『100万回生きたねこ』で知られる小野洋子の晩年の名作、『あの庭の扉を開けた時』がとうとう実写映画化。誰もが忘れらない大切な思い出がある。自分の心と向き合う95分となるだろう。
映画『あの庭の扉をあけたとき』の作品情報
- タイトル
- あの庭の扉を開けた時
- 原題
- なし
- 製作年
- 2022年
- 日本公開日
- 2022年10月28日(金)
- 上映時間
- 95分
- ジャンル
- ヒューマンドラマ
- 監督
- 蜂須賀健太郎
- 脚本
- 蜂須賀健太郎
- 製作
- 荒川邦子
馬場基晴 - 製作総指揮
- 不明
- キャスト
- 加藤柚凪
佐藤隆太
酒井若菜
坂川陽香
松坂慶子 - 製作国
- 日本
- 配給
- モバコン
映画『あの庭の扉をあけたとき』の作品概要
佐野洋子という名前に聞き覚えはないだろうか。例えこの名前を知らずとも、『100万回生きたねこ』というタイトルを聞けばピンとくるだろう。日本が誇る名作中の名作、その執筆者こそが佐野洋子なのである。このタイトル以外にも、彼女はこれまでに数多くの名作を生み出してきた。最新作の原作もその一つ。発表から13年の時を経て、この度実写化されることと時は流れても、佐野洋子の優しい世界は後世へと語り継がれる。佐野本人は、惜しまれつつも2010年にこの世を去った。しかし、彼女が残した作品は今後も色褪せることなく人々の心を温め続けることだろう。『全国学校図書館協議会・選定図書』にも選ばれている日本が誇る名作。是非、充実した95分間を過ごそう。
映画『あの庭の扉をあけたとき』の予告動画
映画『あの庭の扉をあけたとき』の登場人物(キャスト)
- 洋子(加藤柚凪/坂川陽香)
- ある夜、一人の少女と出会いおばあさんの記憶を覗き見ることとなる。
- おばあさん(松坂慶子)
- 洋館に越してきた女性。心の中に、淡く苦い思い出を秘めている。
映画『あの庭の扉をあけたとき』のあらすじ(ネタバレなし)
今では全く人の寄り付かない一件の洋館。そんな洋館に、ある日一人の老婆が越してきた。その老婆が越してきて以降、洋館の周りには美しい花々が咲き乱れるようになる。かねてよりその洋館を気にかけていた少女洋子は、その老婆にどこか恐怖心を抱きつつも好奇心を抱かずにはいられなかった。ある日、洋子はジフテリアにかかり病院へ入院することとなる。そこで洋子は、摩訶不思議な体験をすることとなるのだった。夜、一人の少女が彼女の前に姿を現したのだ。その少女に導かれるままに進んだ洋子は、なぜか老婆の過去の記憶を覗き見ることとなる。彼女の心の中には、淡くほろ苦い愛の思い出が秘められていたのだった。そして、中学生になった洋子は、とうとう老婆と邂逅を果たす。
映画『あの庭の扉をあけたとき』の感想・評価
変わらないもの
人間誰しも年齢を重ねる。アンチエイジングや美魔女という言葉がいくら流行ろうとも、老いは誰にも平等に訪れる。しかし、老いは全てがマイナスなことではない。大切な人との別れや肉体的な衰えなど、確かに目を背けたくなることもあるだろう。しかし、様々な経験を基に蓄積された考え方や学びはとても美しいものだ。変わっていくことは素晴らしく、一方で、どれだけ時が経とうとも変わらないものもある。そんな『変わらないもの』を本作に登場する老婆は抱えている。変わったことよりも変わらないものの方が、案外気がつきにくいものだ。人間は成長する生き物。しかし、全てが変わる必要もない。自分の中に揺るぎない、変わることのない根幹を持っていることも大切だ。あなたが大切にしている変わらないものは何だったか。本作を通して思い出そう。
映画の撮り方
本作は多くの人に望まれて制作された。本来、映画を製作するには莫大な費用がかかる。既に名前が知られている監督であるならばともかく、まだ駆け出しの若い監督にとっては、資金集めがまず大きな壁となることだろう。才能と熱量を持った若い卵が、金銭的な理由で夢を断たれてしまうなど、あってはならないことだ。そんな若い監督の救世主ともなり得る、新しい形の映画撮影手法がある。それこそがクラウドファンディング。撮影そのものやキャスティング、あるいは広告など、映画に関わるあらゆる費用を公募するというやり方。観客は、自分が興味を持った、あるいは応援したい作品を選んでは金銭を投じる。それが何百万と集まり映画が作られるのだ。しかし、当然ながら作品に魅力がなければ注目及び寄付は集まらない。その時点から、制作側の手腕が問われているのだ。果たして本作はその期待に応えられたのか。
100万回生きたねこ
恐らく日本人であれば全員が知っていると言っても過言ではないだろう。それほどまでに有名な本作。絵本の中でもトップレベルの人気、知名度を誇るこのタイトルを執筆した人物こそが最新作の原作者、小野洋子である。1977年に執筆され、40年以上経った今でも多くの不安から愛されている本作では、命の尊さを語っている。幼い頃にこの作品を読み聞かせしてもらい、よく理解ができなかった子供もいるかもしれない。100万回生きたねこの孤独、侘しさ、そして、愛を知って全てから解放された充足感。大人になるにつれ多くの経験を積み、それらが胸に刺さるようになるのではないだろうか。子供にだけでなく、大人にこそ味わってもらいたい小野洋子を語る上では外すことはできない一冊。
映画『あの庭の扉をあけたとき』の公開前に見ておきたい映画
メタモルフォーゼの縁側
最新作では、少女と老婆の心温まる交流が描かれている。そんな世代を超えた二人の女性の交流を楽しめるのは本作も同じ。芦田愛菜と宮本信子という年代の違う名女優を起用した本作。17歳と75歳という歳の離れた二人を結びつけるのは、なんとBL!?そんな、奇想天外な設定ではあるものの、見ている者の心を溶かすような温かい物語。主人公のうららは、目立たないようにひっそりと生きている女子高生。密かな趣味はBLを読むこと。ある日、バイト先の本屋で働いていた彼女に、一冊のBL本が手渡された。その渡し主は、なんと75歳のおばあちゃんだった!?そして、二人はBLを介して友情を育んでいく。友情には歳の差など関係ないことを教えてくれる一作である。
詳細 メタモルフォーゼの縁側
この世界の片隅に(2016)
前述したように、近年クラウドファンディングという形で映画が作られることが増えてきた。最新作も本作もそのパターン。特に本作は、その中でも1番の成功作と言えるのではないだろうか。元々は、こうの史代による漫画を能年玲奈や小野大輔、細谷佳正といった豪華キャストでアニメ映画化。暖かみのある絵や、涙せずにはいられない重厚なストーリーが大ヒットとなる毎日映画コンクール日本映画優秀賞やキネマ旬報ベスト・テン日本映画ベストワンなど、あらゆる賞を総なめした。こういった作品が眠っていることを考えると、クラウドファンディングにも一層興味が湧くことだろう。厳しい時代を生き抜いた一人の女性。辛くとも笑顔でいる彼女にこちらが勇気を貰えるはず。
ドキュメンタリー映画 100万回生きたねこ
佐野洋子は癌で亡くなった。彼女に宣告された余命は1年程度。果たしてその時、彼女はどのような毎日を過ごしていたのだろうか。本作は、これまでとは違った方向性から小野洋子の代表作『100万回生きたねこ』にアプローチしていく。名作を次々と世に遺した佐野洋子は、果たしてどんな人物だったのか。どのような幼少期を経て、現在の彼女になり得たのか。小野洋子という人物を掘り下げながら、改めてこの名作を見返した時、物語に込められたメッセージをより感じることだろう。100万回も死んで、100万回も生きたそのネコは、死ぬことなんて平気だった。しかし、とあるネコとの出会によって、彼の考えは大きく変わっていくこととなる。そんな、命の尊さについて語ってきた小野洋子が、最後に遺す思いとは。
詳細 ドキュメンタリー映画 100万回生きたねこ
映画『あの庭の扉をあけたとき』の評判・口コミ・レビュー
池袋HUMAXで『あの庭の扉をあけたとき』を観ました。少し前に観た『秘密の森の、その向こう』にちょっと似てたかな。蜂須賀監督は原作者の故佐野洋子さんと生前から一緒に製作を進めて、そこから数えると完成まで30年近く掛かったとの事。 pic.twitter.com/z7F1i90TZz
— 神保町刑事 (@jinbochodeka) November 1, 2022
映画『あの庭の扉をあけたとき』のまとめ
名作というものは、色褪せないものだ。それを証明するかのように、原作者小野洋子の代表作である『100万回生きたねこ』は40年以上前に出版された作品にも関わらず今も尚毎日のように読み聞かせされている。勿論最新作もそう。最新作の発表から既に10年以上の時が経過しているが、色褪せるどころかこの度映画化が決定。まだまだ盛り上がりを見せている。これらの作品には、世代を超えて読者が変わったとしても、変わらずに響く大切なメッセージが込められている。流行りの作品やシリーズものを追いかけるのも楽しいが、たまには古くから愛されている作品には目を向けるのもいいのではないだろうか。
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