映画『白蛇抄』の概要:水上勉の同名小説を伊藤俊也監督が映画化した作品。悲しい女の業を官能的に描いており、物語も映像も完全に大人向け。妖艶な魅力を放つ主人公を、体当たりで演じ切った小柳ルミ子が、日本アカデミー賞最優秀主演女優賞を受賞した。
映画『白蛇抄』の作品情報
上映時間:118分
ジャンル:ヒューマンドラマ、サスペンス、ラブストーリー
監督:伊藤俊也
キャスト:小柳ルミ子、杉本哲太、仙道敦子、鈴木光枝 etc
映画『白蛇抄』の登場人物(キャスト)
- 石立うた(小柳ルミ子)
- 一昨年から福井の山間部にある寺に居着いている女性。妖艶な魅力があり、周囲の男たちを狂わせていく。悲しい過去を持ち、寺の裏にある滝壺に身投げして、住職に救われた。京都にいたので、京都弁を話す。
- 加波島昌夫(杉本哲太)
- 寺の住職の息子。母親は住職の愛人だったが、1度も寺の敷居をまたがせてもらえないまま、昌夫が小学5年生の時に他界した。現在高校3年生で、うたに激しい性欲を抱いている。母親に冷たかった住職とは仲が悪い。
- 鵜藤まつの(仙道敦子)
- 母親とうたが姉妹のようにして育った縁で、寺の養女になった中学生の少女。父親は何年も前に蒸発し、母親もこの春亡くなったので、うたが引き取ることになった。昌夫に恋心を抱く。
- 村井(夏木勲)
- 警部補。滝壺から救出されたうたに一目惚れし、彼女と一緒になることを望んでいる。妻とは離婚しており、現在は1人暮らし。うたにしつこく付きまとい、彼女の過去を調べる。
- 加波島懐海(若山富三郎)
- うたが居着いた寺の住職。うたが来てから病に倒れ、体が不自由になっているが、彼女への性欲だけは衰えない。うたに見捨てられることを何よりも恐れている。
- さわ(鈴木光枝)
- 寺の住み込み家政婦をしているお婆さん。うたが来てから全てがおかしくなってしまったと思っており、うたを嫌っている。
- たね(北林谷栄)
- うたの育ての親であり、まつのの祖母。産まれてすぐに孤児となったうたを、自分の娘と一緒に育てた。寂れた農村で暮らしている。
映画『白蛇抄』のネタバレあらすじ(ストーリー解説)
映画『白蛇抄』のあらすじ【起】
中学生のまつのは、母親が亡くなって孤児になったため、福井県の山間部にある寺の養女に入る。まつのの母親と姉妹のようにして育った石立うたが、この寺の住職の内縁の妻になっており、まつのを引き取ってくれた。バス停まで迎えに来てくれた住職の息子の昌夫は、まつのをバイクに乗せて寺まで送り、すぐにどこかへ行ってしまう。
うたはまつのを歓迎し、住職に紹介する。老齢の住職は去年倒れてから体が不自由になり、ほとんど寝たきりの生活を送っていた。うたは甲斐甲斐しく住職を介護し、住職もうたに甘えていた。
寺の裏にある大きな滝は、心中の多い滝として有名で、今日も若い女の水死体があがる。現場へ来た警部補の村井は、連れの男の死体もあるはずだと考え、捜索を続ける。
寺で住み込み家政婦をしているさわは、まつのと2人で夕食を食べながら、この寺の事情を話してくれる。昌夫は住職が愛人に産ませた子供で、小学5年生まで母親と暮らしていたが、母親が死んだため、住職に引き取られた。高校3年生の昌夫は、すでに出家を済ませており、高校を卒業したら本山へ修行に行く。うたは一昨年からこの寺に居着き、住職の妻のようになっていたが、正式な夫婦ではなかった。
夜、寺にはうたの喘ぎ声が響き、まつのは眠れない。住職は毎晩のようにうたの体を求め、その様子を昌夫が覗き見していた。うたは決して悪い人間ではなかったが、男を狂わせる妖艶な魅力があった。
映画『白蛇抄』のあらすじ【承】
滝壺から、男の水死体と共に真っ白な腹帯が発見される。腹帯の先には何かが巻き付けられており、村井はその腹帯に興味を示す。
まつのは新しい中学で新体操部に入り、学校にも馴染む。そんなまつのを村井が訪ねてきて、うたのことをいろいろと聞いてくる。しかし、まつのはうたの過去や母親との関係など、何も知らなかった。
まつのは、一昨年にうたがあの滝壺に身投げして、住職に救われたことを友人から聞かされる。この町の人々は、うたが色仕掛けであの寺に居着いたと噂しており、まつのはショックを受ける。
帰宅したまつのは、住職に愛撫されているうたを目撃し、驚いて逃げようとする。すると、どこからともなく昌夫が現れ、「見ろ!」と命じられる。まつのが嫌がると、昌夫は彼女を羽交い締めにして、無理矢理キスをする。
うたの過去を調べていた村井は、うたの育ての親であるたねから話を聞く。この村に流れてきたうたの母親は、神社でうたを出産した直後に亡くなり、たねが我が子(まつのの母親)と共にうたを育てた。年頃になったうたは、就職のため京都へ行き、それきり村には帰っていなかった。
うたは村井に呼び出され、彼の家へ行く。村井は、京都へ行ってからのうたの過去を詳細に調べていた。就職したレーヨン工場が閉鎖になり、ホステスになったうたは、店のバーテンダーと一緒になる。2人は雑居ビルの4階に小さな店と住まいを借り、貧しいながらも幸せに暮らしていたが、3年前の大晦日に他の店から火が出て、うたは夫も店も失った。
村井は、滝壺に身投げしたうたを救出した時から彼女に惚れており、寺を出て自分と一緒になって欲しいとうたに迫る。うたはその申し出を断るが、村井は諦めていなかった。
映画『白蛇抄』のあらすじ【転】
うたが帰宅すると、昌夫が待ち構えており、どこへ行っていたのかと詰問される。興奮した昌夫が住職にまで暴力を振るったので、うたは思わず「出て行って!」ときついことを言ってしまう。昌夫は寺を飛び出し、うたは自分の発言を深く後悔する。
翌日、村井が寺までうたを訪ねてくる。村井は滝壺の上にうたを連れて行き、昨日の続きを話し始める。実は、あの火事の時にうたは妊娠しており、早産で未熟児を産んでいた。赤ん坊は産まれて3日後に亡くなり、うたはその子の死体を抱いて病院を飛び出す。その後、うたは我が子の死体を石膏で固め、それを腹帯で自分の体に巻きつけて、滝壺に身投げした。村井はその石膏の塊を見せ、出方次第では目をつぶってもいいのだとうたを脅迫する。うたは我が子を取り返そうとして村井ともみ合いになり、石膏の塊は滝壺に落ちてしまう。
村井はそのままうたをレイプしようとするが、密かに様子を伺っていた昌夫に後頭部を殴打され、気を失う。うたは昌夫に手を引かれ、山の中へと逃げる。2人は村井が死んでしまったと思っていたが、山を下りる村井を目撃し、ホッとして笑い転げる。その直後、激しい雨が降り始めたので、2人は山の物置小屋へ逃げ込む。そして、2人はそこで結ばれる。
我に返ったうたは、昌夫をこんな道に引きずり込んでしまったことを深く後悔する。村井の話を聞いていた昌夫は、うたが死んだ赤ん坊のお守りをするつもりで寺に残っていることに気づき、自分を可愛がればいいと言ってやる。うたは、自分の罪深さを嘆きつつも、そんな昌夫が愛しかった。
うたの留守中に住職が倒れ、話すことさえできない状態になる。うたと昌夫は、住職が完全に寝たきりになってしまったのをいいことに、寺の中で逢瀬を重ねる。そんな状態がしばらく続いたある日、動けないはずの住職が逢引場所まで這ってきており、驚いた昌夫が住職を蹴り飛ばす。後方に倒れた住職は、そのまま息絶える。うたと昌夫は急いで住職の死体を布団まで運び、住職の死因を偽装する。
映画『白蛇抄』の結末・ラスト(ネタバレ)
住職が亡くなったので、さえは息子の所へ行き、昌夫は高校を辞めて本山へ入ることになる。うたも寺を出て、落ち着いたらまつのを引き取るつもりだと、本山の住職に伝えておく。
昌夫が京都へ行く日、昌夫に恋をしていたまつのは、部屋から出てこなかった。うたは京都まで昌夫を送り、2度と会わないつもりで昌夫と別れる。
昌夫は修行を積んで立派な住職になるつもりだったが、うたへの恋しさが募り、何度も電話をかけてくる。うたは心を鬼にしてそれを拒んでいたが、内心はうたも昌夫が恋しくてたまらなかった。ある晩、恋しさに負けて昌夫の電話に応じてしまったうたは、昌夫が泣きながら「助けてくれ、お母ちゃん」と言うのを聞いて、愕然とする。うたは茫然自失の状態で滝壺に入り、亡くなった息子のことを思い出す。
住職の死因に不可解な点があることに気づいた村井は、再びうたを呼び出す。昌夫のことで疲れ切っていたうたは、村井とホテルへ入ろうとするが、直前になって逃げる。
翌朝、ボロボロの状態で寺へ戻ったうたは、まつのの一途さに触発され、京都へ向かう。同じ頃、托鉢の修行に出ていた昌夫は、うたへの想いを抑えきれなくなり、修行の場から逃げ出していた。昌夫と行き違いになったうたは、絶望して帰路につく。その途中、激しい吐き気に襲われ、自分が妊娠していることに気づく。
うたは死のうと考え、滝壺に入る。そこへ村井がやって来て、うたを止める。昌夫とうたの関係に気づいた村井は、昌夫が住職を殺したのかとうたを問い詰める。うたは狂人のように「誰にも言うたらあかんえ、みんな可愛いうちの子や」と言いながら、村井を滝壺に落として殺害する。
寺へ戻った昌夫は、血眼になってうたを探していた。そこへ、うたが帰ってくる。村井を殺害してしまったうたは、その事実を昌夫に隠し、彼を京都へ返そうとする。しかし、昌夫はどうしても納得しない。うたは密かに手斧を握り、寺の本堂へ逃げ込む。昌夫もうたを追いかけて本堂へ入り、自殺しようとしていたうたともみ合いになる。うたは昌夫に殺してもらうつもりで、「あんたなんか嫌いになったんや」と叫ぶ。激昂した昌夫は、うたの胸元に手斧を振り下ろす。
その後、2人を探して本堂へ入ったまつのは、折り重なるようにして死んでいるうたと昌夫を発見する。昌夫はうたを殺害した後、自ら首を掻っ切って死んでいた。まつのは泣きながら本堂に火をつけ、燃えさかる寺を見つめながら泣き崩れるのだった。
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