映画『サラバ静寂』の概要:音楽や小説などあらゆる娯楽が禁止されて30年が経った日本で、ミズトとトキオという青年が音楽に目覚める。現実離れした設定とリアルな人間性の交差を、吉村界人や若葉竜也などの実力派俳優たちが表現する。
映画『サラバ静寂』の作品情報
上映時間:85分
ジャンル:ヒューマンドラマ、音楽
監督:宇賀那健一
キャスト:吉村界人、SUMIRE、若葉竜也、森本のぶ etc
映画『サラバ静寂』の登場人物(キャスト)
- ミズト(吉村界人)
- ネジ工場で働く青年。仕事をサボらず夜遊びもほどほどの、平凡な性格。あまり自分の意志がはっきりしておらず、ぼんやりと毎日を生きている。トキオの遊びには付き合う程度だったが、音楽を聴いた時から物事への熱意を見せ始める。
- トキオ(若葉竜也)
- ミズトとは仕事の同僚。好奇心が旺盛だが、娯楽がないため暇を持て余して退屈している。仕事をサボったり空き巣に入ったりするだらしない部分がある。素直な性格で思ったことをすぐに口にできるタイプ。
- ヒカリ(SUMIRE)
- 序盤のナレーションも担当し物語にも登場する、サバサバしていて一匹狼タイプの女の子。音楽をしていたせいで殺された父を持ち、自分も音楽が好き。父親が死んでからは、コンビニでお菓子を万引きして食いつないでいた。
- 杉村(斎藤工)
- なぜか音楽を嫌悪しており、隠れて音楽に触れている「ノイズ」と呼ばれる国民を探し回っている。血も涙もない狂気的な性格で、「ノイズ」を発見すると激しい暴力を振って皆殺しにしている。
- 三島(森本のぶ)
- 杉村に付いて「ノイズ」探しをする警察官。杉村の残虐な懲罰を毎度目の当たりにしており、その異常さに引いている。
映画『サラバ静寂』のネタバレあらすじ(ストーリー解説)
映画『サラバ静寂』のあらすじ【起】
ライブハウスのサノバノイズに関するインタビュー。もしこの先音楽が禁止されたりしたら最悪だと語るおじさん。
「遊楽法」が30年前に制定され、音楽や小説など一切の娯楽が禁止された日本。陰で娯楽を楽しむ人たちは「ノイズ」と呼ばれ、見つかると厳しい罰が与えられた。
警察官の杉村が、ある「ノイズ」を取り押さえ家宅捜索をしている。杉村は落ちていたCDを割って「ノイズ」の喉に突き刺して狂気的に殺し、部屋の中をめちゃめちゃに壊す。殺されたのはヒカリの父だった。
川辺で水切りをし、何もすることがないことを途方に暮れているミズトとトキオ。2人はネジ工場で働いている同僚だ。2人は空き巣に入り娯楽を求めていたが、どうも満たされない。自分の作ったネジの使い道さえも教えてもらえず、ひたすらネジを作らされる日々。
2人はトタンでできた物置のようなボロ家の空き巣に入る。そこはギターや大量のCDが置いてある「ノイズ」の家で、家主は床で死んでいた。テレビから爆音のギター音が鳴り始め、音楽を知らない2人は初めて音楽に触れる。退屈な日々を送っていた2人は音楽に感動・興奮し、「サノバノイズ」のチラシを見つけ、音楽に興味を持ち始める。
映画『サラバ静寂』のあらすじ【承】
ヒカリはカセットテープレコーダーで音楽を聴いていたが、テープが伸びてしまい音は途切れてしまう。
音楽を聴く者がいると聞きつけ、嫌悪感をあらわにした杉村があるマンションに入っていく。
空き巣に入った家の「ノイズ」の死体を埋め、その家に入り浸るミズトとトキオ。夜になってミズトが帰宅し、独りになったトキオはギターの弾き方がわからず、ハウリングで遊んで楽しんでいる。
朝。トキオはその家で目覚めると、ラジカセ・ヘッドフォン・マイクを持ち出し川で音を拾ってみる。鳥の鳴き声や石を投げ入れる音など、平和な音がする。ミズトが働いている一方、トキオはネジ工場をしばらく無断欠勤しているようだ。工事には警察から電話がくる。
ミズトとトキオは拾ってきたおもちゃや鉄の棒で音を出し、歌も知らないためマイクに向かってシャウトする。トキオはいつの間にか髪の毛を赤く染めている。2人はいつか必ず一緒にサノバノイズに行こう、音楽の禁止が解除されたら音楽で世界をまわろうと語り合う。
映画『サラバ静寂』のあらすじ【転】
「ノイズ」の家にて。トキオが自作曲のタイトルをミズトに報告しようとしたところに、杉村が入ってくる。ミズトが急いでやってくると杉村は部屋をめちゃくちゃに荒らしており、トキオは金属棒で殴られ続け動かなくなっていた。トキオがやられ反抗するミズトも、杉村にボコボコにされ気を失う。
朝ミズトが目を覚ましトキオを起こすが、何度揺すっても泣き叫んでもトキオは目を覚まさない。トキオが手に持っていたカセットをラジカセに入れると、穏やかなギターのメロディが流れ、ミズトは泣きながらその曲を聴く。そこにヒカリが、伸びたカセットの替わりを取りにやってくる。そこはヒカリの家だったようで、以前死んでいたのはヒカリの父だった。ミズトはトキオの無念を晴らすためにヒカリとサノバノイズを目指すことにして、トキオの遺体を火葬する。
杉村が言い捨てた言葉を手掛かりに、夜のバスに乗ってサノバノイズを探す旅に出る2人。サノバノイズでトキオが作った曲を流したいミズトと、好きに音楽が聴ければいいと言うヒカリ。
2人はあてもなくサノバノイズを探しながら、警察から逃げ万引きをし、風俗店のようなアパートの一室に空き巣に入って過ごす。トキオが作った曲を、2人はイヤホンを片方ずつ付けて聴く。
サノバノイズを探し歩いていると、杉村と共にいた警察官・三島にたどり着く。彼は取り締まりをしているうちに音楽に魅せられ、サノバノイズは森の中にあると教えてくれる。放浪している間、ヒカリはショーウィンドウに飾られた綺麗なドレスに魅せられる。
映画『サラバ静寂』の結末・ラスト(ネタバレ)
警察に追いかけられながらも森に入りサノバノイズを探していると、2人は焚き火を見つけ、それがサノバノイズである可能性に笑顔を浮かべる。
サノバノイズの場所を教えてくれた三島は、音楽に魅せられていたことが杉村にバレて拷問を受け、片耳を切り取られていた。
2人が焚き火の側の階段を降りると、そこがサノバノイズだった。ロックな音楽と声援が響き渡るホールに通され、温かく迎え入れられた2人。ヒカリは念願の綺麗なドレスに身を包んで現れ、ミズトはヒカリに見惚れる。サノバノイズのおじさんと話し、トキオが作った曲を流してもらえることになる。
サノバノイズで演奏される音楽のジャンルは多様で、エレキギターの音に乗せてラップをする人もいれば、太鼓や三味線などの和楽器の演奏もある。
皆が楽しく盛り上がっていると、杉村が大勢の警察官を連れてそこに現れる。銃を惜しみなく使い、ホールの人々を次々と撃ち殺していく警察官たち。杉村のピアスには三島の耳が垂れ下がっている。ミズトは杉村に腹を撃たれ、ヒカリは頭を撃ち抜かれてしまう。三島がその杉村を後ろから撃ち殺す。
瀕死状態のミズトは、即死したヒカリを担ぎ這って地上に出ようとするが、階段を上りきれずに倒れこむ。夢か現実か、パンクな服装の子ども2人が階段を上がってくる。ミズトは彼らにトキオのCDを渡すと、後世に伝えてくれと言わんばかりに力尽きてしまう。
トキオの最期、カセットに得意げに書いていた曲名は「サラバ静寂」であった。
映画『サラバ静寂』の感想・評価・レビュー
実力派でアングラな作品に起用されることの多い役者が集まっており、作品全体の独特で異質な雰囲気はとても魅力的である。メインの人物たちが死んでいく点も、ドラマなどでよくある「主人公は生き残る」という定番を覆している。それは主人公が特別ではなく、主人公もそれ以外も対等な人間であることを感じさせる描写である。杉村がなぜあれほどに音楽を嫌悪しているのか、そもそもなぜ日本で娯楽が禁止されたのかが盛り込んであれば、感情移入しやすく入り込める作品だったのではないかと感じた。(MIHOシネマ編集部)
何故このような世界になったのかが全く分からなかった今作。私が見逃したのでなければ、その理由が描かれていなかったのでは無いでしょうか。娯楽が禁止された世界、今作では音楽をテーマにしていましたが、それを映画に置き換えて考えると私には耐えられない世界だと感じました。
サノバノイズのように禁止されていても隠れて音楽を楽しむ人たちが必ず現れ、それを始末する警察。ラストで子供たちにCDを渡しましたが、この無意味な負の連鎖に終わりが来るのだろうかと考えてしまいました。(女性 30代)
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