映画『バハールの涙』の概要:ヤズディ教徒が住まうシンジャル山岳地帯にISが侵攻。彼らに拉致されたバハールは家族と離ればなれになり、性奴隷として売り買いされた。ISの元から命からがら逃げだしたバハールは、やがて彼らに抵抗する部隊に入隊する。
映画『バハールの涙』の作品情報
上映時間:111分
ジャンル:ヒューマンドラマ
監督:エヴァ・ユッソン
キャスト:ゴルシフテ・ファラハニ、エマニュエル・ベルコ、アフメット・ジレク、ベヒ・ジャナティ・アタイ etc
映画『バハールの涙』の登場人物(キャスト)
- バハール(ゴルシフテ・ファラハニ)
- シンジャル山岳地帯に住むクルド人女性。弁護士だったがISの侵攻により拉致され、性奴隷として売買される。息子のエミンも一緒に拉致され、彼らに奪われる。ISの元と脱出後、エミンを救出すべく抵抗部隊に入隊。被害者女性だけで構成された女性部隊のリーダーを務める。
- マチルド(エマニュエル・ベルコ)
- 戦場ジャーナリスト。数々の戦場を取材してきたが、リビアで戦闘の被害に遭い、愛する夫と左目を失っている。人々は夢や希望のある話を好む傾向にあるが、悲惨な現実や現状を知ってもらいたいという思いからこの仕事を続けている。幼い娘がおり、それだけが危険な仕事を続ける唯一の原動力となっている。
映画『バハールの涙』のネタバレあらすじ(ストーリー解説)
映画『バハールの涙』のあらすじ【起】
2014年、イラク北西部の山岳地帯シンジャルにISが侵攻。そこには少数派のヤズディ教徒が住んでいた。市民の多くは逃げ出したが、同時に多くの人々が虐殺され、拉致されてしまった。次第にISに抵抗するため、ヤズディ教徒、自治政府軍、クルド人武装勢力が団結し、抵抗部隊を組織し始めた。
戦場ジャーナリストのマチルドはシンジャルで起きていることを世界に伝えるために現地入りした。そこで彼女は女性だけの抵抗部隊に出会う。中でも部隊のリーダーであるバハールはその美貌もさることながら、高いリーダーシップを発揮していた。バハールに興味を持ったマチルドは彼女に話しかけた。最初こそ頑なだったバハールだったが、マチルドにも子供がいることを知って次第に話し始める。
バハールは弁護士だった。しかし、ISによって息子のエミンや妹共々拉致されてしまう。ISの容赦ない屈辱の日々が続くようになり、妹は自ら手首を切って自殺。やがてエミンも彼らによって連れ去られてしまった。
映画『バハールの涙』のあらすじ【承】
その後、バハールは奴隷として売り買いされるようになった。4回目の買い手である武器の管理者の所へいた時、テレビで大学時代の恩師であるダリア・サイード弁護士が喋っているのを目にする。ダリアは拉致された女性たちを救いたいと危険だと知りながらもテレビに出演し、必ず助けに行くので諦めないでと語った。そして、携帯を見つけて自分に連絡してほしいと電話番号を告げたのだった。
ISの隙を突いて充電器を手に入れたバハールは、隠し持っていた自身の携帯からダリアにメールを送った。やがてダリアから返事がくる。バハールは場所や人数などの情報をダリアに送った。
奴隷はバハールの他に子供たちが数人とラミアという女性がいた。しかも、ラミアは妊娠しており、出産も間近に迫っていた。ダリアは正午の祈りの時間を使ってISの目を盗み、その隙に脱出しろと言ってきた。だが、祈りの時間はわずか10分しかない。ラミアは成功しないと嘆くが、どの道、殺されてしまう運命ならばやったほうがいいとバハールは説得した。
祈りが始まる頃、監禁されている家の前に一台の車が停まった。祈りが始まったのを確認したバハールは皆を連れてその車へと向かい、素早く乗り込んだ。車はバハールたちを乗せるとすぐに動き出した。しかし、車は村の外へと出ず、近くの家へと辿り着いた。ここで一度ISたちをやり過ごすという。しばらくするとISが追いかけてきたが、救助してくれた男は何も知らないと言って彼らを追い払ってくれた。
出発は翌朝だったが、夜の間にラミアが破水してしまう。赤ん坊を連れて検問を通過することはできない。ラミアは痛みに耐えながら出産を我慢するしかなかった。朝が来て、バハールたちはムスリムの黒装束に身を包んだ。
検問所へやってきたバハールたちは、無事にそこを通過することができた。だが、本当の脱出は30メートル先にあるもう一つの検問を越えなければならなかった。苦しむラミアにバハールは人生で最も重要な30メートルだと言い聞かせ、彼女と共にそこへと向かって行った。
検問へと辿り着くとそこにはダリアが待っていた。安全が確保されたことを確認したラミアは、その場で女の子を出産した。シンジャルの外には脱出できたが、バハールはあることを心に決めていた。それは、離れ離れになったエミンを取り戻すこと。そして、彼女は女性だけの抵抗部隊に参加したのである。
映画『バハールの涙』のあらすじ【転】
バハールは女性部隊を連れて一刻も早くISから村を取り返したかった。だが、上官のズィレク司令官は空爆を待つと言って聞かない。村からは地下道が続いており、そこを辿っていくこともできたが地下道には地雷が山ほど埋まっていて危険だった。丘を越えればいいとバハールは提案するが、それもリスクが高すぎるので却下される。
ある朝、女性部隊が士気高揚の歌を歌っていると、見張りとマチルドがIS兵の姿を捉える。ひっそりと彼らに近づいたバハールたちは敵兵を射殺すると、一人を拘束することに成功。しかし、仲間の女性兵士が一人、犠牲になってしまう。
捕虜にしたIS兵から得た情報は、敵は司令部の南側からは撤退し、残っているのは数名の自爆兵と拉致した子供たちだけということだった。バハールは捕虜を先頭にして地下道を潜り抜けて村へ向かいたいとズィレクを説得。許可を得たバハールたちは地下道を進んで行った。
ISに捕らえられた子供たちは戦闘訓練を学ばされるという。敵の司令部の近くには学校もあることから、もしかしたらそこにエミンがいるかもしれないとバハールは期待を膨らませていた。
真っ暗な地下道を進んで行く途中、仲間の一人が捕虜の策略に嵌り、地雷を踏んで死亡してしまう。バハールたちは悲しみに暮れながらも地下道を通り抜けると村へと辿り着いた。IS兵を殺し、自分たちの活動拠点を確保することに成功する。その夜、アメリカ軍の空爆が始まった。
映画『バハールの涙』の結末・ラスト(ネタバレ)
バハールはマチルドに、なぜ兵士にならないのかと尋ねた。マチルドは、自分は武器を扱えないし、語ることで悲劇を伝えたいと答えた。マチルドは戦地で左目を失って眼帯をしていたが、その時に夫も亡くしてした。夫も戦場ジャーナリストだった。マチルドの心の支えとなっているのは幼い娘がいることだった。
11月13日、バハールたちは司令部の近くの小学校へと潜入していく。ISの攻撃をかいくぐり、辿り着いてみると、銃を持った少年が階段を降りてきた。だが、バハールを見た少年たちは相手がISでないと分かると安心したようにその場から逃げ出していった。抵抗部隊は少年たちをすぐに保護した。
ISの残党がいないか校内を探していると残っている自爆兵を発見する。すぐさま射殺したバハールだったが、そこに米軍の空爆が降ってきてしまう。爆風に気を失ったバハールだったが、目覚めた時に目の前にいたのは息子のエミンだった。バハールな涙を流しながらエミンを抱きしめた。
マチルドは空爆で負傷してしまい、現地を離れることとなった。マチルドは多くの戦場を体験してきたが女性だけの部隊というのは初めてだった。屈辱に耐え、逃げて、兵士となった彼女たち。その壮絶な経験を聞き、目の当たりにした彼女はジャーナリストになった初心を思い出した。バハールに真実を書いてほしいと頼まれたマチルドは、彼女たちの歌と強い思いを書き記していくのだった。
映画『バハールの涙』の感想・評価・レビュー
実話に着想を得て構成されたストーリーは真に迫っており、本作のコンセプトをよく表している。こういった現実が存在するのだという真実を伝えるために、分かりやすい虚構で構成したのは見事だ。作中、人々は夢や希望のある話を好み、悲惨な現実や真実はクリックひとつで見向きもしないという言葉が出てくるが、本作は悲惨でありながら、十分に希望のある話として作られている。ふたつは表裏一体であり、振り子のように互いに影響し合っているというのが何とも皮肉だ。(MIHOシネマ編集部)
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