映画『エリザのために』の概要:医師である主人公にはイギリス留学を控える娘がいる。だが、留学を決定づける最終試験日の前日、娘が白昼堂々と暴漢に襲われてしまう。娘は情緒不安定なまま試験を受けることに。そこで、父親はコネと伝手を通じて娘が合格できるよう不正に手を染めてしまう。
映画『エリザのために』の作品情報
上映時間:128分
ジャンル:ヒューマンドラマ
監督:クリスティアン・ムンジウ
キャスト:アドリアン・ティティエニ、マリア・ドラグシ、ヴラド・イヴァノフ etc
映画『エリザのために』の登場人物(キャスト)
- ロメオ・アルデア(アドリアン・ティティエニ)
- ルーマニアの病院に勤める誠実で優秀な医師。教師として勤める女性を手術したことで、良い関係になり不倫関係となる。妻とはそれ以来、関係が徐々に悪化。現在では家庭内別居状態。娘のエリザにイギリスへ留学して欲しいと強く願っている。
- エリザ(マリア・ドラグシ)
- ロメオの娘。非常に優秀で学校でも評価がほぼ満点に近い。金髪の可愛らしく聡明な少女。暴漢に襲われ、留学を決定づける最終試験へと情緒不安定なまま挑むことになる。年上の彼氏と付き合っており、実は留学するかどうか迷っている。
- 警察署長(ヴラド・イヴァノフ)
- ロメオの友人であり、エリザの事件についても率先して捜査してくれる。副市長との繋がりがあり、不正を当たり前のように行っている。
映画『エリザのために』のネタバレあらすじ(ストーリー解説)
映画『エリザのために』のあらすじ【起】
ルーマニアの小さな町。ある朝、いつも通りに一人娘エリザを学校前の交差点で降ろした父ロメオ・アルデア。彼はその後、愛人の元で過ごそうとしていた。だがその矢先、エリザが暴漢に襲われロメオが勤める病院へ搬送されたと知らせが入る。急いで病院へ向かうと妻も駆け付けている。診察の結果、大事には至らなかったが、エリザは酷く動揺していると言う。娘はもうじきイギリス留学へと向かう予定で、留学を決める卒業試験を翌日に控えていた。
右腕の怪我は捻挫で、レイプは未遂に終わっているらしく最悪の結果は免れた。エリザと共に警察へ向かい犯人と思われる顔写真を見たが、該当者はいないようだ。ひとまずは被害届を出すことにする。事件の詳細を淡々と語るエリザ。
その際、ロメオは友人の警察署長から副市長が肝硬変で移植を待っているため、順番を先にするよう手配してくれないかと頼まれる。
帰宅後は朝に石を投げ込まれ、割れてしまった窓の修理を依頼。今夜は一先ず、穴を紙で塞いで凌ぐ。妻とは家庭内別居状態で、エリザのことだけは互いに相談し合う約束をしていたが、事件に関しても意見が対立。ロメオはどうしても娘を留学させたいと考えているが、妻は娘の心を大切にしたいと言う。そして、留学や試験に関しても、選ぶのはエリザだと言うのだった。
翌朝、エリザを学校へ。昨日の事件について説明をするため、監督官に頼み込んで中へ入れてもらう。事情を話してどうにか温情を勝ち取る。これで試験の結果がどうあれ、協議の結果次第では合格する可能性が高まった。
エリザが試験を受けている間、年老いた母を見舞いその後、教師をしている愛人と逢瀬を交わす。
映画『エリザのために』のあらすじ【承】
試験の結果、時間切れで2問だけ答えを書くことができなかった。エリザは泣いていたが、まだ完全に終わったわけではない。娘が彼氏と会うと言うため、ロメオは警察署長の元を訪れる。警察署長はまず副市長へと連絡を入れ、エリザの留学の件について優遇してもらうよう話す。すると、夕方6時にロメオと直接話したいと言われる。そこまで話が通ってしまえば、移植の順番についてロメオも手を尽くさなければならない。医師としてやってはいけないことだと分かってはいたが、エリザのためには仕方ないことだった。
副市長と面会。彼は酒好きが高じて肝硬変になってしまったらしいが、終末期の準備だけは万全に済ませている。移植についてはドナー次第でもあるため、こればかりは順番を早めても今すぐというわけにはいかない。
その後、副市長の声掛けによって監督官の自宅を訪ね、エリザの点数について相談。何とか合格点に達するよう細工を頼み込む。監督官は解答用紙に印をつけてくれれば、どうにかしようと言ってくれる。ロメオは何か謝礼をしたいと申し出たが、試験官は副市長に恩があるので賄賂はいらないと言うのであった。
帰宅後、監督官から教えられた印について妻と相談したが、妻は否定ばかりして良策を提案するわけでもない。結局、彼女はロメオのすることが悉く気に入らないのだ。仕方ないので、ロメオは自らエリザに印の件を伝えた。娘は父が手回しをしたことに対して不満をあらわにしていたが、否定も肯定もしなかった。
更に翌朝、車のフロントガラスに石が投げ込まれる。エリザを学校へ送って行った後、ロメオは警察署へ。工事現場に設置されている監視カメラ映像をチェックした。犯人の似顔絵が最近、刑務所から脱走した犯罪者と似ていたため、そちらの捜索も行うとのことだった。
映画『エリザのために』のあらすじ【転】
副市長が検査入院していたため、彼の元へ向かう。肝硬変の他にも悪性ポリープが発見され、切除手術を薦めた。
仕事を終え、エリザを迎えに行くと娘の彼氏も彼女を待っていた。事件当日の朝のことについて詳細を聞く。彼氏とデートしてから帰ると言うので、娘とはそこで別れた。
愛人はシングルマザーで彼女の子供はまだ幼い少年だ。もちろん、愛人もエリザのことを心配してはいるが、現在ロメオは娘のことで頭が一杯で愛人のことにまで手が回らない。彼女とは1年以上、付き合っているロメオ。愛人はいい加減に関係をはっきりさせたいと考えているようだ。しかし、なぜか愛人宅へエリザが訪ねて来て、祖母が倒れたと言う。
急いで年老いた母の家へ。事情を聞くと祖母は入浴後に廊下で発作を起こして倒れたようだ。ロメオは適切な処置を指示して診察。どうやら持病である心臓発作によるもののようで、病院から処方された薬で意識を取り戻した。命に別状はなかったが、転倒した際、どこかを打っていればどうなるか分からない。経過を観察することになった。
エリザは明日も試験であるため、家に帰って休むよう促したロメオ。ところが、エリザは両親が関係をはっきりさせてくれればと考えている。更に彼女は彼氏と一緒にいたいので、留学はしたくないのだと言い出す。ロメオは先のことを考え、国外のより安全な場所で選択肢の多い未来を迎えて欲しいと考えていた。だが、今のことだけを見て留学をしたくないと言うのならば、自分で職を探して働けばいいと言うのだった。
エリザが彼氏と過ごしてから帰ると言うため、先に帰宅したロメオ。妻はエリザが行くところへ共に行くと言う。そして、ロメオには家を出て欲しいと。夫婦の関係は当の昔に終わりを迎えており、修復は不可能だった。妻が今夜から別のところで過ごして欲しいと言うため、ロメオは彼女の要望に応え家を出るのだった。
映画『エリザのために』の結末・ラスト(ネタバレ)
翌朝、病院へ出勤すると検察官が来ていると言われる。副市長が刑事告訴されたためだ。検察官から副市長との関係を聞かれる。現在、副市長の容態はかなり悪化しており、拘留に耐えうる状態とは決して言えない。肝硬変以外にも問題は多い上に体力的にも弱っているためだ。ところが、検察官曰く副市長の捜査をするにあたり、新たな疑惑が生じた場合、芋づる式に悪事が露呈するもので、どうやらロメオのことに関してもすでに彼らの知るところとなっている様子。つまり、エリザの留学の件について取引をしたことが明らかになったということだ。
だが、ロメオは面と向かって副市長への尋問は許可できないと答える。検察官はそうなれば、いずれはエリザにも聴取を取らなければならなくなるかもしれないと言う。ロメオは堂々と構わないと答えるのだった。
検察官が帰った後、ロメオは警察署長を訪ね、危機から逃れるための相談をする。何かしら方法があるはずである。警察署長は検察官の弱みを調べるので、少し待てと言うのだった。
エリザが電話に出ないため、図書館にて司書として働いている妻を訪ねた。妻は試験に行けとは言ったが、その後は知らないと言う。それから、夫に対して家の合鍵を返却し、来る時は事前に連絡を入れて欲しいと頼む。ロメオは呆気に取られ、いつから互いにいがみ合うようになってしまったのかと問う。すると、妻は背を向けて泣き出してしまう。先に裏切ったのはロメオだったからだ。どの口でそのようなことが言えるのか。夫は今更になって妻へと謝罪。だが、妻はすでに心を決めており、彼の謝罪を受け入れようとはしなかった。
その日の夕方、容疑者との面通しがあった。エリザはすでに警察署へ来ており、ロメオが来てもまともに会話をしようとしない。マジックミラーが施された部屋へ入り、4人の容疑者が現れたが、エリザはこの中に犯人はいないと言って、泣きながら警察署から出て行ってしまう。ロメオは娘の後を追って謝った。翌日には学校の卒業式がある。エリザは出席してくれるかどうかを尋ね、帰って行く。
その帰り道、バスに乗車していたロメオはふと思いついてバスを降りた。裏道から寂れた住宅街を通り、愛人宅へ。随分と遅い時間ではあったが、愛人は彼を迎え入れて泊まらせてくれた。
翌日、愛人の息子を預かることに。少年を連れて病院へ向かうと副市長が今朝方、心臓発作で亡くなったことを知る。更に検察官もオフィスに来ていると言うため、全ての罪を明らかにする決意を固めた。
少年を学校へ送り届ける。その後はエリザの卒業式へと参加。娘には留学するかどうかは自分で決めろと告げ、集合写真を撮ってやるのだった。
映画『エリザのために』の感想・評価・レビュー
2016年のカンヌ国際映画祭にて、監督賞を受賞したクリスティアン・ムンジウ監督作品。ルーマニアの地方都市を舞台に、医師である父親が娘の試験合格のために不正を働くというストーリー。今作では不正が当たり前のように行われていることや、娘の留学のために不正に手を出してしまう父親、そして白昼堂々と暴漢に襲われても、見て見ぬ振りをされるというルーマニアの現状が描かれている。
中でも評価が高いのは、カメラワークはもちろんのこと、主人公の医師の心象や心の揺れ動きが繊細に描かれていることにある。それだけではなく、主人公に密接に関わる妻と娘、愛人に関してもしっかりと描き、最終的には迷っている道がそれぞれに定まる。監督賞を受賞するのも頷ける素晴らしい作品。(MIHOシネマ編集部)
娘のために「良い父」であろうとする父親の物語です。タイトル『エリザのために』の通り、娘のために奮闘する父親を描いていますが、それは正しい行動とは言えず、娘の立場から見ると、父親が「自分自身のため」にしているのでは…と思うだろうと感じました。
優秀な医者である立場を利用して、「良い」事をしているつもりが、どんどんと悪い方へ堕ちていく父親の姿がものすごくリアルでした。重く、暗い雰囲気が似合う作品です。(女性 30代)
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