映画『夏をゆく人々』の概要:イタリア、トスカーナ地方を舞台に、貧しいながらも養蜂業を営む一家の様子を長女視点で描いている。圧倒的な映像美と養蜂の難しさ、少女の成長を繊細に描き、第67回カンヌ国際映画祭にてグランプリを受賞した作品。
映画『夏をゆく人々』の作品情報
上映時間:111分
ジャンル:ヒューマンドラマ
監督:アリーチェ・ロルヴァケル
キャスト:マリア・アレクサンドラ・ルング、サム・ルーウィック、アルバ・ロルヴァケル、ザビーネ・ティモテオ etc
映画『夏をゆく人々』の登場人物(キャスト)
- ジェルソミーナ(マリア・アレクサンドラ・ルング)
- 一家の長女でしっかり者。妹たちや母アンジェリカからは、一家の家長だと言われる時もある。幼い頃から父と養蜂の手伝いをしているため、蜂の扱いには長けている。思春期を迎え、外の世界へと憧れを抱いている。
- ヴォルフガング(サム・ルーウィック)
- ジェルソミーナの父で養蜂を営んでいる。愛情は持ち合わせているが、頑固者で短気。昔ながらの養蜂を続け、純度の高いはちみつを作り出している。閉鎖的な考えを持っているが、ジェルソミーナを頼りにしている。
- アンジェリカ(アルバ・ロルヴァケル)
- ヴォルフガングの妻で4人の娘の母親。頑固で短気な夫を支えつつ、一家の資金繰りに苦労している。畑で野菜を栽培し食費を浮かせるなど、様々な努力を重ねている。長女が養蜂を継ぐのか、心配している面もある。
- ココ(ザビーネ・ティモテオ)
- 一家の居候兼、手伝いをしている女性。ヴォルフガングへも食ってかかる強気な性格だが、深い愛情を持ちやや強引な触れ合いを求めることもある。主に子守や畑の手伝いをしている。
映画『夏をゆく人々』のネタバレあらすじ(ストーリー解説)
映画『夏をゆく人々』のあらすじ【起】
イタリアの小さな村に住む養蜂一家の長女ジェルソミーナは、父ヴォルフガングや母アンジェリカを手伝う働き者。次女は怠け者の甘えん坊でいつもアンジェリカといたがるし、下の妹2人はまだ幼く自由に動き回る。父ヴォルフガングは優しい面もあるが、職人気質でとても頑固。言うことを聞かないとすぐに怒り出す。一家にはもう1人、手伝いの住み込みとしてココという女性がいる。彼女は一家に居候しているため、家の手伝いやアンジェリカの手伝いをしているのだった。
ある朝、ヴォルフガングはジェルソミーナと渋る次女を連れて蜂の巣箱を見に行こうとする。すると、アンジェリカが下の娘達も連れて行って欲しいと話すため、娘4人を連れて巣箱を見に行くことになった。
ジェルソミーナは率先して父の手伝いを行ったが、次女は防護服に穴が開いていると言って仕事をサボる。すると、ヴォルフガングは仕事の後に娘たちを海へと遊びに連れて行ってくれた。大喜びで遊ぶ3人の娘達だったが、そこへテレビ番組の撮影をしているので、静かにして欲しいとスタッフから注意される。近くの遺跡で『ふしぎの国』という情報番組の撮影が行われており、見学させてもらうことに。ジェルソミーナは司会役の女優から番組のチラシと髪飾りをもらうのだった。
家のテレビは父親専用であるため、友人宅にて『ふしぎの国』を見たジェルソミーナ。番組では地域の特産品を作っている家族のコンテストが行われるようだ。そこで、ジェルソミーナは勇気を奮って、両親にそのことを話してみた。だが、ヴォルフガングはくだらないと一蹴。他にも役所からの要請で養蜂施設を見直さなければならなかった。そうなると、多大な修繕費用が発生してしまう。結局、ジェルソミーナの提案は却下されてしまった。
映画『夏をゆく人々』のあらすじ【承】
そんなある日、少年更生プランにて1人のドイツ少年を4か月間、預かることになった一家。ヴォルフガングはアンジェリカにこのことを話しておらず、アンジェリカは不満で一杯だったが、一家には父以外の男手がない。少年は放火や暴力の罪で逮捕されたが、頭が良いため、更生プランの対象となったようだ。彼はとても用心深くあまり話さず、触れ合いを拒んでいるようだった。
ヴォルフガングは養蜂業を営むにあたり、施設の改装をしようと考えている。はちみつを瓶詰にする工程は子供達でもできるが、絞り出したはちみつを溜めるバケツの交換はジェルソミーナが行うことになっていた。ところが、その日に限って次女がバケツを交換。次女は慣れていないため、はちみつを少量零してしまう。はちみつは蜂が一生懸命に貯めたものである上、非常に貴重な一家の資源だ。ヴォルフガングは少量零しただけでも激怒し、少年にやらせろと言う。すると、少年は無言で言われたことをやるのだった。
先日から巣箱に集まる蜂が少ない。死んだ蜂を調べると毒にやられていることが判明。ヴォルフガングはジェルソミーナと少年を連れて、近くの農家を訪ねる。恐らく、この家の畑で使われた農薬が蜂に悪影響を及ぼしているのだ。案の定、農家が使った除草薬は毒薬だった。ヴォルフガングはこれまで通りの働きでは、地方の農家は廃れていくばかりだと注意を促す。
町に蜂の巣駆除へ行った帰り、父の呼びかけに答えなかったジェルソミーナ。そのせいで、ヴォルフガングは怒ってしまい、仕事にジェルソミーナを連れて行かなくなる。そこで、彼女は秘密裏に『ふしぎの国』のコンテスト参加の申請書を書いて送ってしまう。
映画『夏をゆく人々』のあらすじ【転】
更生プランの書類に記入漏れがあるとのことで、書類の記入をしつつ両親が面談へ向かうことになった。ヴォルフガングは出かけている間に抽出をしておけと言い残して出掛けて行く。ジェルソミーナを中心に子供達だけで抽出作業を行った。
ところが、作業途中で次女が音楽をかけてふざけてしまう。それを叱りつつ装置のスイッチを押したが、次女が機械に手を挟まれ右手に怪我を負ってしまうのだった。ココと共に病院へ向かったものの、抽出のバケツ交換をしていないことを思い出す。慌ててココと帰宅したが、はちみつはバケツから溢れ床一面に広がっていた。
これではヴォルフガングに殺されてしまう。子供達は慌ててはちみつを手で掬い集める。ところが、こんな時に限ってコンテストの選考員がやって来てしまう。ココが対応している間に全員で零れたはちみつを集めた。
更生プランの謝礼を貰って帰った両親だったが、アンジェリカは夫が謝礼金でラクダを購入してしまったことで酷く憤慨し、子供達のためにも別れると言っている。家賃の滞納や施設の改装もあると言うのに、ヴォルフガングはなぜかラクダの購入に資金を使ってしまったのだ。
そこで、こちらも両親が不在の間にコンテストの選考員がやって来て、はちみつを絶賛していたことを報告。するとヴォルフガングは誰が呼んだのかと強く聞く。ジェルソミーナが進み出ると父は酷く怒って、もう養蜂の仕事には一切、関わるなと言うのであった。
映画『夏をゆく人々』の結末・ラスト(ネタバレ)
結局、番組コンテストへ参加することにしたヴォルフガング。子供達を連れて番組撮影のために島へと向かうことになった。島には古代遺跡があり、コンテスト会場となっている。インタヴューの際、ヴォルフガングは養蜂には金で買えないものがあると言ったが、そこでジェルソミーナは少年と共に蜂を使って芸を披露するのだった。
そんな彼女を目にしたココは感極まって泣いてしまう。会場から出て行った彼女を追ったジェルソミーナ。2人を追って少年がやって来たため、ココは少年との距離を縮めようと無理矢理にキスしようと迫る。すると、少年は酷く嫌がって島の奥へと逃げてしまうのだった。結局、コンテストの優勝は逃してしまったが、それに加えて少年も見つからない。
遅くまで捜索を行ったが、見つけられなかった。帰りの船の中で司会の女優と再び一緒になったジェルソミーナは、彼女からまた髪留めをもらう。
帰宅後、資金繰りに困ったアンジェリカは羊を売ることに。残念なことにラクダまでは買ってくれなかった。更生プランの教育係に少年が逃げ出したことを報告すると、すぐに荷物の回収と捜索が行われる。費用は全額、更生プラン側で負担するとのこと。少年は見つかり次第、少年刑務所へ入れられることになった。
そこで、ジェルソミーナは単身、島へ戻り遺跡の洞窟で少年を見つける。2人だけで時を過ごし一夜を明かした。
朝になって帰宅。家族は長女を心配して、外にベッドマットを置いてそこに休んでいた。妹と妻が姉を叱らないで欲しいと父親に縋る。ヴォルフガングは長女を叱ることなく、迎え入れるのであった。
映画『夏をゆく人々』の感想・評価・レビュー
第67回カンヌ国際映画祭にてグランプリを受賞した作品。イタリア、トスカーナ地方の牧歌的風景の中で、貧乏ながら養蜂を営む一家の様子を長女視点から描いている。圧倒的な映像美と真に迫る養蜂作業、その一家の在り方が評価されている。
評価されているだけあって、確かに素晴らしい映像美。昔ながらの養蜂を行う様子は、本物の蜂を使っているだけあって、緊迫した雰囲気が手に取るように分かる。主人公は13歳の長女でちょうど、思春期を迎える年頃。家の仕事と外への憧れの間で揺れ動く。少女を囲む一家と成長の過程を繊細に描いた良作。(MIHOシネマ編集部)
本作は、イタリアのトスカーナ地方を舞台に、養蜂園を営む一家のひと夏を長女の視点から描いたヒューマンドラマ作品。
家族の何気ない会話や表情といった演技にドキュメンタリーさながらのリアルさを感じ、抑揚のない展開にも関わらず不思議と物語に引き込まれた。
養蜂業の過酷さや、愛情表現が苦手ながら長女の気を引こうとする厳格な父、蜂を怖がらない少女の繊細にも成長していく過程が圧巻の映像と共に描かれている。
じんわりと静かに余韻を残す終わり方も素晴らしかった。(女性 20代)
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