映画『お嬢さん(2016)』の概要:日本統治下の朝鮮。詐欺グループよって育てられたスッキは、同じく詐欺師の藤原から上月家という日本の富豪から財産を奪い取る計画を持ち掛けられる。令嬢・秀子の侍女として屋敷に潜り込むスッキであったが……パク・チャヌクによる官能サスペンス。
映画『お嬢さん』の作品情報
上映時間:145分
ジャンル:サスペンス、ミステリー
監督:パク・チャヌク
キャスト:キム・ミニ、キム・テリ、ハ・ジョンウ、チョ・ジヌン etc
映画『お嬢さん』の登場人物(キャスト)
- スッキ / 珠子(キム・テリ)
- 詐欺師たちの集団の手で育てられた身寄りのない少女。偽の判子作りやスリで生計を立ててきた。やがて詐欺師の藤原と共に上月家から財産を奪う計画を企て、「珠子」の名で上月家の侍女として仕えることに。しかし、お嬢様の秀子に惹かれたことで計画は綻び始めてしまう。
- 秀子(キム・ミニ)
- 上月家の美しき令嬢。幼い頃に両親を亡くしており、叔父の上月氏の下で育てられてきた。常軌を逸した教育環境を受けてきたため心を閉ざしており、どこか陰のある女性。彼女のまた献身的なスッキに純粋に惹かれていく。
- 藤原(ハ・ジョンウ)
- 詐欺師の男。秀子の持つ財産を狙い、伯爵と身分を偽装して彼女に近づく。
- 上月(チョ・ジヌン)
- 上月家の主人だが、とんでもなく捻じれた性癖を抱えている。書物の収集家でもあるが所持している本はほとんど春本か春画ばかりである。また秀子にトラウマを与えた「地下室」の持ち主でもある。
- 佐々木夫人(キム・ヘスク)
- 上月家の家政婦長。厳しい性格で、幼い頃から秀子に冷たく当たってきた。
映画『お嬢さん』のネタバレあらすじ(ストーリー解説)
映画『お嬢さん』のあらすじ【起】
第一部。日本統治下の朝鮮。スラム街で詐欺グループに育てられた少女スッキは、偽の判子作りやスリの仕方を教わったり、捨て子を日本に売り飛ばして暮らしていた。ある日スッキは藤原伯爵と呼ばれる詐欺師から、とある計画を持ちかけられた。富豪の上月家に侍女としても潜り込み、財産の相続権を持つお嬢様・秀子に藤原伯爵を好きにさせ結婚させるよう誘導しろと命じる。それから秀子を病人だといって精神病院に入れてしまい、財産を奪い取ってしまおうという。
スッキは早速、上月家の豪邸に「珠子」の名を与えられ秀子お嬢様のお世話係として訪れる。英国と日本を尊敬して建築したというその豪邸で、珠子と名を変えたスッキは家政婦長の佐々木夫人から秀子の日課は「裏山の散歩と旦那様の朗読の練習だ」と聞かされる。旦那様こと上月は本の収集家で、日本人の収集家を集めて秀子に朗読をさせ本を競売にかけているのだった。その晩、珠子が押し入れの中で眠っていると秀子の部屋から悲鳴が聞こえる。慌てて彼女の部屋の中へと飛び込んでいくと、秀子が「前の使用人が桜の木で首を吊ったのが恐ろしくて眠れない」とうわ言のように呟いたので、子守唄を歌って寝かしつける。
翌日、紹介状を持って秀子の元へと向かう珠子だったがしっかりとその顔を見てあまりの美しさに「こんなに美人だと聞いていなかった」と動揺する。紹介状を読もうとするが、珠子は文字が読めないことを正直に秀子に話す。秀子は、字は勉強すればいいと言い、「盗みも悪口もいいけど嘘だけはやめてね」と言う。珠子は同じく小間使いの仲間たちから早速嫌がらせを受け片方靴を隠される。片方しか靴のない珠子を見て秀子は自分の靴を貸してあげる。沢山の靴を見せながら「私には行くところがないから好きなのを持って行っていい」と呟く秀子。やがて秀子は「朗読の時間だ」と立ち上がり、朗読の練習会へと向かう。
戻ってきた秀子を風呂に浸からせていた珠子は、彼女に飴を舐めさせる。すると秀子は「尖った歯が当たって肉が裂けるみたい」と言うので、紙やすりを指に巻き付け彼女の口の中に指を入れ優しく削っていく。この時、2人の間には官能的な時間が流れ、互いに親密な感情が芽生える。
やがて予定通り、詐欺師の藤原伯爵が絵の教師として上月家へとやってきた。秀子に惹かれ始めていた珠子は、生まれてすぐに両親を亡くし孤独な秀子が、人を疑うことを知らず藤原に言い寄られていくのを見て複雑な思いを抱くようになる。藤原が彼女に触れるたびその厚かましさに腹が立つようになり、ある日2人が抱き合っているのを見た珠子は動揺のあまりその場を逃げ出してしまう。その日も朗読の練習を終え戻ってきた秀子だったが、秀子も秀子で献身的な珠子を気に入るようになっていた。秀子は珠子をベッドの中へ呼び、隣で寝るよう命じる。それから秀子は「藤原伯爵に求婚された。次の満月の日、叔父が金鉱に行く時に駆け落ちしようと言われたの」と告白する。珠子が「返事は?」と聞くと、秀子は「怖いの」と答える。何が、と尋ねると、秀子は「教えて。男は何を望んでいるの?」と言い、珠子は飴を舐めてから秀子に口づけする――「こんな感じね」。それから珠子は「こんな風に伯爵が感じさせてくれます」と秀子を優しく抱くのだった。
映画『お嬢さん』のあらすじ【承】
藤原が秀子と2人きりにするよう珠子に合図をするが、珠子は「お嬢様にお使いするのが私の仕事なので」とそれを拒否する。藤原は珠子を呼び出し、彼女が協力的じゃないことを非難する。「次の満月を逃したら終わりだ。お前に台無しにされてたまるか!次邪魔をしたらお前が泥棒女の娘だとばらすぞ」と言うと珠子も「あんたが貴族じゃないことをばらすわ」と言い返す。
ある日、寝室で秀子に「私が他の誰かを愛していたとしても、あの人と結婚してほしい?」と聞かれる珠子。珠子は「愛せると思います」と返事し、激しく叩かれ部屋を追い出されてしまう。
とうとう上月が金鉱に行く日が訪れ、秀子は日本に珠子を連れて行くという条件をつけて結婚を同意する。藤原は不承不承にそれに同意する。上月は出発前に秀子を呼び、「七日間は自由になるが地下室のことは忘れるなよ」と言われ、動揺する。どうも秀子は幼い頃、地下室で「何か」を見て以来トラウマがあるようだ。夜中、荷物をまとめた秀子と珠子は広大な敷地を抜け出し藤原の漕ぐボートで船へと向かい、日本へと上陸する。やがて挙式を上げた藤原と秀子は、初夜を迎える。珠子は秀子の喘ぎ声を聞き、翌朝女将は血のついたシーツを取り換えたのだった。
藤原が留守にしている間、彼は旅館の女将に秀子を監視させる。やがて相続した財産を現金に換え藤原が戻って来ると、計画の通りに秀子を病院へと連れて行くため車に乗る藤原、秀子、珠子。白衣を身に着けた人々に「では参りましょうか」とその腕を引かれたのは何と珠子の方であった。珠子は自分と秀子を勘違いしているのではないかと訴えるが、そうではなく初めから自分が騙されていたのだと気付く。そして、珠子の方が病院送りとなってしまうのだった。
映画『お嬢さん』のあらすじ【転】
第二部。秀子の生い立ちについて語られる。秀子は上月と佐々木夫人から、少しでも口答えをすると容赦なく折檻したり意地の悪い態度を取られたりと、劣悪な環境で育てられていた。そんな中、叔母だけが孤独な秀子にとっての味方だった。上月は幼い秀子に朗読の練習といって、とても子供に読ませるような内容とは言い難い卑猥な言葉を読ませていた。上月は客人を集め、官能的な本の朗読会を開いていた。彼の所持する書物庫にある本はほぼ全てが猥褻な内容のものや春画だ。上月の朗読会は、身分の高い収集家達ばかりが集められ、その本を高値で買ってもらうことが目的だ。叔母が初めはそれを朗読していたが、次第にその見世物のような日々に耐え切れなくなりしばしば脱走を試みる。が、柵が降りてきてそれを阻止されてしまう。その生き地獄から逃げる方法は只一つ、「死」のみ。叔母はやがて桜の木にロープを結び、首を吊って死んでしまう。後釜として白羽の矢が立った秀子は、叔母に変わり春本の朗読を始めた。そんな中客として現れたのが藤原伯爵だ。藤原は秀子に近づくとこう囁いた。「あなたを誘惑して財産だけを奪い逃げようと思っていたが気が変わった。あなたをここから自由にしてあげたい」――しかし、心を恐怖で支配されている秀子はそんなことが上月にばれたら地下室へ閉じ込められてしまう、と慄く。藤原は小瓶を取り出すと、「濃縮アヘンです。5滴で気を失い、全てで死をもたらす。これがあればお嬢さんを地下へは連れて行けないでしょう」とそれを手渡す。そして秀子は、身代わりに病院送りにできる侍女を用意することをお願いした。2人の間に共謀関係が築かれる。その生贄として選ばれたのが、後の珠子ことスッキだったのだ。
初めて珠子がやってきた晩、密かに秀子は部屋の隙間から彼女のことを観察していた。そして自分が孤独で悲しい人物であることを刷り込ませるため、悲鳴を上げ泣いて見せるのだった。翌日、珠子が持ってきた紹介状には藤原の指示と共に「珠子は文字が読めないから見られても大丈夫」だという旨が記されていた。秀子は珠子が小間使いから虐められているのを知るや、彼女に逃げられないために小間使いたちを叱り飛ばし片っ端から引っ叩いていく。
藤原は絵の教師として屋敷に出入りすることとなり、計画は動き出したが思わぬところでそれは綻び始める。献身的な珠子の姿に、秀子が惹かれ始めていたこと。藤原はわざと珠子の前で抱き合っているところを見せつけたりするが、秀子も珠子も互いに好意を持ち始めており、ある晩珠子を部屋に呼び藤原に求婚されていることを告白する。そして、身も心も結ばれる2人。
計画に消極的になっていた秀子は、珠子に問いかける。「私が他の誰かを愛していたとしても、あの人と結婚してほしい?」「愛せると思います」――秀子は彼女を部屋から追い出し、桜の木にロープを結び始めた。自殺を図ろうとした彼女だったが、それを死なすまいと支えていたのは珠子だった。珠子は泣きながら本当のことを打ち明ける。「お嬢様を騙して、藤原と結婚させるつもりだった。私が悪かったのです、結婚しないでください」と訴える彼女に秀子は珠子の本名である「スッキ」と呼び、「騙されていたのはお前もよ、私の身代わりで病院へ入る筈だった」と全てを話す。
日本へと向かう前、秀子は珠子を上月の書庫に連れて行く。珠子は幼い秀子がこんな本を読まされ、紳士たちの前で朗読させられてきたのかと激怒しそのコレクションを全て放り投げめちゃくちゃにしていく。故郷の詐欺師たちには、「計画が変わった。お嬢様と手を組むことになったので皆の協力がいる」と手紙を送る。こうして、忌まわしい屋敷を逃げ出すことになった2人。秀子の顔には今まで見せたこともないような笑顔が浮かんでいるのだった。
映画『お嬢さん』の結末・ラスト(ネタバレ)
第三部。珠子を秀子の身代わりとして病院送りにした後、藤原はレストランで秀子と会話している。「スッキももう長くは持たない。彼女をそろそろ始末する」と言い出す。「閉じ込めておくだけではなかったの?」と聞く秀子に「あなたはスッキの名を貰い、生まれ変わるのです。そして2度目の結婚式を挙げましょう」と藤原は提案する。同時に珠子を不幸に思ったことはないのかと尋ねる秀子に、藤原はさらりと「1度も」と答える。
その頃、病院では火災が起きていた。駆けつけていた故郷の皆の手を借りながら病院を脱する珠子。そして、その晩ホテルに向かった藤原と秀子。秀子はワインに例のアヘンを入れ飲ませようとする。しかし、中々飲もうとしない藤原に、口づけをし、口移しでそれを飲ませ彼を気絶させる秀子。秀子と珠子は計画通りに再会し、喜びを分かちあう。再び目を覚ました藤原だったが、日本刀を持った男達に拘束され上月の元へと連れ戻された。そして例の地下室へ閉じ込められ、指を切り落とされるなどの拷問を受ける藤原。「秀子の味はどうだった?」と尋ねる上月に、藤原は煙草を吸えば思い出すかもしれないと言い煙草を求める。拷問の苦痛の中、煙草をもらい藤原は初夜の日の真相を語り始める。その日の夜、布団の中で藤原は秀子に「横にいる珠子に僕らが交わっていることを知らせなくてはいけない」と行為を求める。秀子は着物を脱ぎ布団へと入るが、ナイフを取り出したので慌てて藤原は布団を飛び出す。秀子は珠子に抱かれる自分を想像しながら自慰行為を始め、その声を珠子に聞かせた後、ナイフで自らを切りつけシーツを汚しただけで実際には藤原と寝てはいなかった。話を続けろとしつこく食い下がる上月に、藤原の吸っている煙草の煙が窓のない室内に充満し始める。上月が「お前の煙は青くて冷たくて実に美しい」と言い、やがて朦朧とし始めた。藤原は煙草の中に水銀を仕込んでいた。「水銀が気化する時、一番毒性が強くなる」と藤原は言い、上月は動かなくなる。藤原は「チンポがついたまま死ねて良かった」などと言いながら彼もまた死の奈落へと落ちていくのだった。
その頃、秀子は男装し藤原に成りすまし首尾よく追手から逃げ出した。珠子は偽判子と偽造パスポートを作り、2人はロシアへと向かう船に乗る。船の中では、再び互いを求め合う一糸まとわぬ2人の姿が。持っていた鈴を互いの秘所へと入れながらその音色を響かせ、波の上で愛し合う――。
映画『お嬢さん』の感想・評価・レビュー
パク・チャヌク監督による官能ミステリー。変態的な内容ではあるし、結構濃厚なシーンも多いが是非女性にこそ見てもらいたい作品だ。作中に出てくる台詞の中で「力づくで女は快楽を得る」というものがあるのだが、見事にそれを覆したのが秀子と珠子の女2人の愛情だ。上月の変態コレクションを壊しにかかるシーンは実にカタルシスが得られる。騙し合いに騙し合いが次ぐので最後にどちらかが裏切るのか?とヒヤヒヤとしたが珠子と秀子が結ばれて安堵した。(MIHOシネマ編集部)
三部作構成で作られた今作。それぞれ違った視点から描かれているので、部が変わる毎に雰囲気も変わるのがとても面白かったです。そして、見てる人全員が想像を裏切られたであろうラストが最高でした。
舞台は日本統治下の朝鮮。日本の富豪「上月家」の財産を奪おうと計画する詐欺師たちの物語です。
キャラクターが皆魅力的で個性が強いです。特に上月家の主人は一言で言えば「変態」。しかし、それがストーリーの良いアクセントになっていて最後まで目が離せませんでした。(女性 30代)
詐欺や盗みで生き抜いてきたスッキと、常識はずれの教育を受けて育った秀子がお互いに惹かれ合い、自分の人生を生きるために周りの大人たちを出し抜くサスペンス。
官能シーンが濃厚で驚いたが、秀子の育ったおかしな環境や、スッキと心を通わせるシーン、それぞれが必要な表現で、いやらしい感じはなく、体当たりの演技に気迫を感じました。
裏切りに裏切りを重ねるストーリーは良く出来ていて、サスペンス作品としても、友人を超えた信頼関係を描く作品としても深く楽しめる一本です。(女性 20代)
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