映画『ボーダー 二つの世界』の概要:ケロイドにまみれた醜い容姿に悩むティーナは、不審人物を嗅ぎ分ける特殊な能力を持っていた。ある時、税関で働くティーナの前に現れた怪しい旅行者ヴォーレに、彼女は本能的に何かを感じ取った。
映画『ボーダー 二つの世界』の作品情報
上映時間:110分
ジャンル:ミステリー、ファンタジー
監督:アリ・アッバシ
キャスト:エヴァ・メランデル、エーロ・ミロノフ、ステーン・リュングレン、ヨルゲン・トゥーソン etc
映画『ボーダー 二つの世界』の登場人物(キャスト)
- ティーナ(エヴァ・メランデル)
- 顔にただれた傷跡が残り、体には脂肪が付いた醜い見た目のせいで孤独な生活を送っている女性。スウェーデンの税関に勤務しており、不審者を嗅ぎ分ける能力を活かして密輸を行う人間などを呼び止めている。警察にその力を買われ、児童ポルノを撮影、販売している組織の摘発に協力する。ヴォーレと出会い自分が何者か自問する。
- ヴォーレ(エーロ・ミロノフ)
- ティーナの前に現れた怪しい旅行者。鞄の中身を調べたり身体検査を行ったりしても違法な物は出てこなかったが、何かを直感したティーナへ徐々にこの世の真実を告げる。
映画『ボーダー 二つの世界』のネタバレあらすじ(ストーリー解説)
映画『ボーダー 二つの世界』のあらすじ【起】
ティーナは職場の駐車場からフェリーを眺めながら、足元を這う虫を摘まみ上げた。その後出勤した彼女は、嫌な臭いを感じ取り一人の男を呼び止めた。同僚が男の鞄を調べると、中からは酒が数リットル出て来た。酒の密輸を行っていた男は別室へ連行された。
翌日、またも臭いを感じたティーナはスーツの男を調べた。彼の携帯ケースからは児童ポルノのメモリーカードが発見され、慌てた男はそれを飲みこもうと暴れたが、他の警備員に取り押さえられ逮捕された。
ティーナは次に、醜く太った不潔な男を呼び止めた。鞄には生きたワームと虫の孵化器が入っていたが、怪しい物は特に見つからなかった。ティーナは彼を解放したが、本能的なざわつきを覚え落ち着かなかった。
仕事を終えたティーナは、施設にいる父の元へ向かった。父は、同居しているティーナの彼氏、ローランドとうまくいっているのか聞いた。そして、答えを濁す娘へ、良いように利用されるなよと忠告した。
ティーナが帰宅すると、ローランドはドッグレースの中継に夢中だった。一人で盛り上がる彼を横目に静かに夜の森へ出掛けたティーナは、背後に迫っていた巨大なヘラジカの体を優しく撫でた。
翌日ティーナは警察署を訪れ、署長のアグネータから児童ポルノに携わる組織を摘発するための捜査協力を求められた。アグネータは税関でメモリーカードを発見した彼女の力を買っており、マイナスな感情を臭いとして感じ取れると打ち明ける彼女の言葉を信じた。
映画『ボーダー 二つの世界』のあらすじ【承】
ティーナは、税関を通ろうとする醜い男を再び呼び止めた。持ち物を調べても何も出てこないため、ティーナは男性の同僚に頼み彼の身体検査を行った。
男の身体検査を終えた同僚は、彼は「彼女」だったと言った。外見は確かに男性だが、男性器ではなく女性器が付いていたらしい。さらに、尾骨の辺りに手術痕があったと聞かされたティーナは、自分の体と同じ位置に傷があると知り人知れず驚いた。
ティーナは男に謝罪した。特に気にしていない様子の男は、昆虫の研究をしながら旅をしていると言った。彼はヴォーレと名乗り、自分の居場所を告げて彼女の前から去った。
雨の中帰宅していたティーナは、隣家のステファンが飛び出して来たので車を止めた。彼は、妻のエステルが産気付いたので病院まで乗せて欲しいと言う。ティーナは二人を乗せ病院へ向かったが、彼らを病院内へ見送ると体がざわついた。
ティーナは、ヴォーレの宿泊先を訪れた。彼は、蛾の幼虫を見つけては口に放っていた。ティーナは止めるよう注意したが、彼が幼虫を口元へ近付けると、彼女は戸惑いながらも咀嚼した。
ティーナは、自宅の隣にある小屋へヴォーレを住まわせることにした。ローランドは彼の容姿に怯えたが、ティーナは無視した。
警察に協力するティーナは、街で見掛けた男、パートリックに嫌な臭いを感じ後をつけた。彼が入ったアパートの一室から出生届が出されていないにも関わらず赤ん坊の声が聞こえたが、部屋から出てきたパートリックの妻によってティーナと私服警官は追い返されてしまった。
映画『ボーダー 二つの世界』のあらすじ【転】
ヴォーレと森を散策するティーナは水源の辺に差し掛かると、彼に「妖精が踊っているところを想像するの」とはにかみながら打ち明けた。それを聞いたヴォーレは、本当にいると言い切った。やがて彼女は、自分の体に染色体異常があり、子供を産めない体だと打ち明ける。
隣家の赤ん坊を見に行ったティーナだったが、彼女は抱き上げた赤ん坊にひどく怯えられてしまった。その夜、一人もがき苦しむヴォーレは森に入って秘かに出産していた。
一方で警察は、パートリックの自宅から身元不明の赤ん坊と、その赤ん坊に虐待している様子を収めた映像を発見し彼を逮捕した。
ローランドがイーヴェレで行われるドッグショーに出掛けた日の夜、ティーナは雷雨に怯えていた。彼女は、同じように怯えるヴォーレとテーブルの下に身を寄せて震え、雷が治まると森へ出掛けた。二人は互いを激しく求め合い、獣のように唸るティーナの股間からは男性器が伸び、彼女はヴォーレに挿入した。
ティーナは、ヴォーレに自分が何者か尋ねた。彼は、自分達はトロルだと答えた。相手の感情を嗅ぎ分けられるのはトロルの能力であり、本当は尻尾が生えていたが人間の手によって切り落とされたと言う。他に、フィンランドにいる小さな集団が流浪の生活をしていると語るヴォーレは、彼らを探す旅にティーナを誘った。
ヴォーレは、自分の両親が人間によって10年もの間拷問されていたとティーナに話した。他にも多くのトロルが実験材料として捕らえられており、幼かった彼は養護施設をたらい回しにされていたと言う。
後日、ティーナは帰宅したローランドを家から追い出した。
映画『ボーダー 二つの世界』の結末・ラスト(ネタバレ)
ヴォーレの小屋に入ったティーナは、冷蔵庫がガムテープで閉じられていることに気付きドアを開けた。中に置いてあった箱には、小さく蠢く奇妙な質感の赤ん坊が入っていた。
夫と共に逮捕されたパートリックの妻は、知り合いから譲られた赤ん坊に虐待していたと自白した。一方で護送中のパートリックは、突如現れたヴォーレにより殴り殺されてしまった。
現場を訪れたティーナは、パートリックを殺した犯人がヴォーレであると気付き、彼の元へ急いだ。ヴォーレは、定期的に自分の体から出てくるヒトにそっくりな未授精卵=ヒイシットを人間の赤ん坊とすり替え、攫った赤ん坊は児童ポルノを制作する組織へ受け渡していたと告白した。
ティーナが自宅へ戻ると、ヴォーレは「フェリーで会わない?」と書かれた置き手紙を残して消えていた。
フェリーの甲板でヴォーレと落ち合ったティーナは、彼に種を存続させようと誘われたが断った。そして次の瞬間、ティーナの背後から大勢の警察官が現れヴォーレを捕らえた。しかし、ヴォーレは警察を振り切り夜の海へと消えてしまった。
ティーナの父は、守衛として働いていた時分、施設に大勢のトロルが収容されていたとティーナへ語った。娘が欲しかった彼は拷問を受ける彼女の両親へ「子供を任せてくれ」と言い、レーヴァという名の赤ん坊にティーナと名付け引き取ったのだという。それを聞いたティーナは父と決別し、本当の両親から貰った名前で生きることを決めた。
帰宅したレーヴァは、玄関前に置かれた箱に気付き警戒しながら中身を確認した。中にはヒイシットではなく本当のトロルの赤ん坊が入っており、彼女はむずかる赤ん坊に虫を食べさせた。赤ん坊はレーヴァの腕の中で笑い、レーヴァも優しく微笑み返した。
映画『ボーダー 二つの世界』の感想・評価・レビュー
ファンタジーとミステリーが美しく融合した作品だった。
ティーナとヴォーレの間に漂う異様な雰囲気の正体は終盤まで明かされない。私は映画の中盤まで、無理やり切り離された結合性双生児が次第に出生の秘密に迫るのかと予想したが、それを上回る展開だった。
妖精の国北欧発の人外によるミステリーは、現代社会に潜む問題も浮き彫りにしている。コンプレックスを抱き人と正面から関わることができず、自分の居場所はどこにあるのだろうかと悩む苦しみ。何と向き合い何を解決したらいいのか、それを考えることにすら無気力になってしまう虚しさ。その実、真の問題点は頭の片隅にはっきりと持っているジレンマなど、広くとも窮屈になった社会で生きる人々の悲しさが伝わってくる。(MIHOシネマ編集部)
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