映画『ロストパラダイス・イン・トーキョー』の概要:自閉症の実生の存在を隠しながら生活する男性と、地下アイドルとして活動しながらデリヘル嬢として働く一面を持つ女性が交流を深める様を描く。映画監督・白石和彌の長編デビュー作。
映画『ロストパラダイス・イン・トーキョー』の作品情報
上映時間:115分
ジャンル:ヒューマンドラマ
監督:白石和彌
キャスト:小林且弥、内田慈、ウダタカキ、米山善吉 etc
映画『ロストパラダイス・イン・トーキョー』の登場人物(キャスト)
- 幹生(小林且弥)
- マンション販売営業をする傍ら、身寄りのない自閉症の兄と一緒に暮らしている。自分と兄の幸せが何かわからず、殻に閉じこもっていたところでマリンと出会い変わり始める。
- 実生(ウダタカキ)
- 自閉症を患う幹生の兄。亀を大事に飼っており、絵を描くことが好き。過去に少女を襲った事件を起こしている。
- マリン(内田慈)
- 実生のために幹生が手配したデリヘル嬢。昼間は地下アイドルとして活動もしている。定まった家を持たず、お金を稼ぐことに徹している。
映画『ロストパラダイス・イン・トーキョー』のネタバレあらすじ(ストーリー解説)
映画『ロストパラダイス・イン・トーキョー』のあらすじ【起】
地下アイドルとして活動するマリン。食べては吐き、見られることに快感を得ていた。
サラリーマンとしてマンションの営業の仕事をする幹生は、両親の葬儀の翌日から、自閉症を抱える兄の実生と一緒に暮らすこととなった。父の遺品には鎖が入っていた。それは自制できない実生を抑え込むためである。実生は性欲処理も自分ではできない。そのことに気付いた幹生は、デリヘル嬢を呼ぶことにした。自宅へ来たのはマリン。実はマリンは地下アイドルとして活動しながら、風俗でも働いていたのだ。機械的にマリンへ接する幹生は、わかりやすく実生の存在を隠そうとしていた。そんな幹生の態度に、違和感を覚えるマリン。幹生は気さくに話してくれるマリンに鬱陶しさを感じ、追い出してしまう。
とある日、幹生は会社の先輩方と飲み明かしていた。仕事へのストレスが溜まっていた幹生は酔いつぶれてしまう。目を覚ますと、マリンが自宅でご飯を作っていた。状況が掴めない幹生。実生の部屋はぬけの殻であることに気付き、焦って外に出るとアパートの壁に絵を描いて歩く実生を見つけた。咄嗟に叱ってしまった幹生を落ち着かせ、実生をなだめるマリン。自分に替わって実生の描いた絵を消してくれるマリンに対して、ようやく心を開き始めた幹生は、初めて顔を見て会話をするのだった。
映画『ロストパラダイス・イン・トーキョー』のあらすじ【承】
幹生の仕事中、マリンから連絡があった。なんと実生が街で落書きをしてしまい補導されたという。怒りに任せて実夫を叱る幹生。何とかなだめようとするマリンを幹生が突き飛ばしてしまい、血を流す様子を見て実夫はパニックを起こしてしまった。このことを機に、幹生は父の残したチェーンを使って実夫を閉じ込めることを決断するのだった。
実夫が描いてしまった絵を消しに行く幹生とマリン。実夫の存在を隠そうとすることや閉じ込めることに必要性を問うマリンに対して、幹生は重い口を開いた。実は実夫は18歳の時に近所の小学生の女の子を襲ったことがあるというのだ。それ以来父親はチェーンを使って実夫を閉じ込めていた。実夫にとっての幸せが何かわからないと困惑する幹生を、元気づけようとするマリン。マリンの夢見がちな言葉に、幹生は素っ気なく返答するのだった。疲れ切って帰宅した幹生が目にしたのは、家中の壁に落書きする実夫の姿だった。どうしていいか途方に暮れる幹生。その矢先に、不動産営業の電話がかかった。普段上司に言われていることを電話口にぶつけ鬱憤を晴らすのだった。
映画『ロストパラダイス・イン・トーキョー』のあらすじ【転】
地下アイドルとしてドキュメンタリーの取材を受けていたマリンは、地道に路上ライブを続けていた。偶然通りかかった元同僚に見つかってしまい、負い目でいっぱいになるマリン。さらに、デリヘルの派遣先に行くと、そこにはドキュメンタリーの演出家が待っていた。ギャラを弾む代わりに、顧客に接客する様子を撮影させてほしいと頼まれたマリン。渋りながらも、実夫の出演を許して欲しいと幹生にお願いに行くのだった。
実夫を利用してまでお金が欲しいのかと、一度は断った幹生だったが、マリンと実夫の関係を見ていると受けてもいいのではないかと考え直した。しかし、撮影当日に面白がったような演出家の態度に悶々と耐える幹生。撮影終わりに、マリンに当たり散らしてしまった。一人で実夫を抱え込もうとする幹生に対して、マリンは一緒に住もうと提案する。
新たに3人での生活が始まる。帰宅すると「おかえり」と言われることに安堵する幹生。これまでの張り詰めた表情が嘘のように穏やかになり、幼い頃実夫を大事に思っていたことを思い返すのであった。
ドキュメンタリーのギャラが入ったことでマリンの貯金は目標額を達成した。マリンと幹生は夢であった「アイランド」を購入する。夢見心地な気分で帰路に着く3人。すると自宅の前にはドキュメンタリーの演出家が待ち構えていた。10年前に実夫が起こした事件を調べ上げ、謝罪に行く段取りを取り付けてきたというのだ。幹生は覚悟を決めて謝罪しに行くことを承諾した。
映画『ロストパラダイス・イン・トーキョー』の結末・ラスト(ネタバレ)
被害者の父親は、簡単には許してくれず幹生と実夫に殴り掛かった。さらにはナイフを取り出した父親を見て幹生は咄嗟に実夫をかばい、足を刺されてしまう。それでも撮影を止めない演出家。刺された足を引きずりながら、幹生は帰宅する。その夜、初めて3人は川の字になって夜を過ごした。感情のやり場に戸惑う幹生を、マリンは抱きしめたのである。
翌朝、目を覚ますと実夫は何かを察したように家を出た。気付いた幹生とマリンは必死に探し回るが見つけられない。そしてたどり着いた浜辺に、実夫の靴と大事にしていた亀を見つける。途方に暮れた幹生とマリンは、これまでに共有してきたものを燃やし別々の道を歩み始める。
幹生は不況の中なんとか、仕事を変えながら一人で生活していた。仕事の休憩中、ニュースでは小型ボートを漕ぎ続ける男が取り上げられる。そこに映っているのは実夫だった。居ても立っても居られない衝動と喜びにかられた幹生は、自転車で走りだす。同じくして、マリンからの電話があった。マリンも同じニュースを見ていたのだ。再び3人は同じ時間を共有し始める。マリンは「ニシムラサトコ」という本当の姿を幹生に晒すのであった。
映画『ロストパラダイス・イン・トーキョー』の感想・評価・レビュー
期待しすぎた部分が大きく、残念な余韻に追われた一作であった。しがないが懸命な営業職のサラリーマンである幹生、年増ながらに夢を抱く地下アイドル・マリン。共に二面性を持っているのだが、なんだか設定が弱い。終盤で元の職場の女性にアイドル活動する姿を見られたマリンだったが、その感情は置いてけぼり。もっと圧倒的な孤独や疎外感、自閉症の兄と二人と言う閉塞感を見せつけられたならば、記憶に残る作品となったのかもしれない。今や映画界の先頭を歩く白石監督の過去作ということで、興味がある人にはおすすめしてみたい。(MIHOシネマ編集部)
みんなの感想・レビュー