映画『葛城事件』の概要:実際に起こった無差別殺人事件に基づき、同名舞台作品を演出した赤堀雅秋監督が映画で再びメガホンを取る。無差別殺人で死刑判決を受けた息子とその家族を取り巻く、誰もが経験しうる人間の闇を描いたヒューマンドラマ。
映画『葛城事件』の作品情報
上映時間:120分
ジャンル:ヒューマンドラマ
監督:赤堀雅秋
キャスト:三浦友和、南果歩、新井浩文、若葉竜也 etc
映画『葛城事件』の登場人物(キャスト)
- 葛城清(三浦友和)
- 葛城家の大黒柱。親から金物店を継ぎ1人で経営している。家族想いの部分もあるが頑固で横暴な性格で、カッとなると他人や家族に暴力を振ってしまう。日本社会に対してもケチをつけている。
- 葛城伸子(南果歩)
- 清の妻で、専業主婦。穏やかな性格で、引きこもっている稔を甘やかしてしまっている。普段はおしゃべりで明るいが、清には意見せず言いなりになってしまう。
- 葛城保(新井浩文)
- 葛城家の長男で、結婚して二児の父になる。幼少期からしっかり者で成績優秀であった。広告代理店に勤めていたがクビになり、それを誰にも打ち明けられず1人で抱え込んでしまう。
- 葛城稔(若葉竜也)
- 葛城家の次男。根暗で大学生の頃から引きこもり、父親や社会に対して反抗的な態度を取る。のちに無差別殺人事件を起こし、死刑判決を受ける。
- 星野順子(田中麗奈)
- 投獄されている稔と獄中結婚をする。死刑判決に反対しており、死刑囚と分かり合いたいと思っている。普段は冷静で口数が多い方ではないが、熱くなると気持ちの暴露が止まらなくなる。
映画『葛城事件』のネタバレあらすじ(ストーリー解説)
映画『葛城事件』のあらすじ【起】
罵倒の言葉で埋め尽くされた家の壁を白いペンキで塗装する清。杖をつき、足が悪い様子。庭に生えた木からみかんを取る。
裁判所で死刑判決を受けた稔は、傍聴席にいる清の顔を振り返りニヤリと笑う。
葛城家に訪れた順子。彼女は死刑判決を受けた清の息子・稔と獄中結婚をした。今の日本社会やマスコミの執念に嫌気が差している様子の清は、死刑制度に反対で稔に会ってみたかったという順子のことを、受け入れていない様子だ。彼女も今回のことで社会からバッシングを受け、家族からも見放されたようだ。
順子は獄中にいる稔の面会に向かう。稔は妻になった順子を受け入れているようだが、「家族になるのだから」という理由で順子に自分の価値観を押し付け、怒鳴りつける。それでも順子は、彼といつか本当に家族になりたいと伝える。
稔が大学生の頃の葛城家。保は自立し家を出ていくようだが、彼とは似つかず稔は大学にもいかずに引きこもっている様子だ。清が仕事に行ったあと、朝食のピザを部屋まで持ってきてくれた母に、社会に対する自分なりの価値観を主張し父への反発の気持ちをぶつける稔。
稔について話を聞くため、スナックで清と面会をする順子。相変わらず清は社会に対する不平不満を垂らし、居合わせた客にも八つ当たりして店を後にする。清が稔について話すのは、兄と比べて出来が悪いということ、自分はやるべきことをやったということだけだった。
保は喫煙者ではないにも関わらず会社の喫煙室に呼ばれ、心ない上司に軽くクビを宣告されてしまう。
映画『葛城事件』のあらすじ【承】
清・保・保の妻・彼女の両親で、結婚記念日の食事会をしている。清は店員に文句をつけで怒鳴り、婦の妻も気に留めずタバコを吸う。帰宅すると伸子が家で世話をしていた保の息子が頭を怪我してしまっていた。怪我をさせたのは稔だったが伸子がそれを庇い、清は稔を甘やかす伸子を強くはたく。
順子は懲りずに稔の面会に行くが稔は日に日に横暴になり、手土産も食べ物ではなく金にするように言うなど、態度が悪くなる一方である。
ある夜、清が部屋から火災を見つけ家から飛び出ようとすると、稔がドアを開け帰宅した。彼が火災を起こしたと感じた清はやるせなくなり、寝ていた伸子に抱きつきキスをする。しかし伸子は彼を拒絶し、結婚したことを後悔し始めた。
保には第二子が生まれ、仕事のふりをして自分の家族と暮らす家を出る朝、第二子の子守で妻は自分に見向きもしない。いつも見送ってくれる長男も顔を出さない。
家出した伸子を、保が仕事の合間を縫っているフリをして捜索するが見つからない。清が父から継いだ店も継がずに出世しろと期待され、保は再就職先の面接で緊張のあまりうまく話すことができない。
映画『葛城事件』のあらすじ【転】
保は伸子と稔がアパートで暮らしていたのを見つけ出す。前より明るく生活している2人の家にお邪魔する保。3人が他愛のない会話で盛り上がっているところに清がやってくると、一気に空気が凍りつく。稔に暴力を振るう清が包丁を持ち出すと、伸子は家に帰るからやめるようにと懇願する。稔は死んでもよかったのに、まだ生きなきゃいけないと呟く。
保の妻は子育てに必死で保に見向きもしない。保が家を出るとき彼の長男は「バイバイ」と見送る。
保の葬式。保がマンションから飛び降りたと噂が立つが、清は事故だったと主張する。清は保の棺桶を、保の妻に内緒で高額のものに変えていた。保はレシートの裏に「申し訳ない」とだけ遺言を残していた。伸子は保の妻に、家族なのに会社のことも何も知らなかったあなたが悪いと言う。稔は保が入った柩に向かって「一発逆転するから、俺は」と呟く。
順子は老人ホームで暮らす伸子を訪れる。順子は寝ている伸子の横で、死刑反対や稔と結婚することの持論を熱く語るが、伸子は認知症で会話は成立しない。
稔は通販で手に入れた大振りのゴツゴツしたナイフを使い、駅構内で次々と人を刺していく。
映画『葛城事件』の結末・ラスト(ネタバレ)
スナックで面会をする清と順子。稔のことをとやかく言う他の客に、土下座する清。息子を国に受け渡し国が死刑を執行する。国民も国の制度を容認するという形で彼を裁いているのだから、それで許してくれと言うのである。清はもはや誰も帰って来ない、家族で暮らしていたあの家に1人で暮らす。
葛城家がまだ新築で保と稔が子どもだった頃、伸子のママ友・その旦那や息子を招いてパーティをする、幸せそうな家族。優秀な保には金物店を継がせず、スーツでバリバリ働いてほしいと鼻高々と話す清。庭には子どもたちの健康を祈って、みかんの苗木を植えていた。
スナックからの帰り道。清は初めて稔を殺して欲しくないと順子に話す。死にたい稔の思い通りにせず、生きる辛さを味わわせるべきだと言う。
順子が稔の面会に行くと、早く刑を執行しろ、ここにいる時間が無駄だなどと苛立たしく訴える稔。順子はそれに反発し、無駄なことはないと必死に伝える。稔は自分が狂っていると理解していること、救われない現実に絶望していることを彼女に訴える。彼は根っからの悪人ではなく、絶望の末に自ら悪の道を選ばざるを得なかったのだった。
稔の死刑が執行されたことを伝えに、順子は清のもとを訪ねる。執行が早すぎることに納得のいかない気持ちや、自分が何も変えられなかったことを嘆く順子。清は自分や伸子への伝言がないことに、少し落胆の表情を浮かべる。清は順子に、自分が人を殺したら自分の家族になってくれと迫るが、恐怖に駆られた順子は逃げ出す。ひとり取り残された清は家族との思い出の家の中をぐちゃぐちゃに壊し、大きくなったみかんの木で首を吊る。
しかし木の枝は折れてしまい、清は死に損ねる。彼はうつろな表情でリビングに戻り、食べかけの蕎麦をすする。
映画『葛城事件』の感想・評価・レビュー
連続殺人事件と聞くと、狂気的な犯人の人間離れした人格が引き起こした事件のように解釈してしまう。しかしその犯人も、犯行を起こすほど気の触れるきっかけがあっただけの、ごく普通の人間であったかもしれない。本作品では、家族の存在がいかに人を変え、個人の意志に影響を及ぼすのかということを考えさせる物語であった。周りの環境が少し違っただけで、我々は狂人にも聖人にもなりうるということを忘れてはいけない。(MIHOシネマ編集部)
無差別殺人や猟奇的殺人と聞くと「怖い」と思いつつもそのニュースに対する興味はとても大きく、沢山あるニュースの中でもわざわざ選んで見てしまうほど人の興味を引くものだと思います。きっと「自分には理解できない犯行」だと思っているからでしょう。しかし、今作を見るとその「理解できない事件」の犯人に、自分や自分の家族がなる可能性は十分にあるのだと感じます。
何がきっかけでそうなってしまったのかはその家庭にしか分かりません。しかし、何かしてあげたい、変えたいと思っているのに何も出来なかった人の無力さが浮き彫りになっていて、とても切なくなりました。(女性 30代)
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