映画『アイム・ノット・ゼア』の概要:6人の俳優が、さまざまな時代のボブ・ディランのイメージを再現する異色映画。中でも、女優のケイト・ブランシェットが自分を「僕」と呼び、フォークシンガーとして苦悩している時代のディランを好演している。監督は、1950年代のアメリカを再現した『エデンより彼方に』などを手掛けたトッド・ヘインズ。
映画『アイム・ノット・ゼア』の作品情報
上映時間:136分
ジャンル:ヒューマンドラマ
監督:トッド・ヘインズ
キャスト:クリスチャン・ベイル、ケイト・ブランシェット、マーカス・カール・フランクリン、リチャード・ギア etc
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映画『アイム・ノット・ゼア』の登場人物(キャスト)
- ジャック / ジョン牧師(クリスチャン・ベール)
- ジャック・ロリンズは、1960年代前半に、「プロテスト・ソング」と言われるフォークソングの領域を確立、その第一人者として華々しい活躍を遂げていた頃のボブ・ディランがモデル。さらにジョン牧師は、それから10年以上後、聖書の世界が楽曲に色濃く反映されていた頃のディランの姿を投影している。
- ジュード(ケイト・ブランシェット)
- 1960年代半ば、ビートルズなど英国音楽の影響を受け、エレクトリック楽器を取り入れた楽曲を発表していた頃のディランがモデル。従来のアコースティックのファンからは「裏切り者」などの評価も受けたが、斬新な音楽と捉えるファンもいて、賛否両論を巻き起こした。女優のケイト・ブランシェットがディランになりきって演じている。
- ウディ(マーカス・カール・フランクリン)
- デビュー前のディラン。ウディ・ガスリーとは、大恐慌時代の前後に活躍した黒人フォーク歌手で、ディランの音楽に大きな影響を与えた。そのウディと同じ名を名乗る黒人少年が、若き日のディランとして描かれている。
- ビリー(リチャード・ギア)
- 1966年、アメリカ北東部のウッドストックでオートバイ事故に遭った後、隠遁生活を送っていた頃のディランの姿。ビリー・ザ・キッドは西部開拓時代のアウトローの名前だが、隠遁生活を終えて復活したディランのアルバム名にもなっている。
- ロビー(ヒース・レジャー)
- ジャック・ロリンズの記録映画『砂の粒』に主演した俳優という設定。しかし、この頃のディランの私生活を反映している。フランス人画家のクレアと結婚、2人の娘をもうけた後に離婚する。
- アルチュール(ベン・ウィショー)
- アルチュール・ランボーは、19世紀のフランスの詩人で、ディランに大きな影響を与えた。同じ名のアルチュールが作品中に時折現れ、インタビューに答えて、当時のディランの思想を代弁している。
- クレア(シャルロット・ゲンズブール)
- ロビーの妻でフランス人画家。ロビーとの間に2人の娘をもうけるが、夫婦仲は徐々に悪化していき、離婚。実際にディランと結婚し、後に離婚訴訟を起こした、モデルのサラ・ラウンズをイメージした設定と見られる。
- キーナン・ジョーンズ / ギャレット(ブルース・グリーンウッド)
- ジュードに執拗にインタビューして、その実態を暴き出そうとするBBCのレポーター。ジュードを「自意識過剰な人間」と評し、彼の出自などをテレビで暴露する。
- アリス・フェビアン(ジュリアン・ムーア)
- ジャック・ロリンズの才能を早くから見抜き、後にジャックと共にセッションも行うようになるフォーク歌手で活動家。作品中では、インタビューでジャックのことを語っている。実際にディランと交流のあったジョーン・バエズがモデルと言われている。
映画『アイム・ノット・ゼア』のネタバレあらすじ(ストーリー解説)
映画『アイム・ノット・ゼア』のあらすじ【起】
タイトルバックに、“ボブ・ディランの音楽と、彼の多様な人生に触発されて”と流れるように、この作品は伝説的フォークシンガー、ボブ・ディランの人生のさまざまな面が、異なる人物によって演じられる。
アルチュールは、取調室のような部屋で、プロテスト・ソングをやめた理由を問われていた。彼はアメリカを放浪しながら音楽を学んだ頃のことを話し始める。
1959年。11歳の黒人少年、ウディ・ガスリーは、ギターケースを抱えて貨物列車に飛び乗った。彼のギターケースには、“This Machine Kills Fascists(ファシストを殺すマシン)”と書かれている。ウディは、歌手になるために貨物列車で放浪の旅を続けていた。
その後、ウディは黒人シンガーの家で、その一家と共に演奏をしていた。ウディは、その家の婦人から、「今を生きるのよ。今の時代を歌いなさい」と励まされ、その言葉が後の彼の音楽人生に大きな影響を与える。
翌朝、ウディはベッドに感謝の気持ちを書いた手紙を残して、再び旅に出る。
映画『アイム・ノット・ゼア』のあらすじ【承】
1960年代、アメリカはフォーク・ソング・ブームの時代を迎え、その頂点で活躍していたのが、NYタイムズに“良心の吟遊詩人”と讃えられたジャック・ロリンズだった。
フォーク歌手で活動家のアリス・ファビアンが、ジャックについて語る。アリスは1962年にジャックと出会うが、その時の印象は、「伝統的なフォークの時代に『現代の世相』を織り込んでいた」というものだった。そして、「自分が言いたかったことを、すべて言葉にしてくれた」とも。
時に反体制的、社会的なジャックの楽曲は、“告発歌”“プロテスト・ソング”などとも評された。しかし1963年、ジャックはそのプロテスト・ソングを突然辞めてしまう。「フォークは体制側についてしまった」と言い残して。
その後、ジャックはあるパーティーでワインを飲み過ぎてしまい、スピーチでジョン・F・ケネディ大統領の暗殺犯と言われるオズワルドに共感を覚えるという発言をする。会場からは大ブーイングが起き、その後彼は社会からバッシングを浴びて、引退してしまう。
ジャックの記録映画『砂の粒』に主演した若手俳優のロビー・クラークは、1964年、ケネディ大統領の埋葬の直後に、フランス人画家のクレアと出会い、結婚する。しかしその後、アメリカがベトナム戦争の泥沼にはまっていく中で、2人の夫婦関係には擦れ違いが生じていく。
一方、黒人少年のウディは、いつものように乗り込んだ貨物列車の中で、ならず者の集団に襲われ、ギターを奪われそうになる。ギターを奪い返そうとした彼は、勢い余って列車の外に放り出されて、川に転落してしまう。
白人夫婦に助けられ、病院のベッドで目覚めたウディは、夫婦の家に招かれる。ウディは助けてもらったお礼に歌と演奏を披露し、夫婦とその知人の上流階級の人々から喝采を浴びる。話し方も大人のようなしっかりした話しぶりで、ウディは家の人たちからすっかり気に入られた。
しかし、そこへミネソタの少年鑑別所から電話があり、その家にいるウディは鑑別所から脱走した者だと告げる。白人の婦人は、ウディはそんな子供ではないと言って鑑別所の電話を否定するが、気まずくなったウディは、逃げるように再び貨物列車の旅に出る。
実は、ウディ・ガスリーとは、その黒人少年の本名ではなく、有名なミュージシャンの名前だった。少年ウディは、今やその名声も地に落ちてしまったウディ・ガスリー本人を入院中の病院に訪ね、彼の前で演奏するのだった。
映画『アイム・ノット・ゼア』のあらすじ【転】
歌手のジュード・クィンは、バンドを率と共にフォークフェスティバルに出演していたが、彼を知るファンからは信じられない演奏をしていた。それはもはやフォークではなく、かといってロックでもない斬新な音楽であったが、そのけたたましい騒音のような演奏は、会場から激しいブーイングを浴びる。
フェスに参加したファンたちは口々に「裏切られた」とジュードを罵るが、中には「新鮮だ」という感想を漏らす者もいた。
その後、バンドと共にロンドンに向かったジュードは、地元のメディアとの共同記者会見で、手厳しい質問を受ける。特に、BBC放送のレポーター、キーナン・ジョーンズは、ジュードに執拗に質問を投げかけ、最後には「あなたは自意識過剰な人間だ」と酷評する。
ロンドンでライブを行ったジュードだったが、聴衆のウケは悪かった。その上、アメリカの音楽はイギリス人にはわからないだろうと聴衆を揶揄し、ブーイングを浴びる。
客の罵声など意に介さないジュードだったが、聴衆の1人が「おまえはユダだ」と叫ぶと、さすがに反応する。そして、文句があったらここに来て言え、と叫び、舞台に上がってきた聴衆たちとトラブルを起こす。
ホテルに戻ったジュードは、ジョーンズが番組の中で、「ジュードは中流階級の出身で、本名はアーロン・ジェイコブ・エデルスタインである」ということを暴露しているのを聞いた。
ジュードは薬に頼るようになり、足元がおぼつかなくなる。そして、パーティーの会場で倒れ、病院に搬送されてしまう。
映画『アイム・ノット・ゼア』の結末・ラスト(ネタバレ)
俳優のロビーと画家のクレアは、その後2人の娘をもうけるが、夫婦仲は次第に悪化していた。ある日、友人との食事中に、「女は詩人になれない」と言ったロビーの言葉に激怒したクレアは、その場を立ち去ってしまう。そして、ベトナム戦争からアメリカ軍が撤退完了した1973年1月23日、2人は離婚を決意する。
一方、引退してから行方をくらましていたジャック・ロリンズは、ジョンと名乗り、牧師として活動していた。そして布教の傍ら、讃美歌を歌う日々を送っていた。
場面は変わり、ジュードがバイクで田舎道を失踪している。やがてバイクは森の中で木に衝突し、ジュードはその傍らに倒れていた。ジュードの回想シーンが映し出され、「僕はフォークシンガーじゃない」と主張していた。
とある西部の町。名前も容姿も変えて隠遁生活を送るビリー・ザ・キッドが、あばら家の中で目を覚ます。彼の飼い犬が逃げ出し、それを馬に乗って探すビリー。ふと小高い丘の上から見渡す森林が、ベトナムで米軍によって焼かれた森林の風景とダブる。
ビリーは、自らが身を隠しているこの町が、ハイウェイ建設工事のために無くなろうとしていることを知らずにいた。町の住人からその話を聞いたビリーは、さらに立ち退きを命じられた住民が、行き場をなくして自殺までする事態になっていることを知る。
建設工事と住民の立ち退きを推進している中心人物は、パット・ギャレット長官であった。それを知ったビリーは、自殺者の追悼集会でギャレットを批判して、逮捕されてしまう。
しかしビリーは、町の住民の助けで牢を抜け出し、貨物車に飛び乗った。行方不明になっていた飼い犬が列車を追いかけてくるが、けっきょく追い付かず、列車から別れを告げた。
ビリーは列車の中で、「ファシストを殺すマシン」と書かれたギターケースを見つける。ウディ・ガスリーのものだった。
いうなれば、ウディはデビュー前のボブ・ディランの姿であり、ビリーはデビュー後、さまざまな経験を経て隠遁生活に入った頃のディランだった。ビリーは、「まるで昨日と今日と明日が同居しているようなものだ」と呟き、貨物列車の旅を続けるのだった。
映画『アイム・ノット・ゼア』の感想・評価・レビュー
これ、めちゃくちゃ面白いです。伝説のアーティスト「ボブ・ディラン」をケイト・ブランシェット、ヒース・レジャー、リチャード・ギア、クリスチャン・ベイルなど豪華な6人の俳優がそれぞれ異なった角度から演じるという話題作。
一人の人間が、関わる周りの人や環境によって大きく変化し成長する姿が、別の俳優で描かれているのでとても分かりやすく、面白かったです。
「ボブ・ディラン」を初めて聞く人は今の自分と同じ年代の曲を聴けと言います。この作品はまさにそういうこと。彼を演じるには6人必要だったのだなと。(女性 30代)
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