映画『チャンス(1979)』の概要:屋敷の外の世界を全く知らずに大人になってしまった庭師のチャンス。家主が他界し、屋敷を追い出された先に待っていたのは、数珠つなぎの不思議な出会いだった。ピーター・セラーズの晩年作。
映画『チャンス』の作品情報
上映時間:130分
ジャンル:ファンタジー、コメディ、ヒューマンドラマ
監督:ハル・アシュビー
キャスト:ピーター・セラーズ、シャーリー・マクレーン、メルヴィン・ダグラス、ジャック・ウォーデン etc
映画『チャンス』の登場人物(キャスト)
- チャンス・ザ・ガーディナー(ピーター・セラーズ)
- 知的障害を患い、物心ついたときから大きな屋敷で「庭師」として住み込みで働いていた。屋敷から出たことがなく、ラジオやテレビ以外の世界を知らずに育ったが、主人が亡くなった日を境に環境が一変する。
- イブ・ランド(シャーリー・マクレーン)
- 屋敷を出たチャンスを事故に遭わせてしまい、責任感から自宅に招いた女性。経済界の重鎮である夫と大豪邸に暮らしているが、チャンスの人柄に惹かれていく。
- ベンジャミン・ターンブル・ランド(メルヴィン・ダグラス)
- 経済界の立役者として、大統領にアドバイスをする現役の重役。若い妻・イブと暮らしているが、重い病気を患い車いすや人の手を借りないと生活はままならない状態。純朴なチャンスと出会い、死と向き合い始める。
- ロバート・アレンビー(リチャード・ダイサート)
- ベンジャミンの屋敷で専属の医師として働いている。純朴なチャンスの言動に違和感を覚え、陰ながら探るが真相をむやみに明かすことはない慎重な男性。
映画『チャンス』のネタバレあらすじ(ストーリー解説)
映画『チャンス』のあらすじ【起】
雪が降りそうな寒い朝。いつも通りテレビを見て、庭の手入れを終えたチャンスに、慌てた様子のルイーズが声をかけてくる。屋敷の主人が亡くなったというのだ。しかしチャンスは表情を変えずに、ルイーズが朝食を用意してくれるのを待っている。知的障害を患い、物心ついた頃から屋敷に住み込みで働いていたチャンスにとって「死」とは何か、わからなかったのである。
雇い主を失ったルイーズは「年上の人と結婚しなさい」と言い残し、先に屋敷を出た。屋敷の状況を確認しに来た弁護士・トーマスは、一切記録に残されていないチャンスの存在に驚かされる。「賠償」について要望を聞き入れようとしたトーマス。しかし、賠償の意味もわからないチャンスは、逆に立ち退きを要求されてしまうのだった。仕方なく、人生で初めて屋敷の外に足を踏み出すこととなった。
ルイーズに昼食を用意してもらえなかったチャンスは、見知らぬ女性に食べ物を分けてもらおうと声をかける。そして庭師の仕事の探し方を見知らぬ少年たちに聞いてみるのだった。しかし、チャンスが初めて触れたテレビ以外の外の世界は、優しくはない。そんな矢先、高級車と接触してしまった。車の持ち主であるイブから、自宅にいる医師に診てもらうよう説得を受けたチャンス。名前を尋ねられ、「チャンス、庭師(ガーデナー)です」と答えると、イブは「チョンシー・ガードナー」と聞き間違えるのだった。
映画『チャンス』のあらすじ【承】
イブの自宅は大豪邸だった。大きな打撲を負ったチャンスは、経過を見るために数日間滞在することになり、イブの夫・ベンジャミンと出会う。重い病気を患うベンジャミンには付きっきりで医師やナースが看病をしている。経済界の立役者であるベンジャミンに対して、物怖じせず接するチャンスの姿勢を気に入ったベンジャミン。チャンスのことを「チャンシー」と呼び、話し相手として迎え入れた。
「弁護士に家を追い出された」と話したことで、チャンスは「事業に失敗して家財を失った実業家」だと勘違いされる。単なる庭の手入れの話も、「経済畑」と深読みされ、不況下にある米国を立て直すために前向きな存在だと称される。さらにはベンジャミンが大統領に会う機会に、チャンスは同席することになった。
大統領と出会って早々に手を取って挨拶をするチャンス。意見を求められたチャンスは、庭師として経験した「四季の移ろい」について話す。すると、ベンジャミンも大統領も「春には目が出る」と言うことだと深読みし議会には出ない前向きな話を称賛する。すぐに大統領はチャンスのバックグラウンドを部下に調べさせるのだった。
映画『チャンス』のあらすじ【転】
チャンスを喜ばせようと農園に誘いだしたイブ。温厚なチャンスの人柄と、ベンジャミンが認める誠実さに惹かれ始めていたのだった。ベンジャミンの体調が悪化し、不穏な空気が流れる一方、大統領が財務委員会でチャンスの言葉を引用したことで、世の中の注目がチャンスに集まり始めていた。
チャンスの言葉が哲学的だと称され、よく見ていたテレビ番組にも副大統領の代わりとして出演が決まる。ベンジャミンとイブだけではなく、大統領やトーマスも番組を見ていた。真のチャンスの姿を知っているルイーズだけは、突然の脚光に疑問を抱く。注目度が高まるほど、チャンスの経歴について調べる人は増えるが、何も情報は出てこない。ベンジャミンの専属医師・ロバートは、チャンスの言葉を思い返し「弁護士のトーマス」を探し、話を聞こうとするのだった。
ベンジャミンは自分の生先が長くないことを理解しているため、イブの意志を尊重しようとしていた。チャンスに惹かれ始めていることに気付き、政治家が集まる大事なパーティーへの代理出席を依頼するのだった。
映画『チャンス』の結末・ラスト(ネタバレ)
イブの熱烈アピールにもされるがまま受け入れるが、優先度はテレビの方が高い。ベンジャミンに代わりイブをエスコートして出向いたパーティーでも、チャンスの注目度は高かった。飾らない言葉と自分の地位を誇張しないと、評価されたチャンスの噂は一人歩きしていく。
素性のわからない男の言葉を引用したことで、気が気でない大統領の元に「CIAかFBIが重要機密を消した大物」という情報が入る。スパイではないかとの疑いまで浮上するのだった。その頃、トーマスと会っていたロバートは、チャンスはただの庭師であると確信した。ベンジャミンに伝えようとするも、「チャンスのおかげで死を考えるのが楽になった」と遺書を書きながら呟いた言葉を聞き、思いとどまるのだった。
ベンジャミンは自ら投薬を拒絶し、チャンスに「イブの傍に居てくれ」と言葉を、残し目を閉じた。ベンジャミンの葬儀では、各界の大物たちが次期大統領候補にチャンスがふさわしいのではないかと話をしていた。そんなことに関心のないチャンスは、森の中へふらりと歩みだし、湖の上を悠然と進みだすのだった。
映画『チャンス』の感想・評価・レビュー
「ただそこにいる」まさに原題そのままの男の数奇な旅を見た。「純粋」や「純朴」と言った言葉では収まり切らない、「無」の存在なのである。コメディとしては静かな物語であるが、巧みな言葉の重ね方が秀逸な一作。見る者の年代や経験によっては全く面白みがないかもしれない。しかし、この物語について同じポイントでツボをくすぐられた相手を見つけたならば、相性のいい相手だと思って間違いないのではないだろうか。(MIHOシネマ編集部)
外の世界を知らないチャンスの純粋すぎる心は、出会う人の影響を大きく受けると同時に、出会う人へ物凄い影響を与えていたことに驚きました。
チャンスは言ってしまえば何も知らない赤ちゃんのような存在で、知らないことを恥ずかしいとか、怖いなどと思っていない本当にまっさらな心の持ち主なので人間の心は経験や知識によって良くも悪くも色が塗られていってしまうのだなと感じました。
様々な人に出会いながらも、自分らしさを持ち続けるチャンスの姿に勇気をもらいました。(女性 30代)
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