映画『アニバーサリー』の概要:キャラクターフィギュアなどを取り扱うメディコム・トイ社の設立20周年を記念し、5人の監督が「アニバーサリー」をテーマとした短編映画を製作。それらをオムニバス形式で一本の映画にしたのが本作品である。
映画『アニバーサリー』の作品情報
上映時間:109分
ジャンル:ヒューマンドラマ、ファンタジー
監督:佐々木敦規、本広克行、高橋栄樹、萩原健太郎、森谷雄
キャスト:若葉竜也、鈴木福、小橋めぐみ、青木崇高 etc
映画『アニバーサリー』の登場人物(キャスト)
- チンビラ(若葉竜也)
- 1作品目「ハッピーバースデー」の登場人物。フリーターで万引きの常習犯。ガラは悪いが、単純で他人思いの親しみやすい人柄。
- 少年(鈴木福)
- 1作品目「ハッピーバースデー」の登場人物。落ち着いていて賢く、ませた生意気な少年。後半にかけてチンピラに心を開いていく。
- 小橋めぐみ
- 2作品目「生日快楽十分幸福」に本人として登場する。しっかり者のコーディネーターだが、流されやすく無邪気な一面もある。
- 映画監督(青木崇高)
- 2作品目「生日快楽十分幸福」の登場人物。終始彼が回したビデオカメラの映像で話が進み、その映像に後から当てた声のみの語り部としての登場。饒舌で自分に酔っているタイプだが、撮りたい作品がはっきりしていない残念な監督。
- アヤコ(伊藤万理華)
- 3作品目「記念日が行方不明」の登場人物。毎日を何かの記念日にしており、それに囚われて人間関係をおざなりにしてしまっている。人当たりは良く、物静かな性格。
- 死神(栗原類)
- 3作品目「記念日が行方不明」の登場人物。死神という呼び方は、アヤコが勝手に呼んでいる呼び名。冷静沈着で、言動に無駄がない印象がある。
- 老夫婦の夫(中村嘉葎雄)
- 4作品目「五十年目のシンデレラ」の登場人物。以前は靴職人をしていて、妻には厳しくしてしまったことを後悔している。職人気質で感情表現は不器用だが、妻思いの性格。
- 老夫婦の妻(松原智恵子)
- 4作品目「五十年目のシンデレラ」の登場人物。認知症のようで、夫のことや2人の思い出をすっかり忘れてしまっている。認知症の今は物腰柔らかだが、以前は気が強くしっかり者の妻だったようだ。
- タダオ(淵上泰史)
- 5作品目「#地上300mのタダオ」の登場人物。売れない芸人でヒモのようなどうしようもない男だが、いつも笑っていて優しく人から愛されるタイプ。約束を守らない。
- ハルコ(入山法子)
- 5作品目「#地上300mのタダオ」の登場人物。メディコム・トイのクマ型フィギュア「BE@RBRICK(ベアブリック)」の新デザインを任されている。落ち着きと常識がある性格で、高層マンションに住む自立した女性。
映画『アニバーサリー』のネタバレあらすじ(ストーリー解説)
映画『アニバーサリー』のあらすじ【起】
ハッピーバースデー
とあるスーパーで、チンピラと少年がチョコを取り合うが少年が勝ち取り、チンピラは万引きの容疑で男性スタッフに追いかけられる。少年に導かれ、母親と買い物に来ていた少年の車を運転して逃走させられる。明日が誕生日のチンピラは、沼津に行きたいと言う少年に翻弄され意志とは裏腹にどんどん車を走らせる。少年は母親からの着信を無視する。
辿り着いたサービスエリアで少年は沼津を目指す女性を見つけ、彼女に惚れ込んでしまったチンピラは、彼女を乗せて自ら沼津に向かって運転を始める。少年は3年前に転校してしまった「さおりちゃん」に会うために沼津を目指す。女性の目的地に着き、チンピラがトイレで告白の練習をしている間に、少年と女性は不良2人組に絡まれていた。チンピラは少年と女性を不良たちから守り、ボコボコにされてしまう。チンピラは告白をあっさり断られ、女性に別れを告げて車を走らせる。
少年はチンピラと同じ誕生日の「さおりちゃん」を、誕生日までに迎えに行く約束をしたのを果たしたいのだと言う。「さおりちゃん」の家に着くと、出てきたのは妊婦になった元・幼稚園の先生「さおりちゃん」だった。30歳になるまでに迎えに行くと約束したと少年はチンピラに打ち明ける。
次の日の朝、昨日2人が出会ったスーパーの駐車場。失恋した少年を励まし別れを告げて車を出るとチンピラは、誘拐犯として警察に連行されてしまう。少年はチンピラに、昨日スーパーで奪い合ったチョコレートの半分を渡すと、警察に引き離される。
映画『アニバーサリー』のあらすじ【承】
生日快楽十分幸福
台湾にて、男性の映画監督が撮るビデオカメラ目線と男性の語りで物語が始まる。監督は台湾旅行コーディネーターの小橋めぐみを主演にし、彼女が台北市内を回る様子を撮り始める。牛肉麺(ニョーローメン)や餃子、白と黒のタイルが敷かれている台北駅では黒いタイルにしか人が座らないことなどをリポート。小橋めぐみはヘアサロンに行った後マッサージ店に向かうが、監督は内容がぼやけてしまったことから、自分の映画を取り直そうと決める。
Googleアースの映像から台湾の紹介を始めて前置きし、松山空港でカメラに向かってリポーターのように改まった挨拶をする小橋めぐみ。日本語が飛び交う食堂フーハンドウジャン、赤煉瓦で有名な紅毛城などをリポートしてまわる。小橋めぐみが柱から顔を覗かせるなどの無邪気な動きを始めてから、監督は彼女をアイドルっぽく撮っていくが映画になっていないことに気がつく。
再び通常のリポートに戻るが、カメラを意識する小橋めぐみのリポートに違和感を感じ、すぐに撮り直す。
今度は小橋めぐみに、台湾に来た日本人を案内する台湾人という役をつける。猫空(マオコン)を案内してもらうが、自分用の土産を買った小橋めぐみを責め立てる監督。いい映画を撮るため監督が必要以上に彼女を揺さぶると、彼女は泣き出してしまう。その後ランタン上げのイベントに行くと、願い事を書くはずのランタンに自分の名前を書いてしまう小橋めぐみ。願い事の内容から物語が進むのではないかと期待していた監督は、ガッカリしてしまう。
「アニバーサリー」というテーマのオムニバスとして映画を撮っていたことを忘れていた監督。監督は「生日快楽十分幸福」と書かれたお土産用ランタンを見つけるとその文字から、映画が生まれたこの日が「アニバーサリー」になるのだと確信する。
映画『アニバーサリー』のあらすじ【転】
記念日が行方不明
学生服のアヤコが、学校の庭で色紙の立体的な花を作っている。教室では女子生徒3人組が、アヤコの「記念日手帳」を勝手に開いてクイズをしている。メガネ女子のユウキは、それをやめるように注意する。クイズをしていた女子3人組は、戻ってきたアヤコに花作りを任せて帰ってしまう。アヤコは記念日手帳を開き、今日だけ何も記念が書かれていないことに気がつく。準備を手伝って欲しいと言うユウキを置いて、学校を後にするアヤコ。
帰宅しているアヤコは気がつくと突然、ピンク色の列車の中にいた。その車内には、白い服の不思議な男性がいる。列車が「シトミ駅」に着くと、全身カラフルな布に纏われた男性がやってくる。カラフルな男性は「シサレイ駅」で降りていく。車掌がやってきてアヤコの手帳を切符がわりに出すように言う。アヤコは「シトミ」が4月10日、「シサレイ」が4月30日のことで、4月30日はインコが逃げた記念日だと気がつく。これが記念日巡りの旅だと車掌が言うと、白い服の男性はこれを走馬灯ともいうと話し、アヤコは彼を死神と呼ぶ。
11月1日の今日は、彼女が死ぬ日であった。彼女が毎日を記念日にし始めたのは毎日退屈だったからで、記念日なんてどうでもいいと彼女は話す。彼女はその後もさまざまな記念日を巡る。「クトミ駅」に着くとのアナウンスが入ると、その日の停車を飛ばすように死神に頼むアヤコ。9月13日は彼女の誕生日だが、毎年孤独で良い思い出がないからだ。
クトミ駅を通過ししばらくすると、終点にたどり着く。真っ白で何もない終点で降りると、彼女の手帳からは記念日が全て消えてしまっていた。そこで彼女は初めて、どうでもよかったはずの記念日たちが大切な思い出だったと気がつく。色紙のお花の作り方も、アヤコの誕生日に母が教えてくれたのだった。母はアヤコに作ってくれたが、彼女から母に作ってあげたことはなかった。記念日ではなくても作ってあげればいいと言う死神。彼女が普通の日の尊さに気がつくことができるとその電車は、帰りもアヤコを乗せてくれた。
気がつくと元いた学校からの帰り道に立っていたアヤコは、ピンクの色紙のお花を見つけて拾おうとする。彼女が進み出た直後、彼女がいた場所に車が突っ込んでくる。死ぬはずだったが大切なことに気がつき救われたアヤコは、ユウキの手伝いをしに学校に戻って行く。
五十年目のシンデレラ
年寄りの男女が散歩をしている。空言を言う女性に、男性は昔住んでいたボロボロの家を紹介する。花火が見えてカミさんが気に入っていたと男性が話すと、女性は「仲良しなのね」と言う。男性の思い出の場所である公園にて男性がパンを出すが、鳩は昔のように集まって来ない。お米派だった男性は、カミさんがパン派で毎朝パンだったと話す。街を散歩しながら、男性は各所でカミさんとの思い出話を語る。女性は楽しそうにそれを聞いている。
靴が合わなくて足が痛むと言った矢先、女性はコーヒーの香りに誘われて歩き出し2人は喫茶店で一休みする。女性はモカを月に1回、たくさん砂糖を入れて飲むと話しながら、水の入ったコップに砂糖をたくさん入れる。荒々しくそれを止めた男性に対して女性が「男の人は女の人に優しくするものよ」と言うと、男性は優しくなかった過去を後悔して泣き出してしまう。
今日は2人の結婚記念日で、男性はカミさんであるその女性と思い出の街を歩いて思い出や自分のことを思い出してもらいたかったのだった。コーヒーとモカが出され、女性はモカを飲むと記憶を取り戻した様子で、昔のように男性を叱りつける。男性が初めて入ったその喫茶店は、女性が秘密で月に1回来ていた場所だった。
男性は驚いて、先ほどまで回っていた思い出の場所に彼女を連れ回す。彼の思い出話は彼女の目線では違って見えており、彼女の方が多くのことをよく覚えていた。
足が痛むと言っていたカミさんをベンチに座らせ、男性は彼女の足に合わせて作った靴をプレゼントする。「50年間ありがとう」と伝えると、次の瞬間また女性は記憶を失ってしまっていた。男性は失望の表情を浮かべるが、記憶はなくても彼が作った靴を歩きやすいと言ってくれる女性と、また幸せそうに連れ添って歩くのだった。
映画『アニバーサリー』の結末・ラスト(ネタバレ)
#地上300mのタダオ
タダオが出て行った広いマンションの一室に残されたハルコ。芸人のタダオはいつも笑顔で、ハルコがいくら怒っても笑って家を出ていき、ほとぼりが覚めた頃に帰ってくるのが日課だ。今回もSNSで「#やっぱりミソ」とラーメンの写真を投稿して余裕そうだ。
5年前、ある飲み会でトリオ芸人の彼に出会うと、ハルコは初対面の彼に軽いノリで結婚しようと言われ、ノリで約束をしただけで恋に落ちたのだった。そこからタダオは彼女の家に転がり込んできた。
一度も約束を守ってくれたことがないタダオに、疑問を持ち始めているハルコ。デジタルデザインをしているハルコ自身も、仕事がうまくいっておらず落ち込んでいる様子。「#祝☆初缶詰終了!」とSNSに投稿しているタダオが帰って来る頃かと待っていると、タダオとトリオを組んでいる2人が家を訪ねてくる。タダオは芸人を辞めると言い、バイトも辞めて連絡が取れなくなっている様子だ。
思えば今回喧嘩になったきっかけは、5年目の記念日を忘れたタダオに激怒し、みんな迷惑しているとハルコが言い捨てたことだった。いつでも笑顔なタダオはその時、一瞬悲しそうな顔をしていた。なかなか帰ってこない中電話をかけてきたタダオは、いろんなことが潮時で家も借りたからもう帰らないとハルコに話す。そして話したいことがあるから栃木に来てほしいと言う。タダオの心はもう自分に向いていないと感じ、自分は本当にタダオが好きだったと気がつくハルコ。
待ち合わせの駅に着くと、タダオが車で待っていた。彼は知り合いのつてで放送作家になることにしたと話すが、大事な話は別にあるとだけ言い車を走らせる。昔2人がした「ニュージーランドで気球に乗る」という約束を果たすために、栃木ではあるがタダオは気球を用意していた。気球が1つ用意された場所に着くと、もう潮時だと言うタダオに背を向け歩き出すハルコ。タダオは彼女を呼び止め、ハルコがいない人生なんて考えられないと叫ぶ。気球を飛ばす炎の音にかき消されながらも、タダオはプロポーズを成功させる。そこから2ヶ月後に2人は結婚し、タダオ・タダオ脱退後の芸人コンビ・ハルコはそれぞれ、仕事面で上昇気流に乗っていく。ハルコがデザインしたのは、花嫁と花婿をイメージしたメディコム・トイの二体のフィギュアセットであった。
エピローグ
「ハッピーバースデー」に登場した少年の母・「記念日が行方不明」のユウキ・「五十年目のシンデレラ」の老夫婦のもとに、結婚式の招待状とハルコがデザインしたフィギュアが届く。ユウキはペアのフィギュアの片方をアヤコにあげ、少年の母は少年とともに結婚式に参加した。ハルコと少年の母は仲の良い友人で、少年が式場で待機しているといつかのチンピラが七三分けで働いていた。ウエディングドレス姿のハルコの姉は「生日快楽十分幸福」の小橋めぐみで、彼女はあの映画監督と恋仲になっていた。ハルコとタダオの2人は指輪を交換し、満面の笑みで手を取り合いチャペルのドアを開ける。
映画『アニバーサリー』の感想・評価・レビュー
異なる監督の5作品ということで演出やストーリーの雰囲気がそれぞれ異なり、全く別の短編映画を5本観ているような感覚に陥る。しかし最後に5作品が繋がり全体が見えてくるとすっきりと腑に落ち、それが気持ち良い。「アニバーサリー」という同じテーマでも、その幸せに溢れたような言葉が人によっては虚しく響き、特別でもあり日常的でもある。人それぞれの価値観や人生があるということを、「アニバーサリー」を切り口に考えることができる映画であった。(MIHOシネマ編集部)
記念日をテーマにした5つの物語を描くオムニバス作品。まず思い出したのは『ラブ・アクチュアリー』です。様々な角度や視点から1つの「愛」というテーマについて描かれている大好きな作品。1つ1つバラバラだと思っていたストーリーが最後に繋がって、たくさんの愛が1つになる瞬間が最高なんです。
この作品にはその感動や驚きを期待してはいけなかったみたいです。1つ1つの作品が不思議で、わかりにくいストーリー。ラストは一応繋がりますが、なんだかはっきりしない展開。日本の作品となると、なかなか難しいのかなと感じてしまいました。(女性 30代)
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