映画『欲動』の概要:ユリと千紘は、バリで出産を控える千紘の妹、九美に会うため彼女の元を訪れた。しかし、千紘は重い心臓病を患っており余命幾ばくも無い状態だった。死の不安に駆られた千紘は、看護師であるユリの冷静な対応に怒りをぶつける。
映画『欲動』の作品情報
上映時間:97分
ジャンル:ヒューマンドラマ
監督:杉野希妃
キャスト:三津谷葉子、斎藤工、コーネリオ・サニー、杉野希妃 etc
映画『欲動』の登場人物(キャスト)
- ユリ(三津谷葉子)
- 千紘の妻。看護師。生きている内に妹の出産に立ち会いたいという千紘を支えるため、バリへ同行する。情緒不安定な千紘から別れを切り出され、自身も自暴自棄になってしまう。
- 千紘(斎藤工)
- ユリの夫。心臓に重い病を抱えている。自らの死への恐怖と、人の死に慣れているユリの対応に腹が立ち情緒不安定になっている。元スキューバダイビングのインストラクター。
- 九美(杉野希妃)
- 臨月を迎えた千紘の妹。兄の体を心配しており出産への立ち会いには否定的だったが、不安に襲われている彼の意志を尊重する。
映画『欲動』のネタバレあらすじ(ストーリー解説)
映画『欲動』のあらすじ【起】
バリに到着したユリと千紘は、千紘の妹である九美の夫、ルークの運転で彼らの自宅へ向かっていた。九美の元に着いた頃には、重い心臓病に侵され体が弱くなっている千紘は大いに疲弊していた。縁側で眠ってしまった兄を見て心配する九美に、ユリは「いつ何があってもおかしくないから二人に会っておきたいって」と彼の気持ちを代弁した。
目覚めた千紘は、妹の大きなお腹に驚くと同時に笑顔になった。ユリと千紘、九美とルークは4人で賑やかな夕食を摂り、それぞれの近況を語り合った。
千紘は、ルークが想像に反して優しい男だったため安心していた。ルークは故郷であるオランダの話や九美との馴れ初めを語る。その内に、九美は千紘とユリが出会った頃の思い出を聞いてきた。しかし、千紘はユリと出会った経緯やそれ以前のことは語りたがらなかった。ユリは「海で助けてもらった」とだけ答え、九美は兄がナンパしたのかとからかった。
千紘の体を気遣いながら食事していた彼らは、九美の出産について話した。九美は、助産師に来てもらい自宅で出産する予定だと言う。看護師のユリもいることから、九美は安心してバリで出産できると喜んだ。
食事を終え部屋に戻ったユリは、千紘に薬を飲ませた後一人リビングへ降りた。ユリは、眠れずプールサイドに腰掛けていた九美に、どうして病院で出産しないのか聞いた。彼女は病院を「命が人工的に扱われている場所」だと感じていると話し、看護師であるユリに謝った。兄も今は不安定で面倒くさいでしょうと気遣う九美に、ユリは「薬飲ませると微妙な空気になるのよね」と打ち明けた。
映画『欲動』のあらすじ【承】
翌日、九美とルークの案内でバリ市内を観光したユリと千紘は、民俗音楽の演奏が聴けるカフェに入った。そこにはルークの友人である木村がおり、彼と挨拶を済ませた4人は音楽に聞き入った。千紘だけは、途中でどこかえ消えてしまった。
3人の元へ戻って来た千紘は、相談なしにバリでの出産を決めた九美に突然「お前おふくろの面倒見る気ある?俺がいなくなったら、状況考えて」と冷たく言い放った。さらに、千紘は月末まではバリに滞在すると語るユリの言葉を遮り「俺一人で残るから、お前先に帰ったらいいよ」と吐き捨てた。
千紘は、人の死に慣れているユリの態度に常々苛立っており、我慢の限界を迎え「もっと動揺しろよ!」と彼女に怒鳴った。続いて妹にもルークにも暴言を吐き当たり散らす千紘に、九美は「だから日本の男は嫌」と呟いたが、千紘は静かに「オランダ人だってバリの人に散々嫌なこと繰り返してきたじゃねえか」と返し、九美は閉口した。
カフェを飛び出し田園の中を歩いていたユリは、木村に声を掛けられた。夫と喧嘩したと言うユリを気晴らしに誘った木村は、自分はゲイであると告白し彼女を安心させた。
木村に連れられてクラブを訪れたユリは、木村のセックスフレンドであるイキを紹介された。ユリが二人に伴われフロアで踊っていると、千紘に似た髪型をしている地元の男と目があった。じりじりと距離を詰めてくる男を警戒に二階に逃れたユリだったが、暗がりで木村とイキが激しく交わっている場面を目撃し動揺してしまった。慌てて階下へ向かったユリは先程の男に無理矢理トイレへ連れ込まれ、あわやレイプされるという寸前で逃げ出した。
映画『欲動』のあらすじ【転】
千紘は、ユリが朝帰りしたことは特に咎めず、話があると言って彼女を庭へ連れ出した。
スキューバダイビングのインストラクターをしていた千紘は、ユリと出会う前、海中の崖の陰に差し掛かった時にパニックを起こしてしまった。同僚が助けに来てくれたため一命は取り留めたが、自分がしがみついて離れなかったせいで同僚は死んだ。千紘はこの時のことを振り返り、「あの時みたいに一番近くにいる人間を引きずり込むのが怖い」とユリに別れを切り出した。死に別れるよりお互い一人の方が絶対に良いと嘆く千紘に、ユリは言葉を掛けなかった。
木村と闘鶏場を見学したユリは、戦わされる鶏を見て可哀そうだと言った。木村は「本能剥き出しで落ち着く。人の理性は、生き物としては濁ってる」と自分の考えを述べたが、抑えきれない感情を持たないユリには理解できなかった。
イキの経営するカフェで、木村はワヤンを紹介した。彼こそ昨夜ユリをレイプしようとした男だった。ワヤンは昨夜の非礼をユリに詫びると、彼女を海へ誘った。ワヤンはスキューバダイビングのインストラクターだと言った。渋々ワヤンと浜辺を歩くユリは彼を無視し続けたが、ついに彼を受け入れてしまった。その夜、二人は幾度となく互いを求め合った。
映画『欲動』の結末・ラスト(ネタバレ)
浜辺で朝を迎えてしまったユリは、慌てて外していた結婚指輪を指に付け直すと家路についた。マーケットに差し掛かった彼女は新しい服を購入し、イキの店で着替えさせて貰った。
ユリは、イキに淹れて貰ったコーヒーを飲みながら「いなくなるって、どんな感じなんだろう」と誰にともなく呟いた。イキは、お土産にコーヒー豆を買って帰ろうとする彼女に「いなくなる、は自然なことだよ」と声を掛け、彼女を見送った。
帰宅したユリは、落ち着かない様子の千紘から九美が産気づいていると知らされ、急いでリビングに向かった。助産師とルークが苦しむ九美に声を掛けていたので、ユリも彼女の手を握って励ました。部屋の外でうろうろしていた千紘もついに覚悟を決め、彼らの元に駆け寄った。九美は無事に赤ちゃんを産んだ。
全てが落ち着きユリが部屋へ戻ると、千紘は死んだように眠っていた。ユリは彼の呼吸を確認しおもむろに自身の下着を脱ぎ捨てると、眠っている彼の体にまたがった。我に返ったユリは嗚咽を漏らしたが、目を覚ました千紘は彼女を抱き締め、二人は激しく互いを求め合った。
夕暮れを迎えた二人は、浜辺を散歩した。千紘はユリの遥か前を歩き、波打ち際へと進むと海の中へ入って行った。千紘は大きな声で「こっちに来て」と叫び、繰り返し彼女の名前を呼んだ。ユリは視界から消えた千紘の声を聞きながら、ただ立ち尽くした。
映画『欲動』の感想・評価・レビュー
女性監督らしい、非常に儚く美しい描写が映えていたと感じた。ユリと千紘のベッドシーンなどとても生々しく、抱き合うべくして抱き合っている男女のすがるような画が印象的だ。
恐らく、千紘の不安も、ユリの死に対する事務的な態度も、どちらも正しい。若くして死んでしまう不安や未練も想像できるし、かと言って、死ぬと分かっている人間に対し感情的に「死なないで」と叫んでも無意味なのだ。「誰も悪くなかった」というのが結論だろう。
唯一怒りを覚えたのは、出産直後にスタスタと歩く九美である。産後数時間でひらひらのワンピースを着て、赤ちゃんを抱っこしたまま真っすぐスタスタ歩くなど現実離れしている。ましてや医療設備が整っていない自宅である。彼女のお股事情を想像したら集中できなかった。そもそも「シャツが無いんだけど」などという理由で出産直後の妻を呼び付けるなよ、とルークにも腹が立った。(MIHOシネマ編集部)
みんなの感想・レビュー