映画『暁に祈れ』の概要:イギリス人ボクサー、ビリー・ムーアの自伝を映画化。実在するタイの刑務所を舞台に、収監された白人ボクサーが光を見出し、ボクサーとして絶望から這い出そうと奮闘する壮絶な姿を描いている。
映画『暁に祈れ』の作品情報
上映時間:117分
ジャンル:ヒューマンドラマ、サスペンス
監督:ジャン=ステファーヌ・ソヴェール
キャスト:ジョー・コール、ポンチャノック・マーブグラン、ヴィタヤ・パンスリンガム、ソムラック・カムシン etc
映画『暁に祈れ』の登場人物(キャスト)
- ビリー・ムーア(ジョー・コール)
- イギリス人キックボクサー。再起を図ってタイへ向かうも、鳴かず飛ばずで薬物依存になる。非常に短気で暴力に出てしまう癖がある。闘争心は高いものの、冷静さに欠ける。タイの刑務所へ収監されてしまう。
- フェイム(ポンチャノック・マーブグラン)
- レディーボーイ。タイの刑務所にて受刑中のセクシャルマイノリティー。売店の売り子や歌にダンスを披露し、刑務所内でもとびきりの美人でアイドル的存在。ビリーの頼みに根負けし、良い雰囲気になる。
- ケン(パンヤ・イムアンパイ)
- 監房長。顔から全身に入れ墨を入れた強面の囚人。監房のリーダーでレイプや賭け、殺人などを命令し、ビリーをも脅威に陥れる。度々、ビリーを脅しつける。
- スティン(ソムラック・カムシン)
- タイ人コーチ。煙草の差し入れを受け、ビリーをチームに受け入れる。パンチやキックのやり方など、片言の英語で教えつつ身振り手振りでも熱心な指導をする。
映画『暁に祈れ』のネタバレあらすじ(ストーリー解説)
映画『暁に祈れ』のあらすじ【起】
再起を望みタイへと移り住んだイギリス人キックボクサーのビリー・ムーア。ところが、試合には勝てず麻薬に溺れ、果てには窃盗の罪で刑務所へと収監されてしまう。受刑者はほとんどがタイ人で言葉も分からず、刑務所の住環境は非常に劣悪で、死人まで出る始末。飲み水を得ることですら揉み合い、他の受刑者と問題を起こしてしまったビリーは、懲罰房へ入ることに。そこは狭く暗い小さな部屋だった。
一晩をそこで過ごし戻されたものの、次に入れられた部屋は受刑者の全員が全身に入れ墨をした重犯罪者の監房。一部屋に30人から50人が入っており、ベッドもなく床に毛布を敷いて雑魚寝する。新しく入った受刑者は、監房長ケンと取り巻きにいじられるという挨拶を済ませる。ビリーも片言で会話し、どうにか事なきを得た。
だがその日の夜、排泄に起きたビリーは突然、背後からナイフで脅され押さえつけられる。彼は弱い受刑者がケンや他の男達の慰み者になる様子を目にし、自分の番かと身を震わせたが、その夜は見せられただけで終わった。
翌朝、慰み者にされた青年が首を吊って亡くなっていた。次はビリーの番だ。確信した彼は刑務官といざこざを起こし懲罰房へ逃れる。警棒で酷く殴られたが、慰み者になる危険からは逃れることができた。
映画『暁に祈れ』のあらすじ【承】
しかし、反抗的だとしてビリーには常時、足枷がつけられてしまう。その後も同じ監房へ戻されたが、刑務所の売店で働くレディーボーイのフェイムと知り合いになり、煙草を入手。それをケンへ献上することで、ひとまずは仲間として受け入れてもらえることになった。
そんなある日の夜、他の房で殺人があったとして夜にも関わらず受刑者が全員、運動場へ出される。即座に並べられた受刑者はボディチェックをされたが、ビリーの服から隠し持っていた麻薬が見つかり彼は咄嗟に、隣に並んでいた受刑者の物だと言い逃れした。すると、刑務官は奴を連れ出し厳しい体罰を与えたのだった。
刑務官の一人に英語が話せて麻薬を手渡してくれる人物がいる。ビリーは彼から麻薬をもらうために他の刑務官を殴れと命令される。仕方なく指定された相手を半殺しにしたものの、自分の拳をただ殴るためだけに使ってしまった罪悪感は酷く、ビリーはその夜に手首を切ってしまうのだった。
隣の受刑者がすぐに気づき命だけは助かったが、心は半分死んだまま。そんな時、面会にボクサーを目指す少年が訪れ励ましてくれる。それをきっかけに、かつての自分の夢を思い出したビリーは徐々に身体を鍛え始める。それから、刑務所のムエタイチームへの入門を希望。ところが、簡単には入れてもらえず。そこで、彼はまたフェイムを頼ることにした。
再び煙草を入手したビリーは、コーチのスティンに煙草を差し入れてチームへ入ることができる。すると、練習の様子を見てビリーをスパーグリングへ誘う。相手はチームでも最強の男だった。当然、こてんぱんにやられてしまい監房でも笑われてしまったビリー。その悔しさを鍛錬することで晴らし、どうにか正気を保った。
映画『暁に祈れ』のあらすじ【転】
幾つもの借りを作ったフェイムに恩を返すため、賭けで煙草を稼いだ。それを持ってフェイムの元を訪ね、良い雰囲気となる。
チームでの練習でも改めてパンチの出し方などをスティンに教えてもらう。そうして、試合へも出させてもらうことに。試合の相手は何かとビリーにつっかかって来るタイ人だった。
大柄で無駄の多いパンチを出してしまうビリーに対し、相手は小柄でスタイリッシュなパンチを繰り出して来る。だが、力はビリーの方が上であるため、パンチさえ当たれば勝てる。見事、試合に勝ったビリーは他のボクサー仲間達と喜びを分かち合った。
後日、ビリーの試合を見ていた所長から、チームのボクサーだけを集めた監房への移動を告げられる。更に受刑者ボクサーによる全国試合へも出場が決まった。開催場所は別の刑務所で、練習期間は2カ月間。外国人の出場は初めてのことらしく、断るなら今だと言われる。ビリーは二つ返事で了承した。しかも、イギリスから刑務所へと父親からの手紙が届いていると手渡される。
監房で良くしてくれた受刑者と別れを惜しみ、新たな監房へ。その夜、ビリーは父親からの手紙を読んだ。翌日から試合へ向けての練習が始まる。次第に他のボクサー達とも打ち解け、それぞれの境遇を知った。そうして、ビリーは彼らと心を一つにして、背中へと信念の入れ墨を入れることにする。トラの絵柄で、墨を入れた後に神の加護を得る祈りを唱えてもらった。
練習の合間にフェイムとも逢瀬を続けていたが、他の受刑者とも関係を持っていたことを知り、試合も近いことからビリーは精神的に追い詰められていく。彼は練習でも騒ぎを起こし、とうとう独房へ入れられることになった。ところが、独房へ入ったことで精神的に落ち着きを取り戻し、更に研ぎ澄まされる。監房へ戻るとすぐに相手へと真摯に謝罪した。
映画『暁に祈れ』の結末・ラスト(ネタバレ)
再び練習を開始し、仲間との結束を固める。受刑者でありながらもフェイムたちレディーボーイには、他の受刑者とは別の仕事があった。彼女達は売店の売り子や監房を巡って歌やダンスを披露するなど、娯楽として活躍の場が与えられている。ビリーたちの監房にも洩れなく彼女達が訪れる。フェイムが歌を披露してくれ、ビリーも笑顔で彼女らを見送った。
そんなある時、ケンとその配下がビリーを襲う。奴らは次の試合に負けたらエイズに感染させてやると、採取した血液の入った注射針で脅しつける。暴行を加えられることなく解放されたが、プレッシャーとしては最悪である。その日の夜、練習の合間に大量に吐血してしまったビリー。フェイムと関係を持っていたことから、自分もエイズなのではないかと不安が過った。
そこで、刑務所の医師に相談。すると、吐血の原因はボクシングと酒と薬物乱用のせいだったことが分かる。だが、次に傷を負えば失血死もあり得るという診断。ビリーの身体はすでにボロボロで悲鳴を上げていたのだ。彼はガードを固めると共に命をも賭ける決意を固めた。
そうして、全国大会へ。これまでの2か月間、できる限りの研鑽に努めてきた。ビリーはこの試合に命をも賭けるつもりである。自然と敬虔で厳かな気持ちになった。
入念に準備を整え、いざ試合開始。相手はかなりの技を持った強敵であったが、激しい攻防を展開した後、ゴング。ところが、直後に脇腹を蹴られてしまう。完全な反則であったが、ビリーは痛みを堪えつつ次のラウンドへ挑んだ。そして、相手をノックダウンさせることに成功。会場は大いに沸いたが、ビリーは内臓へのダメージにより吐血。意識を失ってしまうのだった。
すぐさま救急搬送され、命は助かった。一般病院の清潔なベッドで目が覚めたビリーは、トイレを利用。ところが、トイレから出ると廊下には誰もいない。簡単に逃げられる状況であった。彼はふらつきながらも病院内を徘徊し外へ。しばらく歩いた後、まっすぐに進む線路を目にした瞬間、病院へ戻ろうと思い至る。そして、彼は療養後に再び刑務所へと戻った。
ビリーはタイにて3年間、服役しイギリスへ移送。更に服役して2010年に釈放された。釈放後はこれまでの経験を自伝として出版。自伝『A Player Before Dawn』は世界的ベストセラーを記録する。そして釈放以来、ビリーは薬物を絶つ努力を今も尚、続けている。
映画『暁に祈れ』の感想・評価・レビュー
タイの刑務所にて実際に服役したビリー・ムーアの自伝を基に制作した作品で、監督はリアリティを追求するジャン=ステファーヌ・ソヴェール。撮影場所は本物の刑務所で、本物の元囚人を起用しているらしい。内容的にはかなり壮絶で、環境は劣悪極まりない。主人公ビリーもまた薬物依存でろくでもない人物であったが、刑務所内は更に酷かった。
いつ何時、襲われるか分からない状況の中で正気を保つのは非常に難しく、薬物に逃げるのは致し方ないことなのではないかと思う。そんな中でもボクサーとしての自分を思い出し、希望を見出したビリーは素直に凄いと思うし、この辛さはきっと本人や実際に経験した者にしか分からないだろうと思う。覚悟を決めて見るべき作品。(MIHOシネマ編集部)
メッセージ性が強く、必ずなにかを感じられる作品。私は映画を見る際に、客観的に見る作品と、作品の世界観にのめり込んで見る作品を分けています。この作品は前者。のはずだったのですが、いつの間にか主人公と同じ立場に追い込まれたような感覚に陥りました。
それを強く感じさせたのが刑務所内の描写。警官や囚人たちのセリフに字幕がほとんどつかないため、聞こえてくる声はただの雑音。しかしそれが主人公の感じている音だと言うこと。
とにかく見ると言うより感じて欲しい作品でした。心にグッとくるものがあります。(女性 30代)
刑務所での生活が余りに劣悪で卒倒しそうですが、実話を元に作られたそうです。ナレーションや挿入歌はほぼありません。そして、セリフも少ないため世界観が非常に生々しいです。囚人達の存在感が強烈ですが、たまにじゃれ合うシーンがあり唯一ホッと息をつくことができました。主人公ビリーについての生い立ち等が一切描かれておらず、薬物依存に陥る経緯や、なぜタイにいるのかなど数点疑問が浮かびました。シンプルで力強い邦題が、物語によく合っています。(女性 30代)
この映画にわかりやすい感動やメッセージといったものはない。
ただただ淡々と、しかし監督の並々ならぬこだわりにより、恐ろしい程のリアリティをもって、主人公の刑務所での日々が描かれている。
実際、主人公と数名のキャスト以外は殆ど全員が元本物の囚人、という信じられないキャスティングがこの映画ではされており、あの異様な空気はだからこそ出せたのか…と鑑賞後ぞっとするやら納得するやら。
他にもひたすらにリアリティを追求した撮り方は、作品の随所で効いており、この映画の見所のひとつとなっている。
原題『A Prayer Before Dawn』を『暁に祈れ』と訳したセンスにも拍手。(女性 30代)
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