人物(キャスト)
- ファイ(トニー・レオン)
- 香港在住のゲイの男性。ウィンと恋人同士。自由奔放でわがままなウィンに振り回され、何度も別れようとするが別れられない。旅行へ行ったアルゼンチンで旅費がなくなり、ブエノスアイレスで様々な職業を転々としてお金を稼ぐ。料理が得意なきれい好き。
- ウィン(レスリー・チャン)
- ファイの恋人。束縛を嫌う自由人で、危ない魅力がある。ファイのことを愛しているが、安定した暮らしができない。
- チャン(チャン・チェン)
- アルゼンチンへ旅行に来た台北の青年。いろいろと考えたくて一人旅をしており、ブエノスアイレスへ来た。聴覚が鋭く、声の違いで人の気持ちがわかる。旅費を稼ぐためにバイトをしていた中華料理店でファイと出会う。
映画『ブエノスアイレス』のネタバレあらすじ(ストーリー解説)
映画『ブエノスアイレス』のあらすじ【起】
ゲイ・カップルのファイとウィンは、何度も別れようとしたが別れきれずにいた。ファイはウィンの“やり直そう”という言葉に弱く、彼を断ち切ることができない。2人は気分転換に、香港を離れてアルゼンチンへ旅行に行く。
2人はアルゼンチンでしばらく過ごし、帰国する前にイグアスの滝を見に行くことにする。中古車を購入して滝を目指すが、途中で完全に道に迷ってしまう。痴話喧嘩を始めた2人はそのまま別れ、しばらく音信不通となる。
ファイは帰りの旅費を稼ぐため、ブエノスアイレスのバーでドアマンの仕事を始める。ある晩、ウィンが白人のゲイとそのバーへやってくる。ウィンはファイを挑発するように白人とディープキスをして、そのまま去っていく。ファイはそんなウィンが許せなかった。
しかしウィンは性懲りもなくファイの自宅アパートを訪ねて来て、“会いたかった”とファイに甘えてくる。ウィンのわがままに散々振り回されてきたファイは、激怒してウィンを突き放す。ファイが帰国できないのは、ウィンがお金を使ってしまったからだった。
映画『ブエノスアイレス』のあらすじ【承】
ウィンはファイがお金に困っていると知り、どこからか高級腕時計を持ってくる。しかしそれはヤバい代物だったようで、ウィンはひどい目にあわされる。ファイは時計を返して“もう会いにくるな”とウィンを拒絶するが、その後血まみれで訪ねてきたウィンを思わず抱きしめてしまう。ウィンは顔に加えて両腕を怪我しており、ファイは甲斐甲斐しくウィンの看病を始める。
ファイはウィンを自宅に置き、食事から着替えまでこまめに面倒を見てやる。しかしベッドで一緒に寝ることはせず、体の関係も拒んでいた。ウィンは何度もファイに迫るが、ファイは頑なだった。それでもファイはウィンのわがままを何でも許し、彼に尽くす。そしてやはり以前のように、2人は激しく求め合うようになる。
ファイは客と喧嘩をしてドアマンの仕事を辞め、中華料理店で働き始める。その店ではチャンという青年が皿洗いのバイトをしていた。チャンはいつも厨房から電話をかけるファイの声を聞き、恋人に電話をしているのだろうと思っていた。
チャンはとても耳が良く、声音の違いで人の心まで読めた。ある日、チャンがふざけてファイの電話に横槍を入れ、ウィンはファイの浮気を疑うようになる。そのことで2人はまた痴話喧嘩を繰り返すようになり、互いを罵り合う。
映画『ブエノスアイレス』のあらすじ【転】
ウィンは怪我が治ると退屈し始め、ファイの目を盗んで外出するようになる。ウィンの気ままな性格を知っているファイは不安を感じ、ウィンを束縛する。ファイはどんなにわがままを言われても、ウィンを愛していた。しかし自由人のウィンは、ファイの束縛を嫌う。
頻繁に外出するようになったウィンは、自分のパスポートがないことに気づく。ウィンのパスポートは密かにファイが隠しており、返してほしいと言っても返してくれない。ウィンは部屋中をひっくり返して探すが、パスポートはどこにもない。腹を立てたウィンはファイを殴り、そのまま出て行ってしまう。
孤独なファイを癒してくれるのはチャンだけだった。そんなチャンも旅立つことになり、2人は酒を飲む。チャンはウスワイヤという世界の果てへ行くことにしており、そこには悩み事を捨てられるという伝説の灯台があった。写真嫌いのチャンは、ファイに録音機を渡し、なんでもいいから声を吹き込んでくれと頼む。悲しみを打ち明けてくれたら、そのテープを灯台に捨ててくるからというチャンの言葉を聞き、ファイは泣き出してしまう。別れの時、ファイは想いを込めてチャンを抱きしめる。
映画『ブエノスアイレス』の結末・ラスト(ネタバレ)
ファイはしばらくブエノスアイレスで退廃的な暮らしを続けるが、このままではいけないと思うようになる。ファイは香港で会社の金を盗んでおり、それもあって帰りづらかった。しかしきちんとお金を返すつもりで父親に手紙を書き、稼ぎのいい屠殺の仕事を始める。
そんな時、またウィンから連絡がある。立ち直ろうとしていたファイは、ウィンに会うのが怖かった。ファイはウィンと暮らしたあの部屋を捨て、1人でイグアスの滝へ向かう。ファイのいなくなった部屋へ帰ってきたウィンは、ファイ恋しさに涙を流す。そしてイグアスの滝へ着いたファイも、ウィンのいない寂しさを感じていた。
ついに世界の果てにたどり着いたチャンは、ファイのテープを聞いてみる。しかしテープには何も吹き込まれておらず、かすかに泣き声のような音が聞こえるだけだった。チャイは急に故郷が恋しくなる。
その1ヵ月後、ファイは台北の街を歩いていた。香港の父親に会う勇気はまだ出なかったが、ファイは人生をやり直すつもりだった。ふと立ち寄った夜店の屋台で、ファイは灯台に立つチャンの写真を目にする。偶然にも、この店の経営者はチャンの両親だった。ファイは、会いたいと思う人には、いつかどこかでまた会えるのだと心の中で思う。
映画『ブエノスアイレス』の感想・評価・レビュー
冒頭にインパクトの強いシーンがあるため、その時点で心折れる人もいると思う。しかしそこを過ぎれば、実は普遍的な人と人との関係のあれやこれやのお話になっていく。
写真は苦手だから声を吹き込んでくれ、とテープレコーダーを渡されたトニー・レオンのシーンが何度観ても良い。そこから始まる旅の終わり感が味わい深い。そして光の中に飛び込んでいくようなラストシーンが、これまでの全てを昇華するかのように美しく愛おしい。(男性 40代)
LGBTが昔よりは一般的になってきた現代に、もう一度評価されるべき作品だと思う。激しくゲイカップルが愛し合うシーンは苦手の人もいるかもしれない。しかしそれも含めて美しいヒューマンドラマなのである。恋愛ドラマの側面で見ると、男女の恋愛話よりも切なく感じる。ゲイカップルだからこその障壁などを描くのが上手い。
今作が名作と言われる所以は、やはり主演の2人の演技であろう。トニー・レオンとレスリー・チャンは後世に残る名演技を披露している。この演技だけでも、今作を見る価値は十分にあるだろう。(男性 20代)
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