映画『東京日和』の概要:写真家の荒木経惟が、妻の陽子のことを綴った写真集「東京日和」を原作とした恋愛映画。亡き妻との日々を回想する主人公。思い出すのは最悪の日々ばかりだが、どれも美しく心に刻まれているのだった。
映画『東京日和』の作品情報
上映時間:121分
ジャンル:ラブストーリー、ヒューマンドラマ
監督:竹中直人
キャスト:竹中直人、中山美穂、松たか子、三浦友和 etc
映画『東京日和』の登場人物(キャスト)
- 島津巳喜男(竹中直人)
- 妻が生きている時は、会社勤めはせず、東京の風景や市井の人々の姿をカメラに収める毎日を過ごしていた。精神的に不安定なヨーコを支えようと懸命になっているが、時々激昂もしてしまう。
- 島津ヨーコ(中山美穂)
- 島津巳喜男の妻。精神的不安定なところがあり、同じマンションにすむ男の子を、部屋に連れ込み、おばあちゃんと呼ばせてみたり、女の子の服を着せたりもする。島津のことを、心から愛している。
- 水谷(松たか子)
- ヨーコ亡き後、島津が出版をする「東京日和」の編集者。出会った当時は、まだ新米で、ヨーコに谷口と呼び間違えられる。島津家に猫を譲ることになるのだが、受け渡しの当日、ヨーコが事故にあってしまう。
- 車掌(荒木経惟)
- 柳川の駅で島津と一緒に、飲み物を買いに行ったヨーコを待っていた。走ってくるヨーコを微笑みながら見つめている。荒木経惟がカメオ出演。
映画『東京日和』のネタバレあらすじ(起承転結)
映画『東京日和』のあらすじ【起】
島津巳喜男は、電話で出版する本のタイトルを「東京日和」とすることを水谷に伝えた。電話を切った島津は、妻ヨーコの写真の飾ってあるベランダのテーブルに向けてシャッターを押す。そして、ヨーコが今もこの部屋にいるように感じ、過去を思い出す。
その日、仲間たちが集まって島津の家で食事会を開いていた。しかし、ヨーコはキッチンから出てこない。ヨーコは水谷の名前を谷口と間違えたことを気にしていた。誰も気にしてないとなだめる島津だったがヨーコの機嫌は直らなかった。みんなが帰った後、ヨーコは家を飛び出し、三日間帰って来ないのだった。
ヨーコの行方を捜しに、島津は彼女の職場に行ってみる。ヨーコは、島津が事故にあったことにして、欠勤しているのだった。自分が来たことは内緒にするよう念を押し、島津は自宅に帰る。すると、ヨーコが子どもを連れて帰ってきていた。子どもは同じマンションの1階の共働きの子で、テツオというのだった。
どこに行っていたかを答えないヨーコに、島津はイラつき、茶碗を叩きつけてしまう。翌日から職場に戻ったヨーコだが、ここでもギクシャクしていた。
島津は、ヨーコに結婚記念日に柳川にいくことを提案する。先日の一件から少しずつ日常が戻りつつあった。しかし、ヨーコは蚊が飛んでいる音が聞こえることを気にしていた。
映画『東京日和』のあらすじ【承】
島津は日常風景をカメラに収めるため、電車の中でシャッターを切っていた。しかし、盗撮と間違われ、警察署へ連れていかれる。家に帰り、愚痴をこぼす島津。それをヨーコは優しく受け止める。しかし、話の流れで、島津がヨーコの職場に行ったことが、バレてしまう。ヨーコの耳の周りでは、やはり蚊が飛ぶ音がしているのだった。
雨の日、島津はヨーコの耳の様子を見てやっていた。ヨーコは、そんな島津の態度が、優し過ぎやしないかと問う。ヨーコは、そんなに自分のことを見ないで欲しいと言う。それを聞いた島津は、優しく「見ないようにするよ」と答えるのだった。
ジョギングをする二人。見知らぬ家に立ち寄り、勝手に郵便物を見たりする。雨が降り出し、走って家に帰ろうとする二人だが、ピアノように見える形をした岩を見つける。雨の中、その岩の前でピアノを弾く真似をして、はしゃぐ二人の姿があった。
ヨーコは公園で、ばったりテツオと会う。テツオは祖母と一緒に公園で遊んでいた。その日、物音に気がつき、ヨーコは玄関に飛び出すが、そこにはテツオはいなかった。ヨーコは、テツオのために用意したぬいぐるみを、ベランダから投げ捨てるのだった。
映画『東京日和』のあらすじ【転】
耳鼻科に行ったヨーコは、飛蚊症だと診断される。心配になった島津は耳鼻科を訪れ、妻の症状を聞く。医師からは普通に生活していて大丈夫と言われる。
いつものようにシャッターをきりながら街を歩く島津。ふと横断歩道の向こうに一人で歩くヨーコを見つける。結婚して初めて見る、彼女が一人で歩く姿だった。そして島津は、ヨーコは、自分がいなくても一人で生きていけると感じるのだった。
二人は待ち合わせをして、外で食事をする。柳川行きを楽しみにする陽子。帰り道、電車の中で転がって来た空き缶を蹴りながら帰る二人。肩をだき、寄り添う二人の姿があった。
朝、仕事のために家を出たヨーコは、通学途中のテツオに会う。そして、そのまま欠勤をする。ヨーコが欠勤したことを、勤務先の上司から聞く島津。上司からはやんわりと退職を勧められる。そして、柳川への旅行のため休暇申請が出されている日付で、退職させられることが決まる。
島津が家に帰ってみると、テツオが行方不明になっており、マンション住人たちが騒いている。ヨーコも家にいないが、二人分のカルピスを飲んだ形跡はある。島津は、レコードプレイヤーの側にあったレコードのジャケットを見て思い当たり、家を出る。
先日二人ではしゃいだ、例のピアノの岩で、テツオに勉強を教えているヨーコ。テツオに女の子の服を着せ、帰そうとしない。島津が現れ、ヨーコを説得し、テツオを自宅まで送り届ける。自宅に戻ったヨーコは、ボーと窓の外を眺めるのだった。
映画『東京日和』の結末・ラスト(ネタバレ)
7月、二人は柳川へ旅行に出る。しかし、ヨーコは九州まで来て、突然行きたくないと言い出す。それでも何とか、柳川にたどり着く二人。宿に着き、部屋に案内してくれる女将に、かつて新婚旅行で来たことを話す。最初は、二人のことを思い出せない女将だったが、部屋を後にして、フッと思い出し、微笑むのだった。
島津は、ヨーコから少し離れて、彼女の写真を撮る。旅館の中を懐かしそうに歩き、空想を広げ楽しむ二人の姿があった。
水谷が訪ねて来て、島津の回想は一旦止まる。しかし、再び思い出す。柳川で船に乗る二人。新婚旅行の時のように、街を歩き写真を撮る二人。突然、島津は散髪屋に入り、髪を切る。その間、一人で街を歩くヨーコ。島津は、散髪屋で眠り込んでしまい、目覚めた時、ヨーコの姿はなかった。柳川の町を走りまわり、ヨーコを探す島津。ヨーコは、水路の船の上で眠り込んでしまっていた。その姿を、島津はカメラに収めるのだった。
島津の家で、その写真をみる水谷。あの日、ヨーコが彼女のことを谷口と間違えて呼んでしまったことを思い出すのだった。
宿に戻り、島津はヨーコに「楽しいかい俺と一緒で?」と聞く。ヨーコは「そんなこと聞かないで涙が出てくる」と答えるのだった。
水谷にお茶を出そうとして、島津はガス点検表に押してある谷口の印を見つける。島津は、あの日ヨーコが名前を間違えた理由が分かり、涙が出るのだった。
柳川からの帰り、駅で飲み物を買いに行ったヨーコは、電車の発車時間ギリギリに戻ってくる。二人で電車に飛び乗り、笑いながら間に合ったことを喜びあうのだった。そんなことを思い出しながら、島津は「私の写真人生は陽子との出会いから始まった」と実感するのだった。
映画『東京日和』の感想・評価・レビュー(ネタバレ)
荒木経惟の「東京日和」は大好きな写真集です。
奥さんへの愛が溢れる写真の数々、その奥さんはもうこの世にはいない悲しさ。
その世界観が、切なさがとても伝わる映画でした。
2人の関係は時にちぐはぐになり、時にぴったり重なり、いなくなる事がわかっているかのように映画の中の大切な時間が流れます。
竹中直人さんが「ヨーコ」と呼び、大貫妙さんの「ひまわり」が流れる。
何かの拍子に蘇る、耳に残る名シーンです。(女性 40代)
日常の断片を紡ぐような物語の進み方が心地よく、東京という街がまるでもう一人の登場人物のように感じました。写真家の視点で切り取られた風景がとにかく美しく、セリフ以上に語るものがありました。愛しているのに、離れる決断をした二人の静かな別れに胸が詰まりました。(40代 男性)
初めて観たときは地味だと思ったけれど、大人になるにつれてこの映画の持つ余白の美しさがわかってきました。特別な事件が起こるわけじゃないけど、日々のやり取りや空気感の中に深い愛情と寂しさが詰まっていて、観終わった後に心がじんわり温かくなりました。静かな名作です。(20代 女性)
派手さはないけれど、何気ない日常の中に人生の真実が潜んでいることを教えてくれる映画。台詞も少なく、空気と視線、沈黙で語る演出がとても好きでした。ラストの別れは唐突だけど、だからこそリアリティがありました。東京の街が、心の揺れを映し出す鏡のようで美しかったです。(50代 男性)
「何も起こらないこと」が逆に贅沢に感じられる映画でした。夫婦のやり取りもリアルで、観ているうちにふと自分の家族のことを考えてしまいました。写真を通して見える東京の景色がとても情緒的で、まさにタイトル通りの日々が描かれていると思います。離れても愛は残る、そんな余韻に浸れました。(60代 女性)
夫婦の形に正解はないと感じさせてくれる映画。主人公たちはぶつかり合うことなく、ゆるやかにすれ違っていくけれど、だからこそ現実味がありました。中山美穂さんの柔らかな雰囲気と、竹中直人さんのちょっと不器用な感じが絶妙なバランスで、終始見入ってしまいました。(20代 男性)
静かで詩的な映画でした。写真を撮るという行為を通して、愛のかたちを再確認しようとする二人の姿に、何とも言えない切なさを感じました。セリフは少ないのに、心の揺れがしっかり伝わってきて、思わず泣きそうになる瞬間も。東京という街の景色も、ストーリーとぴったり合っていました。(40代 女性)
映画というよりも、日記をめくっているような不思議な感覚。とくに目立つ事件はないのに、いつの間にか登場人物に感情移入している。ラストシーンで2人が別れる選択をするのがとても印象的で、静かな別れがむしろ愛を際立たせていました。こんな映画がもっと増えてほしいです。(30代 男性)
都会の喧騒の中で、こんなに静かで優しい時間が流れている映画があることに驚きました。夫婦という関係の中にある「言葉にならない何か」を、こんなにも繊細に描けるのかと感動しました。最後の別れには涙が止まりませんでしたが、不思議と心があたたかくなりました。(50代 女性)
この映画は、感情の表現が静かで奥ゆかしく、日本映画らしい美学に満ちています。竹中直人の演出が優しく、時にユーモラスで、それが中山美穂の儚げな存在感とよくマッチしていました。別れることが悲劇ではなく、次の一歩であるという描き方が印象的で、大人のための恋愛映画だと思います。(60代 男性)
映画『東京日和』を見た人におすすめの映画5選
めがね
この映画を一言で表すと?
「なにもしない贅沢が心にしみる、“癒し系”スローライフ映画」
どんな話?
都会の喧騒から離れ、南の島で「たそがれ」に没頭する女性と、そこに集う人々とのゆるやかな日常を描く物語です。明確なストーリー展開よりも、空気感や会話の間が魅力の作品です。
ここがおすすめ!
ゆったりとした時間の流れ、自然に囲まれた風景、個性的な登場人物たち。全編を通して漂う「余白」の美しさが、『東京日和』と同じく観る人の心を穏やかにしてくれます。忙しい毎日を送る人にこそ観てほしい作品です。
珈琲時光
この映画を一言で表すと?
「東京という街の静けさと、人の営みの温かさに触れる映画」
どんな話?
妊娠した女性と、彼女を静かに見守る古本屋の男性との交流を描いた、淡くて優しい物語。ホウ・シャオシェン監督が小津安二郎にオマージュを捧げた静謐な作品です。
ここがおすすめ!
派手な演出や起伏のある展開はありませんが、そこが魅力。東京の街を背景にした日常の描写がとにかく美しく、『東京日和』が好きな人には間違いなく刺さる一作です。音と風景で感じる映画です。
海よりもまだ深く
この映画を一言で表すと?
「夢を追えなかった男と家族が織りなす、しみじみとした人生ドラマ」
どんな話?
かつて文学賞を取ったものの今はしがない探偵をしている男が、元妻や息子、年老いた母との関係を再構築しようとする物語。是枝裕和監督によるリアルな家族描写が光る一作です。
ここがおすすめ!
人の不器用さや愛し方のすれ違いを、そっと寄り添うように描いています。阿部寛、樹木希林らの演技も見事で、『東京日和』と同様に“心のひだ”を丁寧になぞる映画です。
ハッシュ!
この映画を一言で表すと?
「家族のかたちはひとつじゃないと教えてくれる、静かな傑作」
どんな話?
子どもがほしい独身女性と、恋人関係にある男性カップルが出会い、「子どもを持つ」ということを通じてそれぞれの関係を見つめ直していくストーリー。
ここがおすすめ!
世間の常識に縛られず、ありのままの関係性を丁寧に描いた作品です。登場人物たちの葛藤や心の揺れが丁寧に描かれており、『東京日和』と同じく“言葉にならない感情”を映し出します。
歩いても 歩いても
この映画を一言で表すと?
「“何も起きない”一日が、こんなにも胸に残るとは」
どんな話?
亡き長男の命日に集まる家族。久々に顔を合わせた彼らが、それぞれの想いやすれ違いを抱えながら過ごす一日を描きます。
ここがおすすめ!
小津映画を彷彿とさせる構成と、セリフよりも“間”で語る演出が絶妙。派手な出来事がないからこそ、家族の内面がにじみ出てくる珠玉の一作です。『東京日和』の余韻を好む方にぴったりです。
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