映画『あいあい傘』の概要:深い事情を一人で背負い、とある田舎町にやって来た男と離れ離れになってしまった娘の再会までを描く物語。俳優・宅間孝行が主催の劇団で上演した同名の演目を自ら監督し映像化した一作。
映画『あいあい傘』の作品情報
上映時間:116分
ジャンル:ヒューマンドラマ
監督:宅間孝行
キャスト:倉科カナ、市原隼人、入山杏奈、高橋メアリージュン etc
映画『あいあい傘』の登場人物(キャスト)
- 東雲六郎(立川談春)
- 深い事情を抱え、命を絶とうと、とある田舎町に来た男性。そこで知り合った玉枝とは籍を入れずに事実婚をしていた。離れ離れになった妻と小さな娘をずっと気にかけている。
- 松岡玉枝(原田知世)
- 雨の中神妙な面持ちで考え込む六郎を見かけ、傘を差し出したのが出会いで25年間事実上の妻として一緒に暮らしている。一人娘がいる、とてもおおらかな女性。六郎の苦悩を感じながら、自分にできることをしてあげるため行動に移す。
- 高島さつき(倉科カナ)
- 父親をある日突然失った女性。自殺したと聞いていた父親が、実は生きていることを知り探すために田舎町へやってくる。カメラマンをしているため、取材と称して町の人たちと交流をしていく。
- 雨宮清太郎(市原隼人)
- 父親の家業を継いで、的屋として祭りの準備に勤しむ青年。とても真っ直ぐな人柄で、一目惚れした相手のために精一杯サポートしてあげる。
- 松岡麻衣子(入山杏奈)
- 玉枝の連れ子であり、25年六郎と生活する中で家族の在り方に疑問を持っている。反発しあいながらも、六郎と話し合い距離を縮めていく。
- 福田日出子(高橋メアリージュン)
- 清太郎と一緒に祭りの準備をする女性。恋人に対しても男勝りな対応で、真っ直ぐな清太郎が騙されていないかこっそり調べてあげる姉御肌。
映画『あいあい傘』のネタバレあらすじ(ストーリー解説)
映画『あいあい傘』のあらすじ【起】
電車で居眠りをしながら妻と娘と過ごした日々を思い返す若き日の六郎。行き先は、とある小さな田舎町であった。雨が強くなる中、六郎は恋園神社にたどり着き、「肩たたき券」の入った小さな封筒を手に取った。そして一つの瓶を取り出し、命を絶とうとした時、傘もささずに思いつめた表情の六郎に一人の女性が傘を差し出し、声をかけた。その女性は玉枝。神社の一角にある「恋園庵」に勤める女性である。
二人は籍を入れないまま、一緒に過ごし25年が経った。初めて会った日、玉枝のお腹には子供がおり、二人で育ててきた。その娘は麻衣子。戸籍上は繋がりがないが家族として一緒に暮らしてきた3人だが、六郎はいい年頃になった麻衣子との関係性に頭を抱えているのだった。
年に1度の夏祭りの時期、町は準備でにぎわっていた。六郎を慕うテキヤの清太郎も準備に勤しむ一人である。そんな中、夏祭りの取材に来たカメラマンのさつきに一目惚れしてしまった清太郎。町を案内するという口実で一緒に過ごすのだった。
映画『あいあい傘』のあらすじ【承】
六郎の元に昔の教え子・滑川が尋ねてきた。東京で准教授になったという報告ともう一つ、麻衣子と結婚したいというお願いだったのだ。しかし麻衣子との関係がうまくはいっていない六郎は、真剣に玉枝に相談するも本人と会って話そうと笑われてしまう。
恋園神社で巫女として働く麻衣子。その様子を見る口実で、六郎は毎朝参拝しているのである。神社の近くに仲間の日出子・力也カップルと一緒に暮らしている清太郎は、参拝帰りの六郎に声をかけた。浮かれ切った清太郎の様子の話を聞く六郎。実は清太郎はさつきと一晩を過ごしたという。結婚を意識しているという清太郎に対して、仲間たちは浮かれすぎないよう忠告をする。そんな中、玉枝は少し言いづらそうに口を開いた。実は前日の夜、酔いつぶれた清太郎が一人置いて帰られ困っていると、知り合いの店から連絡をもらっていたのだ。都合のいい解釈で自慢した清太郎だったが、真相がバレてしまいバカにされてしまった。そこへさつきから連絡があり、再び町を案内することになった。
そんな中、滑川は自分の気持ちを抑えきれず麻衣子の元へ会いに来ていた。一方的に好意を寄せている滑川。麻衣子は減るものではないと、彼の誘いに乗り夕食を共にする約束をするのだった。
映画『あいあい傘』のあらすじ【転】
玉枝の元に車海老という昔の知り合いが尋ねてきた。「本当にこれでいいんですか?」と聞く車海老に対して、うつむきがちに玉枝はうなずくだけだった。その頃、清太郎はさつきに町を案内していた。おもむろに「恋園神社」のジンクスについて聞くさつき。清太郎は例えとして六郎と玉枝の馴れ初めを話し出す。するとさつきはこれまでと表情を変え、一人先にホテルに戻ってしまった。フラれたと思っている清太郎だったが、再びさつきから連絡があり浮かれ切ってしまうのだった。
麻衣子は滑川と食事に行くも、気合いが空回りしている様子に引いてしまう。帰宅した麻衣子は、滑川の気持ちを知りながら食事に行くことを止めなかったことに怒り、六郎に当たる。そして、これまで言えなかった不満をぶつけてしまうのだった。六郎は過去のトラウマと重ねながら、思いふけるのだった。
翌日、日出子はさつきを呼び出していた。浮かれ切った清太郎のことを心配し、こっそり話をつけようとしていたのである。なぜ清太郎に近づいたのか理由を聞く日出子。さつきは逃げ出そうとしてしまったが、実は六郎が父親であることを正直に告白した。こっそりさつきを付けて来ていた清太郎は、驚きを隠せない中でさつきに協力をしてあげることにした。麻衣子と玉枝と会わせてあげるのだが、六郎の娘だとは言い出せずに過ごす。最後にさつきは六郎に会うために塾へ向かった。しかしその日、塾は休講しており会うことができないまま夜を迎えてしまう。清太郎を利用してしまった罪悪感もあり、深酒をするさつき。そこへ日出子や力也も来て、一緒に夜を明かすのであった。その頃六郎は麻衣子と話し合っていた。麻衣子は自分のせいで六郎と玉枝が籍を入れずにいると勘違いしていた。お互いに納得しきれないまま別れた二人。
翌日、六郎は慌てた形相で自転車に乗っていた。六郎と玉枝の元に塾講師の舟田が尋ねてきて、麻衣子と結婚したいというお願いを受けたのだという。麻衣子が舟田と付き合っていたことすら知らなかった六郎は、直接話を聞くために急いでいるのだった。しかし麻衣子は「家族」を作ることに自信がないと、プロポーズを受けるべきか悩んでいた。
さつきと清太郎たちが恋園神社に向かって歩いていると、玉枝が姿勢を正して待ち構えていた。きちんと挨拶をした玉枝に対して、沸々と苛立ちがこみ上げてきたさつき。清太郎は落ち着かせるために、ゆっくり話をしながら六郎ときちんと会うように提案するのだった。
映画『あいあい傘』の結末・ラスト(ネタバレ)
清太郎の家で気持ちを落ち着かせていたさつき。聞いたことがある声がする先を見ると、そこには車海老がいた。実は、玉枝が車海老に依頼し、さつきと六郎を引き合わせるよう段取りを踏んでいたのだ。25年間という空白の時間がありながら、自分のことなど覚えているはずがないと思い込んでいたさつき。きちんと玉枝から理由を聞くために、さつきは玉枝に会いに恋園庵へと向かう。そして、父親の命を救ってくれたことにお礼を言うのだった。
清太郎はお参りをする六郎の姿をさつきに見せた。六郎は毎日、朝と晩に横浜のある東の方向に向かって手を合わせている。そして塾の名前である「東雲」は東の空を見つめる六郎の姿から名付けたというのだ。六郎は決して、離れ離れになった家族のことを忘れていなかったと知ったさつき。ようやく六郎に会う決心ができた。
傘を直して欲しい、と六郎を呼び出して二人きりになる時間を設けた玉枝。観光客のふりをしてさつきは六郎に話しかけた。優しい六郎の声色に安堵し、涙が止まらなくなってしまったさつきは、「元気でいて下さい」とだけ伝え別れるのだった。
翌日、日出子は力也と祭りの準備をしながら、麻衣子が結婚を決めたという話をしていた。そこで祖母から聞いたあいあい傘の話をしてあげるのである。そうして、自分たちも一緒にあいあい傘しようか、と逆プロポーズをするのだった。その頃、六郎は何も聞かずに自分を受け入れてくれる玉枝にこれまでの感謝を伝えていた。
清太郎に見送られながら横浜へ戻るさつき。その表情は晴れ晴れとしていた。
映画『あいあい傘』の感想・評価・レビュー
タイトルの「あいあい傘」について最後の最後でスッキリさせてくれる展開であった。このシーンの日出子のセリフが大変趣き深く、印象的。25年という歳月はとても長く、記憶が書き換わっていてもおかしくはない上に、忘れていても仕方ない。それを乗り越えた本当の親子を描く今作は、人ならば抱いたことがあるだろう醜い感情もきちんと取り上げているのがより共感を呼ぶ点であろう。映像だからこそ描ける、演劇とは違う奥行きが味わえる物語である。(MIHOシネマ編集部)
ネタバレせずに観て欲しい作品。子供がいるお父さんと、お腹に子供を宿った女性。全く関係の無い2人が結ばれるところから、物語は始まります。
舞台っぽい演出や間のとり方、NGシーンをそのまま使ったのかな?というような自然体な演技。素晴らしかったです。色の使い方や撮影方法も凝っていて、工夫されているなと感じました。
ほっこりできるこの作品。ゆっくり時間をとってぜひ、大切な人と一緒に観て欲しいです。(女性 30代)
キャストの組み合わせがユニークです。高橋メアリージュンとやべきょうすけの掛け合いが、吉本新喜劇のようで癒されます。恋園神社周辺のカットが多く、川沿いやお祭りの風景が大変綺麗で感動しました。ただ、誰しもなんらか家庭の事情をひっそりと抱えているものと思うので、父親の暮らす土地で人々を巻き込みながら泣き喚く主人公に戸惑いを感じました。「夫婦はあいあい傘でお互いを気遣いながら歩いていく」というラストのセリフが最高でした。(女性 30代)
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