映画『ベニスに死す』の概要:初老の作曲家アッシェンバッハは、ベネチアのリゾート地で完璧な美少年タージオに出会う。彼はタージオを追いかけては浜辺に行き、ただ見つめるだけの毎日を過ごす。そんなある日、町で伝染病が蔓延し始める。
映画『ベニスに死す』の作品情報
上映時間:131分
ジャンル:ヒューマンドラマ
監督:ルキノ・ヴィスコンティ
キャスト:ダーク・ボガード、ビョルン・アンドレセン、シルヴァーナ・マンガーノ、ロモロ・ヴァリ etc
映画『ベニスに死す』の登場人物(キャスト)
- グスタフ・アッシェンバッハ(ダーク・ボガード)
- 初老の作曲家。療養のために訪れたイタリアのリゾート地で、美少年タージオに出会う。彼の姿を追い求めるうちに、心のバランスを失っていく。
- タージオ(ビョルン・アンドレセン)
- アッシェンバッハが心を惹かれるポーランド貴族の少年。白い肌に澄んだ青い瞳、金髪の巻き毛という完璧な美しさだが、中身は砂浜で友達とふざけ合う普通の少年。
- アルフレッド(マーク・バーンズ)
- アッシェンバッハの友人の音楽家。アッシェンバッハの夢に度々現れては、彼を激しく責め立てる。
映画『ベニスに死す』のネタバレあらすじ(ストーリー解説)
映画『ベニスに死す』のあらすじ【起】
マーラーの交響曲第5番第4楽章「アダージェット」の旋律が流れる中、初老のアッシェンバッハ教授は船に揺られ、長旅に疲れた様子で水の都ベニスに着いた。様々な言語が飛び交う港を離れ、小舟に乗り換えてリド島へ向かう。世界中から金持ちが訪れる高級リゾートホテルには、大きなドレスハットと豪華なドレスを着こなした貴婦人や、タキシード姿の紳士たちがロビーに溢れていた。
教授はホテルのビーチが一望できる海側の部屋に案内された。心臓が弱い彼は、静養のためにこのホテルでしばらく滞在する予定だ。夕方になり、タキシードに着替えてロビーへ行く。そこにはドレスアップした宿泊客たちが、レストランのディナーを待ちながら談笑をしていた。
彼はその中に、とびきり美しい少年を見つける。透き通るような白い肌、もの憂げな青い瞳、艶めく金髪の巻き髪。あまりの美しさに、彼の目は釘付けになった。食事中も少年を見つめてばかり。彼の中に天性の美を感じながら、かつて友人のアルフレッドと交わした、美に関して言い合った議論を思い出した。
映画『ベニスに死す』のあらすじ【承】
その夜、教授はあまりの蒸し暑さで寝汗をかいた。ホテルの支配人は、この地域独特の亜熱帯気候によるものだと言った。食堂で朝食を食べながら、少年を見つめる。ホテルのビーチに行くと、イチゴ売りが往来し、宿泊客の婦人たちが楽しそうに談笑しながら日光浴を楽しんでいた。
彼は海水浴を楽しむ子供たちの中にあの少年を見つけ、タージオという名前だと知る。彼は他の子供たちと変わらないあどけない様子で、無邪気に遊んでいた。教授は遠くから彼の姿を見るだけで、幸せを感じていた。
部屋に戻るエレベーターで、教授はタージオと一緒になる。至近距離に立ち、息が止まるほど苦しくなる。このままでは心のバランスを失うと感じ、旅を終えることを決意した。支配人には気候が体に合わないと伝える。タージオには話しかけることもできず、食堂ですれ違いざまに心の中で「お別れだ」とつぶやいた。
教授はベニスの駅に着いた。列車に乗ろうとした時、係員から荷物の宛先を間違えて送ったと聞かされる。彼は荷物が手元に戻るまで、この地に留まることにした。すると、目の前で男が突然倒れた。息が苦しく目を見開いたまま意識を失うのを見て、教授は不安を感じた。
映画『ベニスに死す』のあらすじ【転】
彼は再び遊覧船に揺られてリド島へ。タージオに会えるのが待ち遠しい。ホテルの部屋に戻り、窓からタージオを見つけてホッとする。彼は再びビーチでタージオを見つめる日々を再開させる。
ある日、彼は砂浜で立ちくらみがした。支配人に伝染病の噂について尋ねると、新聞が大げさに報じているだけだと言った。ロビーのピアノでタージオが弾く「エリーゼのために」を聞きながら、教授は若い娼婦を買おうとした過去を思い出して恥じた。
タージオが家族と教会へ出かけるのを見て、心の中で愛しているとつぶやく。翌日もタージオを追いかけ町へ行く。その帰り道、町中に消毒薬が撒かれているのを目撃する。鼻をつまむような悪臭で、人通りも少ない。町の男に聞くが、何も答えなかった。
ホテルに戻ると危機感はまるでない。中庭には大勢の宿泊客が密集し、弾き語り楽団の演奏を聴いていた。教授はリーダーの男に疫病について聞くが、疫病なんてないと答えて歌い続けた。しかし彼の血色は悪く、額は汗でびっしょり。大声でつばを飛ばしながら、客席を回った。
映画『ベニスに死す』の結末・ラスト(ネタバレ)
翌日、教授は銀行で消毒についてしつこく質問し、真相を聞き出す。実はもうこの辺りは、アジア型コレラが蔓延しているという。観光で成り立っているベニスはこの事実を隠蔽。すでに住民の多くが感染し、病院はベッドに空きがないらしい。銀行員は、数日で交通が途絶えるから早く逃げなさいと忠告した。
教授は急いでホテルに戻る。「すぐ出発しなさい」と心の中でタージオの家族に伝えるが、実際は声をかけることもできない。悩み抜いた末、見た目を若返らせることに。理髪店で白髪を染め、血色をよくするために化粧した。
化粧姿の彼はタージオの後を追い、荒廃した町を彷徨う。またしても声をかけられず、立ち眩みで倒れ込む。異常な汗で化粧はボロボロ。彼は自分のみじめな姿を笑い、泣き崩れる。夢にアルフレッドが現れ、君の仮面ははがれたと責め立てる。彼は自分の老いを嘆いた。
翌日、ホテルの客は続々と帰っていた。教授は化粧をして再びビーチへ。タージオは砂浜で友達と遊んでいた。キラキラと輝くタージオとは対照的に、教授の体はみるみるやつれていった。汗で化粧と白髪染めが流れ落ちる。彼はタージオを見つめながら、声をかけることもできないまま死んでいった。
映画『ベニスに死す』の感想・評価・レビュー
ドイツの小説家トーマス・マンの同名小説を映画化した1971年の名作。初老の作曲家が、完璧な美しさをもつ美少年に心を奪われ、今で言うストーカーのように後ろ姿を追いかける。若さと老いという対比が、残酷なまでに明確に描かれていている。舞台となるのは水の都ベニス(ベネチア)の離島リド。この美しい街並みも、後半はコレラの蔓延により消毒剤が撒かれ、ゴミが散乱し荒廃する。セリフは少ないが、深いテーマを感じ取れる映画だ。(MIHOシネマ編集部)
休養のためにベネチアに訪れた初老の作曲家アッシェンバッハが、旅先で出会った、美少年タジオに心惹かれ、最後の恋に落ちていく。
いわゆる同性愛を取り上げた作品であるが、アッシェンバッハは、タジオと直接言葉を交わすことはなく、触れ合うこともない。ただ、遠くから見つめているのみで、愛も一方通行のままだ。
しかし、その届かぬ恋に落ちた彼は、時として少女のように純粋に見えるほど、愛らしく映る。
音楽、シナリオ、映像共に、美の極めた傑作である。(男性 20代)
グスタフの老いと、美少年の美しさが対照的で、そのコントラストがむしろ美しかった。人が皆んな美しいものに惹かれていくのは自然な事ではあると思うが、本作はそれを痛々しく描いていて何とも言えない気持ちにさせられる。
初老の男が少年を愛するという恋愛映画ではなくて、その愛が一方的で引っ張られるようなものであったので印象的だった。美しさと儚さ、脆さが入り混じる独特な世界観をベニスの街並みと共にじっくりと味わってみてほしい映画である。(女性 20代)
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