映画『108時間』の概要:駆け出しの女優であるヒロインが、憧れの演出家の舞台劇に出演することになる。だが、舞台の稽古をするには断眠しなければならず、108時間という記録の更新を目指すことに。108時間以上の断眠の先に何があるのか。
映画『108時間』の作品情報
上映時間:107分
ジャンル:ホラー
監督:グスタボ・エルナンデス
キャスト:ベレン・ルエダ、エバ・デ・ドミニシ、ナタリア・デ・モリーナ、ヘルマン・パラシオス etc
映画『108時間』の登場人物(キャスト)
- アルマ(ベレン・ルエダ)
- 類稀な演出力を持ち、同時に演技に対する研究を熱心に行っている。仕事の鬼と呼ばれ、演技に命を賭けている。アルマ・ベーム・カンパニーの創設者。断眠による精神異常にとり憑かれ、舞台劇にしようとしている。
- ビアンカ(エヴァ・デ・ドミニシ)
- 主役を争いつつも今一歩及ばない駆け出しの女優。アルマに憧れを抱き、遺伝性の精神病である強迫観念に囚われた父親の看護をしている。黒髪で感受性が高く知的な女性。
- セシリア(ナタリア・デ・モリーナ)
- ビアンカと主役を競う女優。実は一家心中を目論み、精神異常を来たして自殺したドラの娘。母親に会いたいがためにビアンカを生贄に捧げる。罪悪感に心を痛めつつも、欲求には逆らえない。心根の優しい女性。
- フォンソ(フアン・マヌエル・ギレラ)
- アルマの息子。小道具制作兼、俳優。何かとビアンカを気にして話しかける。アルマの偉大さを信じて疑わない。断眠により憑依され、母親を殺害してしまう。
映画『108時間』のネタバレあらすじ(ストーリー解説)
映画『108時間』のあらすじ【起】
1975年、断眠の公開研究が行われた。被験者には96時間の断眠後、精神病エピソードや幻覚症状が発生。4日後には極度の恐怖に襲われ、精神や肉体が崩壊したという症例もある。被験者たちは眠りと狂気、死の辺獄(リンボ)をさ迷っていたと述べた。
そして、1980年代にある集団がこの研究を超える試みに挑んだ。
1984年、劇団に所属するビアンカは、精神を病んだ父親の看護をしながら女優を目指していた。彼女は稀代のアルマ・ベーム・カンパニーに憧れを抱いている。創設者アルマは現役の演出家だが、巷ではすでに引退したという噂が流れていた。
そんな時、アルマの助手だという人物からビアンカにアルマの新作舞台への出演依頼が入る。初日が1週間と迫った時期だったが、主演だった。
アルマは俳優を集めすでに何日も稽古を行っているそうだが、ここにきて主演女優が降板したと言う。曰く、アルマは感情表現の実験が殊の外好きで、様々な手法を試し現在は断眠に取り組んでいるらしい。俳優たちは断眠により、僅かな刺激をスポンジのように吸収する状態になっている。アルマの目的はその状態を永続的に継続させることにあった。
ビアンカは2日の猶予をもらい、考えさせてもらうことに。
父親を精神病院へ入院させたビアンカは、かつて108時間の断眠を経験した元女優を訪ねた。元女優はアルマの劇団に所属していた研究の被験者でもある。だが、彼女は詳細を語らず、ビアンカを追い返してしまう。ビアンカは元女優が書いた断眠時の日記をこっそり入手し、アルマの劇へ参加することにした。
ところが、迎えの車にライバルであるセシリアも乗っている。セシリアとビアンカを競わせ、より良い演技をした方を主役にするらしい。舞台の場所は廃院となった精神病院。主役は自分の子を愛せない母親ドラである。全部で3部となり、結末はまだ決定していない。
精神病院の2階の1室を自室に定め、いざ舞台稽古へ。
映画『108時間』のあらすじ【承】
アルマと対面を済ませ、2人の俳優たちとも交流を開始。
その日の夜、自室のイスの裏に隠された金色の小箱を発見したビアンカ。その後、アルマから演技指導を受ける。だが、ビアンカは主役ドラの狂気を演じることができず、セシリアに負けてしまうのだった。
翌日、外へ出て軽く運動した後にフォンソの手伝いをする。そこで、ビアンカは過去に書かれた演劇の演出プランを発見。今回の舞台は新作と聞かされていたが、もしかすると以前もこの場所で同じ劇が公演されたのではないかと疑心を抱く。
アルマ曰く、主人公のモデルとなったドラは実際、この病院に入院していたらしい。アルマは2人の女優にもっと本質を剥き出しにしろと促すのだった。
断眠して36時間。ビアンカは稽古中に幻覚症状を起こし、ドラに襲われるという体験をする。すると、アルマはビアンカが忘我状態に入ったと歓喜。だが、まだ浅い。更にその奥へと踏み込むには特別な感受性が必要だ。フォンソも先輩女優もそれを持っており、ビアンカもあると言う。そうして、アルマはビアンカへとスリッパを与えた。
映画『108時間』のあらすじ【転】
その夜、ビアンカは元女優の日記を開いた。断眠が長引くほど、強い恐怖を抱く様が赤裸々に綴られている。そこで、風に靡く壁紙が気になったビアンカ。彼女はふと壁紙の裏に赤い文字を目にする。セシリアにも手伝ってもらい全ての壁紙を剥ぐと、そこには壁一面に記された劇の脚本が現れた。今回の脚本は結末が決定していないが、壁に記されたものにはきちんと結末が描かれている。それによると、最終的には火事により全てが消失することになっていた。
そこで、ビアンカはセシリアと共に厨房の奥にある収納庫へ入り、ドラのカルテと新聞の記事を発見。記事にはドラが産後鬱になり夫を殺害後、赤ん坊共々、自宅に火を放ったと掲載されていた。その経緯は今回の劇の脚本と同じものである。そこへ、アルマが来てしまったため、セシリアは咄嗟に収納庫の扉を閉める。アルマは元女優から劇を中止しろという手紙が届いたと言うのだった。
1963年に命を落としたドラ。彼女はこの病院に自室を持っていた。ビアンカは立ち入り禁止となっていたドラの部屋へ侵入し、通気口からマッチを入手。そこへ、フォンソとセシリアが現れる。フォンソが言うには、劇は飽くまでもフィクションであるため、火事は赤いライトで表現するらしい。ビアンカは考えを改めた。
先輩女優と気分転換にミラーリングを行ったが、違和感を覚えたビアンカ。実はその場に自分一人しかいなかったことに気付く。すると、父親から譲り受けたチョークを入れたペンダントトップがベッドの下を方々へ転がる様を目撃。そこで、ペンダントトップを捕まえると背後にドラが迫っていることに驚愕した。全身傷だらけのドラが恐怖に震えるビアンカへと近づいて来る。ビアンカが転倒した折、転がり落ちた金色の小箱を握るとドラは瞬時に姿を消してしまった。
これにより、恐怖心に耐え切れなくなったビアンカは音を上げて帰りたいと言い出す。すると、アルマは無情にも荷物をまとめて帰れと告げる。セシリアにスリッパを渡し、荷物をまとめたビアンカは近くのパブへ寄り入院中の父親へ電話を入れた。元気そうな父親は娘の劇をとても楽しみにしている様子。電話を切ると元女優が姿を現し、断眠による危険性と経験談を語った。
映画『108時間』の結末・ラスト(ネタバレ)
断眠が長引くと霊の世界へ踏み込めるようになり、霊に憑依されやすくなると言う。霊は死を再び体験して苦しみから解放されることを望んでいる。そうして、断眠が108時間に到達すると、憑依した人物を巻き込んで死に至る。幸い、元女優は助かったが、アルマは目を輝かせてその所業を見守っていたらしい。
恐らく、ドラも自殺を望んでいる。断眠が108時間を超えると、憑依から抜け出せなくなる。憑依から逃れるには眠ることだ。じきに断眠が108時間に到達する。元女優はセシリアを助けるため、廃病院へ戻るよう促した。
セシリアを発見したビアンカは危険性を説いて逃走。フォンソも先輩女優もすでに憑依されてしまっている。厨房の収納庫へ身を隠したビアンカとセシリアは、その場で眠ることにした。ところが、ビアンカを眠らせないようドラが迫る。しかも、セシリアが緊急の笛を鳴らしてしまい、フォンソと先輩女優が駆け付けてしまう。
どうやらセシリアは霊との交信ができないらしい。故に、ビアンカを誘き寄せる演技をしたと言う。アルマが現れ、ビアンカは特別だと告げる。なぜなら、彼女は父親から遺伝した狂気の因子を持っており感受性が他より高いからだ。ビアンカは拘束され、アルマによって髪を切られてしまう。
そうして、ドラと同様の姿にされ水攻めによって霊界へ。ドラの世界に来たビアンカは、彼女が軽油を巻いている姿を目撃。鏡に映すとそれは自分だった。現世界でも同じようにビアンカが軽油を辺りに撒き始める。彼女は霊界にて赤子の泣き声を耳にし、胸のペンダントを目にする。それはセシリアが身に着けていたブレスレットと同じ宝石で、赤子の服にもセシリアと刺繍されていた。
なんとセシリアはドラの娘だったのである。更にドラは金色の小箱を身に着けていた。彼女はビアンカを殺害し、体を手に入れようとしている。ビアンカはペンダントのチョークで赤子を囲み、宝石を金色の小箱に装着。そして、小箱の中を開いた。それは赤子をあやすオルゴール。室内に火を放ったドラがオルゴールの音色に気付き、正気を取り戻した。
セシリアはビアンカに憑依した母親とようやく対峙。ドラは一家心中しようとしたが、セシリアを殺すことができなかった。だが、アルマは母子の対面を目にし、ビアンカが演技をしている癖を見つけてしまう。そうだとしても、真に迫った演技で劇は大成功を収めアルマ共々、拍手喝采に包まれる。だがその時、フォンソが火の点いた松明を振り回し、その場は騒乱の渦へ。
観客は無事に外へ逃げたが、アルマとビアンカ、フォンソが残る。憑依されたフォンソは母親へと襲い掛かり殴り殺してしまう。廃病院は火事で騒然となり、逃げたセシリアとビアンカはすぐさま保護される。
5カ月後、惰眠を貪るビアンカの元に1冊の本が届けられる。アルマの助手を務めていた人物からだった。断眠の後遺症により、彼女は霊界と繋がりやすくなっている。異変を察したビアンカは、ライターの炎を介しその世界を覗き見るのだった。
映画『108時間』の感想・評価・レビュー
俳優は役作りの際、緻密に作り上げるタイプと、役になり切る感受性の高いタイプがあるらしい。それを役が降臨すると表現するが、今作は正にそれをテーマにしたホラーだと思われる。なりきりタイプは人格も変わるし、生活態度も変えると聞く。正に役に憑依されていると言われても間違いはないだろう。
非常に内容が濃く常に不気味な雰囲気が漂っている。断眠しているわりに元気で、眠気を堪えている様子が見えない点に疑問を抱いた。実際、断眠をしたことがないので事実はどうか分からないが、幻覚くらいは本当に見えそうな気がしないでもない。(MIHOシネマ編集部)
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