映画『マイケル・ムーアの世界侵略のススメ』の概要:エンタメ的手法でこれまで数々の社会問題を取り上げてきたドキュメンタリー映画監督マイケル・ムーア。今回、ムーアはアメリカをより良くするべく世界各国へアイデアを盗みに「侵略」に向かう。
映画『マイケル・ムーアの世界侵略のススメ』の作品情報
上映時間:119分
ジャンル:ドキュメンタリー
監督:マイケル・ムーア
キャスト:マイケル・ムーア etc
映画『マイケル・ムーアの世界侵略のススメ』の登場人物(キャスト)
- マイケル・ムーア(マイケル・ムーア)
- ドキュメンタリー映画監督。これまで様々な社会問題を取り上げてきたが、今回はアメリカをより良くするべく各国の制度を「侵略」と称して取材する。
映画『マイケル・ムーアの世界侵略のススメ』のネタバレあらすじ(ストーリー解説)
映画『マイケル・ムーアの世界侵略のススメ』のあらすじ【起】
ドキュメンタリー映画監督のマイケル・ムーアはある日アメリカ国防総省から呼び出される。アメリカはこれまでの長い歴史の中、多くの戦争に関わってきたものの、国は一向に良くならない。国を繁栄させるため、ムーアは世界各国の長所を持ち帰る「侵略」活動を行うよう依頼される。
最初にムーアが向かったのはイタリアである。ムーアがイタリアで注目したのは労働環境だった。ムーアは警官とバイヤーの男女カップルにインタビューを行う。カップルのバカンス自慢から、イタリアでは有給休暇が8週間もあることが発覚する。この有給休暇は結婚によってさらに追加で付与されるほか、使いきれなかった有給休暇は翌年に繰り越されるそうだ。また、12月にはバカンス費用に充てるためのボーナスとして1ヶ月分上乗せで給与が支払われるというのである。
ムーアはどうして企業がそんなに給与を支払えるのか調べるため縫製工場を訪れる。そこではランチタイムが2時間も設けられており、従業員たちは一度帰宅して家族で昼食を楽しんでいた。もちろん終業時間になると全員が定時退社する。従業員たちは充実した福利厚生でストレスも少なく働いており、その平均寿命は世界トップクラスでアメリカ人よりも4年長い。
これらの充実した福利厚生は、ただ与えられたのではなく、労働組合の活動により獲得したものであった。ムーアはイタリアのオートバイメーカーで、従業員の要望に応えるとその分働いてくれるので結果的に会社には利益がもたらされるとの考え方を聞く。会社の利益と社員の福利厚生は両立できるという主張に感銘を受けたムーアは今回取材をした人々の元へ、侵略の印としてアメリカの星条旗を贈呈した。
映画『マイケル・ムーアの世界侵略のススメ』のあらすじ【承】
次にムーアが注目したのは各国の教育である。まず、フランスでは学校教育で質の高い食育を行っていた。子どもたちは日頃からバランスの取れた給食を食べ、そこで食事のマナーも学ぶ。ムーアがアメリカの学校で出されているジャンクフードを多用した栄養バランスの偏った給食を見せると子どもたちは嫌悪感を示した。驚くことにこの質の高い食育は地域や貧富での格差はなく、アメリカと大差ない税収により賄われているのだという。しかもその税収もアメリカに比べると税金で賄うサービスの範囲が広いため、同程度のサービスを受けるとするならば実質的な負担額はアメリカのほうがかなり多くなるのだという。
さらに教育について追求するため、ムーアは子どもの学力が世界トップのフィンランドへと飛ぶ。かつてフィンランドはアメリカと同等レベルの学力であったが、ある手法によりアメリカを追い抜き、世界トップの学力へと駆け上がっていったのである。その手法とは、宿題を無くすことだった。宿題を無くし、自由な時間が生まれ、興味関心が広がることで自主性が伸びたのである。この教育方針をとったことで学力の地域差も無くなったため、私立校もほとんどないのだという。学力重視のアメリカと違い、どの教師も学力を身につけることより子どもが幸せになる生き方を身につけてほしいと望む姿にムーアは感銘を受ける。
ムーアは大学教育にも注目し、スロヴェニアを訪れる。スロヴェニアは外国人留学生を含むすべての学生の学費が無料であった。アメリカは学費が高額で、学費が支払えず退学になる学生も多かった。実際に経済的な事情によりスロヴェニアの大学へと通うアメリカ人学生も多く存在する。しかし、この学費無料の制度も一時は廃止の危機にあった。学費を徴収しようと試みた政権に対し、学生たちは抗議デモを敢行。最終的には政権交代に追い込み、学費無料を勝ち取ったのであった。
ムーアはスロヴェニアの大統領と面会する。スロヴェニアの無償教育と教育改革をアメリカに持ち帰るべく、ムーアは侵略の証の星条旗をスロヴェニアに贈呈した。
映画『マイケル・ムーアの世界侵略のススメ』のあらすじ【転】
次にムーアは人権について注目する。ノルウェーの刑務所では囚人一人ひとりに個室が与えられており、その個室の鍵の施錠も囚人本人に委ねられている。また、持ち物にも厳しい制限が無いため、パソコンを所持する囚人もいた。ノルウェー国民は囚人へ刑罰よりも更生を望んでいるというのだ。そのためノルウェーには死刑制度が存在しない。無差別テロの被害者の父親でさえ、相手がどんな殺人犯であっても彼らを死刑にする権利はないと主張する。一方のアメリカでは今も死刑制度が存在し、刑務官による囚人への暴力も問題となっている。人権意識について感銘を受けたムーアはノルウェーに侵略の証である星条旗を贈呈する。
次に訪れたアイスランドでは女性の人権が尊重されており、世界初の女性大統領が誕生したのもアイスランドだった。女性CEOも他国に比べると群を抜いて多く、かつて三大銀行の倒産があった際も、唯一の黒字銀行は女性が経営者だった。そして国も、男性を優遇することはなく、件の三大銀行倒産時も原因となった男性銀行家たちは法により裁かれた。アイスランドの女性CEOはアメリカへの印象をこう答える。隣人愛が足りず、自分さえ助かればいいと思っている、と。
映画『マイケル・ムーアの世界侵略のススメ』の結末・ラスト(ネタバレ)
世界各国を侵略したムーアは、ドイツを訪れ、ベルリンの壁に触れながら、ベルリンの壁崩壊当時の感想を述べる。世界は「なんでもアリ」で、何事も答えはシンプルだ、と。ベルリンの壁も冷戦当時は打ち崩すことができず永遠と思われていたが、人々が手に取ったノミとハンマーで倒壊させることができたのだから、不変のものなど存在しないのだとムーアは悟る。
侵略活動の中でアメリカ以外の国に「アメリカン・ドリーム」を夢見ていたムーアだったが、その根幹を辿ると、魅力的な制度の発祥はどれもアメリカだった。アメリカもかつてはほぼ無償で大学を卒業できたし、フィンランドの教育法もアメリカ発祥だという。労働者の権利を訴えたメーデーもシカゴで始まった。8時間労働やバカンス、労働組合も、男女同権運動も先に始めたのはアメリカで、英語圏の自治体として死刑廃止を最初に始めたのもアメリカだ。アイスランドの銀行倒産で起訴の際に参考にしたのもアメリカの事例だった。
最後にムーアは、アイデアを盗みに侵略に行く必要はなかった。必要な物はアメリカ国内にあったのだ、と締めくくる。
映画『マイケル・ムーアの世界侵略のススメ』の感想・評価・レビュー
労働・教育・人権といったテーマを追った今作、日本でも参考にすべき制度が多くあるように感じた。特に労働環境は大きな社会問題となっており、昨今ブラック企業や働き方改革に関わる報道も多い。また、教育に関しても詰め込み型教育の反動として生まれたゆとり教育が著しい成果を上げられず、「ゆとり世代」といったワードも流行した。人権意識に関してもハラスメントや、女性差別は課題になっており、自国もアメリカ同様、死刑制度が存続する国の一つだ。そんな今だからこそ、この作品を通して問題意識を持ちたい。(MIHOシネマ編集部)
同監督の作品の多くはアメリカの抱えるある種の問題についての彼なりの視点を描いたものであり、主義主張の異なる人には受け入れがたい部分もあるかもしれない。しかし作品の根底には常に監督のアメリカへの愛が溢れている。
インタビューしている相手にアメリカ人は隣人が困っていても平気でいると言われ「僕は平気じゃない」と返した監督。愛するアメリカで苦しい悲しい想いをしている人がいる、なんとかしなければ、という思いが彼に映画を撮らせているのだなと感じた。
そしてここに出てくる問題のいくつかは決して他人事ではない…。(男性 40代)
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