映画『海炭市叙景』の概要:北海道にある架空の町、海炭市。そこに暮らす人々は、それぞれに事情を抱えながら必死に生きていた。佐藤泰志原作、熊切和嘉監督による五つの物語で構成されたオムニバス作品。
映画『海炭市叙景』の作品情報
上映時間:152分
ジャンル:ヒューマンドラマ
監督:熊切和嘉
キャスト:谷村美月、竹原ピストル、加瀬亮、三浦誠己 etc
映画『海炭市叙景』の登場人物(キャスト)
- 井川颯太(竹原ピストル)
- 海炭市に住む男。造船所で働いていたが、リストラされて職を失う。早くに両親を亡くし、妹の帆波と二人で暮らしている。船を愛し、船が人生の全て。
- 井川帆波(谷村美月)
- 海炭市に住む女。颯太の妹。颯太と一緒に暮らし、仕事をしている。両親を亡くし、颯太だけが頼り。
- トキ(中里あき)
- 海炭市の住民。70歳の老女で、市場で野菜を売っている。地域開発のために市役所から立ち退きを説得されるも、断固としてそれを拒否する。猫を飼っている。
- 工藤まこと(山中崇)
- 海炭市に住み、市役所に勤める男。地域開発のため、トキに立ち退きを説得する。トキとは元々知り合いで、トキの心情も理解している。
- 比嘉隆三(小林薫)
- 海炭市のプラネタリウムで働く男。家族の関係は冷えきっていて、水商売をする妻の浮気を心配している。嫉妬深い男。
- 比嘉春代(南果歩)
- 隆三の妻。水商売をしている。夫婦関係は悪く、隆三に嘘をついて男と遊んでいる。商売柄、いつも派手な格好をしている。
- 牛島晴夫(加瀬亮)
- 海炭市にあるガス屋の若社長。父親の後を継ぐも、会社の成績は良くない。態度がでかく、浮気をするなど素行も悪い。再婚相手の勝子とも上手くいっておらず、アキラへの虐待を知って手を挙げる。
- 牛島勝子(東野智美)
- 晴夫の再婚相手。亭主関白の晴夫に、日頃から厳しく当たられる。そのストレスから、血の繋がっていない息子のアキラを虐待する。弱々しい性格だが、あまりのストレスで暴れだす。
- 萩谷博(三浦誠己)
- 浄水器のセールスマン。海炭市出身で、東京で仕事をしている。仕事で短期間海炭市に戻ってくる。父親を嫌っていて、会いたくないと口にしている。無口で、覇気がない。
- 萩原達一郎(西堀滋樹)
- 海炭市で、路面電車の運転手として働く男。博の父親。博から嫌われている。博と同様、無口であまり元気がない。
映画『海炭市叙景』のネタバレあらすじ(ストーリー解説)
映画『海炭市叙景』のあらすじ【起】
北海道にある海炭市。そこに、井川颯太と帆波兄妹が住んでいた。両親を早くに亡くし、兄妹は二人暮らしをしている。颯太は、造船所に勤めている。
ある日、老朽化が原因だといって、一部の造船所が閉鎖されることが決まる。それに伴い、大規模なリストラが行われるという噂が立つ。颯太の同僚は、自分には船が全てだと言ってストライキを決行する。颯太も、そのストライキに参加する。
船が全てだと言っていた同僚が、自分の昇進を条件にストライキを終わらせる。颯太は、怒りからその同僚に殴りかかろうとする。結局、颯太は職を失ってしまう。
大晦日の日、颯太と帆波が初日の出を見るために山へと登る。多くの人達と一緒に、山の上から初日の出を眺める二人。
二人は一人分のロープウェイの料金しか持っておらず、帆波だけがロープウェイに乗ることになる。颯太は歩いて帰ると言って、帆波を見送る。
先に下へと降りた帆波。しかし、いくら待っても颯太が降りてくることはなかった。
映画『海炭市叙景』のあらすじ【承】
70歳になるトキという老女。トキもまた、海炭市に住む一人。トキは古い家に住んでいて、市場で野菜を売って生計を立てている。トキはその古い家で、グレという猫を飼っている。
市役所に勤める工藤まことという男が、トキの家を訪れる。市は地域開発を目指しており、トキに家を立ち退いて欲しいと思っていたのだ。トキは、まことの説得を断固として拒否する。後日、飼い犬のグレがどこかへと姿を消してしまう。
比嘉隆三という男は、海炭市のプラネタリウムで働いている。人気のないプラネタリウムには、今日も一人のお客しかいなかった。
仕事を終えて帰宅する隆三。家には、派手な洋服を着た妻の春代がいた。水商売をしている春代は、派手なメイクを終えた後、仕事のために家を出る。行き違いに帰ってきた息子は、隆三を無視して自分の部屋へと向かう。
ある日、春代が一日中帰ってこなかった。隆三は春代に、携帯を見せろと言って迫る。春代は携帯を差し出すも、見たらおしまいだと隆三に告げる。
映画『海炭市叙景』のあらすじ【転】
息子を迎えに学校へと車を走らせる隆三。隆三と息子の関係も冷えきっている。隆三は息子に、母親の仕事をどう思っているか尋ねる。しかし息子は、自分達で解決してくれと返事をするだけだった。
その夜、隆三は春代の店に電話をかける。しかし、忙しくて電話に出られないとお店の人間に断られる。隆三はすぐに家を出て、春代のお店へと車で向かう。
道中、男と一緒にいる春代を乗せたタクシーとすれ違う隆三。隆三は車の中で、家族三人が幸せだった時のことを思い出していた。
父親からガス屋を継いだ牛島晴夫は、海炭市の得意先を萩谷博という浄水器のセールスマンと一緒に回っている。晴夫は、新規事業として洗浄機を扱おうとしていたが、なかなか上手くはいかなかった。その苛立ちもあり、晴夫は妻の勝子に厳しく当たる。
勝子は、息子のアキラを虐待していた。勝子は晴夫の再婚相手であり、アキラとは血が繋がっていなかったのだ。その頃晴夫は、旧友達と夕食を共にしていた。その場には、晴夫の浮気相手もいた。
映画『海炭市叙景』の結末・ラスト(ネタバレ)
晴夫は父親に、浄水器を扱うのは終わりにしろと忠告される。家に帰った晴夫は、勝子がアキラに虐待していることに気づく。晴夫は勝子を殴りつける。血を流しながら、今度は勝子が晴夫の浮気を責める。
仕事で足を怪我して帰ってきた晴夫。部屋に戻ると、アキラが布団を被って泣いていた。またしても勝子が暴れ、アキラに暴力を振るったのだ。晴夫はアキラに、おじいちゃんのところへ行こうかと言う。
路面電車の運転手である萩原達一郎が、息子の博を見かける。博の様子は、元気があるようには見えない。
年末のある日。博は場末のスナックで飲んでいた。博は海炭市生まれで、東京で暮らしていた。洗浄機を売るセールスマンで、新規事業を立ち上げた晴夫の会社でセールスをするために短期間町に戻って来たのだ。博は、父親のことが嫌いだからここに戻って来たくなかったと話す。
達一郎の運転する路面電車は、今日もいつものように町を走っている。電車には、それぞれに悩みを抱えた人間達が乗っている。
博と達一郎が偶然に再会する。博は達一郎とバスに乗り、翌日東京に戻ることを伝える。博は、また戻ってくると達一郎に言う。
フェリー乗り場に着いた博。テレビからは、颯太が事故死したというニュースが流れている。船に乗った博は、遠ざかる町をじっと眺めている。
映画『海炭市叙景』の感想・評価・レビュー
本作は、北海道をモデルにした架空の町海炭市を舞台に、それぞれ事情を抱えながら必死に生きる人々を描いたヒューマンドラマ作品。
登場人物たちは皆孤独で、暗くて静かな雰囲気。
しかし、人々がもがき苦しみながら生きる生活の場として函館という土地がとても魅力的に映っていた。
また、本当にその土地に身を置いているかのような俳優陣の自然な演技が素晴らしかった。
そして、そんな人たちにも希望の光が差し込むような終わり方も好みだった。(女性 20代)
北海道にある架空の街「海炭市」に住む人達の物語で作られたオムニバスムービー。
北海道という場所だけははっきりしているのでイメージしやすく、映像の中に寒さや冷たさ、人の温かさなど「温度」を感じることができました。
それぞれが悩みを抱え、それでも生きていかなければならない苦しみや辛さ。しかし、その痛みを感じることこそが「生きている」という事なのだと教えてくれる作品でした。(女性 30代)
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