映画『舞妓はレディ』の概要:あの『Shall We Dance(1996年)』から実に18年ぶりに周防ワールド全開のエンターテイメント解禁。この間に『それでもぼくはやってない』や『終の信託』など、社会派路線に走った監督が、次に選んだ作品は舞妓の世界が舞台の『舞妓はレディ』。歌あり、踊りあり、笑いあり、感動ありのまさに監督自身の原点回帰的作品だ。
映画『舞妓はレディ』 作品情報
- 製作年:2014年
- 上映時間:135分
- ジャンル:コメディ、ミュージカル
- 監督:周防正行
- キャスト:上白石萌音、長谷川博己、富司純子、田畑智子 etc
映画『舞妓はレディ』 評価
- 点数:85点/100点
- オススメ度:★★★★★
- ストーリー:★★★★☆
- キャスト起用:★★★★★
- 映像技術:★★★★☆
- 演出:★★★★★
- 設定:★★★★★
[miho21]
映画『舞妓はレディ』 あらすじ(ストーリー解説)
映画『舞妓はレディ』のあらすじを紹介します。
今日は2月3日の節分の日。京都の花街(かがい)では、この日がおばけと言う日で舞妓や芸妓が、仮装して常連客を楽しませる日。ここ京都の下八軒は、小さいけれど歴史溢れる花街。この日も常連の高井(高島政宏)を芸妓の百春(田畑智子)や舞妓の里春(草刈民代)が、接客中。外では京都らしく雪が、ちらついていた。
下八軒の通りには、大きな旅行カバンを持った中学生くらいの若い女の子が、夜遅く一人歩いている。場違いな場所に少女が一人だけで。彼女の名前は西郷春子(上白石春子)。舞妓と言う華やかな世界に憧れて、秋田から単身、ここ下八軒に訪れていた。春子はある一軒の老舗・万寿楽の門を叩いた。ここは、下八軒の中でも老舗中の老舗のお茶屋だ。彼女は、女将の千春(富司純子)に黙って、運営していた百春のブログを見て、訪れたというのだ。そこには、百春や里春、女将の千春の他に、言語学者の「センセ」こと京野(長谷川博己)や呉服屋の社長・北野(岸辺一徳)も同席していた。女将の千春は、突然訪問して来た春子を、どこの馬の骨か分からないし、鹿児島弁と秋田の津軽弁しか話せず、京言葉の知らない春子を冷たく突き返すのだった。
そんな春子を見た京野は、ある提案を思いつく。それは、春子の鹿児島弁と秋田弁の訛りを矯正し、美しい京言葉に直すと言うものだった。それも半年間で。「春子を一人前の舞妓にしたら、京野のお茶屋遊びをすべて、北野がみてやる」と言う賭けに出た。かくして、無事に春子は舞妓になれるのか?京野は“ゴキブリはん”と呼ばれなくなるのか?すべては春子の努力にかかっている。
その年の春、春子は無事舞妓になるための修行に入るのだが、右も左も分からない世界で、彼女は孤軍奮闘するのだった。強烈な訛りを綺麗な京言葉に矯正し、舞妓になるべく慣れない稽古事を覚えることに。だが、京都人の言い方は厳しく、春子が失敗するたびに「ちゃう、ちゃう」と聞きなれない言葉で彼女を叱るのだった。幼い頃から言い慣れてきたお国の訛りも叱られ、その上京野の助手の大学院生・西野鉄平(浜田岳)に『春子は、舞妓に向いてない』ときっぱり言われてしまう。それを聞いて、ショックを受けた春子は、今までのストレスを合わさって、突然声が出ない病気“失語症”に陥ってしまったのだ。今後、彼女は無事舞妓としてデビューできるのか?
映画『舞妓はレディ』 感想・評価・レビュー(ネタバレ)
映画『舞妓はレディ』について、感想・レビュー・解説・考察です。※ネタバレ含む
周防監督と素敵なキャスト陣
周知の通り、日本や海外には、長年に渡り監督とタッグを組んで数作品の映画を制作するスタッフや役者が存在します。海外で特に有名なのは、『ジョーズ』や『E.T.』『未知との遭遇』等で人気を得たスティーブン・スピルバーグ率いる制作集団が、一般的にも知られているでしょう。彼の傘下には、プロデューサーのキャスリーン・ケネディとフランク・マーシャル、映画スコア担当のジョン・ウィリアムズが幾度となくスピルバーグと手を組み、ヒット作を世に送り出して来た、まさに黄金コンビいや、黄金カルテットだろう。
日本でも彼らに似た映像制作集団が存在する。戦後には、木下組や黒澤組など、戦後の日本映画界を背負って立つ彼らの映像制作集団が活躍した。近年では山田組や是枝組など、日本にも海外に似た流れの制作集団が数多く存在する。このような類希なる才能が集まった集団に比べられないほどの才を放つ集団が存在する。彼らがまさに、周防監督の元に集まった周防組でしょう。
監督と共に過去の作品から出演している役者が、本作『舞妓はレディ』でも多く出演している。舞妓の世界には、舞妓の身の回りのお世話をする男衆と言う先祖代々続く職柄があるが、主人公・春子の男衆を演じるのは、竹中直人だ。彼は周防監督作品には欠かせない存在で90年代のヒット作『シコふんじゃった』や『ファンシィダンス』『Shall We Dance シャル・ウィ・ダンス』『それでもボクはやってない』等、監督自身にとっても欠かせない存在だろう。次に、取り上げたい役者は、やはり周防監督の夫人でもあり、周防作品には欠かせない監督のミューズ、草刈民代。彼女はバレエダンサー時代に監督の最大のヒット作『Shall We Dance シャル・ウィ・ダンス』で女優デビュー。役者に転身後に再度主役を務めた『終の信託』にて日本アカデミー賞主演女優賞を受賞した。今後、日本映画界を背負って立つ大女優に間違いないでしょう。他にも里春の恋人で歌舞伎役者の市川勘八郎役には周防作品の常連・小日向文世。踊りの師匠には中村久美。三味線の師匠には徳井優。長唄の師匠には田口浩正。鳴物の師匠には彦麻呂。周防監督作品には欠かせない名脇役ばかりが、この作品をより面白く、より素晴らしく、より深みのある作品に仕上がっている。
見所は他にもある。ベテラン常連役者に加わるようにフレッシュな面々も揃った。主役の役者は全員、周防作品、初参加の役者ばかりだ。それぞれ個性を活かしたキャラクターを実に伸び伸びと演じている。ベテラン女優、富士純子は、この映画が企画、構成された当初(20年前)から監督自身の頭の中では、キャスティングのイメージが湧いていた。見事なハマリ役でしょう。監督は本作のミュージカル・シーンについて、あるインタビューでこう語っています。
「最初から本格的ミュージカルを目指す気はさらさらありませんでした。だからミュージカル俳優をキャスティングするつもりもなかったし、むしろこの人だからこんな歌い方するんだろうという驚きと楽しさを味わってほしいと思っていました。僕自身ミュージカルというジャンルにこだわりはないし、ここで歌って踊ってくれたら楽しいなという思いだけでミュージカル場面を設計していた。いわば面白い映画にするための歌と踊りのシーンなんです。もっといえば、ファンタジーとしての京都を表現するための手段でもあります。それこそ京都のお座敷は、ある意味ミュージカルですから。ミュージカル・シーンは、お茶屋のお客さん気分で楽しんでほしいと思っています」
こんな監督の想いが詰まった本作は、見事花が開くように、晴れやかなミュージカル映画として仕上がりました。『Shall We Dance シャル・ウィ・ダンス』以来のエンターテイメント。まるで原点に戻ったような本作は、私たちの心を清清しい春の装いにさせてくれること間違いなしの、ホットな名作です。
日本のミュージカル映画
今回は日本のミュージカル映画について、考察してみたい。前回『はじまりのうた』と言う映画の中で述べたようにアメリカ・イギリス映画のミュージカルの歴史は古い。戦前のサイレントからトーキーに移行した瞬間から大量生産されてきている。その最も顕著に現れているのが、第2回アカデミー賞で作品賞を受賞した『ブロードウェイ・メロディ』と言う作品が、海外でのミュージカル映画の原点とも言われている。100年以上の歴史がある。
では日本でのミュージカル映画の歴史はどうでしょうか?やはり日本映画で一番有名なのは、やはり戦前の1939年(昭和14年)に木村恵吾監督によって制作された『狸御殿』だが、現在この作品のフィルムが残っておらず、きっと戦争の混乱期に消滅してしまったのだろう。2作目にあたる『歌ふ狸御殿』が1作目として特に有名だ。木村恵吾監督は、日本のミュージカル映画の流れを作り、2005年には鈴木清順監督が20年の構想を経て発表した『オペレッタ狸御殿』でリメイクに成功している。一つのジャンルとして、日本にはミュージカル映画ははっきりと確立はされていないが、50年代、60年代に一世風靡したアイドル映画や歌謡映画は、ミュージカル映画の要素を取り入れた作品が、数多く制作、公開されている。中でもGS(グループサウンド)で一躍人気を得たザ・タイガースを主演に迎えたアイドル映画作品や当時の女性アイドル、中尾エミ・伊東ゆかり・園まりの3人娘(スパーク3人娘)主演の『ハイハイ3人娘』と言った作品が、人気を得ていた。またハナ肇や植木等と言ったクレイジーキャッツを起用した作品も制作されている。その中でも有名なのが『日本一の無責任男』シリーズだろう。加山雄三の『若大将』シリーズはミュージカルではないが、音楽映画、歌謡映画として今尚、人気がある。日本には、元々ミュージカル映画は需要が少なく、それほど人気も無い。50年代、60年代に人気がピークに達した。戦前に制作されたマキノ正博監督による和製ミュージカル『鴛鴦歌合戦』と並ぶ代表的作品『君も出世できる』と言う作品もあるが、後者は批評家には高評価を得たが、興行的には失敗に終わり、後続に続く作品が作られなかった。事実上、この作品以降から日本のミュージカル映画の制作は、ほとんどなくなってしまった。
時が経て、近年にミュージカル映画に対して再評価されている傾向がある。数は少ないが、制作もされている。その中でもメジャー級で制作、公開されている作品がある。1本目は中島哲也監督の『嫌われ松子の一生』2本目は大根仁監督の映画版『モテキ』そして本作の『舞妓はレディ』前者2作品は日本アカデミー賞でも話題を呼び、主演女優賞など、数多くの賞を受賞している。今まさに、日本のミュージカル映画の人気に火が付く勢いだ。本作の『舞妓はレディ』のヒット、人気と共に再度日本にもミュージカル映画のブームが再熱して欲しいと、心から私は思う。
映画『舞妓はレディ』 まとめ
ミュージカルや邦画そのものが苦手な方は、本作に対し否定的な意見が多いのは確かだ。ミュージカル・シーンは不要だと、はっきり意見を述べている方もちらほら見受けられる。だが、そこを失くしてしまえば、この映画の良さがすべて損なわれてしまう。そんな気がしてならない。監督自身、ミュージカルの意識はなく、ファンタジーとしての意識を高めている。京都の花街をより深く描けば、現実感ばかりが浮き彫りになる。そうではなく、ライトな世界を表現するために、ファンタジックなミュージカルを選んだと、監督本人が話す。
そんな夢のある世界をミュージカルで彩った本作で、私には好きなシーンが2つある。一つ目は下八軒の万寿楽の女将・千春(富司純子)がスランプに陥った主人公の西郷春子(上白石春子)に語った昔の淡い恋の思い出。戦後、初めて造られた国産旅客機“ムーンライト”に乗って、初恋の相手でもある男性に東京まで会いに行くシーン。回想シーンの千春役には10代20代に人気があり、『カノジョは嘘を愛しすぎている』でデビューをした若手の女優、大原櫻子。その初恋の相手、映画スターには妻夫木聡。このシーンではリアル感を出すよりも、ファンタジックな要素で回想シーンを表現するために、飛行機も、新聞も、カバンもすべてダンボールで作ったハリボテ。その手作り感が逆にいい味を出していると、私は思う。よりファンタジーな世界に私たちは迷い込んだような、素敵な世界を堪能できる
2つ目の好きなシーンもまた、ミュージカル・シーンだ。映画のラストは春子が初めて訪れた2月3日の一年後とまったく同じ日。花街ではおばけの日。この日は、春子が見事舞妓としてデビューした日だ。映画では、まさにグランド・フィナーレ。出演者が総出演する。その中で、陰ながら春子を支えてきた呉服屋の社長・北野(岸辺一徳)が春子に話し掛ける。
「なぁ小春。舞妓に一番大事なのは分かるか?それは若さや。ただの若さじゃない。一生懸命の若さや。そこにお客は人生の春を見るんや。春子を見てて、わても気付いた。生まれも育ちも関係ない。一生懸命がホンマなら、それがホンマの舞妓になる。そやから小春はホンマもんの舞妓や。」
と最後に優しく語り掛ける。それは一年を通して春子を見てきた北野の祝福の言葉でもあり、激励の言葉だろう。それは映画を観る私たちにも、何か教えてくれるから本作『舞妓がレディ』のメッセージなのでしょう。
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