映画『チェンジリング(2008)』の概要:アメリカで起きた連続少年誘拐殺人事件「ゴードン・ノースコット事件」で被害者となった少年の母親が実際に体験した事実を元に製作されたアメリカ映画。クリント・イーストウッド監督作品。
映画『チェンジリング』 作品情報
- 製作年:2008年
- 上映時間:142分
- ジャンル:ヒューマンドラマ、サスペンス
- 監督:クリント・イーストウッド
- キャスト:アンジェリーナ・ジョリー、ジョン・マルコヴィッチ、ジェフリー・ドノヴァン、コルム・フィオール etc
映画『チェンジリング』 評価
- 点数:85点/100点
- オススメ度:★★★★☆
- ストーリー:★★★★☆
- キャスト起用:★★★★★
- 映像技術:★★★★☆
- 演出:★★★★☆
- 設定:★★★★☆
[miho21]
映画『チェンジリング』 あらすじネタバレ(ストーリー解説)
映画『チェンジリング(2008)』のあらすじを紹介します。※ネタバレ含む
映画『チェンジリング』 あらすじ【起・承】
1928年3月9日。ロサンゼルス。シングルマザーのクリスティン・コリンズ(アンジェリーナ・ジョリー)は電話局で働きながら息子のウォルターを育てている。クリスティンにとってウォルターは何よりも大切な存在だった。
3月10日。土曜日の休日。急に仕事の代役を頼まれたクリスティンは早く帰ると約束して家を出る。予定より遅くなってしまい急いで帰ると家にウォルターがいない。近所中を探し回ったがウォルターは見つからず警察に連絡する。しかし警察は子供の行方不明はいなくなってから24時間は捜索できないと取り合ってくれない。
翌日、ようやく来てくれた警察に事情を説明するが、その後2週間経ってもウォルターは見つからない。教会のブリーグレブ牧師(ジョン・マルコビッチ)は集会でウォルターのことを呼びかけ、腐敗し切ったロサンゼルス市警察を非難する。
7月20日にイリノイ州で保護された少年を警察はウォルターだと判断し、青少年課のジョーンズ警部(ジェフリー・ドノヴァン)はクリスティンに報告へ来る。多くの新聞記者がつめかける中、クリスティンは胸を躍らせ駅へ行くが汽車から降りてきた少年は別人だった。クリスティンはジョーンズに“違う”というが、今は母親のフリをしろと言われ、クリスティンはそれに従う。
少年はなぜか自分をウォルターだと言い張るが、割礼されていることや身長が7センチも低いことから見ても明らかに別人だ。しかし警察はこのミスを決して認めようとしない。さらに息のかかった医者や新聞を使い、クリスティンがおかしいと世間に印象付ける。
牧師はクリスティンに救いの手を差し伸べる。牧師は警察のやり口を把握しており戦い方を指示してくれ、彼女はそれを実行する。しかしそのことがジョーンズを怒らせ、クリスティンは精神病院送りにされてしまう。
病院にはクリスティンと同じように警察の都合でここへ送り込まれた「コード12」と呼ばれる患者が数多く存在することをキャロルという女性が教えてくれる。彼女もそのうちの一人で、クリスティンに様々なアドバイスをしてくれる。
映画『チェンジリング』 結末・ラスト(ネタバレ)
未成年の不法入国捜査のためワインヴィルのノースコット牧場を訪れたレスター刑事はそこでクラークという少年を保護する。警察でクラークは驚愕の事実を告白する。牧場主のゴートン・ノースコットは20人近い少年を惨殺し、自分もその手伝いをさせられたというのだ。そしてクラークは殺された少年の一人としてウォルターの写真も選び出す。
レスターはすぐにジョーンズへ報告するが、ジョーンズはこの重大な告白さえもみ消そうとする。一方、クリスティンは病院の中で息子のために必死で戦っていた。
レスターは独断で他の刑事とクラークを連れて牧場を捜索する。クラークが掘った場所からは多くの人骨が発見され、彼の告白が事実であったことが証明される。
事態は急変しクリスティンは病院から出されるが、ウォルターが殺されたという事実に打ちのめされる。そしてあの少年がウォルターを名乗っていたのはロスで映画スターに会いたかったからだとわかる。
ジェームズ市警本部長は警察に落ち度はなくウォルターを語った少年とそれを最初に認めたクリスティンが悪いことで話を終わらせようとする。牧師はやり手のハーン弁護士をクリスティンに紹介し、裁判で戦おうと彼女を励ます。
クリスティンは先ず精神病院にいた「コード12」の患者たちを救出し、警察と全面対決していく。並行して、逮捕された犯人ノースコットの裁判も始まる。
警察との裁判は有能なハーン弁護士の働きと市民の後押しで、クリスティンの訴えがほぼ認められ彼女は勝訴する。そしてノースコットの絞首刑も確定する。しかし、彼女はまだどこかでウォルターが生きているのではないかと信じ続けていた。
1930年9月30日。刑の執行を控えたノースコットからクリスティンに話したいことがあると電報が届く。クリスティンは彼と面会し“息子を殺したの?”と何度も聞くがノースコットは明確に答えないまま刑に処される。
1935年2月27日。牧場で殺されたと思われていた少年が警察に保護される。少年の母親から連絡をもらったクリスティンは警察にかけつける。
少年の供述により、牧場ではウォルターも一緒にいて金網の隙間からバラバラの方向に逃げたことがわかる。逃げ遅れた少年をウォルターが助けてくれたと少年は話す。しかしその後ウォルターがどうなったかは少年にもわからなかった。
その後クリスティンは生涯ウォルターを捜し続けた。
映画『チェンジリング』 感想・評価・レビュー(ネタバレ)
映画『チェンジリング(2008)』について、感想・レビュー・解説・考察です。※ネタバレ含む
信じがたい警察の対応と演出のうまさ
作品の冒頭に“真実の物語”というテロップが出される。だから余計になのだが、本当に信じられないようなことが次々と起こる。
物語の舞台は90年近く前のロサンゼルスだ。防犯カメラやDNA鑑定も当然ない。だとしても、誰が見ても一目瞭然の別人を“これがあなたの息子ですよ”と言い張る警察の強引すぎる対応には衝撃を受ける。死ぬほど息子を愛している母親が“明らかに息子ではない”と言っているのに、それを認めないことの意味がわからない。
当時のロス市警がどれほど腐敗していたのかは知らないが、この映画で見る限り警察のやっていることは犯罪行為だ。都合の悪い人間は精神病院に送ってしまうというやり口には胃がキリキリするような怒りを覚える。心の中で何度“本当に?これマジですか?”と叫んだことか。
前半部分はずっと苦しかったが、特に病院ではいつクリスティンの精神が崩壊してもおかしくないような状況が続くので常にハラハラさせられ同時に警察への怒りは増長していく。
観客の心をわしづかみにするような迫力ある演出で、感情移入はマックスに達する。
キャスティング
主人公のクリスティンを演じたアンジェリーナ・ジョリーの役作りは実に見事だった。息子を無事に見つけてもらいたい一心で感情を押し殺し冷静を装いながらも、瞬間的に抑えきれない感情がむき出しになってしまうこの母親の心の葛藤がビンビン伝わってくる。息子を想う母親の気持ちは心配しているとか、悲しんでいるとか、そんな生易しいものではない。そういう母親のリアルな痛みをアンジェリーナは完璧に表現していた。
憎たらしいジョーンズ警部を演じたジェフリー・ドノヴァンも細かい心情変化を繊細に表現していたし、救世主ブリーグレブ牧師を演じたジョン・マルコヴィッチの落ち着いた演技にも安心感があった。
さらに印象的だったのはゴードン・ノースコットという殺人鬼を演じたジョイソン・バトラー・ハーナーという俳優だ。有名な俳優ではないようだが、この犯人の狂気や気持ち悪さを非常にうまく演じていて抜群の存在感だった。
リアル感が求められる作品なだけに、キャスティングの良さが光っていた。
警察の対応があまりにも悪すぎて、クリスティンがあまりにも可哀そうだった。本物のウォルターはどこにいったのだろうと思いながら見ていると、さらなる絶望と恐怖が待っていた。これが実際の事件を元に制作されているというのが衝撃的である。クリスティンの身に立て続けに困難が降りかかるので、見ていて本当に辛かった。自分が彼女の立場なら、途中で心が折れていると思う。ラストは少しだけ希望があるような終わり方だが、クリスティンとウォルターが再会できていないのが悲しい。(女性 30代)
あまりに理不尽なことばかりが続き、辛すぎて観るのをやめようかと何度も思った。やっと見つかったはずの息子が別人とはいたたまれない。失意のどん底に落とされたうえに更なる悲劇が襲う。弱い者を助けてくれるはずの警察や病院の信じられない仕打ち。これが実話だなんて絶望感しかない。
この不幸な事件を、本作はとても丁寧に描いている印象を受けた。辛いけれど目を逸らしてはいけない事実。アンジェリーナ・ジョリーの熱演にも最後まで引き込まれ、見終わったあとしばらくは呆然としてしまった。もう一度観たいとは思わないが、一度は観て欲しい作品だ。(女性 40代)
警察の対応の卑劣さに本当に腹が立ちました。逮捕歴のある人が以前インタビューで、刑務所の中ではいじめが横行していると話していましたが、誰とは言わないにしろ日本の警察でも同じようなことが行われているのかなとクズさ加減に失望します。
息子が生きていることを信じたい気持ちは分かりますが、この作品を見る限りウォルターはもう生きてはいないのだろうと感じてしまいました。ただ愛する息子を救いたいだけなのに、警察の陰謀に巻き込まれてしまったクリスティンは本当に不運だったなと哀れに思ってしまいました。(女性 30代)
映画『チェンジリング』 まとめ
途中であまりに苦しくて逃げたくなるような映画だ。そこまでこちらが追いつめられた気持ちになるのは、事実そのものの残酷性が理由ではなく、この作品の完成度が高いからに他ならない。
実話をもとにした作品というのは腐るほどあり、シリアスなテーマを掲げながら色気を出して娯楽性を取り入れたような映画も多い。そういう映画を観ると不愉快極まりない気持ちになる。実在の人物や事件に迫る作品は、本作のようにしっかりと人間の心の機微を描き、起こった事実を淡々と伝える脚本と演出でないと映画にする意味がないと個人的には思う。その点で、この映画は非常に誠実な作りになっており母親の苦悩、事件の残酷性、さらに警察への怒りというものがずっしりと重たく伝わってくる。
どうかこんな痛ましい事件が二度と起こりませんようにと願わずにはいられない。
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