映画『フォックスキャッチャー』の概要:財閥の御曹司が五輪レスリングの金メダリストを射殺した、1996年の事件を映画化。監督は『カポーティ』のベネット・ミラー。カンヌ映画祭で監督賞を受賞、アカデミー賞5部門ノミネート。主要人物3人の鬼気迫る演技も高い評価を受けている。
映画『フォックスキャッチャー』の作品情報
上映時間:135分
ジャンル:ヒューマンドラマ、サスペンス
監督:ベネット・ミラー
キャスト:スティーヴ・カレル、チャニング・テイタム、マーク・ラファロ、シエナ・ミラー etc
映画『フォックスキャッチャー』の登場人物(キャスト)
- ジョン・デュポン(スティーブ・カレル)
- 化学メーカーを経営するデュポン財閥の御曹司。その財産でレスリングチーム「フォックスキャッチャー」を立ち上げ、マークとデイヴをチームに引き入れる。レスリングに関しては素人。金で何でも思い通りにしているが、母親からはいつも否定され、愛されなかった。友だちもおらず、常に孤独を感じて生きて来た。のちに金メダリストを射殺することとなる。
- マーク・シュルツ(チャニング・テイタム)
- 男子レスリングの選手。1984年のロサンゼルス五輪で金メダルを獲得したが、いつも兄の功績の陰に隠れてきた不遇の選手。華の無い性格のせいでその能力を認められず、困窮した生活を送っている。ジョンに多額の給料を提示され、フォックスキャッチャーに移籍する。
- デイヴ・シュルツ(マーク・ラファロ)
- マークの兄。元金メダリストで、マークのコーチも務めている。誰からも愛される性格で家族思い、コーチとしての能力も高い。弟のマークと違って華があり、脚光を浴びて来た。ジョンに対しあまりよい印象を抱いていない。妻と2人の子供がいる。
映画『フォックスキャッチャー』のネタバレあらすじ(ストーリー解説)
映画『フォックスキャッチャー』のあらすじ【起】
1987年。マーク・シュルツは大学でレスリングを教えていた。彼は3年前のロサンゼルスオリンピック男子レスリングで金メダルを取った選手にもかかわらず、その暗く華がない性格のせいで不遇の人生を送っていた。同じくレスリングの金メダリストでマークのコーチでもある兄・デイヴは、誰からも好かれ、コーチとしても成功していたが、マークはデイヴへの賞賛の陰に隠れて実力を認められずにいた。マークは困窮した生活を送っていたが、資金の問題で大学からも解雇されてしまう。
そんな折、マークは大手化学メーカーを経営するデュポン家の御曹司・ジョン・デュポンに呼び出される。ジョンは自分の財産を使って、レスリングジム「フォックスキャッチャー」を立ち上げたのだ。ジョンはマークに住む場所や多額の給料を提示し、自身のチームに引き入れる。窮乏していたマークはその提案に飛び付く。ジョンはコーチであるデイヴもチームに引き抜こうとしたが、デイヴは家族の生活を変えたくないと申し出を断った。マークはレスリングジムのそばのデュポン邸に住まわせてもらい、世界選手権に向けて練習を始める。
映画『フォックスキャッチャー』のあらすじ【承】
世界選手権で、マークは初日の試合に勝つ。マークはジョンをつれて、マークのコーチとして試合に来ていたデイヴの部屋を訪ねるが、デイヴの妻がジョンに敬意を払っていない様子なのを見て怒ってしまう。マークにとってジョンは救い主だった。デイヴは明日の試合相手について的確なアドバイスをし、そのおかげでマークは次の日の試合にも勝利した。ジョンはチームのメンバーと邸宅で祝賀会を開く。ジョンは馬術に入れ込みレスリングを理解しない自分の母親に不満を表し、馬術のトロフィーを捨てさせてしまう。
ソウルオリンピックが目前に迫っていた。ジョンは選手たちに喝を入れようとしたのか、トレーニング中に銃を発砲する。ジョンから提示額以上の給料を渡されマークは困惑するが、ジョンはそれがマークの実力に見合う額だと言って受け取らせる。今までデイヴの陰に隠れて実力を認めてもらえなかったマークは、これを機に兄からの独り立ちを考え始める。
マークはジョンに連れられ、パーティーに行くことになった。ジョンの用意したスピーチを必死に覚えるマークに、ジョンはコカインの吸い方を教える。金メダリストとして初めてもてはやされたマークはますますジョンに傾倒していく。それと反比例して、マークはデイヴと距離を置くようになっていく。
ジョンとのトレーニングをする一方で、マークはコカインを吸うようになっていた。ジョンはマークを友達だと考えていた。ジョンの今までの唯一の友達は、母の運転手の息子だった。しかし彼すら、母に雇われた偽の“友達”だったのだという。ジョンは母から愛されず、友人もいない孤独な人生を歩んできたのだ。
映画『フォックスキャッチャー』のあらすじ【転】
母親からレスリングを酷評され、ジョンは内なる怒りを溜め込んでいた。練習をせずテレビを見ているマークを見てジョンは怒り、いくら払ってでもデイヴをチームに引き入れようと考える。デイヴはジョンの申し出を受け入れ、家族と共にフォックスキャッチャーのジムの近くに越してくる。チームの皆が出迎えるが、マークだけがいなかった。デイヴは心配してマークを訪ねるが、マークの態度はよそよそしいものだった。デイヴは他の選手たちに稽古をつけるが、マークはそれを無視し1人でトレーニングをする。自分はデイヴなしでもやっていけるのにとイラついていたのだ。
ジョンの母親が練習を見に来た。ジョンは張り切って、コーチとして教える姿を披露するが、母親は無言でジムを去ってしまう。
1988年、オリンピック予選。マークは1試合目で負けてしまい、あと2試合で勝って取り戻さねばならなくなる。マークは自暴自棄になり、まだ計量があるのにホテルの部屋で自らを傷つけやけ食いをはじめる。それを見たデイヴは、平手打ちで叱咤しマークを抱きしめた。デイヴは1人でもがいていたマークを受け止め、兄弟の絆は回復した。暴食したせいで体重がオーバーしてしまったが、デイヴとのトレーニングでなんとか時間内に体重を戻すことができた。ジョンは離れたところから2人のトレーニングを見つめていた。
マークは試合に勝利しオリンピック出場を決めたが、ジョンの姿はなかった。母親が急逝し、自宅へ戻っていたのだ。ジョンは母の愛した馬たちを解き放つ。
マークは再びデイヴのコーチを受け始めた。そこへジョンがテレビカメラを引き連れやってきた。ジョンは自身のコーチとしてのドキュメンタリーを制作中だ。マークのことを一番知っているようにデイヴに話すジョンだったが、マークに無視されてしまう。
映画『フォックスキャッチャー』の結末・ラスト(ネタバレ)
ジョンはレスリング協会への寄付と引き換えに、フォックスキャッチャーのレスリング場をオリンピック代表チームの練習場にさせる。ジョンから気持ちが離れたマークはチームを去りたがったが、デイヴは家族のためにもこのチームでやっていくつもりでいた。ジョンは自分もコーチとして試合中コーナーに入りたいと要望する。デイヴはそれを受け入れる代わりに、マークがチームを辞めても、自分が在籍する限りマークの収入を保証してくれるよう約束させる。
ソウルオリンピックでマークは敗退した。マークはひとり、フォックスキャッチャーとデュポン邸を去る。
孤独を感じたジョンは、デイヴの住まいを訪ねる。しかしデイヴは「今日は休日だ」と迷惑そうに応対してしまう。とたんにジョンの笑顔がこわばり、彼は何も言わずその場を立ち去ってしまった。帰宅したジョンは自分のドキュメンタリーを見ていた。しかしその目はうつろだった。
デイヴの家にジョンの車が近づいてくる。ジョンは彼の妻が見ている前で、デイヴに向け何発も発砲し殺害した。
デイヴは死後レスリングの殿堂入りとなった。マークはソウルオリンピック後引退し、現在はレスリング教室を開いている。デイヴを殺害したジョンは、2010年獄中で死亡した。
映画『フォックスキャッチャー』の感想・評価・レビュー
スティーブ・カレルのコメディを封印した演技が不気味で、静かな迫力に満ちていた。表情が乏しく淡々とした語り口が、狂気を感じさせるのだ。チャニング・テイタムは本当にレスリング選手のような肉体で、暗鬱とした表情も板についていた。対照的なマーク・ラファロの華がある演技は、明るい性格がにじみ出ているようでよかった。
音楽を排した演出が、緊張感を増幅させていた。自分の中に抱える精神的な問題が、人間関係にも影響し、ついには殺人にまで繋がるストーリーが実話ということに驚愕する。(女性 40代)
この作品は実際に起きた金メダリストが殺された事件を基に作られた話になっていて、全体的な雰囲気はとても重いものだった。俳優陣の演技がかなりリアルで、淡々と物語も進んでいくので登場人物のヒリヒリとした感情が伝わってきて、だんだんと観ているほうも胸が苦しくなるほどだった。
ラストが衝撃すぎて本当に起きた話だと考えると背筋が一気に冷たくなる感覚になり、信じたくないほどの恐怖を感じた作品だった。(女性 20代)
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